旅情−2日目− 投稿者:未樹 祥
このSSは『旅情−始まり−』『旅情−初日−』『旅情−結婚〜初夜−』より続いています。
先にそちらを読まれることをお勧めします。

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 ザザーン・ザザーン

「ねえ、ヒロ」
「ううん」

 打ち寄せる波の音と心地よい人の声……

「ヒロってば」
「…ううん」

「起きろー!」

「うわあ−」
「あ、起きた」

  朝、とんでもない大声で起こされるとそこには志保がいた。


『旅情−2日目−』


「なんだよ、志保、朝から大声だして」
「さっさと起きないから悪いんじゃない」
「夕べ寝付けたの遅かったんだよ。志保はベッドで寝れたからいいよな」
「ふふん。勝負の世界は非情なのよ」

  志保は両手を腰にあてて胸を張っている。はいはい、負けた俺が
悪うございました。

「ね、散歩、行こ?」

  散歩だ?  ぐあ、まだ6時じゃねえか。

「やだ」
「どうして」
「まだ早い」
「今行かないとすぐに暑くなっちゃうじゃない」
「疲れるから、やだ」
「あら、朝食前の軽い運動、気持ちいいじゃない?」

  ふむ、それもそうだな。



「わあ、綺麗な砂浜」
「おい、そんなにはしゃぐと転ぶぞ」
「大丈夫だって」
「なあ、志保、ヒールの高いサンダルでそんなに動けるんだ?」
「慣れよ、慣れ」
(…実際、ハイヒールでも砂浜を歩く人がいます)

ま、綺麗な海だな。自分がちっぽけな存在と思えてしまう。

「ねえ、ヒロ」
「なんだ?」
「それ」

  バシャ。

  うわ、冷て。

「やりやがったな〜」
「へへーん。鬼サンこちら」

  逃げる志保を追いかける俺。ま、たまにはこんな朝もいいか。



「んーーー。おいしい〜」
「はいはい、ほっぺに付いてるぞ。…朝からよく食うな。おまえ」
「なに言ってんの。朝は一日の始まりよ。ちゃんと取らなきゃ」
「…あかりにも昔言われたな。それ」
「…ふ〜ん」
「…おはようございます」
「あ、おはようございます」

  川名夫妻が横を通っていった。が、様子が変だ。

「ねえ、ヒロ、なんか変じゃ無い?」
「変というより、ぼーとしてるな。あれは」
  ヒソヒソ

  川名夫妻は適当に席につくと二人してぼーと焦点の合わない顔を付き合わせている。
あれ? 気づいて無い?

「あの、ここ、セルフですよ?」
「あ、はい、なにか適当に取ってきますね」
 
 ガタッ バタン
 川名夫人が立ち上がるが、椅子を倒してしまう。



「なんか、おかしかったね。川名さん達」
「ああ、多分、あれだ。この時期、南の島なんて新婚さんばっかりだから、
皆さん励んじゃてるんでしょ」
「え〜、もったいない。そんなの、ここまで来なくてもできるのに。
せっかく来てるんだから南国を楽しまなきゃ」
「で、今日は何があるんだ? 昨日みたいな事は無いだろうな」
「大丈夫よ、今日は…午前中、クルージング、午後はもうフリーだから、泳ぎましょう」



 チャプ、チャプ

 クルージングねえ… まあ、そうかもしれない。泳ぐ…は、ちょっとやだな。
このライフジャケットが無ければ。

「ねえ、ヒロ、釣れる?」
「いや」
「でもよかったわね〜。釣りまでできて。楽しいじゃない」

 志保、顔を引き攣らせながら言っても説得力全然無いぞ。大丈夫か?
……今、俺達は漂流している。事の発端は…


「えっと、ブルースカイ号はっと、あったあった、あれ…よねえ…ヒロ?」
「頼むから俺に聞かないでくれ」

 俺達の前には、今にも沈みそうな…霧の中で見たら幽霊船と思うぞ…モーターボートがあった。
ガイド(クリスじゃない)の話だと、C級整備が終わったとこだと言うけれども、本当かね?

 ブルルルル

「…右手に見えますのが…ええっと…サンゴ礁でできた、環状列島でございます」

 ふ〜ん、志保の奴、以外とガイド役、巧いじゃないか…いつの間に、ガイド文を覚えたんだ?
船も心配したが、ちゃんと動いているし(当たり前だ)速度もそこそこある。

「ねえ、ヒロ、あれあれ」
「どれだ?」

 なんて他愛のない話をしながらのクルージング。ふむ。

あれ、操舵席がなんかうるさいぞ。

「なあ、志保、なんて言ってんだ?」
「う〜ん、なんか、舵が効かなくなったみたいなことを言ってるけど…」
「ふ〜ん」

 プスン、プスン、プス…

 情けないエンジン音を残してブルースカイ号は止まってしまった…


 と、言う訳。いま、ガイドが一生懸命修理していて、その間、釣りをしている訳だが
釣れる訳がない。

「誰よ? あんな船乗ろうと言い出したの?」
「…志保、責任転換は良くないな」
「なによ〜、私の所為だとでも言う気? 失礼しちゃうわね〜」
「他に何があるんだ?」
「ううーーーー」
「この旅行の段取りを決めたのは志保だしな〜」
「うう〜〜〜〜」
「たしかクルージング、オプションだったよな〜」
「ううう〜〜〜〜」
「唸っていたらもう漂流しなくていいのか?」
「…志保ちゃんの負け〜」
 ガックシ

 よっしゃー。勝ったぜ〜。
……空しい。

「ところで、ヒロ、あれ、なんて言うんだっけ?」
「あれって?」
「ほら、どちらか一人しか助かる事ができない状況で、
相手を殺人しても罪に問われないっていう犯罪用語」
「…なんとかの板だったっけ? 忘れちまったな」
「…そうね」

 …なんか異様な雰囲気になってしまったな。一発即発…は言い過ぎか。
…数時間経過。太陽が天頂付近にあり、12時ごろか?

「ねえ、ヒロ、お腹空いたね」
「そうだな」
「ねえ、ヒロ、なんか疲れちゃった」
「そうだな」

 ああだ、こうだと他愛無い話をしていたのだが、如何せん、疲れてきたのは確かだ。

「…ごめん、ヒロ、あたし、もうダメ」

 そう言って目を閉じる志保って、おい!

 くー

 …寝てるよ。こいつ。どういう神経してるんだ?

「−藤田さん、聞こえますか−」



「助かったよ、クリス」
「−いえ、大事に至らなくて良かったです−」

 いま、俺達は病院にいる。ま、あんなことがあったので一応検査するためだ。
幸い、俺は何ら問題無し。ノープロブレム。十二分に観光してくれ とのこと。
で、今は志保の検査終了を待っている。
観光船(ブルースカイ号の事だ)が帰港できないと
わかってすぐにクリス達が捜索に出たらしい。
クリスは恐縮している様だが(無表情なので良く解らないが)乗員も無事なので
特に気にしてはいない。…忘れられない一コマには為るだろうが。

「おまたせー」
「どうだった?」
「ん、いたって健康。妊娠の兆候も無し。だって」
「…妊娠って…」
「知らないわよ。医者がそう言ったんだから」

 志保の顔も少し赤い。さすがに恥ずかしいか。

「−では、私はこれで。また何かありましたらご連絡下さい−」
「あ、バイバイ」
「志保、遅いけどお昼にしようぜ」
「…そうね。その後、今度こそ泳ぎましょう」


「さーて、泳ぐぞー」

 俺はパラソルの影の中で寝そべっていると志保がやってきた。ふ〜ん、水着は白いワンピース。

「志保、質問です。それは水に透けたりせんの?」
「バカ、ヒロのスケベ。…ヒロ、泳がないの?」
「見て解らないのか? 甲羅干ししてるんだが?」
「おじんくさー」
「ほっとけ。疲れてるんだよ」
「しばらくしたら、来なさいよ」
「ああ」

 志保は海へ駆け出していく…あ、転んだ。馬鹿な奴め。
あ〜、なんか落ち着く。どうなるかと思った旅だけれど、悪くないかも。
南の島で、若い娘と日がなのんびり。…悪い訳ないな。うん



「ヒロ、起きて」
「うん?」

 目の前に水着姿の志保のUP。どうやら寝てしまった様だ。

「ヒロの寝ぼすけ。もう夜だよ。シャワー浴びてご飯にしよ?」
「…もうそんな時間か…」
「ほら、起きて」

 志保に腕を抱きかかえられて無理やり起こされ…って、胸に当たってるぞ、おい。

「きゃー、砂が飛んでくる。痛い、痛い」

…まてよ、もしかしてこれはとんでもない旅行かも。
目の前の若い娘といっしょにいて決して手を出せない……
……考え過ぎか。


「おや、エアホッケーがある」
「そうね…やる?」
「腹ごなしにはちょうどいいか。で、勝利者の権利は?」
「…ベッドでの睡眠権。どう?」
「オッケー。商談成立」
「ベッドは渡さないわ」
「ふっふっふ。後悔させてやる」

 ……結果は俺の2勝1敗。よっしゃー


 バフッ

「ああ、気持ちいい」
「ふんっだ」
「じゃ、志保、おやすみ〜」
「…おやすみ」

 ふふ、悔しがってる。悔しがってる。

 こうして二日目が終わった。
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感想・レスです

The Days of Multi DOM様
  完結しましたね。おめでとうございます。やっぱり佐々木浩とくっついたか〜。
 ひょっとしたら、設定をお借りして3次SSを書くかもしれませんが、
 その時はよろしくお願いします。
 またなにか書いてくださいよ〜。復活おまちしています
  >…ところで、この場合、浩之はどっちに気があるんでしょ?
   さて? 一応、綾香はENDフラグ立っていますが、芹香は…
  鬼畜モードとでも思ってください(笑)
  あ、石を投げないで〜

『南へ』 久々野 彰様
  >ちょっとここの意味が分からなかったのですが
   えっと、ちょっと何処にあったかすぐ出てこないのですが、「彼女」っていうSSが
  あります。作者の下へ「差出人 来栖川綾香」のメールが届いたそうです。
  それを元にSSを書かれていました。
  ToHeart SideStory Linksで調べてみてくださいませ。きっと、「笑えます」

LF98(20) 貸借天様
  セリオ…強すぎ。何者? って感じですね。あれ? マルチは?
  初音ちゃんの窮地を柏木一族が知ったら…全員、瞬殺されそうだけど…
  早く梓が出てこないかな〜
 >こんなミエミエの展開、ダメダメの典型ですね
  いえ、逆に「適材適所」なのでは? 裏を考えて外すよりよっぽど「良い」です。
 …そういう意味で、ちょっと「恐い」ですけどね。自分のが…

『止まない雨(閉幕)』 健やか様
  ちょっと、残念(なにが? 笑) もうちょっと波乱があれば…
 個人的には梓が出てきたらもっと波乱があったんでしょうけど。
 千鶴さん、なんかおとなしいです。
 >キャラをしっかりと掴まえられているのが分かります
  うう、ありがとうございます。正直、「自分なりの志保」でいいと思って書いているので…

鬼狼伝(31) vlad様
  感想、ありがとうございます。 
 >まだまだ続くようなので、一体二人がどうなるのか楽しみにしています
  あと、2、3回ですが、お付き合いくださいませ。
 う〜ん、完成後、石を投げられない様にしよう。
 >何話かまとめたのがありますんで
  うう、まだ追いついていないんです〜。リーフ図書館は今年から読み始めているんですが、
 まだ、やっとA〜の作者様方のを読んだ所ですので。
 追いついたら、感想、UPしますんで。

共棲 R/D様
  うう、お、重い。重いぞ〜。
 でも、好きだな〜、こういう話。 ロボットが、ロボットのために…
 結局、人のエゴ、なんだと思いますけど。


私信
 リーフファイト・トレカ、やっとゲットしました。
 でも、綾香がいない〜。梓も、あかりも、芹香も、智子も、志保もいるのに〜
 もっと買わなければいけないのか?