ぶらざあず 投稿者:雅 ノボル 投稿日:1月11日(木)00時57分
 わたしのおにいちゃんは、ちょっと他の人とは違っています。
 学校では、品行方正で成績優秀な生徒会長で通っているけれど、おうちの中では
まったくのダメ人間です。
 わたしがいないと、何一つまともに行動する事が出来ません。
 そんなおにいちゃんでも、わたしにとってはたったひとりの肉親です。
 そう、こんなおにいちゃんでも………

            Leaf Visual Novel Series Vol.1 Sizuku Side Story
                                                          ぶらざあず
                                                    
                                                    Wrote By Noboru MIYABI

 わたしのおにいちゃんは、ちょっと普通の人と違います。
 それは、頭からアンテナが立っています。昔のアニメのリモコンロボットのよう
な、そんなアンテナです。
 おにいちゃんは、朝も早よから電波を受信します。

「あったーらっしーい あっさがっきた! ちっきゅうーの、あっさーっが………」

 おにいちゃんは、頭のアンテナで毎日のように毒な電波を受けながら、こんな風
に自分のベットから起き出します。
 とってもうるさいので、わたしの朝の日課は、寝ぼけ眼のまま、この壊れたラジ
オのように歌っているお兄ちゃんを、デンパで正気にする事から始まります。

「おにいちゃん……… うるさい」(きゅぴーん!)

 ぴた。

「る、るるるるる、るりこ?」
 とたんに、おにいちゃんは黙り込んだかと思うと、とっても情けないような目を
してわたしにすがりついてこようとします。
 もう大人と言われてもいいような歳なのに、です。
「いやちがうんだよ瑠璃子、これは……… そう! 朝のラジオ体操第1をやろう
として電波を受信したんだよホラウソじゃないったらぁああああああああ! やめ
るんだ瑠璃子ぉぉぉぉ、僕をそんな目で見ないでくれェェええ!!」
 と、かってに自己崩壊して行くので、もう一発、デンパをお見舞いします。

ぴりっ!

「はぁうっ!」

 おにいちゃんは仰向けに倒れちゃいました。なんか倒れる拍子に、ベッドのパイ
プにゴッスッ! とかかなりイイ音を立てて後頭部を直撃してくれたので、復活す
るのは暫くかかると思います。
………どうでもいいけど、まだ朝の5時だよ? 近所迷惑。

 朝の7時になるくらいに下に降りて来てみると。おにいちゃんはもう復活して、
朝ご飯の準備をしています。
 すれ違いざまに、おにいちゃんの後頭部を見てみると、でっかいたんこぶが真っ
赤になって「オレ様は痛いんじゃゴルアァ!」と自己主張してます。
 おにいちゃんは、最近こりもせずに二人きりの朝ご飯を楽しむ為に、料理をして
くれます、なお、味の保証はあまりできません。
 なぜなら……… おにちゃんって、デンパな人だから………

「瑠璃子おはよう! 今日のご飯は久々に電波を感じさせない食事だよ」

 などと、ほとんど調理していない食材を出してくる事もしばしばです。

「おにいちゃん、ご飯たけてないよ?」
「うむ、ご飯は電気釜で炊くから、生米」

 ご飯ジャーの中には、まだ水のつかったお米。

「………おにいちゃん、冷たいよこれ?」
「電子レンジを使って温めるから却下」

 冷たい……… っていうより何の調理もしてないおかず。

「で、お味噌汁は……… 味がおかしいよ」
「さっき頭を打って、味がわからないんだよ」

 颯爽と笑い飛ばすおにいちゃん。………ぢゃっぢめんと、ぎるてぃ。

「………やっぱりわたしがご飯を作るよ、おにいちゃんはあっちいって」

 台所にいるおにいちゃんを押しのけながら言うと、おにいちゃんは途端にうろた
え始めます。

「る……… 瑠璃子、やっぱりダメなのか?」
「ダメって言う以前の問題で、ダメだよおにいちゃん」

 何にも調理してないんじゃ、ご飯といえないし。

「うおぉぉぉおおおお! 瑠璃子おぉぉぉぉぉぉ! ダメなのか? そうかっ! 
これでもまだだめなんだなぁあああああああ!!」

 一人暴走するおにいちゃん………
 おねがいだから、そんなに某ダメ人間で名前が通ってる声優さんみたいに豪快な
叫びは近所迷惑だから止めようね。

「えい」(きゅぴぴぴ!)
「はうあ!」

 ぽてくり、ころん。
 おにいちゃんは、へんな恰好をしながら床にころがりました。いつものことなが
ら、おにいちゃんは変です。
 結局、その日の朝食はわたしの作ったトーストにハムエッグでした。
 おにいちゃんは学校へ行く直前まで目覚めなかったので、朝ご飯抜きでした。

 ご飯を食べ終わって、学校へ行く道の途中で、長瀬ちゃんとさおりんとみずぴー
と一緒になって登校します。
 そして、何故かおにいちゃんもわたしの後ろをきっちり10メートル空けて、ず
ぅぅぅっとついてきます。

「おっはよぉ! るりるり」
「おはようございます、るりるり」
「やぁ、おはよ……… 瑠璃子さん」

 さおりん、みずぴー、長瀬ちゃんが私に声を掛けてきます。

「みんな、おはよう」

 いつものみんなに、おはようします。長瀬ちゃんとはついでに電波でおはようし
ます。
 長瀬ちゃんの電波は、スルッとしてて通りぬけそうだけど、実は裏のコワれたく
らぁい部分を巧妙にカモフラージュしてます。わたしがそれをつついて遊ぶと、長
瀬ちゃんはくらぁい顔になります。

 でも、わたしの後ろをきっちり10メートル空けて、ずぅぅぅっとついてきてい
たおにいちゃんは………

「ふっ……… 僕の瑠璃子を連れて、どこに行く気だね?」
 と、まだ腫れの引かない後頭部をさすりながら、不遜な態度で長瀬ちゃんたちに
言い放ちます。

「決まってるじゃないですか月島さん。学校です」
「なっ、何ぃぃぃぃぃ!?」

 おにいちゃんも学校へ行くんじゃなかったの?

「許さん、許さんぞ長瀬君! もし、僕の瑠璃子と一緒に学校に行きたくば、この
僕と戦ってからにして貰おうか? なぁに、簡単な電波戦だよ長瀬君、いや裕介ェ
ェェ!!」

 おにいちゃん、長瀬ちゃんの何が許せないっていうのかな?

「僕……… なんか気に触るような事しましたっけ?」
「月島先輩〜、何また一人で妄想してるんですかぁ?」
「委員長。いえ、『元』委員長。早く学校へ行かないと、遅刻するんですけど?」

 みんながそれぞれに反論をしていると、おにいちゃんは突然よろよろとよろめい
て、下を向きながら、ぶつぶつと呟き始めます。

「違う……… 違うんだよ長瀬君……… そこは『なんだと……… 拓也!』とか、
『月島先輩、まさか貴様!』とか返してくれなキャ………」

 と、自分の作った台本を見比べてながら、血涙流してます。
 きっと、おにいちゃんの作る台本だから、電波チックな事間違いないんだろうけ
ど………

「じゃ、時間もないんで瑠璃子さんと一緒に行きますけど………」
「待てやコラ十年早いんだよ十年!」

 長瀬ちゃんがわたしを連れて行こうとしたら、あっさり立ち直っちゃいました。
 目は爛々と虚ろで、頭の周りからは紫色の毒電波が、ぴりぴりと音を立てて放電
しています。
 周りにいる普通の人達は、おにいちゃんの毒電波に当てられちゃっててりするの
で、かなり迷惑だったりします。

「くくくくく……… 裕介、いつかはこうなると思ってたよ、お前と戦う時が来る
事を!」
「やっぱり……… 力づくしかないんですか!? あんまりにもワンパターンなん
ですよあなたは!」

 長瀬ちゃんが叫べど、既におにいちゃんはあっちの世界へイッちゃってるので、
問答無用の状態です。
 辺りはすでに、長瀬ちゃんとおにいちゃんの電波で凄い事になっちゃってます。
 止める手だてですか?

「おにいちゃん、時間ないから先行くよ?」

 ぴたっ。
 問答無用でおにいちゃんは静止しました。ものの見事に地球が止まったのと同じ
くらいに。
 そしてロボットのように、首だけきりきりと音を立てつつ私の方を向くと、大枚
叩いて買った馬券が、ものの見事に外れた時のような、信じられないと言った表情
をしながら………

「………る、るりこ?」
「ん、もおおおお!! 早くしないと遅刻じゃない! るりるり、みずぴー、あれ
行くわよ!」

 さおりんがアレのサインを出してきたので、3人がそれぞれのフォーメーション
を組みます。
 わたしは早速、打ち合わせ通りに電波をバレーボールほどの大きさにして、みず
ぴーにそれをレシーブ………

「いったよみずぴー」

 そして、みずぴーの元へ向かった電波玉は、みずぴーの天才的頭脳をもって目標
との距離、風向き、タイミングを合わせてトスします。

「方位南南西、風力1m、さおりんいまです!」

 そして計算された高さに届けられた電波玉は、気を高ぶらせたさおりんの手によ
って………

「ひーのーたーまーぁ!!」

 全てのエネルギーと一緒に目標に向かって叩き付けられちゃいます。
 もちろん、目標はおにいちゃん。

「スッパーーーーイクッ!!」

 ドゲシッ!

 3人のカットインと一緒に、妙にパースのかかった炎に包まれた電波玉が、おに
いちゃん目掛けて………

 どっかーーーーーん!!

「うおろぶげごわっ!?」

 異次元な飛び方をしながら、見事に腫れあがった後頭部のたんこぶに命中。そし
ておにいちゃんは横っ飛びに変なポーズで、また気絶しちゃいました。

「………とりあえず、みんな行こっか?」
「早くしないと遅刻だよみんな!」
「まってくださいー」

 何事もなかったかのように、みんなで学校へ行きました。
 おにいちゃんは顔からご近所の塀に突っ込んで気絶してたので、とりあえずその
ままにしておきました。

 あのまんま、また起きたら同じ結果の繰り返しだし。


 学校が終わって、おうちに帰ってみると………

「やぁ瑠璃子! おかえり!」

 と、玄関先で両手を大きく広げてお兄ちゃんがまってました。
 頭には包帯でぐるぐる捲きになってる所に、てっぺんのアンテナだけ血まみれに
なってて、ちょっとすぷらったです。

「ちょーっとお兄ちゃんがおちゃめにいぢわるをしただけなのに、全力で攻撃する
なんて、瑠璃子も大人げないなぁ」

 何気ににこやかに笑って言ってる辺り、おにいちゃんはダダ甘です。それにあれ
はさおりんが最終的に攻撃したんであって、あくまで3人のヴァリアブルアタック
技として、『火の玉スパイク』は存在しているの知らなかったの、おにいちゃん?

「………僕はただ、あの小生意気かつ根暗チックかつ影でいぢけてる事間違い無し
で、未だに瑠璃子と新城君との間をウロウロしている優柔不断な長瀬裕介が羨まし
くっていぢめただけなんだぞっ! かわいい小姑のいぢめぢゃないか」

 それ全部ひっくるめておにいちゃんに熨斗つけて返してあげよっかな?
 おにいちゃんも大差ないのに………
 それに、羨ましくっていぢめたんなら、ただのひがみっていうんだよ。

「あぁっ! 瑠璃子それ以上は言うな言わないでおくれそうともっ!」

 唐突に、私に指をズビシッ! っと差し向けるおにいちゃん。

「全ては……… 僕のソ・ネ・ミ・だよ(覇亜斗)」

 ………懲りる事を知らないんだね、お兄ちゃん。

「玄関前でくるくる踊ると邪魔だから,どいて。おにいちゃん」

 そう言って、紫色の隠者よろしく問答無用で電波でおにいちゃんを拘束した上で、
山吹色の波紋疾走! っぽい電波でぼてくりこかしておきました。

「………つ、強くなったね……… るりこ……… がくっ」

 ぼろぞうきんのようになったおにいちゃんを、玄関先においといて、わたしは屍
となったおにいちゃんを踏んで、自分の部屋にもどりました。
 おにいちゃんは、そのまま暫く立ち上がって来なかったみたいです。

「うぉぉぉおおおおおおん!! 瑠璃子ぉぉぉぉ!!! ルリッるりっるりこぉぉ
ぉぉぉおおん!!」

 もう真夜中と言っていいくらいの時間。
 体内の電波時計を調べてみると、午前0時38分22秒とコンマ5。
 東京都小金井市の総務省通信総合研究所さん、いつもいつも正確な時間の送信、
ありがとうございます。
 とにかくおにいちゃんの部屋からダダ漏れの、おにいちゃん曰く『魂の絶叫』で
叩き起こされたので、枕を片手にお兄ちゃんの部屋のドアを開けると………

「瑠璃、っルルリ、るるるるるるるりるりぃぃぃぃぃいいいいッこっ!」

 と、ラジオのスピーカーから流れるヘビィなロックをダイヤル目一杯にタレ流し
させながら、またもやうつろな目であっちの世界に逝っちゃってました。
 おにいちゃんは受験勉強もせず、深夜ラジオを聞いている最中に変な電波を受信
していたようなので、とりあえず………

「おにいちゃん、うるさいよ?」

 と一言言っておにいちゃんを硬直させてから、右手に電波を集中させて、おにい
ちゃんの右の頬をエグるようにたたき込んでから、ラジオを電波で暴発させました。

「………りゅひぃひょぉぉぉぉ………」

 おにいちゃんは、白目をむきながら、眠ってしまいました。

 わたしのおにいちゃんはとっても変です。
 でも、こんなおにいちゃんでも、とっても大事なおにいちゃんです。
 ただ、もう少し逸汎常識ではなくて、一般常識を身につけて、社会復帰してほし
いものです。
 でないと、いつまでたってもダメ人間のまんまだよ?
 おにいちゃん?


http://www.people.or.jp/~mid/miyabi/index.htm