ToHeartRUN-2059 ~Running Hound" Vol-1.さげすまれしもの - Avantytle - 投稿者:雅 ノボル 投稿日:5月24日(木)01時16分
 これは、ほんの少し先の未来………
 2度目の千年紀の幕開けたる21世紀を迎えた頃から、この世界は静かに、
そしてある日突然大きく変わりはじめた。

 いにしえの魔法が大規模に復活したのをきっかけに、人の子としてエルフや
ドワーフが生まれたり、ハイスクールの生徒が一夜にしてオークやトロールに
変わってしまったり、コカトリスやハーピーといった幻想世界の生き物の出現
などなど……。

 いつしか人々は、それら全てをひっくるめて《覚醒》と呼ぶようになった。

 時代は西暦2058年、はるか昔に滅び去った南米文明のマヤ歴で言う所の
『第六の世界』をしたたかに生きる者たちの物語である。


Chapter1.CHAT


>evergerrn:ヘイヘイ! 皆さんお集まりで

>moon:なんかキミョーなモノでも捕まえたって様子ですのね?

>flashhider:どうせ、下なブツなんダろ?

>evergreen:スクープってーか、偶然なんだけどよ。いるか?>Detective


 CHATに呼び出し……… evergreenからか。コイツから持ち出してくるって
事は、なんか起きたかしたかね?


Detective:おう、いるぜ?>evergreen

>evergreen:いやにムッツリかましてっから、いないかと思ったがな。ちょ
っとアンタも見てくれねェか?

>flashhider:………こりゃスゲェ殺られかたダな

>moon:良い死に方じゃないですのね

>evergreen:猛獣にでも裂き殺されたて言う感じだったぜ

Detective:………まさか「Oger」?

>Valture:待てよおい。アイツぁ数年前に姿を消して久しいんだぜ。それに
アイツなら引退したって話だ>Detective


 そのはずだ、たしかにオレの知っているOgerなら、もう表には出てこないは
ずだ。本人から直接聞いたもんな。
 ………おっと、オレの一言で止まってしまった場を動かす為に、慌てて言葉
を紡ぎ出す。


Detective:んなわきゃねぇよな、やっぱ

>flashhider:脅かすんじゃねぇゼ>Detective

>evergreen:いや、ソイツはマジもんでアレだね。静殺のOgerみたいな手口
だったぜ。実際に仕掛けたのは、ホンの1ミリ秒さ。

>flashhider:サバ読むんじゃねぇ>evergreen

Detective:要は、一瞬の出来事ってんだろ?>flashhider

>moon:Ogerって一体なんの事ですの?

>valture:カワイコチャンよ、知らなくても良い事だって、世の中には一杯
ある>moon


       Leaf Visual Novel Series Vol.3 To Heart arrenge Story
               and MINAKATA's To Heart Run Side Story

                  東鳩ラン-2059 ランニングハウンド
                   ToHeartRUN-2059 ~Running Hound~

VOL.1 さげすまれしもの - Avantytle -

      Based Upon(ToHeartRUN) wrote by Yutaka MINAKAMI(MINAKATA)
                        wrote By Noboru MIYABI


 Detective……… 現実世界の名前は藤田浩之。仕事は「探偵」と言う名前
の何でも屋をやっている、この世に存在しない人間―番号無し―の一人だ。
 生きる権利を自ら棄てたのにはいくつか理由がある。だが、いまはそんな事
どうだっていいじゃねえか。
 ログアウトしてすぐにオレは喉の乾きを覚えて、淹れてから少し時間が経っ
たせいで、酸味が強くなる所まで本物そっくりなソイカフ(大豆製の擬似コー
ヒー)を一口、カラカラになった口を嫌な苦さと酸味で潤しながら、胸中も似
たような気持ちでいっぱいになっていた。
「そうさ……… 誰にだって知られたくねぇ事、知られちゃいけねえ事だって、
あるもんさ」
 ソイカフを不味そうに飲むも、思考はそれとは別のところへと飛ぶ。
 全てを棄てざるをえなかった、6年前のあの日からホンの僅かな間だけ相棒
として、師として、そして親友として仰いだ男の事だった。
「あんたさ……… いま何処で、何やってるんだよ、コーイチさん」


 近未来。陳腐とも取れない言葉の裏には、この第6世界と言う枠の中では、
余りにも混沌としている。
 彼らは、表の世界から理由あってドロップアウトした者達………
 『シャドウランナー』
 侮蔑と尊敬をこめて、夜の影を疾走るもの達を、そう呼ぶ。


 一日の始まりたる朝とは、明るい光の元でありたい。誰しもがそう思う。
 しかし、その日ばかりは長瀬源四郎……… セバスチャンの朝は、重く深く
ため息をつかんばかりの朝であった。


「まさかな……… 大旦那様に限って………」
 それは、下世話なニュースソースから得た、聞き捨てならぬ話だった。
『KURUSUGAWA、TakayamaのTURUGIYA.coを吸収
合併か?』
 普段からよくある企業買収話ではあるが、その買収する会社名を見た瞬間、
ワシはその場にただ固まるだけしか出来なかった。
 そんな時に部屋に備え付けのアンティークなフォンから、アンティークらし
く味のあるベルの音が鳴り、慌ててアンティークフォンの受話器を取る。
「あぁ、私だが? ………足立か!?」
 声の主を聞いた途端、ワシの中で苦渋がよぎった。相手はその合併企業の社
長だった男からだった。
『すまん、源四郎。彼女達を、守りきる事が出来なかったよ………』
 電話越しで聞く足立の声はノイズが酷かったが、喋る声の中には後悔と疲労
の色さえ伺える。とっさにワシは旧知の男の安否を訪わずにはいられなんだ。
「何を言う! こちらこそ謝らなければならぬわ! まさかとは思うが、ワシ
には大旦那様が斯様なマネをするとは、到底思えんのだ」
 賭けねなしに信じたい。自らが仕える主がこのような事は起こすと思いたく
ないし、思えないが、足立が追っ手からの逃避行の途にある事は、紛れもない
真実であった。
『釈明は後ででいい。それと、もう一つ、謝らなくてはならん事がある………
源四郎よ』
 更に苦渋に満ちた声が返ってくる。
「………まさか足立!?」
 更なる最悪の自体を予期する。
『会長も、会長補佐も………』
「なんと!?」
 ………もはや疑う事は出来まい。この一連の事態には、背後で糸を操る者の
存在がいることを確信した。
『私も、連中の手駒から逃げ回っている所だ。大丈夫だ、まだ私も感は鈍っち
ゃいない。それよりもだ………』
 足立が小さくうめき、乱れた息遣いをするのを聞きのがさなかった。
『反会長派は、間違い無く利用する方向で考えていたのだろうな。『柏木の血』
を………』
「………下衆どもめ」
 呟かずにはいられなかった。澱にも似た悪意が身内から滲んでいた事実に、
呪詛の言葉を吐きかけたかった。しかしそんなことをしても、旧友の傷は塞が
らない。
『もう私にはどうしようも出来そうに無い、だから源四郎よ、お前に頼みたい!』
 旧友の声が震える、それは怒りなのか、悲しみからなのか。遠く離れた旧友
の姿はここにはない。
「信じて……… くれるのか?」
『だからこうして頼んでいる。真実を証し、彼女らを………』
 そう言って咳き込む足立。湿った何かが張り付くような、異物を伴った咳を
しながら喘いで懇願しようとする。
「もういい、逃げよ足立! こちらも大旦那様に事の真相を問いただす」
『頼む』
 一言言い残し、親友の声は唐突に途切れた。旧友よ、いまは僅かな間の別れ
であってくれと。そう願いながら、ワシは受話器を静かに置いた。
「お嬢様がた……… このセバスチャン、あえて大旦那様の為に一時の間だけ、
御側を離れさせていただきますぞ」


 電話を置いたセバスは何かを決意し、暫くの後にいつもの姿で一人、自分の
操るVIP仕様のリムジンカ−「ミツビシ・ナイトスカイ」に乗り、KURU
SUGAWAの城とも言うべきKURUSUGAWA・ARCSへ向かって行
った。


 KURUSUGAWA-SIX。
 旧財閥系であるコーポ「KURUSUGAWA」の重要機能設備の一つ。
 その重役室の一つに、このコーポの後継者の一人になるであろう女性、来栖
川綾香はいた。

 まだ目を通さなければならない案件を、自分のディスクエリアに溜まるだけ
溜め込んでいたわたしは、一通のメールが届いた事を告げるSEに気がついて、
寝不足で充血した目をこすりながら、相手のアドレスを確認した。
「ん……… 姉さんからのメール?」
 珍しく海の向こう側にいる姉さんからのメールだった。何かと思って、気分
転換のつもりで中を読む。次の瞬間、わたしは姉さんからの、その数少ない言
葉の列と、下世話なニュースソースに釘付けになっていた。
「これって………!」
 わたしでさえ言葉を一瞬失った。しかし次の瞬間、わたしの手は電話を取り、
セバスを呼び寄せようとするが………
「………でない」
 延々と続くコール音のみ。
「御爺様なの? 本当にこんなばかげた事を企てたのは?」
 激情に駆られそうになるのを強引に抑えこんで、受話器を静かに置いた後、
メールに書かれた内容を思い返す。

『北に災いあり、鶴は籠の中に。虎は野に放たれた、あなたの影を探りなさい。
ただし、星は私達を見ている。ゆめ忘れるなかれ………        芹香』

 姉さんが何を言いたいのか、それだけで解った。文章を記憶の下に沈めて、
メールを急ぎ削除する。それが全て済むと、今度は自分の中に渦巻く怒りを、
自分の精神力で持ってねじ伏せる努力に務めた。
 感情を抑える事は、武道をたしなんでいた人間には必要な事だけれど、今回
ばかりはその感情に折り合いがつけられるか、私自身も判らない。
 掌を震えるぐらいに握り締め、険しい表情を隠そうともしないでいる自分の
姿が、僅かな部屋の調度品であるガラス細工に映っていた。
「ゴメン姉さん、浩之。わたしは手伝えないかもしれない………」


 窓の向こうの空は、遅くなった日の出の色から、ようやく朝の色になろうと
していた。
 彼女は日の当たる世界にいる住人。闇の世界にいる事は赦されない。
 今日もまた朝は訪れた。だが、綾香の気持ちは暗雲が垂れこめていた。

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