しすたあず 投稿者:雅 ノボル 投稿日:10月27日(金)03時21分
 みなさんこんにちわ、来栖川芹香です。最近めっきりと寒くなって、お外へ出る
のにそれなりの衣類が必要ですね。
 私なぞ、幾重にも上着を羽織らないと、風邪を引いてしまいそうです。
 今日も綾香は、セバスチャンと一緒に格闘技のお稽古をしています。
 それにしても、綾香は何故ああも体を動かしてばかりいるのが好きなんでしょう
か? 
           Leaf Visual Novel Series Vol.3 To Heart Side Story
                                                          しすたあず
                                                    
                                                    Wrote By Noboru MIYABI

 綾香ときたら、日本舞踊や華道のお稽古となると、絶対に逃亡します。
 以前にも逃亡癖を見かねたおじい様が配備した、来栖川セキュリティサービスの
中でも、さらに選りすぐりの先鋭黒服戦闘員50名の追跡を、そのあきれるくらい
の体力を駆使して逃げおおせています。恐るべき行動力、恐るべきバイタリティ、
恐るべき執念、そしてあきれるべき体力の持ち主です。
 あんまり体を動かし過ぎると、体じゅうの筋肉が鍛えられすぎて、いつかひろゆ
きさんも見たがらないくらいの筋肉娘になってしまいますよ?
 筋肉はただでさえ重いのですから、軽蔑されてしまいますよ。
 年頃の女の子は、お箸より重い物を持てないくらいがちょうどいいそうなのです。
だのに綾香ときたら、お箸どころか来栖川重工特製劣化ウラン合金製のアレイを軽
々と持ち上げます。そのうち口から映画で有名な怪獣さんのように、放射能を吐き
出しそうです。
「綾香お嬢様! 今日は一段と手数が多くなっておられますなぁ!」
「そーでなきゃ、アンタの一段と狂ったような攻撃を捌けないでしょーが!」
 パシパシパシパシと肉と肉の落ち合わされる音、あぁ、野蛮です、凄く野蛮です。
 セバスチャンがああも格闘技が好きなのは、趣味だからでしょうが、その趣味の
是非は仕方ないとしても、それを綾香にまで伝染させないで下さい。
 ただでさえ野性味溢れる我が妹なのに、これ以上野生が強くなったら、そのうち
私の大事なひろゆきさんをとって食べちゃいそうです。
 きっと、闇夜に潜む肉食獣のように、さささささーと忍びよって待ち伏せした上
で、こうがばーっと、20世紀最大の怪盗さんのようにル○ンダイブで下着一枚だ
けになったあとで、ひろゆきさんの眠るお布団の中にダイブインするなんて………
 ふるふるふる。
 いけません、そんな事をしたらいけませんよ綾香。ひろゆきさんは私が魂まで美
味しく頂くつもりなんですから。
 甘い言葉で誘った上で、身も心も私につき従うような契約を施して、二度と他の
女の子に眼がいかないように呪縛してから、死ぬまでいっしょにいて上げますから
ね、ひろゆきさん、まっていてくださいね。
「ぬぅーはぁーはぁーはぁぁあ! ぬるい! 激ヌルですなぁ綾香お嬢様ぁ!」
「ち、ちぃ!」
 奇怪な笑い声を上げつつ、セバスチャンがさらに攻めの手を増やします、私には
もうセバスチャンの攻撃が千手観音のように見えて来ています。あまりにも早すぎ
て、目で追いかけるコトが出来ません。
 そう言っている間に、綾香の腕や頬に細かい傷が……… あ、血が流れました。
「っくぅっ!」
 セバスチャンの猛攻に押されて、綾香はとっさに間合いを取りなおします。
「やるじゃないの、セバス。思いっきり踏みこんできたかと思えば、あんなに攻撃
を繰り出してくるなんて………」
 綾香は言いながら、右手の甲に出来た擦り傷を軽く舐めとって、また間合いを詰
めます。軽くステップを踏みながら、背後にはかつて奇声を上げるので有名だった
中国人の姿が見えたりもしてます。
「見ようとするな、感じろ………」
 綾香、傷口を舐めとるなんてばっちい真似はおよしなさい、だからあなたはガサ
ツなのだとおじい様に言われるのですよ。
 血はやっぱり、新鮮なニワトリさんの血が一番です。まちがっても筋肉娘の綾香
の血なんて、ドラキュラ伯爵様であろうと吸いに来ることは無いでしょうね。
 もし、綾香の元に吸血鬼が来たら、それはきっとおなかが空いて餓えきっている
からでしょうね。
 でも、綾香の血を吸ったら吸ったで、ニンニクのエキスもいっしょに吸ってしま
って、吸血鬼さんがのたうち回って死んでしまうかと思うと………

「………さっきっから、なんつーモノローグ一人でブチこいてるかぁあああ!」
「………」
「え? 他意は無い? もっと悪いわい!」
 雑菌にも打ち勝つ綾香の前には、温室育ちの私が敵う筈ありません。
 しくしく………