願い 4 投稿者:未樹 祥
「『奪ってでも欲しい』って思ったの」
「何ができる?」


願い 4




「え? 今なんて…」

 やっと言えた言葉。手が震え、白くなっていくのが解る。

「正確な表現じゃないわね。婚約者じゃ無い事が気に入らないのよ」

 ゆっくり、優雅に紅茶を飲む綾香さん。悔しいが様になっている。
そしてウチは、動揺を抑えるのに精一杯だった。

「彼ね、うちの家に偉く気に入られているわ。ま、そうでなかったら『婚約者候補』には
挙がらないけどね」

 綾香はそこで先日のやり取り…浩之とお爺様の…を思い出していた。


 「藤田君、今回の話はどうかね?」
 「…いい話には裏が有る…とよく言いますが、何が有るんです?」
 「随分ずばりと言うね。君は」
 「来栖川の会長様から話されるとは思いませんでしたからね。たかだか留学話程度で」

  浩之ははっきりお爺様に言う。正直、はらはらしている。
 お爺様に対してここまではっきり言う人は始めて見た。
 横にいる姉さんをチラリと見て見るが、相変わらず無表情でよく解らない。

 「ふむ、実は君の事を少し調べさせてもらった」
 「ま、当然でしょう。ここまでお膳立てされているのなら」

  お爺様は私達二人の方を一瞬見、

 「藤田君、うちの孫娘をどう思うかね? 身内ながらいい娘だと思うが?」

  え? 何を言い出すんだろう?

 「どうやら二人とも君の事を好いているようだ」
 「お爺様!」

  思わず声が出てしまった。姉さんを見るとポッと赤く染まっている。

 「はっきり言おう。藤田君。君を婚約者候補に挙げさせてもらう」
 「婚約者候補?!」
 「…なるほど、そうきましたか」

  動揺する私と淡々とした浩之。え? どうして?

 「…あまり驚かんね。つまらん」
 「わざわざ会長さんが出て来ましたから。で? 来栖川姉妹どちらの? なんです?」
 「えっ? ええ?」

  ほうけた顔をして二人を見ただろう。それしかできなかった。

 「それはこれから決めさせてもらう…本人達の了解も必要でな」
 「『本人』には自分も入っているんですよね?」
 「はっはっは。そう来たか?」
 「ええ」

  いつの間にか意気投合している二人。
 …当事者である私達二人を無視して。
 まったく、あんなに堂々とお爺様と話し合う人は他にいないわよ。


「そうなんや…」

 そんな事、聞いてへん。浩之。
口の中がカラカラに乾いている。ウチは一口紅茶を含んだ…不味い。
いや、味が解らへん。

「ま、私達姉妹のって言っても姉さんは長女だから、ね。
私の相手ってのが本命かな?」

 沈黙とお互いの紅茶の芳香が部屋の中を満たした。
どれくらいそうしていただろうか? 綾香さんが急に…

「ねえ、保科さん」
「浩之をちょうだい」

 え? ええ?

「いまさらどういう事?」
「前からね、思う事が有るの。どうして浩之ともっと早く知り合わなかったのかな〜って。
姉さんやあなたよりもっと早く出会わなかったのか。そしたら私の物にしたわ」
「……」
「私ね、自慢じゃないけど欲しいと思ったものは手に入れて来たわ。
でも、人の物を『奪ってでも欲しい』って思ったのは浩之が始めて」
「…わたさへん。わたすもんか」
「ねえ、あなた、浩之に何ができる?」
「え?」

 どういう意味だろう? よくわからない。でも、心に響く言葉。
綾香さんはクッキーを一口食べると

「葵なら浩之と一緒に強くなれる。神岸さんなら浩之の事がすぐ解る。
ねえ? あなたは? 私? 私なら彼を上に引っ張り上げれるわ」

 綾香さんの容赦ない言葉。でも的確。そして解った。
先日からの心の中の傷み…その原因。
…ただ一緒にいたいだけじゃ駄目なの?
そんな願いも打ち砕く言葉。

「あなた、主体性がどこかに行ってるもの。浩之に任せっきり。
浩之の周りにるあなただけ何もできない。そんなあなたは嫌い。
ね? そんなのなら浩之をちょうだい。
ま、嫌だって言っても『奪う』けどね」

 自身満々な綾香さんの言葉。
……何も言い返せなかった自分が悔しかった。



−−−−−−−−−
まだ続きます。
先日、HPを開設。その際、ある大物人物からSSの続きを催促されました。
……「i」ものを……
はっはっは、はぁ。書けるかな?


感想です

久々なので、最近の物のみ
全部書いてると本編より長くなってしまうかもしれないので。

鬼狼伝(40) vlad様

 綾香が勝つと予想した人が多いだろう中での結果。
そういう自分もその 一人ですが。
次次回(?)から男子編かな?
全60話? だから無理ですって。きっと大台100話(笑)

LF98(29) 貸借天様

 予想がはずれた。…セバスチャン。
「お嬢様〜」と駆けつけて来るって思ったのにな〜。
この様子だと出て来ない。…ま、設定上強すぎですが。
あと、頑張って続けてください。
 DOM様の一言をお借りして
「全ての中断しているSS書きのみなさまへ」
 うう、自分で言ってて痛い…
実は上の鬼狼伝とどちらが先に終わるか興味あったりして。
 
エコマルチ takatakaさま

 エコアイズって夜間電力を…でしょう?
メイドロボって夜間充電だから…あれ? エコじゃない?
まさか…内燃機関? まさか…

 「マルチ、おいで」
 「はい、ご主人さま〜」

  そういって俺の懐の中に飛び込んでくるマルチ。
 かわいい奴。
 暖かい。
 お互いの温もりを交換するかの様に強く抱き合う…
 どれくらいそうしていただろう。
 鼓動が早くなりマルチを求めたくなった。
 そんな俺に呼応したのだろうか? マルチの身体も熱くなってきた。
 って、熱い?

 「…マルチ…」

  ピーピピピピピ!
 突如鳴り響く警報音。どこから? …マルチからだ。

 「おい、マルチ?」

  だが、反応は無い。…いや、有った。あんなに豊かだった表情がなくなるという事で。

 「エマージェンジーコール発動。警告します。冷却装置に異常発生。
 このままだと炉心融解の恐れが有ります。
 全てのエネルギーを冷却に回します」

  え? あ、おい!

 「炉心停止失敗。融解します」
 「あ、あの……私はいったい……」

  どうやら元に戻ったようだが…炉心融解?  それって?
 その答えは身をもって体験した……



じゃ無いでしょうね〜



タイトル 願い(4)
ジャンル TH/シリアス/智子 
コメント 綾香に宣戦布告される智子

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