今日はずっと摩天楼の光を見つめていました。 二人の懐かしい日々を思い出しながら。 燃え尽きるまで愛し合った頃のことを…… それがたとえ刹那の恋だったとしても…… 初めて貴方と出会ったのは、二人の学校でした。 ……憶えていますか? 私は一度も忘れたことはありません。 説明をしていた私をみんなが好奇の視線で見ていって……でも、誰も話を聞いてくれなくて。 とても寂しかった…… 貴方が聞いてくれた時、それだけでも嬉しかったんです。 ただ一緒に同好会を作ってくれるといった時の私の気持ちは伝えることは出来ませんね。 この気持ちだけは、私に一人占めさせてください。 今、手紙を書いています。 もう何度書き直したのか分からない手紙。 別に届かなくてもいいんです。 これはもう、貴方にあてた手紙ではないのかもしれませんね。 いつ貴方に惹かれたのは憶えてません。 ごめんなさい。 ただ何に惹かれたのか、それだけは忘れていませんので許してください。 私が惹かれたのは貴方の瞳でした。 そう言うと貴方は笑うでしょうね。 「そんなんじゃない」って、照れ笑いを浮かべながら。 そんな時の貴方の瞳も好きでした。 温かくて、優しくて、子供みたいで。 夏の扉を開いたみたいでした。 あの時感じたときめきは…… 貴方と恋を憶えてから、私は髪を伸ばし始めました。 「似合うよ」って言ってくれたとき、とっても嬉しかったです。 今では、あの頃の綾香さんくらいあります。 見せられないのが、少し残念ですけど…… 貴方が私の部屋から消えたのは、ほんの些細な出来事でしたね。 あれが勘違いだったということは、分かってたはずです。 二人の気持ちの中のほんの少しのずれでした。 別に後悔してるわけじゃないんですよ。 ただ悲しかっただけですから。 少しだけ心に風が吹いた、それだけのことですから。 雪が季節を彩るような白い風が、そっと二人の心を吹き抜けていった。 きっと、ただそれだけのことなんでしょうね。 瞳を閉じるだけで、貴方の顔を思い出すことが出来ます。 照れるように笑う顔、ちょっと怒った顔、ぶすっとした顔。 思い出すたびに懐かしく、そして少し悲しくなります。 私の切なさは、貴方には届かないでしょうけど…… 私は今でも元気です。 あの頃のように、無邪気ではないかもしれませんけど。 貴方が好きだって言ってくれた時のままでいたいと思っています。 いつまでも自分自身に、この愛は幻想じゃなかったと言いたいから…… 貴方の姿が消えないように、今日も静かに瞳を閉じます。 でも今日だけは、涙を流すことを許してくださいね。 摩天楼を彩る光を見ていたら、急に寂しくなったんです。 今日だけですから…… これは、私の物語。 誰かに伝えることもない、ただの物語。 貴方と私だけの思い出。 二人だけで綴った、刹那の恋の物語。 ・・・鮮やかに散った、五つの銀の薔薇にささぐ・・・