2047年 某月某日 ある小さめな一軒家のある一室、そこに二人の男女──差別的な言い方をすれば、人間とアンドロイド──が男は ベッドに寝ながら、女の方は立ったまま、見つめ合っていた。 男──藤田浩之は、今や死の床につく寸前だった。 女──マルチは、哀しそうな顔で、そんな浩之を見つめていた。 暫く──とは言っても、日付を忘れてしまうほど──二人は無言で居た。 唐突に、何かを悟ったような感じで、浩之が口を開けた。 「──マルチ」 もはや、二人が出会った頃のような力のある声ではない。嗄れ、細くなりきった声だ。 「あ──どうかされたんですか」 老いぼれた浩之とは対照的に、出会った頃と変わらぬ声でマルチは返事をした。 だがその声には、以前の無邪気な明るさはなかった。 そして、少し間の抜けたような返事だった。 ひょっとしたら、見つめ合っていたのではなく、二人で惚けていただけなのかもしれない。ただ、互いに相手のことを 考えていたのは事実であろう。 ──浩之さん。 彼女は心の中で、小さく呟いた。 何かを言うつもりだったのだろうが、その後に続く言葉が見つからなかった。 マルチの返事を聞いた浩之は、細くなった手を伸ばしながら、 「──すまない、顔を──見せてくれ。ほら、よく言うだろ、年とると目が悪くなるって」 できるだけ虚勢を張りながらそう言った。 マルチは、目に少し涙を浮かべながら、膝を床について浩之に顔を近づけた。 その愛らしい顔も、今の浩之の目にはぼやけてしか映らない。 マルチのアイ・カメラも、涙のせいで正確に浩之のことを映し出すことはできない。 マルチは、未だ衰えない綺麗で柔らかな手を、浩之のしわくちゃの手にそっと乗せた。 「すまないな、マルチ。今までずっと一緒にいてくれたのに、何にもしてやれなくてよ」 浩之は、無理矢理微笑みながら言った。 「何言ってるんですか。──浩之さんは、私にたくさんのことを教えて下さいました。お料理のこと、お掃除のこと、良い こと、悪いこと、人間のこと、私たちアンドロイドのこと…、浩之さんが教えて下さったことに比べれば、私のしてきたこと なんか…」 マルチは、そこで言葉を止めた。 浩之の目が、少し虚ろになってきていることに気付いたからだ。 「そうか。こんな…こんな俺でも、少しはお前に恩返しをすることができてたか。あ ん し ん し た」 彼の細い腕が、マルチの手から放れたのは、そう言った後だった。 「──浩之さん?」 マルチは、涙を拭いながら言った。 「浩之さんっ?」 彼女は、力無くたれている浩之の腕をつかんだ。 その腕には、まだ温もりこそ残っているものの、生命の息遣いは全くなかった。 彼女は、潜在的な意識の中で、浩之の「死」を確信した。 「お願いです浩之さんもう一度起きて下さい」 マルチは、抑揚の無くなった声でそう言った。 もう一度──といったことを、彼女は後悔した。 ──浩之さんっ、目を、あけて下さいっ! その叫びは、口からでることはなかった。 なまじ半端に物事を知ってしまった彼女は、「壊れる」事さえもできなかった。 ただただ、浩之の屍を眺めることしかできなかった。 ──違う、私には、もう一つだけできることがある。 彼女は、そう思いながら、浩之の屍に抱きついた。 ──私は、あなた無しでは生きていけないもの。 最後に、彼女は浩之に口づけをし、そして── ──HMX─12、機動を停止します。永久に。 彼女、マルチは──「死んだ」。 以下、数日後の新聞記事より抜粋 『今日未明、街の郊外にある藤田浩之さん宅に訪れた新聞配達員が、新聞受けが一杯なのを不審に思い警察に通 報、駆けつけた警察官がドアをこじ開けて中にはいると、心不全で既に亡くなっていた浩之さんと、浩之さんに寄りか かるように機動停止していたメイドロボ、通称マルチを発見した。ただ、浩之さんの死亡時の経過に不審な点が多く、特 に何故マルチが医者や警察を呼ばずに機動を停止したかについて、これから捜査を続けていく方針である。 また、この事件を期に、再びアンドロイドの需要性の是非、及び概念が問われることになるだろう──』 Fin... ------------------------------------------------------------------------------------------ と、言うわけでマルチのその後のお話でした。 『欲望の続き』とはまた違った感じで、結構辛かったです。 ただ、結構時期的に悪かったかも(苦笑)。 ところで常々思うのですが、僕って「欲望の続き」以来、ずっとそれにこだわってるんですよね。 やっぱり、何言っても一番インパクトがあったって事でしょうか。 何にせよ、暫くダークばっか書いてた(甲斐性、及びメタオはないものとして)ので、そろそろ初 心に返りたいなぁ…とか思ってます。 でも、ネタがない…(苦笑その二)。 へーのき=つかささん 最近のLメモでは、一番まともな役じゃないでしょうか。 つーか、そんな役が良い(BY 優柔不断な二股男)。 風見ひなたさん 三部作終了、ご苦労様でした。 お話がすんごくリンク(語弊か?)してて、よかったです。 待ってます、次回作。 >ルカのお話 分からないそうですが、ううん、どっから説明すればよいのやら。 取り敢えず、日曜までにどの辺から説明すればいいか教えて下さい。 連絡とれなかったら、適当に始めっからのあらすじ書きます。 dyeさん 実は、梓のお話は作ってません。 と言うか、前に一度考えたんですけど、どうしようもなく無理矢理なハッピーエンドになってしまって。 いつか、書くネタができたら書きたいと思ってます。 セリスさん やっぱ、自分で書くっきゃないですか。 ほっほっほ(書き違いで、ほっひっほになった)。 後悔しますよ(笑)。 Runeさん 明らかになりますか、僕の本性(笑)。 (似非)フェミニストの設定は何処へ…(笑)? 気長に待ってます。焦らずにどうぞです(せ、セバスが怖い)。 久々野彰さん おかえりなさいっ(?)! と、言うわけで好き勝手やらさして貰います>甲斐性。 でも、まだ期限明日残ってるんですよ。 今日の十二時までに(やめろっていう)連絡無いときには、続き書きます。 本元(?)は良い。 夕鶴さん 格好いい。 長瀬さんが、格好いい(元々彼は好きなので、よけいに)。 西山英志さん 最近どうもギャグの道具たるビームモップ。 そして、何だか久方ぶりの平和(?)な僕とセリスさんでした。 ええんか>僕。 カレルレンさん めちゃめちゃかっくいい。 つうか、マルチのお話で(久しぶりの)ほんわか。 良いな、優しくて格好いいお話。 ナイフの風にしびれましたか。 もっとしびれて下さいな。 健やかさん よかったですぅ〜。 でも、何だか空少年、可哀想では?マルチ以上に。 僕も、「白い・聖夜」と、「欲望の続き(ああ、またこれを・・・)」を新しく書き直したひ。 UMAさん すいません、それ、わからんです。 よかったら説明してくださーい。 ところで、インターネットやってて思ったことですが。 今まで住んでるところを教えていただいた(もしくは勝手に僕が知った)方で一番多かったのが 広島、次が神戸なんですよね。 いや、そんだけなんですけど。ところで僕は、千葉県の某ベッドタウンに住んでます。 緑さん 甘い薬…。 かなりよかった。本当によかった。 めっちゃよかった。 でわでわ・・・(『優秀な作家は、同時に優秀な読者でもある』と言ったのは誰だったか。 僕には、少なくとも優秀な読者は居ない。 感動や、共感こそすれ、それを文字や言葉にすることができないのだ。 何となく真面目に自分を見てみる今日この頃です)