願い(3) 投稿者:未樹 祥
「それでいいん?」
「…そうね、気に入らないわ…」


『願い 3』

 ザ−−−

 うちは梅雨の中をずぶぬれになりながら歩いていた…
頭の中はさっきから同じ言葉を繰り返している……

 「浩之ちゃん、留学するんだよ」
 「…うち、聞いてへん…」
 「え、ええっ」

  うちの言葉に見事に動揺する二人。そしてそれ以上に動転しているうち。

 「…どういうことなん? その話?」

  志保がしまったとあかりと目くばせしている。…なんかきにくわん。

 「はよ教えてえなあ」
 「はあ、智子が言い出したら聞かないし…でも、本当にヒロから聞いてないの?」
 「…知っとったら聞かん」

  志保〜 とあかりが助け船を求めている。

 「まあ、しょうがないわね。いいわ、ヒロから話さないといけない事だけど、教えたげる。
 この学校には早期卒業制度が有るの知ってる?」
 「…存在自体は…でも適用された例は無いって聞いとるけど?」
 「その情報は間違い。過去に2例だけ存在するわ」
 「ちょっとまった! それじゃあ…」
 「そ、ヒロはその3例目の予定。ま、ほぼ確定らしいけど」
 「浩之ちゃん、夏休み後は留学しちゃうんだよ」
 「そ、そんな…うち、一言も聞いてへん…」
 「ま、ヒロも言い出し難かったんだろうし…」
 
  志保の慰めの言葉…だが、心には届かなかった。
 (なんで、うちより先に知ってるんや?)

  ズキィ

  心が…泣いた……



 ザ−−−−

 降りしきる雨。街中全てを洗い流すかの様に降る。…そう、一年前、うちが神戸への望郷を
断ち切ったあの日の様に…
ふと気がつくとあの公園の前まで来ていた…

「…はは、なんでこんなとこおるんやろう? …入ってみるか」

 あの日と同じ様に…いや、あの日は待ってる最中に降って来た…公園へ入ろう…

 ブロロローー  バシャ!!

 一台の車が水を跳ね上げながら横を通りすぎた。
 
「あほんだら! ずぶ濡れだからいい様なものの、一張羅着てたらコレもんや!」
  
 キキーー

「ごめんなさ〜い って、あら?」

 車から顔をのぞかせたのは来栖川綾香さんだった。

「来栖川さん」
「ちょっと、どうしたのよ? こんな雨の中傘もささずずぶ濡れで! 長瀬!」
「お嬢様、どうぞこちらへ」

 恰幅の良い初老の執事…浩之から聞いた事が有る…からバスタオルを渡され、
いつの間にか開いていた車のドアへ案内される。

 バタン

 うちが乗り込むと(なんでこんなに素直に乗り込んだかわからへんのやけれども)
リムジンは滑るように走り出した。

「長瀬、とりあえず家に連絡して、直に暖まれるように」
「もう済んでございます」
「そう、で、保科さん、どうしたの? こんなにずぶ濡れになって」
「…………」
「ま、落ち着くまで家にいたらいいわ」
「…ありがとう」



 来栖川さんの部屋でシャワーを借り(シャワーを浴びている間に服はクリーニングが終わっていた)
すすめられたソファで寛いでいると

「おまたせ〜。姉さん特製クッキー!!」

 やけに朗らかな来栖川さん。きっと元気づけようとしてだろう。

「…すみません、来栖川さん」
「綾香でいいわ。同い年なんだし。落ち着いた?」
「一息つけたわ。ありがとう」
「どういたしまして。どうしたの?」
「……浩之が……」
「留学すること?」

 ズキィ

 心が泣いた…また…
 なんでこの人も知ってるんだろう?

「…その様子だと浩之から聞いたんじゃ無いわね。…まったく、なにやってるんだか」
「…なんで知ってるんですか?」
「そうね、どこから話したらいいのか解らないけど…」

 そう言って紅茶…アールグレイだろう…を注いでくれる。

「どうぞ」
「どうも…で?」
「浩之の留学経費、どこから出るか知ってる?」

 何の話をしだすんだろう?

「知らへんけど、なんで?」
「ま、そうだと思ったけど……まず、何で知ってるかと言うと……私が持ち掛けた話だから」
「えっ?」
「ま、正確に言うと来栖川エレクトロニクスなんだけどね」

 そう言って紅茶を一口。

「…葉っぱ、変わったのかしら? いまいちね」
「どうして来栖川エレクトロニクスが?」
「…浩之が時々ウチの研究所に来ていることは知っているわね?」
「…まあ。一応」
「これは原因の一つなんだけど…ウチの製品のHMシリーズがVer.Upするのは知ってる?」
「なんの関係あるん?」
「まあまあ、今度HMシリーズのAIをVer.Upするんだけど…その根本になる発想は浩之が考えたの」
「…浩之が?」
「そ。よく知らないんだけど、普通、AIのVer.Upって難しいらしいの。でも、浩之が考えた発想は
今までウチが発表したHM全ての処理能力を上げることが可能らしいわ。
で、その発想を惜しんだ研究所の人が製品化したの…基本発想は浩之の名前で」

 そんなこと、全然知らなかった…
口の中が異常に乾いてる…なんや? 嫌な予感がする…

「それを知った偉いさんが浩之をスカウトしたってわけ。ま、青田狩りの一種ね。
そしてより力をつけてもらう為に留学…費用その他はウチ持ちで…が上がったの。
そして学校側にも働きがけて早期卒業の手配もした訳。
あ、もちろん浩之の了解を得てからね」

 まあ、うちの学校は来栖川資本やから、今の浩之の成績と来栖川からの働きがあれば
可能だろう。しかし…

「そうなんや…でも留学ってのは行きすぎとちゃうか?」
「あ、やっぱりそう思う? 普通は奨学金止まり程度なんだけどね…」

 そう言って言葉を濁す綾香さん…なんや?

「まったく、どこでどうなったのか良く解らないんだけど…
彼、来栖川家の婚約者扱いなの」

 一瞬、頭が理解するのを拒絶した。婚約者?!

「来栖川家って」
「その予想通り、本家…つまり姉さんと私のどちらかの、ね」
「…あんた、綾香さんはそれでいいん?」
「…そうね、気に入らないわ…」

 よかった。その言葉にほっとする。

「浩之が私の婚約者扱いじゃ無い事に」

 ザ−−−−

 雨が強くなった気がした。私の願いすらも洗い流すかの様に…
 
−−−−−−−−−−−
感想・レス

 どうもこみパが多いんですけど…
まだ情報を集めていないので、感想は控えさせてもらいます。

ももとせに、ひととせたらぬ…… ギャラさま
感想、ありがとうございます

>iセリオ……キ○イダー状態を是非見たかったものです(笑)
もちろん、半身はiモードマルチタイプで(笑)

>気になる引きなので、次も楽しみにさせていただきます〜。
すみません。また引きました(笑)
たぶん、次が最後。


LF98(27)  貸借天さま

 冬弥がかっこいいぞ!! だれかのSSで弥生さんに
「WAのSSが盛り上がらないのは主人公が情けないからです」
なんて言われてたのに!

Interlude of Multi's story  笹波 燐さま
感想、ありがとうございます


…他にいましたら、感想、ありがとうございます。

 
タイトル 願い(3)
ジャンル TH/シリアス/智子 
コメント 浩之と付き合いだした一年後…