『東鳩ランIntermission2:君のためにできること』 投稿者:水方 投稿日:5月1日(月)22時19分
== はじめに ==============================================================
 この話はTRPG『シャドウラン』(米FASA/富士見書房)の世界観を使用し
ています。『シャドウラン』を知っている方には『にやり』とするように作っていく
つもりですが、知らなくても、ちゃんと楽しめる……ようでしたら、作者はうれしく
思います。
 当然ですが、文中にある固有名詞や人名などは全て架空であり、実在の名称その他
同一のものがあったとしても何ら関係ない事をお断りしておきます。
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 定刻を三分過ぎて、ようやく洗い物が終った。
 交代で入ってきた初老の女性に、簡単な引き継ぎを済ませ、ぺこり、とおじぎをし
て理緒は隣の更衣室に入った。
 ロッカーに薄青い制服を収め、扉を閉める。
 そして、頭をほんの少し倒し、額を扉にくっつける。
 あれから、大変だった。
 マスターアップで泊まり込んでいる複数のSEの要求に応じ、和食から洋食まで一
人で十数食分も作るはめになった。
 首を左右に振って肩をほぐすと、理緒はゆっくりと更衣室を後にした。


「お疲れさま」
「あ……」
 声をかけられた理緒は頭を上げ、そして目に飛び込んだ警備員の制服に、はっ、と
身を固くする。
「はい……失礼します」
 その言葉だけ絞り出して、理緒は足早に通用門を通り抜けた。
 勢いがつくまま右に曲がり、坂道を駆け上がる。
 あの警備員ではない。
 そんなことはわかっている。
 でも、脚が止まらない。
 止まってくれない。
 坂の頂上を通り越し、そのままの速さでなだらかな下り斜面を降りる。
 後ろを振り返り、『ワカッタ・ソフトウェア』が見えなくなって、初めて、理緒は
走るのをやめた。
 それでも、坂を見やるのはやめない。
 理緒の世界は止まっていた。
 いや、繰り返していた。


 薄ら寒い詰め所
 突き飛ばされる自分
 恐くなる相手
 上着のボタンを外す指
 暗闇
 そして、救いの手……


 軽い衝撃で、理緒は我に返った。
 すれちがう相手にぶつかったのだと気づき、理緒は目をぎゅっとつぶったまま頭を
下げる。
「……ごめんなさい!」
 そして前を向き、目をつぶったまま、はじかれたように理緒は歩きだす。
 それが、三歩で止まった。


 ゆっくりと顔を上げる。
 二本のくせ毛が、そよ風になびく。
 そして目を大きく開き、ついさっきぶつかった相手の方に向き直る。
 ----藤田くん?
 ああ、やっぱり。


 そこには、誰もいなかった。


 気のせい?
 そんなはずはない。
 でも、誰もいないじゃない。
 つかの間ふくらんだ希望が、あっという間にぺしゃんこになる。


 しばらく虚空を眺めていた理緒は、あきらめてきびすを返す。
 目線を下げ、とぼとぼとした調子で歩きだす。
 やるせない気持ちになって、ジャンパーのポケットに手を突っ込む。
 そこで、理緒ははっ、と顔を上げた。


 ジャンパーのポケットには、白いプラスティックの棒があった。
 クレッドスティック。
 表示部分には、シアワセ・コーポレートのロゴと、4桁の数字が浮いている。
 支払い保証済みクレッドスティック。
 しかも、半月の稼ぎに値する額が入っている。


『何やったら藤田君に持って行かせてもええ』
 あの時、厨房で、電話の向こうはそう告げた。
 見知らぬ声が、見知った人の名を告げる。
 理緒の心の中で、何かが弾けた。


 ----あのひとは、確かにいる。


 くるっと小気味良く振り向き、誰もいないその場所を再度見る。
「ありがとう。助けてくれて!」
 強い調子で言い放ち、深々と頭を下げる。


 それから、また小気味良く振り返るや、理緒は小走りに駆け出した。
 迷いはない。
 理緒の気持ちは、ほんのりと温かくなっている。


 ここで顔を見せなかったのだから、もう二度と顔を見ることはないだろう。
 それはわかっていた。
 それでも、気持ちに張りが出る。
 理緒の心に、支えが生まれた。



「ほんとにいいの?」
 都市精霊の《隠蔽》のパワーを解き、遠ざかる理緒の姿を見つつ、あかりが浩之に
問いかける。
「ああ」
 浩之もまた、理緒の姿を目で追っていた。
「彼女は、一人でやっていけるさ……」
 その瞳が、すぅ、と細くなる。
「強い娘だから」
 その強さを、ほんの少し、後押ししただけなんだ。



 東鳩ランIntermission2:君のためにできること 終
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 ああ、わたしにゃ似合わんものを書いてしまった気が(爆)。
 感想、文句その他、お待ちしております。

 久しぶりに、『シャドウラン』世界の東鳩キャラ、いってみましょう。
----- おまけ -----
★松原 葵 [人間・女性 22歳(2057年現在)]

◆キャラクタータイプ:武闘家 (Physical Adept)

◆能力値
 【強靭力】6   【敏捷力】6 【筋力】6
 【意志力】6    【知力】6 【魅力】4
 【反応力】6 【エッセンス】6 【魔力】6
 【イニシアティブ】6+1d6

◆プール
 コンバット・プール:9

◆アデプトパワー
 ・技能強化...[素手戦闘]に追加ダイス2個
 ・殺戮の手(Sレベル)
 ・感覚増強(熱映像)
 ・投擲術(Missile Mastery)... 武器でない物を投げても、投擲武器と
     同じようにダメージを与えられる

◆技能
 [素手戦闘]7(10),[手投げ武器]6
 [礼儀作法(ストリート)]3,[医療]3,[心理学]3

◆コンタクト
 友人(Buddy) :藤田浩之(探偵)
 コンタクト(Contact):来栖川綾香、坂下好恵、ストリートドク、賞金稼ぎ

◆生活様式
 下層(6ヶ月払込み済み)

◆カルマ・プール
 4点

[優先度 A:能力値 B:魔法 C:財産 D:技能 E:種族]で作成してから
追加カルマ35点で成長。
 なお、『投擲術(Missile Mastery)』については、追加魔術サプリメント
"Awakenings: New Magic in 2057"によった。

http://www.ky.xaxon.ne.jp/~minakami/index.htm