俺と初音ちゃんがルカに促されて居間に来ると、辛そうな顔をした千鶴さんがいた。 俺は、慌て気味に千鶴さんを呼んだ。 「千鶴さんっ!これはいったい…」 千鶴さんはそれを聴くと、悔しそうに首を振った。状況が、まだ飲み込めていないのだ。 「ルカっ。お前は何か解るか?」 少し苛つき気味に俺はルカに言った。怒鳴りつけたと言ってもいい。 するとルカは、自身なさそうな感じで、 「これがあいつ──メタオだということは明らかなんですけど。それ以上のことは何も解りません。何故アイツ等がこん な──百体以上も──存在するのか?全てがコピーだとすれば、その技術と目的は何か?オリジナルは?──」 と、呟き気味に言った。それから首を振って、 「──そもそも、どうやってこの状況を打破します?」 と、半ば悔しげに続けた。 俺は言った。 「アイツ等の正確な位置──解るか?」 それに答えたのは千鶴さんだった。 「今のところ、山の中の水門あたりにいるようです。動きはありません──あくまで今のところですが」 俺は腕を組んで呻った。──ルカの実力が実際どれくらいなのかは解らない。だがそれでも、鬼が四人(初音ちゃん と楓ちゃん、メグちゃんは除く)──実際に戦うのは三人になるだろうが──いるのだから、何とかならない気もしな い。あとは、体力勝負になるだろうか? 「取り敢えず、これからどうしますか?」 呻っている俺に、遠慮もせずにルカが言った。俺は少し悩んでから、 「そう言えば、他の三人は?」 と、聴いておくことにした。 「いま、結界を張ってます。一人でやると大変なことになるので、皆さんにも手伝って貰っていますが」 ルカは、何だか調子悪そうな感じでいった。そう言えば、魔法許容量とやらは大丈夫なのだろうか? 「私は手伝わなくてもいいのかな?」 俺の後ろで、初音ちゃんが心配そうに言った。 ルカは、申し訳なさそうな感じで、 「できればお願いしたいです。ただ、多少の精神的疲れは覚悟して貰います」 と、言った。辛そうな表情から見て、こいつも手伝いたいに違いない、だが、おそらく魔法許容量とやらの所為で、手 伝えないのだろう。 「うん、じゃあみんなの所に言ってくるね」 初音ちゃんは、そう言って駆け出していった。 「今なら、玄関あたりにいるはずです」 その背中に、ルカが声をかけた。何だか遠慮がちなところが、ルカらしいといえばルカらしい。 ──しかし、本当にこいつ、俺の転成した姿なのか?初音ちゃんとメグちゃんは、まあ何となく似ているけど。 「…で、これから本当にどうします?」 ルカが、またしてもそう聴いてきた。果たしてかなり難しい問題だと思う。 俺は、取り敢えず情報を収集することにした。RPGの基本である。 「結界って、どんな感じなんだ?」 「…ええと、はっきり言って殆ど効果はないと言っていいです。入ってくるのに多少のダメージがあるだけで、突き破ら れる可能性の方が高いと思います」 「多少、こっちが有利になる──かもしれない──だけか。だとすると、此処にみんなを置いて、俺達だけで戦いにい くというのは無理か──?」 するとルカは頷きながら、 「──ええ、多分。その場合、こっちに千鶴さんと梓さんはいて貰わないと。メグちゃんだけじゃ、さすがに…」 と、やはり悔しそうに言った。 「…だが、みんなで此処にいても仕方がないとは思うぞ?逆に、みんなで向こうに行っても危ないだけだが…。やはり ここは、みんなで此処にいるか?」 俺は、自問するように言った。だが、それでも危険がないわけではない。そう言う意味では、俺とルカだけでアイツ 等を全滅させえた方がいい。 俺は、溜息をつきながら言った。 「結界を、もう少し強くできないか?」 「できないことはないです。でも、それでもタカがしれていますよ?」 それでもいい…と、俺は頷いた。 「俺とお前で、アイツ等を叩きつぶせばいいことさ」 本当は、初音ちゃんを危ない目に遭わせたくなかっただけだ。 そのあと、千鶴さんを説得し、俺達は四人のいるところにいった。 「あっ、ルカお兄ちゃんっ!」 それを言ったのは、当然メグちゃんである。結界を張るのに一段落したのか、メグちゃんはルカに抱きついてきた。 なかなか羨ましい──基い、微笑ましい光景である。 今、どうやら玄関の結界を張り終わったところのようである。あとどれくらい張る場所が残っているのかは解らないが、 すぐに終わらせたいものだ。 そんな俺の思考に答えるように、ルカがメグちゃんに訊ねた。 「メグちゃん…。あとどれくらいで終わりそう?」 それを聴いたメグちゃんは、真顔に戻って、 「あと…家の裏側の所だけだよ」 と、答えた。ルカは、ちょっと考えてから、 「そうか…。それじゃあさ、全部結界を張ってから、それを強化することにしよう。果たしてこのままでアイツ等を防ぎき れるかどうかは、はなはだ疑問だからね。──勘違いしないでよ、別にメグちゃんが弱いっていっているわけじゃな いからね?」 と、ゆっくりと言った。メグちゃんはそれを聴くと力強く頷いて、 「うん、わかったよ」 と、にっこり笑って答えた。 数分後、最後の結界とそれの強化が終わった俺達は、玄関に集まっていた。 ──それにしても怠い。これが魔法を使ったときの疲れか…。 俺は、平然としているルカとメグちゃんを、あらためてすごいと感じた。 「取り敢えず、僕と耕一さんとで、アイツ等の中に突っ込んでいきます」 それでも疲れてはいるのか、溜息混じりにルカが言った。 「おいっ。あたし達はどうするんだっ?」 疲れていつもの威勢はないが、梓は叫んだ。 「此処にいて、みんなを守ってくれ──」 俺は、梓に答えるためにそう言った。 「──いくら強化したとはいえ、進入を防げるほどではないんだろ?」 そして、肯定して貰うために、ルカに言う。 ルカも、真面目な顔で言った。 「ええ。まだまだ不完全な状態です。でも、これをこれ以上強化する暇も、魔法力もない。だから、千鶴さんと梓さんで、 此処はお願いします」 梓はそれを聴いて、憮然とした態度をしながらも引き下がった。 頃合いを見計らって、俺は言った。 「じゃあ、いくか」 ルカは、作り笑いを浮かべながら頷いた。 「耕一お兄ちゃん…」 俺が門から出る直前に、初音ちゃんが俺の名前を呼んだ。 俺は、少し驚いて振り向くと、 「なに?」 と、聞き返した。 真夜中である。アイツ等が現れなければ、俺と初音ちゃんは一緒の布団で、仲良く寝ていたんじゃないだろうか。 そんなことを考えると、とてつもなくアイツ等が憎く思えた。 「気を付けてね」 心配そうな顔で、初音ちゃんは言った。 俺は笑うと、 「わかってるよ。今の幸せ、壊されてたまるものか」 と、なるべく明るい声で言った。 それを聴いた初音ちゃんは、何だか複雑な表情で、 「が…頑張ってね」 と、呟いた。俺は、強く頷いて外に出た。そして力を解放し、飛翔する──。 ──そうだ、この幸せ、そう簡単に壊されてたまるか。 俺が飛んでいると、いつの間にかにルカが横に来ていた。 俺は、意識を乱さないように言った。 「どのあたりだ?」 するとルカは、目を顰めながら指をしたに指した。 「…あのあたりの筈です。くそっ、木が邪魔でよく見えない」 「取り敢えず、この辺で降りておくか」 俺は、ルカを落ち着けるように言った。おそらく、連中も俺達に気がついているはずだ。 ルカは、そうですね。と答えると、猛スピードで降下していった。…せっかちな奴だ。 着地すると、さっき以上に鬼の気配を感じる。まだ囲まれてはいないが、それも時間の問題だろう。 「どうしますか?固まっていきます?」 口許に苦そうな笑みを浮かべて、ルカが言った。 「果たして、それに意味があるのか…?一人でいようと二人でいようと、あまり変わらない気がする」 それももっともですね。とルカが言ったとき──。 木の陰から、十体以上のメタオが現れた。揃いも揃って同じ顔で、同じように笑みを浮かべている。はっきり言って 気色が悪い。俺が露骨に顔を背けると、メタオの中の一人が口を開いた。 「よく来たなぁ…?もうしんじまう覚悟は出来たってかぁ…?」 そんなメタオに、ルカは冷たく答えた。 「あんた…喋り方変わってるよ」 「うっせぇぇぇぇぇぇっっっっっ!近所メーワクだから黙っていりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!付け上がりやが っっっっってぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっ!!!!!!」 ルカの一言に「切れた」メタオ達は、合唱で答えた。 ルカが俺を見て、いきますよ。と合図を送る。 俺も少し頷き、返事をする。 「やっちまうぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!!!!!おらぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」 タイミング良くメタオが叫び、十体が一斉に飛びかかってきた。 戦いの火ぶたは、今切って落とされた。 … 続く … ------------------------------------------------------------------------------------------ まだ…続いてたんですよ、メタオ。 まだ…更に続くんですよ、メタオ。 もう…覚えている人いないのでは? ================================================ でわでわ・・・(やべぇよ…。まだおわらんよ…「メタオ」…。いったいいつからやっているんだろ)