Mission;Cleanning 投稿者:もりた とおる 投稿日:4月21日(月)00時33分
「片付かんなあ」
たまには部屋掃除、そう思い、一念発起して実行に移したのはいいが、どうにもこうにも片付かん。
こんなに頑張っているにも関わらず、一向に片付かんのはどういうわけなのか。
そんなことはわかりきっている。
住人が一人増えたからだ。
「本当に片付きませんねえ…………」
他人事のようにいう狸さん。
「一体どうしたものでしょう」
困った顔の狸さん。可愛い。
だが、見惚れて時間を無駄にしたくはない。貴重な時間だ。有効に。
「どうしたものでしょう」
もう一度狸さんが言って、俺を見る。いや見られても困る。
だって、俺の所有物なんて、必要最低限のものぐらいしかないわけだし。
「少し思い切って、整理したら?」
助っ人を買って出てくれた、米軍のエースが言う。ありがたく的確なアドバイスだ。
しかし、それが出来れば苦労はしない。
気の毒なほど、この狸さんは庶民生活が染み付いているようで。


「ああっっ。それは大事なものですー」
「あああっっ。それは思い出がありましてー」
「ああああっっ。それは実はなんと言いますか―」


とにもかくにも、何かを捨てようとピックアップすると、必ず駄目出しをいただいてしまう。
結果、捨てるものは無くなってしまい…………片付かない、と。
リサの溜息と俺の溜息は、今日だけでどれぐらい出たんだろうか。地球温暖化は、こういったところで着実に進行している。
これ以上地球に致命的なダメージを与えるのは、住民としても不本意だ。どうにかせねば。
「とりあえず宗一の方で捨てられるものはないの?」
リサもそう思ったんだろう。俺の方にベクトルを向けてきた。
だが、リサにだってわかっているはずだ。俺と同じ顔を持っているんだから。
基本的にこういう場では、必要最低限のものしか用意しない。
つまり捨てられるようなものは皆無、なんだ。
「見ての通りだ」そう言う他はない。
リサがまた、溜息をつく。答えがわかったからだろう。苦労かけてすまないねえ。
「…………………………」無言で狸さんを見る。
「え、えとえとえとえとえと」
狸さんは困惑している。
基本的に、自分が原因であるという自覚は少なからずあるらしい。

しかし

自分所有の荷物の山を見て、詳細をじーっと見て、頭をめぐらせて、首をぐりんぐりん左右に振り回して、そして力なくうなだれて。
「えへへへへ」笑って誤魔化して、それでおしまい。
駄目だこりゃ。

「これはもう、打つ手は一つしかないわ」
リサが決意した。何を?
「宗一!思い切って引越しなさい!」
その手は既に考えた。
というか、今もどうしようか迷っている。
俺の所有するマンションの方に行こうかと。
だが、あそこにゆかりと住むには抵抗があった。
確かに今、ゆかりは俺のナビになるべく、亀並の遅さだが懸命に勉強をしている。
エージェントの匂いが強すぎるあそこにいても、もう問題はない。
だけど、ここは、この部屋は。
ゆかりや皐月、そしてリサと知り合えた時の場所なんだ。
充実もへったくれもなく、ただ生活しているだけのあのマンションとは違う、充実した日々を与えてくれる場所なんだ。
だから…………ここからは動きたくない。
新しい場所に越す、というのも悪くはない選択かもしれない。
でも俺は、ここがいい。この場所が、いいんだ。


「捨てましょう」
と、ノスタルジックに浸っていたら、いきなり声。
見れば唖然としたリサ。
その先には、何かを決意したかのように、仁王立ちした狸もといゆかり。
「ど、どうしたの?急に」
おどおどと聞く世界に名だたるエージェント2人。
「……わたしも、ここにいたいから。引越しなんて、したくないから」
思いつめた顔。
何かが、ある。
「…………宗一くんは、覚えていますか?わたしがこの部屋に初めて来た時のことを」
忘れるはずが、ない。
「覚えているよ。全部、ことこまかに。詳細に」
嬉しそうに頷くゆかり。
「じゃあ、一番印象に残っていることは?」
ああ、それはもう。あれしかない。
2人の始まりだから。
立ち上がり、近付く。
ゆかりも同じように、俺と同じように、近付く。
キッチンの前。
そして同時に

「「まずは、スイッチを押す」」

それが2人の始まり。「まずはスイッチを押す」が、始まりの言葉。
決して忘れない、言葉。
「わたしと宗一くんは、ここから始まりました。
 …………だから、始まった場所から、離れたくはありません。というより、他の人になんか住まわせたくないの。ここは、わたしと宗一くんの世界なんだから…………」
ゆかり…………
気付いた時は俺はゆかりを包み込むように抱き締めて、唇に手を当てていた。
ゆかりも同じように、俺の唇にその可愛い指先を当てていた。

「「まずは、スイッチを押す」」

軽く2人で指先に力を入れて、それから、軽いキスを交わす。

そして、段々と想いを込めて、激しく


「で?私はいつまでそのラブロマンスを鑑賞していればいいのかしら?」


「「てゃはははははははははははは」」照れ笑い。





そこから先は順調に、捨てられるものを捨てていった。さっきまでが信じられないぐらいに。
リサの形相が後押ししてくれたのは言うまでもない。恐ろしきは女の嫉妬
「宗一!それも捨てていいのね!?」恐いし。
「ああ、遠慮なく捨ててくれ」
「…………宗一くん?」
「ん?」
「さっきっから宗一くんのもの、全部捨てちゃっているみたいだけど、大丈夫なの?」
そう。必要最低限のはずの俺の荷物が、どんどん減っていっている。
「いいのよ。どんどん広くしてもらいなさい」リサが苦笑する。
「え?」
「だって、宗一にとっての必要最低限な荷物って」おっと、それ以上は言わせない。
「ゆかりがいれば、何も要らないんだよ、俺は」






「あ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……………」












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えー、こちらではお初の書き込みをさせていただきます。しがないSS書きです。
折角初書きだから、この図書館では発売後初の「Routes」でいっとこかと思い、書かせていただきました。
…………て、過去ログチェックしたら、皆無でした(ひぃ)。
いい作品だと思いますので、皆様も是非(宣伝かい)。





http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/9303/