トランクの鍵貸します 投稿者: 睦月周
 ささっと読み飛ばしちゃってください(^^;)



トランクの鍵貸します



 夏の暑い日。
 わたし、森川由綺は、冬弥くんと弥生さんの薦めで自動車教習所に来ています。

「大学にいる間に免許とらないと、いつ取れるかわからないよ・・・」

 という冬弥くんの言葉に、弥生さんも同意してくれたので、厳しいスケジュールの
間をぬって、通うことになりました。

 ぶるるるる・・・・。

 最初はどうなることかと思ったけど、けっこう順調に段階をこなしています。
 冬弥くんは「由綺はのんびりしてるから心配だよ・・・」なんて言ってたけど、そんなこと
ないみたいです。ふふ、もっと頑張って冬弥くんを驚かしちゃおうかな。

「だいぶ慣れてきたみたいですね?」

「はいっ。もう大丈夫です!」

 少し自信ありげに答える。
 だけど、教官の次の言葉が、わたしを凍り付かせた・・・。

「じゃあ、少しエンジンブレーキをきかせてみましょうか?」

「・・・・・・」

 ・・・・え?

 えんじんぶれーき?

 エンジンに、ブレーキがあるの?

「・・・森川さん?」

「えっ、あっ、はい。今すぐやります・・・」

 わあ、どうしよう・・・。
 エンジンブレーキってなんだっけ・・・?
 そんな言葉記憶にないよお。

「どうしました? 学科で習いましたよね?」

「・・・は、はい、習いました! だ、大丈夫です!」

 どうしよう・・・。学科はいつも疲れて眠っちゃってるんだ・・・。
 冬弥くんがテストさえ通ればいいから、学科なんて適当でいい、っていうから・・・。

 あっ、とにかくなんとかしないと・・・。
 このままじゃハンコがもらえないよ〜。

「・・・・えいっ」

 ききぃ〜。

「・・・それは、普通のブレーキです・・・」

 あうっ。やっぱりそうだよね・・・。

「あっ、あはは・・・。あの、勘違いです・・・。え、エンジンブレーキですよね?」

「・・・はい」

 ぎりぎり・・・。

「・・・それはサイドブレーキです・・・」

「・・・・・・」

 ・・・にゅっ。

「・・・わたしの方のブレーキに脚を伸ばしてどうするんですか・・・?」

 ああ、もう完全に呆れた目でこっちを見てるよ〜。
 どうしよう、どうしよう、冬弥くん、助けて〜。

 ・・・とにかく、とりあえずなにかしないと。
 えっと、まだ触ってないもの、触ってないもの・・・。

 これはアクセルだし、クラッチだし、これはギア、ライト、これはシートベルト・・・。

 ・・・・・・?
 
 あれ、このひねりはなんだろ?
 今までこんなものがあったなんて気づかなかったけど・・・。
 なにか、上に引くみたいな感じ・・・。

 そうか、これがエンジンブレーキなんだ。
 これをえいっ、って引けばきっと車がきいって止まるんだ。
 よかったぁ〜。

「森川さん?」

「は、はい、今やりますっ!」

「・・・えいっ」

 わたしは小さく叫んで、思いっきりそのひねりを引いた。

 ・・・がこっ。

 背後で音がした。

「・・・がこ?」

 恐る恐る後ろを振り向くわたし。
 そこでわたしが見たものは──。


 ぱかーん、と開いたトランクだった・・・。





(FIN)


 ええと、おそらくタイトルでオチが見えてしまったかと思いますが、一応実話が元です。
 実際これをやったのは僕の姉です。初めてこの話を聞いたときは爆笑してしまいました。
 教習所にはみなさんいろんなエピソードがあると思いますが、ここまで間抜けなのは
そうそうないでしょう・・・。よく免許とれたな、姉(笑)



◆トランクの鍵貸します  教習所に通う由綺の話。 コメディ/WA/由綺
 


以下、感想&レスです!

◆『滅殺琴音の歌(笑)』 戦艦冬月様
 なんでそこまであかりに敵意を・・・(汗)
 ちなみに元ネタのアニメは子供心に驚いたラストでしたね・・・。

◆『願いはひとつ 〜七夕の終わりに〜』 久々野 彰 様
 せりあや・・・なんかはにゃ〜んとなってしまうような、いい語感ですね。
 すごく静かな気持ちで読めました。
 芹香の前では肩肘を張らずにいれる、素直な綾香がとても可愛かったです。
 あと、感想ありがとうございます。ぜひCD探してみてください。
 きっと、これも柔らかな優しい気持ちで聴ける曲だと思います。


◆『全ての気持ちを』 ゆき様

◆『海の記憶』 まさた様
 あかりと海、というのは僕もすごく自然に自分の中でつながっています。
 男は川で、女は海・・・というのがおぼろげながら頭の中にイメージとしてあるんです。
 海に行くといつも、不思議と「帰ってきたんだなあ・・・」という気はすごく僕もします。
 それは、僕らが母胎という海から生まれたように、生命が海という「母」から誕生したから
・・・なんでしょうか? すみません、意味の分からないことを書いてしまいました。

◆『痴漢電車 夕下がりのわななき(中編)』  マイクD様
 もう、期待以上の内容でした(笑)
 志保のキレ具合とあかりの普通人ぶりのギャップがホント最高です。
 後編、待ち遠しいです。

◆『Finの物語 外伝4‥‥一緒のお風呂〜楓』 フィン様
 フィンさんは・・・ご存命なんでしょうか?(笑)

◆『夏の恋』 dye様
 ストレートに幼い頃の梓の想いが伝わってくるような感じでした。
 たぶん、四姉妹の仲で一番(それは今でも)初(うぶ)な心を残しているのは梓なんでしょうね。
 ラストの二行に、にやり、でした(^^)

◆『真・痕』 Hi-wait 様
 なるほど・・・エルクゥたちの行動にはこんな謎が隠されていたんですね。
 それにしてもこの四姉妹は皇族のはずなのに妙に所帯じみてますね(笑)

◆『あの日あの時、あの場所で』 健やか様
 幸せであることが呼吸をすることのように当たり前に思える時ってありました。
 失ってみてから僕も初めて気づいたんです。
 呼吸ができなければ生きていけない、それと同じことを。

◆『星の詩 / 名の詩』  アルル様
 誰もが自分の中に星を持っている・・・。
 自分の顔が自分では見れないように、その存在に気づくことはなかなかできないんでしょうね。
 どこか、心に残る作品でした。

◆『カウボーイリーフ 第1回(中編) 〜駄人形のストラット』 ほえ〜る様
 ごめんなさい、元ネタがわからないんです・・・(笑)
 
◆『ぜにぜにぜに』 無口の人様
 完全に人間であることをやめてしまったかのような瑠璃子さんの不可思議な言動が、
僕的にすごくヒットしました。
 ちょっと続きが気になりますよ。(浩之は男としての誇りを取り戻せるのか・・・(^^;)


 今回は、以上です。