奇妙な──まるで夢の中にいるような気分だった。 否、別の喩え方もできる…。──無重力。 無重力、か。我ながら良い喩えだ──。瑠璃子…お前の宇宙へと、僕を引き込んでおくれ…。 そうして、彼──月島拓也──は実の妹たる月島瑠璃子を汚した。 おそらく それは 歪んだ 愛 僕の目の前で、二人の雌豚が淫行に耽っていた。 汚れ、狂いきった獣のパーティーだ。 僕は、Fuckする豚どもに唾を吐きかけ、 ──所詮は、僕のための生贄に過ぎないのだ。 と、静かに呟いた。言ってから、別のことに気がついた。 ──いや、ひょっとしたら、僕の方がこの狂った夜のための生贄なのかもしれないな。 あの二人は…。所詮、瑠璃子の代償に過ぎなかったのだろうか? だとすれば──。 おそらく それは 歪んだ 愛 玄関の呼び鈴が鳴ったため外に出ると、あの女──太田加奈子──がやってきていた。 まさか、ここまで来るとは…。僕は、何だか苛ついていた。 ──どうしたんだい? 僕は、内心の怒りを必死に押さえながら言った。 ──僕の家に来るなんて。 僕は、そう言いながら笑った。──僕の家?違う、ここは僕の家ではない。 ここは、あの豚の住処──寝床に過ぎない。 「どうして?」 僕の内心など分からない彼女は、壊れたように叫んだ。 …所詮、僕の気持ちを分かってくれるのは瑠璃子だけなんだ。 …僕には、瑠璃子しかいないんだ。 「どうして、あなたは私を避けるの?」 壊れている、自分が今何を口走っているのか気がついていないようだ。僕は心の中で呟いた。 ──しつこいからだよ。 「ねぇ、どうしてなの!?」 「答えてよっ、お願いっ」 ──別に避けて何ていないさ。 これ以上黙っていると、ますます煩くなると思い、僕はそう言った。 「どうして、どうして私を?」 だが、僕の声は彼女には届かなかったようだ。僕は更に苛ついた。 「ねえ何で?私は、私はあなたのことを──」 僕のことをなんだと言うんだ?僕は内心で嘲笑した。 分かっているとでも言うのか?そんな筈はない、僕のことを分かれるのは瑠璃子だけだっ! …だが、彼女はこういった。 「──愛しているのに」 なんだと? 「こんなに、こんなに愛しているのに」 ──そんなことがあるはず無いだろうっ! 僕は、叫んでいた。そんなことがあるはずがない、僕はこの女を愛したことなど無い。 お前が、僕を愛せるはずがない、お前は、お前は…。 ──お前に、お前に何が分かるんだっ!僕達の、僕の苦しさの何が分かるんだっ! 「愛しているのに、愛しているのに、愛しているのに」 それでも彼女は続けた。 現代というこの空間により汚された、愛の言葉を続けた。 「愛しているのに、愛しているのに、愛しているのに」 やめろっ、やめろぉぉぉっっ! 「あいしているのに」 ──やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!! そして、彼は加奈子を「壊した」。 彼は怖かったのだ、瑠璃子を裏切るのが。 そしてそれ以上に、加奈子を別な形で壊してしまうのが。 おそらく それは 歪んだ 愛 僕の目の前に、瑠璃子と見知らぬ男──いや、さっき生徒会室の前でぶつかった男か──が立っている。 男と、目があった。そして気がついた。 この男、電波を使える──? 強烈な「殺意」が、僕を飲み込んだ。 長瀬祐介に向けた殺意──。 それは、嫉妬の延長なのだろう…。 おそらく それは 歪んだ 愛 僕は、暗くて何もない空間──とは言えないのかだろうか──に浮かんでいた。 何もない、独りぼっちの空間。自分の存在すら有耶無耶になりそうな場所。 ──怖かった。寒かった。 僕は──悪までイメージなのだが──丸くなって目を瞑った。 ──暫くして、遠くから暖かい光が近づいてきた。 僕には、それがなんなのかすぐに分かった。 ──るりこだ。 僕は、溜息をつきながら病室のドアを閉めた。 ──結局、僕は何もできなかったんだな。 自嘲にも似たその呟きは、病室のドアに吸い込まれ、消えた。 ──太田さん達を起こすことも、瑠璃子さんを助けることも…。 …僕にはできなかった。 それどころか、月島さんを救うこともできなかった。 そして、瑠璃子さんは行ってしまった。 月島さんを救うため、慰めるため。自分を助けて貰うため…。 僕の頬を涙が伝った。…悔しかった。 僕は、涙を拭うとドアに背を向け、歩き出した。 ──二人は幸せなのかもしれない。でも、でも…。 おそらく それは 歪んだ 愛 <終>