SS「箱」・一章 投稿者:水野 響




「実は……」

  天使はゆっくりとした口調と沈痛な面持ちで話を始めました。

  マルチも真剣な表情で天使の話を聞き始めました。






          第一章「太陽と天使の死との関係。人間の宴。

                  バスケットの中身を見た天使の提案

		

                  ――――お礼に四つ影をくれたけど、どうする?――――

                  ――――――今お腹一杯だから、とっておこうよ――――――」









「実は太陽を捜しているんだ」
  天使は簡潔に言いました。

  マルチは一瞬何のことだか分かりませんでした。
  月がいなくなることはあっても、太陽がいなくなることはないからです。

「空のつぎはぎの隙間も捜しましたか?」
  マルチが言いました。

「もちろん。折り目の中や、糸の隅々まで捜したよ」
  天使は首を振りました。
  疲れているようです

  マルチはその様子をみて、何か食べるものをあげられたらいいのにと思いました。
  でも食べ物は何も持っていません。

「色々なところを捜したよ。
  森の一枚一枚も捜した。でも太陽の痕跡も見つからないんだ。
  風にも聞いてみた。でもあいつらは駄目だ。話なんてまともに聞きゃしない。
  もしかしたら売られてしまったのかとも思って、街に降りたよ。
  でも何処にも売ってなかった 」
  天使は羽を震わせながら悔しそうに言いました。

  マルチはかける言葉も見つからず黙っています。
  湖の方にも注意を向けることも忘れていません。



「最後に街角の店にはいったんだ。
『太陽を売ってください』と言うと、店員のうさぎは不思議そうな顔をしてた。
  それから一言だけ言ったんだ。
『あなたの死の中に太陽はあるのですよ』ってね。
  僕はさっぱり意味が分からなかった。
  だから一晩中街を歩きまわって太陽が東の空から笑いながら出るのを待ったよ。
『やあ、ごめんごめん。ちょっと遊びにいってたんだ。たまにはいいだろ』
  そう言いながら現れるのをね。」
  一息にいうと、天使はせきをしました。
  ごほんごほん。

  マルチは背中をさすってあげます。
  真っ白だと思った羽は少しだけ薄汚れていました。

「でも太陽は出て来てくれなかった。
  だから僕は湖のそばでどうしようか考えているんだ」
  天使は辛そうにいいます。
  話し終わった天使は最初よりも老けて見えました。


  マルチは天使が可哀相になって、何かしてあげたいと思いました。
  でもマルチがあげられるものは何もありません。
  手持ちのバスケットは大切な預かりものです。

  二人はしばらく黙り込んでしまいました。







  ふと、音が聞こえたのでマルチはそちらを向きました。
  そこでは月明かりの下では今日も宴が始まっていました。
  人間達の宴。
  機械人形であるマルチも天使も仲間に入れてはもらえません。

  気がふれた巫女が踊り、片手の曲芸師が逆さまになって歌っています。

  マルチは人間達の宴をしばらくの間、眺めていました。
  そしていつもの問いを思いました。



  わたしも人間だったら仲間に入れてもらえるのかな?

  わたしも人間だったらあんな風に笑えるのかな?

  わたしも人間だ    ところでそのバスケットはなにが入ってるんだい?

  わたしも人間だったらあんな風に踊れるのかな?



  ???



  今、何か聞こえたでしょうか?
  マルチは少しだけ首をかしげました。

  辺りをみると天使が不思議そうにマルチを見ています。

  赤い瞳と青い瞳。
  赤と青。
  あかとあお。

  二つの色がマルチを覗き込んでいます。


「ごめんなさい。何か言いました?」
  マルチはそう答えました。

「そのバスケットには何が入ってるんだい」
  天使は言いました。
  やはりさきほどのは天使の言葉だったようです。

「知らないんです。
  届けるように言われただけですから」
  マルチは答えました。

「開けてもいいかい?」
  天使は言いました。


  マルチはいいつけを思い出します。


『これを届けて欲しいんだ。
  でもバスケットの中を見ては駄目だよ』


  開けていけないとは言われていません。

「いいですよ。でも開きますか?」
  マルチは答えます。
  バスケットは今でもリボンでぐるぐる巻きになっています。

「開くよ?」
  そう言うと天使はリボンをくすぐりました。

  するとリボンが苦しそうに身をよじらせています。
  マルチはリボンが極度のくすぐったがりだったことを思い出しました。

  しばらくするとリボンはすっかりバスケットから外れ、その横で苦しそうに喘いでいました。
  時折長い身体がぴくぴくと震えています。
  ぴくぴく。



「じゃあ開けるよ?」
  天使は言いました。

「はい。でもわたしはバスケットの中を見てはいけないと言われています。」
  マルチは答えます。

  天使は答えを聞く前にすでにバスケットを開けていました。
  マルチも気になりましたが、我慢します。
  バスケットの中は見てはいけないと言われているからです。



「箱が入ってるね」
  天使は言いました。

「箱ですか?」
  マルチが不思議そうに聞きます。

「うん。箱。
  全部違う色をした箱だよ。
  えっと……うん。13個あるみたいだね」
  天使はバスケットの中身を取り出し、草の上に並べました。


  バスケットの中身は見てはいけないと言われていません。

  マルチの前に13個の箱が目の前に置かれました。
  本当にいろいろな色があります。
  マルチは一つ一つ確認するように見ています。

「おや?  種も入っているよ?」
  天使はそう言って種を取り出し、マルチに手渡しました。

  数えてみると、やっぱり13粒あります。
  種も一粒一粒の色がそれぞれ違っていました。

「開けてみようか?」
  天使はいたずらっぽい笑みを浮かべていいました。
  すでに役目のことを忘れているのかもしれません。


  マルチは再びいいつけを思い出します。


『これを届けて欲しいんだ。
  でもバスケットの中を見ては駄目だよ』


  バスケットの中に入っていた箱の中身を見ては言われていません。


  マルチはうなずきました。



「じゃあ、どれから開ける?」
  天使はマルチをうながします。


  マルチは少し迷った後、一つの箱を指差しました。







                         <続く>




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  水野 響です。

  さらに訳が分からなくなっているかも(汗)
  ……まあいいでしょう(吹っ切れ(笑))

  ここからは二つの話が交互に進みます。
  いつまでかかるかな……(爆汗)