六月の朝陽の中で 投稿者:雅 ノボル 投稿日:6月17日(土)02時23分
 窓の外がほのかに明るい。
 それに気がついて、手もとの照明を消してみると、カーテン越しにも空は明るく
見えていた。
 いけない、またやってしまった。
 ついつい買ってきた本を読みふけっている間に、夜が明けてしまった。

                  Leaf presents "WHITE ALBUM" Side Story
                             六月の朝陽の中で
                                In a dawn on June

                          Wrote By Noboru MIYABI

 読みかけの本は、ちょうど章の区切りの所だったので、そこでしおりを挟んだ後、
眠る事のなかったベットから抜け出して、パジャマ姿のままでお部屋のベランダに
出てみる。
 まだ陽の出たばかりの街は、朝の光の中で眠りに包まれている。
 朝の静かな空気の中にある、風の冷たさがここちいい。
 お部屋の時計を見ると、もう朝の4時すこし。
 ほんの2ヶ月前なら、まだあたりは夜闇に包まれているころなのに。
 もう6月もなかば。1年で一番陽のあたる時間が長い季節なのに。晴れ渡る日は
そうあまりない。
 本当の夏はまだ先の事、でも暦の上では夏なのだ。
 私はいったんお部屋に戻ると、普段着に着替えてから、家人が起きないように気
を付けながら、静かに家を出た。

 家の外にでると、昨日の雨のせいで、路面がまだ所々濡れていたけれど、水溜り
はほとんどなく、靴が濡れる心配もない。
 少し湿り気を帯びた空気が、ちょっとだけ心地よい。
 朝の空気に昼間の暑さは感じる事もなく、涼しげな風が、街路を通りぬけていく。
 葉の匂い、樹液の匂い。
 雨にうちさらされていた間は感じなかった匂い。5月の頃に比べれば、青臭くも
なく、逆にそれだけ夏に近づいている事を教えてくれる。
 まだ陽の光も弱い。夏の朝日に比べれば、暑くもなく、痛くもない。それだけが	
まだ夏前だと言う事を教えてくれている。そんなくらいに陽の光はやさしい。

 お家の近くにある公園を訪れてみる。
 昼間なら、小さな子供連れのお母さん達が来る公園も、この時間だとほとんど人
はいない。
 犬の散歩をするおじさんおばさん達とすれ違い、公園を抜け出て駅へ向かう。
 駅へ向かう大きな道にも、まだ人も車も少ない。まだ、静けさの中に街は眠って
いた。
 通りかかりに出会う人も、24時間営業のコンビニの店員さんも、なんだか眠そ
うな顔をしている。
 ………案外、私もそんな顔なのかも。
 それでも、あとほんの2時間で、街は目覚めはじめる。
 大通りには車が行き交い、歩道には出勤する人、通学する人でいっぱいになる。
 生活の匂いが、まっさらな雨上がりの空気にまざり始める。
 その中に、さっきまで感じた軽やかな空気はないのかも知れないけれど。
 人が目を覚まし、「一日」の生活が始まる前の、ほんの一瞬。
 そこにだって、息吹は感じられる。
 暖かなところはある事を。
 
 大通りのビルの隙間から、太陽の光が漏れ始めた。
 もう少しで、街を光が完全に包み込む。
 少し、眠くなってきたかな?
 今日は、学校も午後からだったし。
 そろそろお家に帰って、少し眠ろう。
 始発電車の走り始めた駅前広場を抜けて。
 駅へ行く人とは反対のほうに進んで。
 裏路地に入って、まだ眠りの中にある住宅街へと進み。
 新聞で一杯になった自転車を漕ぐ、新聞配達の人に挨拶しながら。
 静かにお家の玄関を空けて、音を出さずに階段を上がり。
 自分の部屋に入って。
 またパジャマに着替えて。

 ………カーテンから漏れる、朝の光に包まれながら………