Wish 投稿者:未樹 祥
「アテンション・プリーズ 当機はまもなく……」

 ふう。やっと着いたか。いいかげん座ってるのにも疲れて来たしな。



 『Wish』



 空港、ロビー




「はあい、浩之」
「は?」

 目の前にいるのは……シンディ? え?

「来栖川よりお迎えに上がりました、シンディです。よろしく」

 え? ええ? そういえばレミィ一家はこっちに戻っていたんだ。

「お久しぶりです。レミィは元気ですか?」
「元気過ぎるわ。こちらへどうぞ。寄宿舎まで案内します」
「はい」


――・・――・・――・・――・・――・・――


 取り留めない話――本当にそうなんだからほとんど覚えていない――
だが、レミィは元気だそうだ。ダディとハンティングしているとの事。今日は都合が悪か
ったらしい。車で2時間程か? 程なく寄宿舎――15階建高級マンションって感じだが
――に着いた。

「ここの12階が藤田さんの部屋となります」

 俺がほえ〜としているとシンディさんが横に並びながらそう言って来た。

「何号室ですか?」
「くっくっく」
「――なにか可笑しいですか?」

 何笑ってるんだ?

「いえ、失礼。今、言いませんでしたか? 『12階』だと」
「え? まさか……」
「ええ、そのまさかです。12階全てが藤田さんあなたの部屋です」

 俺は冷や汗が流れるのを感じた。12階全てだと? どれくらい広さがあるんだ?
俺の顔に出ていたんだろう。シンディさんが説明を始めた。

「来客用を含めると寝室が3つ、リビング2つ、キッチン、バス、トイレ共通バス、
そしてトレーニングルーム一つですが?」
「トレーニングルーム?」
「ええ、シャワー、サウナも有る本格的な物が有ります。ちょっとしたジムより設備は良
いはずです。エクストリームでしたか? その試合ができるだけの空きスペースも有りま
すよ。ああ、それから屋上には入居者用ですが全天候型プールも有ります」

 気が遠くなり掛けた。――トレーニングルーム? プール? ちょっとまて!

「……それだけを自分の為に?」
「まあ、藤田さんだけじゃないですけどね」
「?」
「ま、はい。これをどうぞ」

 そう言いながら差し出されるカード。

「これは?」
「このアパートメントへのIDカードです。これが無いと出入りできません。あ、セキュリティ
サービスは来栖川SSが行っていますので、なにか有ったらすぐ連絡が行く様となってま
すのでご安心ください」
「はあ」

 カードを受け取るとシンディさんは恭しく礼をして、

「では、これで。後は中の者が引き継ぎますので」
「へ? ここまでなんですか?」
「はい。これ以上立ち入ることは禁じられていますので。ああそうだ、また今度ホームパーティ
開くからその時レミィとも遊んでやってあげて。じゃ、また」



――・・――・・――・・――・・――・・――



「はあ」

 まいったね。これは。まさかこのマンションの12階全てだと?とんでもないな。来栖川め。

 ――だが、この疑惑は直に解った。このマンション自体、各階1〜2部屋しかないんだ。
ってことはこのマンション全体で23戸前後とこか?  だが、そんな所をただの留学生に
割り当てるか? 普通。

 チン

「12階に到着っと。えっと、カードは何処に……あったあった」

 ピーーー

 カードを通すとドアロックが外れる音がした。ふむ、なるほど。

 カチャ

「あ、お帰り。浩之。ゆっくりだったわね」
「ただいま」

 え? あれ? ドアを開けると見知った顔が出迎えてくれた。

「ほら、さっさと中に入ったら? あ、奥の突き当たりの左側の部屋に荷物置いて」
「―お帰りなさいませ。浩之さん―」
「ただいま」

 て、ちが〜う。なにスで返してるんだ? 俺。

「なんで、綾香とセリオが居るんだ? あ、まさか内の者って……」
「ピンポーン! 大正解! その通りよ」

 綾香の得意満面な顔。しかし、なんでTシャツにショートパンツなんてラフな格好なん
だ? セリオも。しかもその上にエプロンなんかしてるし。お二人さん、その格好(特に
素足)は青少年には目の毒(保養?)だぞ。

「ほら、そんな所でボーと突っ立ってないで、荷物を置いて来たら? 歓迎会の準備なら
もう出来るし」
「歓迎会?」
「質問なら後で受け付けるから、ほら、早く」
「あ、ああ」

 そういえばさっきからいい匂いがしてるな。


――・・――・・――・・――・・――・・――


 おいおい、なんだよこの料理は。ゆうに4人前くらいあるぞ。目の前のテーブルの上は
お皿が所狭しと並べられている。

「浩之、これ、栓抜いて」
「自分で抜けるだろ?」
「これぐらいいいでしょ」

 綾香からワインボトルを受取、コルクを抜く。

「グラスは?」
「―どうぞ―」
「あ、サンキュー。あれ? 3つ?」
「―まあ、私も形だけ―」

 ふ〜ん、なんかセリオが照れているような気がするのは気のせいか?

「それじゃぁ、浩之が無事に留学出来たことと私達のこれからの生活を祝して」
「かんぱーい!」

 チン!

「なあ、綾香、今『私達の生活』とか言わなかったか?」
「ええ、言ったわよ」

 げ、綾香の奴、もうグラス空けてやがる。それをセリオは注いでるし。

「ね、浩之、おいしい?」
「まだ食べてねえって」

 苦笑する。さて、何から食べますかね? セリオに聞いた所、ロシア料理らしい。よく
判らないが。不安そうな顔をしている綾香に急かせられるようにスープに手をつける。
スープといっても肉だんごとジャガイモがたっぷり入ったボリュームたっぷりな奴だ。

「ん、うまい」
「ほんとう?」
「ああ」
「よかったあ。これ私が料理したの」
「この料理全部か?」
「そりゃあ、レシピはセリオに教えてもらいながらだけど」

 綾香は苦笑しているけど、嬉しそうだ。こっちまで嬉しくなりそうだ。しかしこれらを
綾香がねえ。来栖川のお嬢様だから料理なんかほとんどやったことがないと思って
いたけど。


――・・――・・――・・――・・――・・――


「なあ、そろそろ質問に答えてくれよ」
「質問?」

 ワイングラスを空けながらの返事。――早くも3本空いている――しかし酔った様子は
ない。底なしか?

「綾香とセリオがどうしているのか、とかさ」
「――そうね。ま、簡単に言うとね、私も留学したの」
「げ、綾香も?」

 綾香は見る間に不機嫌な顔になり、

「なによ〜、そんなリアクションしなくてもいいじゃない」
「悪かった。で?」
「まあいいわ。で、留学先は浩之と同じ所。さすがに専攻は違うけどね」
「ふ〜ん、それで『私達の生活』って訳か」
「あら、それだけの意味じゃないわよ」

 意味深な綾香の言葉。それに表情。――元が美人だから引きこまれそうになる。

「――実はね」

 もったいぶるなよ。綾香。

「―ここに私達も住むんです―」
「ああ、セリオ! 言いたかったのに〜」

 悔しそうな綾香。セリオは無表情だが。ここに住む? まさか……

「セリオ、ここに住むとか言わなかったか?」
「ええ、言ったわよ」

 綾香、お前には聞いてないぞ。

「どういう事だ?」
「どうって言われても、ねえ。この部屋に住むって意味だけど」
「マジかよ」
「……」
 マジです

 頼む。そこで先輩のまねなんかするなよ。綾香。さすがに唖然とする俺。同居だと?

「なあに? こんな美人二人と一緒に住めるっていうのに、なんて顔してるのよ?」
「―お嫌ですか?―」
「いや、嫌ってことは無いが、しかし……」

 嫌じゃない。むしろ好ましい。しかし、だ。俺の表情を読んだんだろう。綾香が続けて
きた。

「あ、もし来栖川の事を気にしてるんなら気にしなくていいわよ。了解の上だから」
「了解ねえ」
「そ、ほら、前、浩之お爺様の前で啖呵きったでしょ?」
「ああ、婚約者扱いを辞退した奴か?」
「そう、それ」

 キュとワインを飲む。なんか飲まないと聞けない話の様な気がする。

「あれで逆にお爺様がいたく浩之の事をお気に召してね。
『気に入った。綾香、お前も留学するんだったな。ちょうどいい。なんなら既成事実を造
ってもかまわん』
って言ってね。あっと言う間に手配されちゃって。で、こうなったの。あ、セリオには家
事全般やってもらう事になってるわよ。だから食事の心配は無し。どう?」

 まさかそんな事になってるとは。呆れて物もいえない。そうこうする内に料理もなくな
りつつ有る。空いた皿はセリオが片づけて――さらに料理をきたぞ。いいかげん食え
ねえって。

「どうって言われてもなあ。しかし既成事実はないだろ」

 さすがにその意味に綾香も顔を赤らめる。

「そうよねえ。嫁入り前の若い娘に向かってねえ。ま、浩之となら大丈夫でしょう」
「なんだよ? その根拠は」
「あら? 私を押し倒すって言うの? できる?」

 頬杖なんかついて自信満々て顔。しかし、なあ。

「あ、浩之、出て行こうなんて考えても無駄よ。この契約書が有るかぎり」
「……そうくるか」
「うん」

 はあ。何てことだ。これから3人での生活だと? まあ、2人とも美人だし、
セリオが居るから家事には困らない。あ、待てよ。

「綾香、トレーニングルームってお前の希望か?」
「あら、よく解ったわねえ。スパーの相手とかよろしくね」





――・・――・・――・・――・・――・・――





 こうして俺の留学生活は始まった。昼は勉強、ま、時々来栖川に出向いてシンディさん
達から手ほどきを受け、夕方から夜は綾香相手にスパーリング。そして3人でお茶会。―
―独りで寛ぐ時間は無くなった。






 しかし、綾香達との生活は理性との戦いかも知れない。綾香も気をつけてはいるんだろ
うが、どうしてもスキができる時が有る。青少年には毒だぞ、おい。学校内でも割と綾香は
俺に付きまとってる。どうも付き合ってるとか思われてる節も有る。よく考えればほとんど一
緒な訳だ。








 チュン、チュン

「浩之、起きろ〜」

 ガシィ、ギリギリ

「ぐあ〜、起きるから関節技で起こすのは止めろ〜」

 痛いけど綾香の身体が当たってる所は気持ちいい。……胸とか。

「ねえ、浩之、わたし寝る時、部屋の鍵掛けてないわよ」

 間接を決めて身体を寄せながらの言葉。え?


――・・――・・――・・――・・――・・――

(未樹)また……やってしまった。
(智子)そうやね。覚悟はできてるやろ?
(未樹)いや、あの、その……
(志保)逃がさないわよ
  ガシィ
(未樹)志保まで。あの〜智子さん、その鈍い金属光を放つハリセンは何?
(智子)このために特注したカーボナイト鋼で出来たハリセンや。戦車の砲身の材料で出
来てる。
(未樹)し、志保、離せ。
(志保)だ〜め。智子、いくわよ〜
(智子)ちょっとまった。……よし。
(志保)それ〜
(未樹)うわ〜〜
  バキィ!
(未樹)ハラホレハレ〜
(綾香)ちょっと、大丈夫? 酷いんじゃない?
(志保)綾香はいいわよ。最後においしいとこ持って行くんだから。
(智子)そうや。
(未樹)あ、あやか〜
  抱きつき!
(綾香)きゃ〜
  バキ、ドコ、バスゥ!
(未樹)☆○◎◇□△▽!
(志保)うわ〜、見事なコンボ。
(智子)ハリセンよりきついんちゃうか?
(綾香)なにするのよ! 私の身体は浩之の物なの!


タイトル Wish
ジャンル TH/綾香
コメント 願い 番外編

http://www.ne.jp/asahi/miki/be-yourself/