五月に事起こり迷惑こうむるは・・・ <第3話> 投稿者:見ずかみ
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五月に事起こり迷惑こうむるは・・・ <第3話>

<こみパSS>

by 見ずかみ
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「さて、本題に入りたいと思います。まずはお手元にお配りした資料をご覧下さい」

大志があらかじめ配っていた冊子の表紙には、次のように描かれていた。

<空想大陸 マチュ=ピューア マスコミ向け資料>

モクモクとケーキを食べていた詠美が、急に素っ頓狂な声を上げた
「こっ、これぇぇぇぇ〜!?」

「空想大陸 マチュ=ピューア」
大手ゲームメーカー「ゼガ」が開発した次世代ネッオワークゲームである。
最大の特徴は、特殊筐体によるほぼ完全なバーチャル・リアリティ・システムを採用した「ダイブ・プ
レイ・システム」が採用されて点である。
これによりプレイヤーが画面上ではなく、ゲーム世界そのものでのプレイングが可能になった。 
「こみパ」でもゲーム系同人誌で色々と取り上げられている。
稼動は今年の8月ごろであり、この夏の注目作となっている。

「実は五月中旬に、部外者を招いてこのゲームの稼動テストがある」
「へぇーもう完成してたのか?」
「なんや、リアリティー前面に押し出したゲームやろ、これ? 知り合いが同人誌で色々描いてたで」
「?????」
「・・って、綾は知らない?」

こくこくこく

「えーっとね・・・」

綾に掻い摘んで説明を始めたが、ふと横目で見ると詠美がプルプル全身を震わせている。

「ちょっと九品仏大志!!」
「何かな大庭女史?」
「もしかして、私たちを呼んだ理由って!!!」
「ご推察の通りです・・・」

がばぁ
詠美は突然大志の肩を掴み・・・

ガクガクガク
前後に激しくゆすった。
しばらくその状態が続いて大志の顔を凝視していたかを思うと・・・

バシバシバシ
両手で大志の肩をたたきだし・・・

ブンブンブン
最後にオーバーアクションな握手をしたあと、ダッシュで玄関に向った。

「開催日はメールかTELでお願いね!」
そう言って玄関のドアが激しい轟音とともに閉められた。

「なんだ・・・・・・今のは?」
「ふむ、まずはこれで良し。 テスト要員一人決定・・・っとぉ」
「お゛い、なにが良しだ・・・」

つまり、このメンバーでそのテストプレイに参加しよう・・・っと言ういうことか?

「しかし大志はん、よくテストプレイのチケットなんぞ手に入ったなぁ?
ウチの知り合いでも血眼になって探しとったのに」

由宇はパンフレットを斜め読みしながらそう言う。

「まぁ、我輩の人脈と人望の成せる技・・・とだけ言っておきましょう」
「嘘つけ。お前のことだ、何か策を労したんだろうが!」
「まい同志和樹・・・。
 我輩はゼガの広報部に局地的にもっとも有効な宣伝方法を提示しただけなのだよ?
これは、それを実践する為の必要経費に過ぎぬ」
「・・・つまり、ゲームの宣伝を同人誌でしてやるから、テストプレイに参加させろ・・・と?」
「極力単純化させると、そう言えなくも無いな」
「おい・・・」
「まぁ、ゼガから各種設定資料から印刷代・参加費まで支給されるゆえ、数千部発行しても値段
は¥0でOK。 在庫の関してもゼガの買取と言うことで心配無用だ。
さらに人気作家の本という事で、取りあえずこの本を購入。結果このゲームに興味を持つこともある
だろう。 うまく行けばそれらの人間から需要が発生する事もある。 
下手に企業側が即売会でプレゼンするよりも、効率よく・満遍なく情報を浸透させる方法を提示したのだよ」

大志はズリ落ちた眼鏡を「クィ」と直しながらべらべらと口上を垂れた。
おれは、大きなため息をついた。 よくもまぁ、こんな男の口先に大企業が乗ったものだ・・・。

「良いではないか?世の中、持ちつ持たれつで成り立っている。助け合いは美しいぞ?」
「まぁ、この際それは置いておこう」

和樹は大志の首を腕で締め上げるようにして、大志の耳元で小声で言った。

「そりゃ、由宇や詠美はそれでもいいが、綾はこの手の本を作ったことが無いんだぞ!
綾はオリジナル中心で・・・おまえもそのことは知っているだろうが!」
「それも心配無用」

大志は首をロックされたままの状態で綾のほうに向きなおした

「長谷部女史にはゲームの世界観や設定等に関するアドバイザーとしての参加をお願いしたい!」
「えっ?」

綾は呆けたような言葉を発して大志と和樹を交互に見た。

「長谷部女史の同人誌を見て、話の内容を随分気に入られた方が開発室に居ましてね、是非意見
を聞きたいとの事です。 できればゲーム中で使用するシナリオを一つお任せしたいと・・・」

「良かったじゃないか綾!」
「綾ちゃん、オメデトさん!」
オレは邪魔な大志を放り投げて、先ほどの詠美の様に綾の手を取ってブンブンふりまわした
判る人間にはちゃんと判ると言うことだ。
俺は綾の作品が認められた事を自分の事のようにはしゃいだ。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
綾は、俺のオーバーアクションに驚きながらも、何処となく嬉しそうだった。
やがて、綾は熱心に冊子を読み始め、積極的に俺に質問を始めた。

「さて、異存が無ければ今回のプロジェクトは承認・・・」
「せやけどなぁ〜」

由宇はパンフレットから顔を上げて憮然と下顔で
「うち、今月ちょい厳しいから、まだなんとも言えへんよって・・・」
「なんでしたら、まいブラザーの家に宿泊なさっては?」
「おい!」
「綾ちゃんおるからに、さすがにそんなことできへんわ」

さすがに由宇も苦笑いしている。
ふるふるふるふる
綾も首をふっている。

「無論冗談です猪名川女史」
「ちっ、なんや冗談か・・・
・・・あ゛ー綾ちゃん、これも冗談やさかい、なっ?」

見れば俺の腕をしっかり掴んだ綾が、多少涙目で由宇を見ていた。
・・・愛されてるな俺。

「交通費に宿泊代も経費として落とせますので、ご安心下さい」
「そか? まぁ無料より高いモンはないちゅーが、たまにはいいやろ。
ウチも乗ったで、その話!」
「ご協力感謝します。・・・さて、同志和樹?」
「御名まで言うな! この状況下で参加しないとは言えぬだろうが」
「さすがわが野望の体現者! ともに栄光の道をひた走ろうぞ!」
「てめぇー1人で地獄のそこまで駆け抜けろ・・・・」

そんなこんなで、俺たちはテストプレイに参加することとなった。
大志はゼガの本社で直接打ち合わせがあるということで、さっさと退室していった。
俺と綾と由宇は、由宇が帰る電車の時間まで冊子を見ながら世界観やキャラーたちの話で花を
咲かせていた。
思えば、こんな出来すぎた・・・更にいえば大志が持ってきた話に、裏があることを感じなかったの
は我ながら失敗であったと言える。
が、全てはアフターカーニバル・・・後の祭である。


ゼガ本社開発室ロビー
「取りあえず、我輩の関係者8人ほどの手配が完了しました」
「済まないわね九品仏君、君に色々迷惑をかけてしまって」 
「いえ、お気になさらず。・・・で、状況は?」
「芳しくないわ。 第24次討伐隊も全滅よ。 我々は手の内を知り尽くされている言らしいわね」
「では・・・」
「今度のテストプレイが正念場よ。 場合によっては私も撃って出るわ・・・」
「長い3日間になりそうですな・・・」	

そう言ってコーヒーを喉に通しながら、大志は窓の外を見た。
まっかな夕日がビル街を染めあげている。

・・・まるで血の赤だな・・・

大志のオタク知識の中で、そんな言葉が浮かんだ。

<つづく>
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数日振りです、見ずかみです。
比較的まともに見えるよう書いたSSの続きです。
でも、本題にまだ入れてません(泣)まだまだペース上げないと・・・