十二月の夜風の中に……… 投稿者:雅 ノボル 投稿日:1月1日(月)08時52分
 そして、また冬は訪れて、今年一年が終わって行く………
 この季節の夜の訪れは本当に早く、街はすぐに夜に包まれてしまう。
 けれど、街の灯りはそんな夜の闇を打ち消す彩りをもっている。
 澄んだ空気に映える、満天の星空とネオンの光。そして、人々が織り成す賑やか
さが、押し迫った年の瀬の空気に交わっている………

         Leaf presents "WHITE ALBUM" Misaki Sawakura's Side Story
                         十二月の夜風の中に………
                        Feel in a Deccember's wind

                          Wrote By Noboru MIYABI

 ついさっきまでは大学のお友達と一緒に、ちょっとした忘年会がわりのコンパを
楽しんでいたけれど、宴も終わって自然解散となった後、友達からの二次会の誘い
を断って、酔いさましのついでに街を一人歩いてみる。
 もう年の瀬も押し迫った12月の宵の街並みは、どこもかしこも人で賑わってい
て、どこかいつもと違う雰囲気に包まれていた。
 今年一年の慰労を兼ねて、仲間達と宴に興じていた人達や、少し早いクリスマス
を楽しむ恋人達の姿は、どことなく嬉しいようにも見えて、そして今年一年がもう
終わってしまう事を、緩やかに吹く北風と一緒にそっと教えてくれる。
 そして、あの二人の事も、ちょっとだけ思い出してしまう………

 大通りの交差点の信号が、丁度渡る寸前で赤になってしまった。
 次に青に変わるまで、しばらく空を見上げながら待ってみる。
 街灯の照明や、お店の色とりどりのネオンにも負けないでまたたく冬の空の星々
は、信号待ちをする人への、つかの間のプラネタリウムになる。
 誰もが一瞬は、空を見上げて瞬く星を見ていると、冬の夜空は寒いけれど、悪く
はないように思えてくる。
 空の一角に映えるは大犬座のシリウスの光か、それともオリオンのペテルギウス
と小犬座のプロキオンの輝きか。冬の空に瞬く大三角形の頂点の星たちを、目で追
いかける。
 ある人はこんな風にいう。星々の光は、はるか過去の残光だと。だけど、その瞬
きは数千年、数万年前の瞬きだとしても、いま我々の見上げる空に輝く星たちは、
等しく今に語り掛けてくれているのだと………

 そんな天体ショーも、信号機が青に変わると共に、信号を待つ人達が歩き出す事
で終わってしまう。
 誰もが家時へと急ぐ、そんな最中のちょっとしたショーも、都会で生きる人達に
はただの偶然にすぎないのかも知れない。
 ビルごしに見える星座をみながら、私も信号が変わってしまう前に道路を渡って
しまおう。

 信号を渡った先は、丁度繁華街の中心部とも言える場所になっていて、まだ営業
しているお店も多い。
 そんなお店の中には、露天のお花屋さんもあった。
 ふと足を止めて見てみると、一束ごとに彩とりどりの綺麗な花がいくつもお店の
軒先に並べられて、ライトアップされていた。
 時期だけに温室栽培の花ばかりだけれど、綺麗にまとめられた花束は、目に止ま
った人の足を止めさせるほどに、活き活きとして飾られていた。
 私と同じように足をふと止めて眺める女の人、少し迷ってから一束選んで買い求
める会社帰りの男の人、どこかへお祝いにでも行くのか、少し豪華な花束を買い求
めて行く女の子……… いろいろなお客さんが、足を止めては買っていく。
 花屋の店員さんは、寒空の中を露天で立ちながら商売しているから、ずいぶんと
身体が冷えきっているのだろうけど、そんな事をおくびにも出さずに、足を止めて
くれた人達を相手に笑顔で接している。
 そんな姿を見ると、何か買わないと申し訳ないと思って、私も小さな花束を買っ
てから、その場を離れることにした。.

 お酒を飲んだせいもあって、少しのどが乾いてきたので、近くにあったオープン
タイプのカフェに入って、温かいカプチーノとケーキを注文してから席に届くまで
の間、目を閉じて夜風を感じてみる。
 12月の冷たい空気がお店の中を通りぬけて、さらさらと髪を撫でていく感覚が、
酔っていてもはっきりと感じられて、ちょっと心地よい。
 暫く目を伏せて、周りの音だけを感じてみる。
 通りを行く車の音や、行き交う人々やカフェに居る人の声に混じって、ほんのわ
ずかに聞こえてくる小さな音に、耳を傾ける。
 風が髪の毛を揺らす音に、私の小さな息遣い、近くのテーブルの誰かがカップを
置いた音。耳を凝らさなければいつもは聞こえてこない音を感じていると、誰かが
私に声をかけてきた。
 目を開いてみると、店員さんが淹れたてのカプチーノとケーキをもって来ていた。
 店員さんは、私が眠ってしまったのかと思っていたらしく、ちょっと困った顔を
していたけれど、私が起きているとわかると、おつかれさまですね? と言うよう
に微笑んでから、ケーキとカプチーノを置いていってくれた。

 カプチーノを一口味わって、乾いたのどと身体のぬくもりを取り戻す。
 淹れたてのカプチーノは、温かいフォームミルクと苦味の利いたエスプレッソが
程よく合わさっていて、お砂糖がなくても甘くて美味しかった。
 わたしはあまりコーヒーは飲まないほうだけれど、大切なお友達の淹れてくれる
コーヒーは、同じように美味しい。
 そのお友達は、いま何をしているのだろうか?
 まだエコーズでバイトなのか、それともテレビ局でアシスタントのお仕事をして
いるのか判らないけれど………

 オープンカフェのBGMが、ふと耳になじみのある曲に変わった。
 エレクトリックピアノのイントロダクションから、少しジャズっぽいメロディラ
インに取って代わって、歌が始まる。
 よく響く声、聞いた事のある歌詞。それは私の大切なお友達が歌う曲。

  すれ違う 毎日が 増えていくけれど………
  お互いの 気持ちはいつも そばに居るよ………

  二人逢えなくても 平気だなんて
  強がり言うけど 溜め息交じりね………

  過ぎてゆく季節に 降りてきた宝物
  大切なピースの カケラ パズルだね
  白い雪が街に やさしく積もるように
  アルバムの空白を 全部 埋めてしまおう………

 わたしの知っている大切なお友達は、この歌を歌う時、どんな気持ちで歌ってい
るのだろうか?
 歌手じゃないわたしは良くわからないけれど、彼女は本当に彼の事を思いながら
歌っているんじゃないだろうかと思う。
 また、そうであって欲しいと願っている。
 BGMは、別の人の歌に変わっていたけれど、わたしの心の中では、彼女の歌が
リフレインする。
 「WHITE ALBUM」
 それはまだ埋め尽くされていない想い出のアルバム。
 そんなアルバムを大切な人との優しい想いで埋め尽くせたら………

 もう一杯コーヒーをおかわりしながら、コートのポケットにしまってあった読み
かけの小説を取り出して、続きを読み始める。
 このところ、忙しい訳じゃなかったけれど、本を読むペースが進まないでいた。
 たぶん、本のジャンルが少し苦手な軍隊者のミステリだったせいだと思う。

 艦長は、事件の核心にストレートに聞いてきた。
 お互い様、その事故はあまりにも状況が偶然すぎて気に入らないのだ。まるで、
狙ったように実行された陰謀。いや、犯行だ。
 私が言いよどむのを、艦長はコーンパイプを傾けることで発言する事を促す。
 意を決した私がいくつかの可能性を列挙すると、その言葉を待っていたかのよう
に、艦長はコーンパイプを手の中で弄びながら、その可能性を自分で図り直す。
 事態は容易ではない。一つのディスクが紛失し、乗組員が2名が死亡し、3名が
重軽傷を負っている。
 それ以上に、この国の軍隊が暴走する危険性のある状態に追い込まれようとして
いる事を考えれば、早急に事実を解明せなばなるまい。
 私も軍人である以上、この場でこう言うのは非常に遺憾であるが、軍隊ほど1枚
岩ではない組織はない。時には軍内部の一部の人間や、政治の為にその力を行使さ
れてしまう事だってある。
 その蓄えられた力が暴走する事だけは回避せねばならない。少なくとも、それだ
けは艦長と意見が一致していた。
 目の前の堅物の老大佐は、少なくとも目の前の状況を理解していた。だからこそ
その力を行使してはならない事も理解していた。それだけに決断も早かった。
 私の持って来た書類にサインをしながら一言、結果は出してもらうぞ、と老大佐
は言った………

 そこまで読んでいるところで、私の席に店員さんがラストオーダーであることを
告げにきた。時計を見てみると、もうかなリ遅い時間だった。
 仕方がないけれど、この本はまたあとで読む事にしよう。
 店員さんには丁重に断って、終わりの間近いカフェをあとにした。

 まだ街はにぎやかで、人も車も多いけれど、あちこちのお店が閉まりはじめてい
るのを見ると、夜もずいぶんと遅いのだと言う事を教えてくれる。
 わたしは、家路への歩みを少し速めていた。
 カフェで本を読んでいるうちに、星空は曇天にとって変わっていた。
 12月の夜風は痛いほどに冷たくて、底冷えするくらいに寒く感じる。
 下手をすると、雨でも降るのではないかと思うくらいの、そんな天気だった。

 ぽつ。

 わたしの顔に、何か冷たいものが当たる。
 何かと思って手を顔に触れてみると、本当に小さな水滴が指を濡らした。
 雨かと思って、わたしは曇る空を見上げてみた。

 それは、本当に唐突だった。曇天の空から降りてくる、冬の季節がくれた贈り物。
 それは、ちらちらと、そして少しづつ強く。
 空から降り始める………

 十二月の夜風の中に、舞う粉雪。
 きっと積もらないかも知れないけれど、確かに降っていた。
 空を見上げながら、雪に願う。

 feeling………

 12月の夜風の中に、確かに雪は舞ったのだと。

 and wish

 願わくばこの雪を、大切な二人が見上げてくれている事を。



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