星空 −睦月周夏の4部作(笑)− 予定していた長いやつが今回も終わらなかったので、またまた短いものです。 しかも今回は3本立てです。先の「麦わら帽子」と合わせて4つ、チューブに対抗して これを「夏の4部作」と勝手に呼ぶことにしました(苦笑) では、どうぞ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 花火 どぉん・・・ぱぁぁん。 どぉん・・・ぱぁぁん。 ビロードのようになめらかな夜空に、赤や緑の飛沫が舞い散ってゆきます。 光と音のコントラスト。 ひとつ、飛沫が散るごとに、またひとつ歓声があがります。 ひとつ、またひとつ。 わたしも、不思議とメモリの奥が熱くなってゆくようなそんな感覚を胸に覚えながら、 じっと光の雫に目を凝らしました。 どぉぉん・・・。 「た〜まや〜」 隣の綾香様が、ひときわ大きな声でそう叫びました。 わたしが顔を向けると、ん? という顔をして、 「情緒よ、情緒」 そう言いました。 情緒・・・ですか。 試みにわたしも次の飛沫に合わせて、たまや、と小さく呟いてみました。 どぉぉん・・・ぱぁん。 くすっと綾香様が笑いました。 渦巻くような光のイルミネーションに彩られながら。 わたしのメモリが、何だかしあわせのきもちでいっぱいになっていくような、そんな気 がします。 どぉぉん・・・。 「た〜まや〜!」 「・・・・・・・」 わたしの小さな呟きは、綾香様の声と、多くの歓声と、ひときわ大きな大きな花火の 音にかき消されてしまいましたが。 この“きもち”は消えない。・・・そう、思います。 どぉぉん・・・ぱぁん。 どぉぉん・・・ぱぁん。 心地よい光と音の渦の中、わたしは大きく深呼吸をして、ゆっくりと夜空を見上げま した。 今度は消えてしまわないように。 ちゃんと──どこかへ届くように。 どぉぉん・・・。 「たまや──」 セリオさんです、花火です。 久々野さんタイトルが重複してしまってごめんなさい。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− キャッチボール 居間の古い戸棚を整理していたら、引き出しのひとつから色あせてすり切れたボール が、ころころと顔を見せた。 あっ、懐かしいな。自然と顔がほころぶ。 『なあ耕一、キャッチボールしようぜ』 『ん? いいぜ。じゃ、ボール持ってこいよ──』 指先でころころとボールを転がしてみる。 ところどころ皮がはがれたボールはぎこちなく畳の上を転がっていく。 『ぐすっ──ううっ』 『なんだよ。・・・もう泣くなって』 『だって──うっ・・・』 『お前はまだ体が小さいんだからさ──。ま、でも素質あるよ。もうちょっと頑張れば俺 なんかよりずっとずっと遠くに投げれるようになるよ。そしたら、もう一度相手してやるか ら──』 『──本当?』 『ああ──約束だ』 ころころころころ、と転がってボールはかつん、と柱にぶつかって止まる。 もう一度近づいて、今度は指でぴん、と弾いてみる。 『千鶴姉──耕一はっ?』 『耕ちゃん? 耕ちゃんならもう、叔父さんと一緒にお家へ帰ったわよ?』 『な──なんで、なんで起こしてくれなかったんだよ!?』 『あんなにぐっすり寝てるから、起こすのは可哀想だって叔父さんが──。梓、このとこ ろ夜遅くまで庭で何かやってるんだもの。しょうがないわよ』 『・・・・・・』 『・・・・・・梓?』 『・・・なったのに』 『え?』 『遠くに──もっともっと遠くに投げれるようになったのに! 耕一のところまで届くくらい に投げれるように──なったのに・・・!』 『・・・・・・』 『うっ・・・馬鹿耕一っ・・・』 ころころ・・・と襖の方にまでボールは転がっていく。 カラカラ、と襖が開いて、かつん、とボールが何かに当たった。 「ん──?」 怪訝そうに自分のつま先を見て、耕一が立っていた。 「おっ、懐かしいな──このボール」 「・・・うん」 「そうだ、久しぶりに──やるか、梓?」 とんとん、と掌でボールをもてあそびながら言う。 「おっ、やるっての、耕一?」 「どうだ? あれからちょっとは成長したか?」 「ふっふっふ。あたしをあの頃のあたしと思うなよ」 ぽん、と耕一の胸を叩いて、 「──覚悟しておくように!」 あたしはちょっと震える声をなんとかおさえながら、冗談めかした口調で強気に笑った。 あまり季節感が出せませんでしたが、夏です(苦笑) 今回、1番気合いを入れました。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 星空 「ふぅ・・・」 オレは上気した頬を冷ますように、ぱんぱん、と手で叩いた。 半瞬ほどして、オレの前にすっとコップが差し出される。 「どうぞ・・・」 月明かりの下、俺の前に琴音ちゃんが立っていた。少し上目づかいで、俺を見ながら。 「ありがと」 コップを受け取って、オレは中の水をごくごくと飲み干した。 琴音ちゃんはそんなオレの横にちょこんと座った。 「琴音ちゃんも抜け出してきたんだ?」 ああいう席は苦手ですから、と琴音ちゃん。 オレも、志保は飲み出すと止まらねえからな、と言って笑った。 くすっと微笑んで、そうですね、と琴音ちゃんが返す。 そのまま、自然に会話が止まる。 オレたちは、ぼうっと頭上に広がる星空を見上げた。 隆山の満天の星明かりが、オレたちを優しく照らす。 「・・・綺麗ですね」 静かに琴音ちゃんが呟く。 オレは冗談めかして、 「琴音ちゃんの──」 「『琴音ちゃんの方が何倍も綺麗だよ』、っていう台詞はなしですよ」 くすくす、と悪戯っぽく笑って言う。 「・・・読まれてるなあ」 「予知、ですよ」 そっか、と言ってオレは苦笑した。 そのまま言葉もなく、またオレたちは星空を見上げる。 「来年も・・・」 「ん?」 「・・・来年もまた、こうしてここに来れたら、いいですね」 そうだな、オレは答えた。 今度は2人で来ような、と言うと、琴音ちゃんははにかむように微笑んで、はい、 とうなずいた。 星明かりの下、オレたちはそんなささやかな“予知”が現実になるとことを誓い合うように、 静かに唇を合わせた。 なんか中篇のSSのラストシーンを千切ったような感じになってしまいました。 短いのは、難しい・・・。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 最近残暑が厳しくてどうも集中力が続かず、長いのが書けません(泣) 早く涼しくなってくれないかなあ、と思う今日この頃です。ホントに。 ではでは。感想はまた、別の書き込みをします。 ■星空 セリオ、梓、琴音それぞれのショートショートストーリー。 Leaf/いろいろhttp://www3.tky.3web.ne.jp/~riverf/