風邪 投稿者:未樹 祥
 ルルル・・・・

 電話が鳴っている。 誰からかしら?

 カチャ

「はい、綾香・・」

 最後まで言うことはできなかった。

「悪い、風邪引いた。看病に来てくれ」
 聞き取りにくい、掠れた声。でも、誰かはわかる。浩之だ。

「ちょ、ちょっと、どうゆう事?」
「頼んだ・・」
 ガチャ。

 一方的に切れる。

「はぁ〜、なにこれ? どういうこと? …でも掠れた死にそうな声してたな…」

 ちらりと時計をみる。時刻は午前9時。

「よし、綾香様が看病してあげますか。浩之、高くつくわよ〜」

 だめだ。言葉の割に顔が引きつるのがわかる。どうも嬉しいみたい。
浩之の周りにいる女の子(神岸さんや葵、そして姉さん)の中でこの私を頼ってきたことが。
 そうと決まれば出かける用意をしなくちゃ。
えっと、どれを着ようかしら。
ベッドに服を並べていくが、どれもピンとこない。

 コンコン

 ドアをノックする音。姉さんかな?

「姉さん? 開いているわよ」

 しずしずと姉さんが入ってくる。

「………」
「どこかに出かけませんか? って、ごめんね〜。いまから出かけるんだ」
「………」
「そうですか、残念です。ってそうだ姉さん、風邪薬もってない?」
「………」
「すいません、材料を切らしています。ふ〜ん、そう、じゃあしょうが無いわね」

 ひどく残念がっている姉さん。こっちまですまない気になりそう。

「………」
「体力増強剤ならありますが? う〜ん、いいわ。ううん、何でもないの。ありがとう」

 そうして姉さんとのやり取りをしながらもなんとか選び服を着替え、出かける準備を整える。
えっと、なにか精のつくものを買っていった方がいいかしら?



 何とか姉さんの追求を振り切り(私を頼ってきたのだから‥)、そして長瀬の目をかいくぐり、
やっと浩之の家の前までやって来た。

 ピンポーン、ピンポーン

 へんねえ。

 ピンポーン、ピンポーン

 だめだ、誰も出ない。ひょっとして死んでるんじゃ無いでしょうね?
手にはコンビニで買った雑炊セット。まさか家の厨房から持ってくるわけにはいかないものね。

 カチャ

 あら、ドアが開いているわ。 無用心ね。

「おじゃましま〜す。浩之、生きてる?」

 だめ。返事が無い。大丈夫かしら。でもこれ、不法侵入?
以前来た時の記憶から浩之の部屋へ向かう。

 あ、よく寝てる。ふふ、寝顔は割とかわいいのね。
と、いけないけない、熱、在るのかしら? 
ピト。 額を触って見る。熱い。
あ、体温計。どれどれ?
『39.2』
高熱じゃない。冷やさないと。


 スッ。ピト

 額に置いた濡れタオルを交換する。(氷嚢がどこにあるかわからなかったのだ)
ふむ、だいぶ良くなって来た様ね。寝息も落ち付いて来たし。

「う〜ん」

 あ、気が付いたみたい。

「浩之、大丈夫?」
「ゴホ、あんまり大丈夫じゃ…… あ、綾香?」
「お腹すいてる? 雑炊なら用意してあるけど、食べる?」
「どうして綾香がいるんだ?」

 は? 熱でおかしくなったのかしら?
 額に手を当ててみる。だいぶ下がった様だ。

「熱は下がっているようね」
「どうして綾香がいるんだ?」
「浩之が呼んだんじゃない」
「そうだっけ?」  ゴホゴホ
「そうよ」

 は〜、どうやら誰を呼んだか覚えていないみたい。浩之らしいけど。

「あかりを呼ぼうとして間違えたみたいだ。スマン」
「いいわよ、もう。で、雑炊、食べる?」
「そうだな、すこし食べる」
「ちょっとまってて」

 トントンと階段を降り、台所へ。
コンビニの雑炊そのままじゃ、栄養も無いので玉葱と生姜で少し味付け。
……そういえば牛乳でおかゆを炊くとおいしいとかって誰かいってたっけ……
ま、次の機会に回しましょ。


「おまたせ〜」

 よいしょ と体を起こす浩之。

「独りで食べれる? って、無理か。 はい、あ〜ん」

 レンゲで少し掬い、浩之に持っていく。

「あ、綾香〜」

 情けない声をだす浩之。食べさせられるのは嫌みたい。無理しなくていいのに。

「布団を汚さずに食べれる自信があるならいいけど。
それとも何? 私に食べさせられるの、嫌なの?」
「そうじゃないけど」
「じゃ、いいじゃない。はい、あ〜ん」

 パクッ

 しばらく見つめていたが、観念したのか素直に食べる浩之。
 ふふ、なんか嬉しい。

「アツッ」
「熱かった? ゴメ〜ン」

 どうやら、病人には熱かったみたい。ふう、難しいのね。

 フー、フー

「はい、あ〜ん」

 パクッ、モグモグ。

 あ、こんどは良かったみたい。

「…なに笑ってるんだよ?」
「…可愛いなって思って」
「……何言ってるんっだか」

 そうこうする内に全部食べ終えた。なんだ、ちゃんと食欲、あるじゃない。

「もう少し寝たら? まだ少し熱あるみたいだし」
「ああ、そうだな。‥綾香、おいしかったよ」
「ありがと。でも大丈夫そうね。おいしいと感じるなら」
「綾香」

 横になりながら浩之が声を掛けてくる。

「なに?」
「‥添い寝してくれる?」

 な、なに言い出すのよ。こいつ。

「‥そのまま永眠したいの?」
「冗談だよ」
「わかってるわよ」

 うそ。ちょっといいかなって思っちゃた。
顔、変に赤くなったりしてないわよね?

「ほら、馬鹿いってないで、さっさと寝る!」
「病人だぞ、いたわれよ」
「はいはい。ね、浩之、氷嚢、どこにあるの?」
「寝ろ っていったの誰だっけ? …たぶん、居間の押し入れのなかだと思うけど」
「ん、わかったわ。浩之は寝ててね」
「綾香、…ありがとな」
「どういたしまして。あ、寝直す前に下着、着替えたら? 私は下にいってるし」
「そうだな」



 時刻 20:55 

「じゃ、浩之、私そろそろ帰るわ」

 そうこうしている内にもうこんな時間。 あっと言うまの一日。

「さんきゅ。綾香。助かったよ」

 だいぶ良くなったようね。 看病した甲斐があったわ。

「私の看病は高くつくわよ」
「…終わってから言うか? 普通?」
「ふふ、お大事にね〜」
「おう」

 そうしてお暇(いとま)する私。
道すがらふと夜空を見上げる。あ〜、月がきれい。 

 グギュルルルル〜〜〜〜

 やだ、何? そういえば朝から何も食べていない気が…
まあ、いいわ。帰ってなにか食べましょ。
浩之、早く癒ってね。そして……できたら……気がついて……
ううん、きっと気が付いてる。でも知らん振り。……ばか……
  そっと唇にふれてみる。まだ感触が残ってる。寝ている浩之の……



〜エピローグ〜

  クシュン

  馬鹿みたい。今度は私が風邪引いちゃったわ。うつされたのかしら。

「…………」
「……あんまり大丈夫じゃないわ。姉さん」
「…………」
「浩之さんの風邪ですものねって姉さん、なに言ってるの?」
「…………」
「は〜、浩之に聞いたの。え、なんていったの? 感謝してるって、」
「…………」
「風邪薬ありますって、でも前無いって……。うん、ありがと。ちょうだい」

  う〜ん、相変わらずのビン。とろりとしているけど、でも変なものは入ってないかな?
  ゴクッ。に、にが〜

「姉さん、これ無茶苦茶苦いわよ」
「…………」
「え、特別に苦くしました。って、どうして?」
「浩之さんを独りで看病した罰です」

  え、姉さんがこんなにはっきり言うなんて。それに罰って…
あ、あれ、姉さんが増えた?

「…………」
「言い忘れましたが副作用がありますって先にいってよ〜」

  駄目。姉さんが視界いっぱいいる〜。
(ブラック アウト)

  綾香の風邪が全快し再び目を覚ましたのは調度24時間後だった。

「…おかしいです。もっと寝ているはずなんですけど」

綾香が起きてきたのを見て芹香がそうつぶやいたが、誰も気づかなかった。


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はじめまして、未樹 祥(みき しょう)といいます。よしなに

>久々野様
 以前ここに書かれた「綾香SSを求めし者」です。これがHNですので、よろしく。
 『笑いあえたら 〜晴れの日も雨の日も〜』
 後半でのトレーナーを着て待っている綾香。かわいすぎます。
複雑な心境だったんでしょう。時期的には「七夕〜」の少し前ぐらい?

>NTTT様
 すごい投稿ペース。うらやましい。今後ともがんばってください。

>DOM様
 祝復活。前から思っていましたが、すごい長編。とてもまねできそうにない。

>貸借天様
 LF98 やっと続きが。 最近投稿をやめる人が多いので、どうなったのかな〜
 と心配してました。まだ登場してないキャラ(雫、痕)が多いので大変でしょうが
 頑張ってください。


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風邪
 シリアス/TH/来栖川綾香
 1999/4/21