願い(2) 投稿者:未樹 祥
「留学するんだよ」
「…うち、聞いてへん…」


『願い 2』


 思えば、この一年間、色んな事があった。

「ねえ、智子、模試どうだった?」
「まあまあやな。あかりは?」
「う〜ん、わたしも」

 あかり…彼女とも一悶着あった……浩之に関して。
しょうがない。彼女が最も身近やったんやし。
事実、私も付き会うとるんやと思ってた時もあった。


 「浩之ちゃん、保科さんと付き合ってるの?」
 「ああ」
 「…そうなんだ」

  ダッ タッタッタ

  走り出す神岸さん。眼が光ってたのは私の錯覚だろうか?

 「…追いかけてもいいんよ」
 「…馬鹿やろ。それは俺の役目じゃねえよ」

  そう言って私を抱きしめてくれる浩之。私はただその暖かさが嬉しかった。

 「…やせがまんせんでいいのに…」
 「…震えながら言う台詞じゃないぞ」
 「…いいん? ほんとにあたしで?」
 「ああ」 

 去年、修学旅行明けでの一時。気まずい期間の始まり…


「あかり〜、智子〜。何見てるの〜」
「あ、志保。模試の結果」
「ま、あんたとはレベルが違う内容やけどな」
「この〜、智子〜」
「まあまあ」

 志保。歩く騒音(by 浩之)今では飾らずにしゃべれる親友の一人。
…彼女のニュースに困らされることは多々あるけど。


 「なんで、なんであんたなのよ!! あかりじゃなく!!」

  神岸さんとの一悶着が有った後の彼女の第一声。頭の奥まで届く声。
 この時、どうしてここまで怒れるのか、不思議だった。

 「あかりはねえ、ず〜といっしょにいて、ヒロの事を見守っていたのに!
 なんで後から出て来たあんたなんかに取られなきゃいけないのよ!!」

  この台詞で何となく、解った。

 「長岡さん、あんた、藤田君の事、好きなんやね?」
 「な、なんであたしがヒロの事を…」
 「…隠さんでもいいんよ……ああ、神岸さんに気をつこうてるんやね」
 「…あんたに何が解るのよ」

 志保の認識を改めた事件。…ただのバカ騒ぎ女やと思う取ったけど。
和解したのはあかりとの方が先やった。

  一学期期末試験前。
 「…保科さん、浩…藤田君が呼んでるよ」
 「神岸さん」
 「な、何?」
 「藤田君の事、好き?」

  突然の質問で困っただろう。でも、譲れない質問。

 「…うん。好き」
 「よし。私の事、智子でいいよ。それからあのバカは『浩之ちゃん』で」
 「え、ええ?」

  とまどってる。戸惑ってる。…言った本人でも戸惑ってるんやから。

 「ええね?」
 「…いいの?」
 「いいも悪いもないわ。じゃ、練習。『浩之ちゃん』」
 「…え、ええ?」
 「『ひ・ろ・ゆ・き・ち・ゃ・ん』」
 「うう、解ったよ…浩之ちゃん…」
 「だめ。声がちいさい。もう一度『浩之ちゃん!』」
 「浩之ちゃん!」
 「『浩之ちゃん』」
 「浩之ちゃん」
 「『浩之ちゃんのバカ!』」
 「浩之ちゃんのバカ! …ええ?」
 「こら! あかり! バカとはなんだ! バカとは!」

  なかなか来ない私達を不審に思った藤田君が様子を見に来たんだけど…
 絶妙の、神岸さんに言わせると最悪のタイミング。

 「あ、浩之ちゃん」
 「あかり、どういうつもりだ? ええ?」

  藤田君に詰め寄られてる神岸さん。困ってる困ってる。

 「今の、保…智子が」
 「何の事や? うち、知らへんで」
 
  あたしへ振り替えるあかり。

 「ふふ」
 「あっはっはっは」

  顔を見合わせて爆笑。腹を抱えての笑い。

 「なんだ?」

  ついてこれない藤田君を見てまた笑ってしまう。

 以来、蟠りは有るけど、それを越えて良く話す様になった。
浩之がクラブの時は一緒に帰ったりもする様になり、その内に志保とも軟化した。

 
  でも、一番変わったのは私…いや、私達。

 「なあ、こっちこうへん?」

 今、思い返してもよう言えたと思う台詞。…自分に素直になろうとした第一歩。
肩ひじを張らずに生活しなくなったキッカケ。
随分無理してたんやと解る。がむしゃらに勉強してたあの頃より、今の方が成績はいい。
このままなら神戸に戻ることも可能や。…そんな気は無いけど。
皮肉なもんや。人生って。

 浩之。彼も変わった。目つきの悪い、よう解らん人物。それが印象やった。GW前まで。
付き合い始めての一学期中間試験後、彼はこう切り出した。

 「なあ、委員長、勉強、教えてくれ」
 「…ええけど、急にどうしたん?」
 「…ちょっとな。今はできる限るの事をやることにしたんだ」

  何かよう解らん説明やけど、私は了解した。
 彼に教え始めて、良く解った事が一つ。…物凄く物解りがいい。要点を掴むのが上手い。
  事実、同じことは二度と聞いて来ない…理系物に関しては。
 英語とかの記憶物は苦手みたいやけど。
 2学期に入るとお互いが教え合うという環境が成立。そして今に至る。
 でも、少し嫉妬する。私が必死になって覚えようとした事をすらすらやられてしまっては。
 勉強、クラブ。そして時間を造ってのデート(ぽっ) ようやる。ほんまに。

 「なあ、将来どうしたいん?」
 「…マルチっていう、メイドロボがいただろ?」
 「一年にいた?」
 「それ。ああいうのを造ってみたいんだ」
 「…まさか、自分専用で、『色んな事』をしたいとか…」
 「なんだよ『色んな事』って? 興味があるのはAIの方だ。ボディは興味ねえ。
 …立派なボディなら目の前にあるし」
 「…あほ…あ、こら……あかんて(ハート)」

 どうしてそんなに頑張るのか聞いてみたんやけど、逆襲されてもうた。



 あたしの模試結果をみて、

「はあ〜、智子すごいわね〜」
「うん、すごいすごい」
「そうかな? なんか最近張り合いがのうて」
「は? あんた何言うてんの? そんだけ出来たら凄いじゃない」
「なんで勉強するんかよう解らんのや。最近」
「ふ〜ん、勉強するのが趣味じゃなかったんだ」

 志保が酷い事を言う。

「ま、確かに英単語覚えるのも難しい数式を解くのも好きや。
ただなんでやるんやろうって思えてもうて…」
「は〜、ハイレベルな悩みやね〜。ね〜あかり」
「うんうん」
「…そんなこと言うとると、もう教えたらへんよ。志保」
「あ〜、そんな! 保科お代官さまご無体な」


 二人とも浩之を好き。私の知らない浩之を知っている、大切な親友。
時々、二人が浩之と話しているのを見ると、『焦燥感』? 『疎外感』?
なんか変な感じがする。…いやなうち。
でも、似た様な感じは来栖川さんにも松原さんにも感じる。
…なんやろ。この感じ……



 でも、この言葉にはほんと、驚いた。



「でも智子も大変ね〜。これから」
「そうそう」
「…なんのことや?」
「またまた、とぼけちゃって」
「…ほんまにわからへんねんけど」
「だって、ヒロがねえ」
「うん、浩之ちゃん、留学するし」
「…えっ?!」

 なにを言ってるのか、理解でけへんかった。

「あれ? ヒロから聞いてない?」
「浩之ちゃん、留学するんだよ」
「…うち、聞いてへん…」

(続く)

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感想 レス

特典  笹波 燐さま
  メイドロボに試験……寺女も思い切った事を……

『煩いヤツは黙らせろ! 〜2−Bの愉快な仲間達4〜』  久々野 彰さま
  >雅史が黙らされた
  はっはっは。見事。もちろん顔面ハリセンでしたよね? ね?
  身体であ&智を黙らせるとは…恐るべし…浩之。
  その力で志も黙らしてほしいものだ。
  感想、ありがとうございます。

ギャンブる(2) 貸借天さま
  >どなたが書いた、なんてタイトルなんでしょうか?
  ここで他のサイトのURLを記入するのもあれなんで。
  メール送りましたけど、見ました?

  >ぼちぼち書いちゃってください
  ええ、書きますとも。ただここで発表するかが問題……どうしようかな?

  >蔵書にも、まったくと言っていいほど手を付けてないし。
  >SSを求めて、ネットサーフィンなんてのもやったことないですし……。
  まったく、逆ですね。自分と。
  蔵書はコンプリート(リーフ分)したし、綾・志・智もとめてサーフィンしまくり……
  綾香なんてダウンしまくってるし……
  ま、これはGWまででしたがネット代金只だったので出来たのですが。  

東鳩のやさしい掟  12式臼砲さま
  おう。はてさて? ダーク! 謎が謎を呼ぶ〜


タイトル 願い(2)
ジャンル TH/シリアス/智子 
コメント 浩之と付き合いだした一年後…