8月の魔法 「──これ、なに?」 本気で訝しげな声をあげる理奈ちゃんに、俺は困惑気味に答えた。 「なにって──スイカ・・・だけど?」 「スイカ? 変わった名前のオブジェね。あ、よく見るとちょっとシュール。ダリみたいね」 夏と言えば海。 海と言えば理奈ちゃん・・・っていうわけでもないけど、俺は今理奈ちゃんと海にいる。 それで、スイカ割りなんかレトロで、返って新鮮なんじゃないかな、なんて思ってセッテ ィングしたんだけど・・・。 「で──これをどうするの?」 「どうするって・・・その棒で割るんだよ」 「割っちゃうの? そんなことしていいの?」 そんなことって・・・そんなものなんだから、理奈ちゃん。 「で──割ってどうするの?」 「えっと・・・食べるんじゃないかな?」 「食べる? これ──食べれるの?」 ・・・・・・。 どうやら根本的なところに致命的なズレがあるようだ。 ま、まあいいか。 「ま、まあ、それはともかくとして・・・理奈ちゃん、これ」 「・・・これ、って?」 「目隠し。これをして、俺の指示にしたがってスイカを割るの。1回交代ずつで、先に割っ た方が勝ち」 「あ──これ、ゲームなのね?」 とほほ、俺はちょっと悲しくなった。 理奈ちゃんって、こんな天然だったかな? 「じゃ、じゃあやってみよう、とりあえず。じゃ、目隠しして──。した? うん、じゃこっち こっち、そう。そのまままっすぐ・・・」 俺はパンパンと手を叩きながら、そう声をかけて理奈ちゃんを誘導した。 「うん、そこそこ、そのくらい。いいよ──」 「これでいいの?」 「うん、ちょうどいいくらい」 何か聴きようによっては誤解されそうな会話だ。 じゃ、いくわね──と、理奈ちゃん。 はぁっ、と息を飲む音がする。 力はいってるなあ。 ・・・ちょっと、嫌な予感がした。 「──きてはあっ!!」 ──ごぃん。 ・・・・・・。 予感は見事、的中した。 俺は何て馬鹿なんだ。考えてみれば、スイカ割りなんてネタを持ち出したらこんなオ チになるに決まってるじゃないか。 ああ、意識が薄れてゆく・・・。 ごめん、由綺。ごめん、はるか。ごめん、みんな・・・。 「冬弥くん──冬弥くん?」 「ん・・・」 「どうしたの、冬弥くん。ぼうっとして?」 「え、ああ──」 ハッと俺は目を覚ました。 白い浜辺。きょとんと俺を覗き込む理奈ちゃん。 ああ・・・そうか、夢か。 そうだよな、いくらなんでも、あんな理奈ちゃんは変だ。 「あっ、ごめん・・・。あはは、ちょっと暑さにやられたみたい」 「ちょっと冬弥くん──大丈夫?」 くすくす、と理奈ちゃんが笑う。 よかった、いつもの理奈ちゃんだ。 「あ──そうだ、冬弥くん?」 「ん?」 何だかとてつもなく嫌な予感がした。 理奈ちゃんは、不思議そうな瞳で俺の足下を指さして──。 「──これ、なに?」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− お久しぶりです、睦月です。 連日の猛暑のため集中力が途切れ途切れ、すっかり長いSSが書けない体になって しまいました(泣) 最近は短いのばかり書いています。 ううっ、ナンセンスだってことは分かっているんですが・・・。 以下、ちょっとだけ感想です。 ■MIO様 『矢島』 矢島って、本編では橋本と違って何の汚点もないのに、どうしてこんなキャラクターに なってしまったんでしょうねえ・・・(苦笑) 今では矢島なしでのギャグTHSSは考えられないですし(笑) 汚れとはいえ人気者なんですかね(笑) 相変わらずの切れ味の鋭さ、堪能いたしました。 ■山岡様 『喉の渇きは藤田の限界』 初めまして。 いえ、全然あやまることないですよ。僕的に、もう最高でした(爆笑) ちょっと壊れたキャラと、リズム感のよさが抜群です。(特に人命救助あかりは、もう) 次は続きものですか。 僕としてはこういった感じのがまた読みたいですが、シリーズものも楽しみですね。 ではでは。 ■8月の魔法 夏の海にやって来た冬弥と理奈の話。 ナンセンス/WA/理奈・冬弥http://www3.tky.3web.ne.jp/~riverf/