「『箱』の中」・二つ目の箱 投稿者:水野 響






                ゆっくりと箱が開きました。









                二つ目の箱       「白いブーケ」










        結婚式が始まった時、ふと貴方のことを思い出しました。

        純白のドレスを着た友達を見ていると、貴方の横に立てたら良かったなって思います。

        でも先輩の……いえ、浩之さんのことを思うのもずいぶん久しぶりな気がします。

        いえ……思い出すのが久しぶりじゃないですね。

        思い出そうとすることが久しぶりなんです。

        だって先輩のことは、いつも心の何処かにあったんですから。





                私の力に気づいていても、いつもそばにいてくれた先輩。

                でも私は、温もりも優しさも感じてませんでした。

                どうして私のことを気にするの?

                どうして私にかまうの?

                それしか思ってませんでした。





        バージンロードを歩いている友達が嬉しそうに微笑んでいます。

        隣に立つ男の人は彼女の大切な人。

        でも、私は浩之さん以上の男性にまだ会えてません。

        つい会う男性全てに浩之さんを重ねてしまうせいで、いつも心が止まってしまうんです。

        ……ずるいですよ……心だけを持っていくなんて……





                避けられていた私のことをいつも構う人。

                逃げても逃げても、何処かで会うたびに笑顔をみせる人

                私のために命をかけてくれた人。

                いつのまにか、私の心を持っていった人。





        リングの交換も終わり、誓いの口づけを交わしました。

        少しだけ赤い顔で友達がとっても素敵な笑顔を浮かべています。

        ちょっと妬けるけど、おめでとう、だね。

        少しだけ微笑んで、そっと手を振りました。





                卒業式が終わって浩之さんと別れてから、自分の気持ちに気づいたんです。

                温もりも優しさも、そして愛しさも全部与えてくれたことに。

                でも、私が気づいた時には貴方は目の前から消えていました。

                どこで間違っちゃったんでしょうね。

                結局、貴方の恋人になることは出来ませんでした。





        席を立ち、教会の外で二人を待ちます。

        周りのみんなもとっても幸せそうに微笑んでいます。

        私は出てきた二人にいっぱい手を叩きました。

        周りのみんなもいっぱい手を叩きます。

        誰かがまいた色紙が光を反射して辺りを舞っていました。





                どこから二人の物語はすれ違ったんでしょうか。

                きっとわたしと別のページにしおりをはさんじゃったんですね。

                時々、思い出していました。

                いつ開いてもくせのついた同じページです。

                そのページには、最後の場面が今でも鮮やかに映っています。





        友達が嬉しそうな顔で手に持った白いブーケを投げました。

        空を舞っていた色紙よりも、もっと眩しく光を放っています。

        白いブーケは私の方へ向かってきました。

        私のことを知っている彼女のプレゼント。

        そっと手を伸ばします。

        でもブーケは目の前の幼い女の子の手に収まりました。





                一番恐れてた場面を自分のペンで描いたんでしょうね。

                別れの場面、すれ違いの二人を。

                自分の気持ちにもっと素直になれたなら。

                そんな場面を描く必要はなかったんでしょうけどね。

                二人の幸せな笑顔を綴ったページは今でも絵コンテのまま、眠っています。





        目の前で少女が不思議そうな顔をしています。

        でも近くの人が「次は君の番だね」と言うと、嬉しそうな顔に変わります。

        私は自分の手に白いブーケが収まらなかったことに少しだけ残念に思いました。

        友達がすまなそうに微笑んでいたので私は微笑み返しました。

        目を落とすと目の前の少女は嬉しそうにこちらを振り向いていました。





                変わってしまった貴方の気持ち。

                変わらない私の気持ち。

                すれ違いが少しだけ虚しいけれど。

              「笑顔のほうがいいのに」

                そんな貴方の言葉だけが今も残っています。





         わたしは少しだけ微笑みを浮かべると幼い少女に向かって言いました。







                「よかったね」って。











                箱はゆっくりと閉じました。






                         <続く>






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  水野 響です。

  ああ、間が開きまくり(汗)
  なにはともあれ「箱」の外伝的断片図、第二弾でする。

  書きたいことが書けたような書けなかったような……
  というか、書きたいことが変化しました(笑)

  次はマルチ視点です。

  あぅ……感想はまたに回させてください(汗)
  すいません〜〜(ぺこ)