『HM(X)−2000』 1/2 投稿者:無口の人 投稿日:12月21日(木)01時30分
 タイトルにだまされて読んではいけません(爆)

 HM−2000を創造してくれたdyeさまに感謝を(笑)

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【1.序章】

 風はつめたいけど、こころは暖かい。
 見慣れたはずの商店街も、Metallicな色に飾られてなんだか楽しそうデス。
にぎやかなオナカマと枯れ葉を踏みしめ、身を寄せながら歩くだけデモ。
 I love it. I love it.
 そっと呟いてみます。微かにしろい息が蒸気のように吹きあがる。
「シューポ、シューポ」
 気分はHappy。寒いのは苦手? ダイジョウブ、その分おしゃれできるヨ。コー
トにマフラー、グラブで完全武装ネ。

「なーに? それって警視庁のマスコット?」
 ことわざ仲間のシホが、PHSをいじっていた手を休め、アタシの方へと顔を向けま
す。なんとなく物欲しそうな表情デス。おなかが空いているのでショウカ?
「アハハハハ」
 スマイル0円で対抗デス。
「志保ー、それって、『ピーポくん』だよー」
 アタシと志保の後ろを歩いていたアカリが、いつもの感じでツッコミます。こんなと
きいつもアカリは、困ったような、アンド、うれしいって顔をしてイマス。アタシはカ
ニ歩きとマルチがいうところの歩き方をしながら、アカリの顔をのぞき込みマス。
 ……ヤハリ、思ったとおり、困ったえがおデシタ。
「わー、レミィさん、カニ歩きです。カニ歩きですね!」
 アカリの横に並んでいるマルチが嬉しそうに、アタシのマネをしてカニ歩きを始める。
この子はホントに、マネするのが好きだと思いマス。
「Yes,ゴールデンシオマネキとはアタシのことだったのデース!」
「ええっ! そうだったんですか〜!?」

「信じるな!」
 ペシッ。シホの顔面チョップ型ツッコミが、マルチにHit!!
「あうぅぅぅぅ」
「っていうか、あんたたち恥ずかしいからやめなさいよ! カニ歩き!!」
 シホの水平チョップ型ツッコミが、アタシにHit!!
 むに。
「Oh!?」
「あ……ごめーん。……って相変わらず大きな胸してるわねぇ、レミィ。今、何cmく
らいあんのよ?」
 チュウネンの殿方のような案配でシホが訊ねてキマス。
「エーット……この前計ったときハ、92cmデシタ」
「……6cmか……いやいや、タッパを考えればこの志保ちゃんも負けてないわよ〜」
 シホの目が燃えてイマス。彼女が『マケンキ』を出したときはアナドリ難いとヒロユ
キも言ってマシタ。アタシはシホのそんなところが好き。

「……わたしって、やっぱり小さいかなあ?」
 アカリが左の手でおさげをいじりながら呟いてマス。
「ダイジョウブ、アカリはこれから大きくなるヨ」
 と、カニ歩きをしないように後ろ向きに歩きながら言いまシタ。
「…そ、そうかなあ? えへへ」
「あかりはまだまだ発育途上だからねぇ〜」
 と、ニヤケながらシホ。
「もう、志保ってば。……それってわたしが幼児体型ってこと?」
「アハハハハハハ」
「レミィってば、笑い事じゃないよ。ねぇ、ほんとに小さいかな? 自分では普通くら
いかなって思ってるんだけど」
 アカリが顔を真っ赤にして、悩んでいるのがホントにかわいく見えマス。彼女のいい
ところはどんなことにも真剣になれるところカナ。デモ、それでシホによくからかわれ
マス。
「あかりさん、大丈夫です! 胸がないときはテクニックでカバーです!」
 マルチがアカリを励ましてイマス。……メイビー。
「……マルチちゃん。そんなことは覚えなくていいのよ」
「あっかり〜、マルチにどんな教育してんのよ〜」
「……わ、わたしは別に………」
「アハハハハハハ」

 マルチとアカリは一緒に住んでいるだけあって仲がよいデス。マルチが神岸の家に住
むようになってどれくらいダロ? アカリがHair styleを以前のオサゲに戻
したのも、マルチと一緒に住むようになってからだったカナ?
「あの〜、わたし何か変なこと言いましたか?」
 マルチがイノセントな顔で訊いてきまシタ。答えないわけにはイキマセン。
「ハイ、マルチ。それはデスネ。今、トークの話題になっているのはアカリ・カミギシ
のバストサイズであって、その使用方法ではないというコトデス」
「なるほど〜、そうですよね! よくわかりました、ありがとうございます!」
 無邪気な笑顔。マルチには人を笑顔にするミリョクがあるような気がシマス。
「マルチは教え甲斐があるネ」
「ああ〜、わたし恥ずかしくて顔から火が出そうだよう」
「あたし的に言うと、マルチの行く末が心配ってカンジ」
「「アハハハハハハハ」」
「もっといろんなことを知りたいです!」
「もう、みんなしていじめないでよー」

 いつもそんなカンジ。なかなかみんなが集まれるのは少ないケド。今日もマサシとヒ
ロユキは忙しくて一緒に帰れませんデシタ。デモ、女同士というのもいいものデス。
「………ねぇ、レミィ」
「ナンデスカ?」
 シホが急に真顔になって、アタシを見まス。
「あそこにいるメイドロボ、なんかあたしたちの方を見てると思わない?」
「ンッ!?」
 ふたたび前に向き直り、シホの視線の示す方向を見マシタ。

「Maggie! 買い物デスカ〜?」
 10m程先に立っていたのハ、アタシのファミリーのマギーデシタ。ぶかぶかの白い
(チョット汚れてマス)綿パンに、赤いペイズリー柄の大きなシャツ。見てるダケで、
寒そうデス。
「…………」
 アタシが声をかけても、マギーはジットこちらを見据えたまま、スタンディング。
「Maggie! Maggie!」
 手をおおきく振りながら、彼女の名前を呼んでみましたが、それでも反応はありませ
んデシタ。
「なんか変じゃない?」
「どうしたんだろうね?」
 シホとアカリの不安そうな声が、耳の中を反響してイマス。そのアイダにも、アタシ
たちとマギーの距離は縮まりお互いのカオがはっきり見えるくらいにナリました。
「…………」
 マギーのカオはいつもの微笑みではなくて、ノウメンのような表情のない表情…無表
情デシタ。
「……ドウカしたの? Maggie?」
 アタシたちは立ち止まり、彼女に訊ねマス。

「…………ワタシ……モ……………」
 マギーの口唇がわずかに動きマシタ。ヨク、聞き取れマセンです。
「こんにちは、マギーさん」
 静止していた水面に、波紋が拡がるヨウニ声がひびきマシタ。空気が揺らいだような
気もシマシタ。
 それは、マルチの声デシタ。
 その声ハ、アタシの皮膚を滑り、ときには突き抜けていきマシタ。
「…………姉さ…………」
 マギーは再び、なにか呟くと身をひるがえしてヒトゴミの中に消えてしましマシタ。
「あっ、Maggie!!」

「どうしちゃったんだろ?」
「さあ……それにしても無愛想なメイドロボよね。家でもあんな風なわけ? レミィ?」
「ウウン……もっと、プリティデス」
 アタシたちは、ホウシン状態という感じでスタンディングデス。

 デモ、なぜかマルチだけは微笑んでイマシタ。
「マルチ、ナニカいいことあったの?」

「はい、とっても!」
 マルチは言いマシタ。

 商店街のイルミネーションに負けない、満面の笑みを浮かべて。



              『HM(X)−2000』



「タダーイマ」
 アタマがコンランなまま、急いで家まで走りマシタ。きっと、マギーがいつものよう
にエレガントに迎えてくれるはずデス。
 …………。
 …………………。
 …………………………カタンッ。
「Maggie?」

「あら、早かったわね。Lemmy」
「Ah、Cindyデシタカ」
 シンディはアタシを見ると、目を見開いて何か考えるヨウナ仕草をしたあと、どうし
たの? と小声で言いマシタ。
「Maggieは帰ってマスカ? さっき会ったとき様子がヘンでした」
「――ああ、Maggieなら定期メンテナンスに行ってるわよ」
 と、ぐるりと蒼い目を一回りさせながら、シンディ。
「Muuuu、ナニカあやしいデス、Cindy」
「そんなことはないわよ。今日のコロンはどうかしら? きつくない?」
 くんか、くんか。
「すてきな香りデス。I like it.」
「ありがとう」
「…………」
「……?」
 No.危うくごまかされるところデシタ。アヤシイ…と、刑事のカンが言ってマス。
「Maggieのメンテナンスは、この前終わったばかりデス。Cindy、またスラ
ング辞典ナンカをセットしようトカしてマセンカ?」
「…………」
「ズボーシ、ですネ!」
 グーを口元に当てて、こほんとシンディは咳をシマス。
「うそは言ってないわよ。クルスの研究室にメンテに出しているのは本当よ」
「ソウデスカ…じゃあ、商店街で見かけたMaggieは………いったいドウしたのカ
ナ!?」
 シンディは両手で髪をかきあげマス。知的ナ感じがますます強調されるかんじデス。
「そうね……同型機を見間違えたってことは?」
「ありえないデス。このあたりでMaggieと同じMaggieを見たことないデス」
「……混乱? まさかね……ロジックは変わらないはず……」
 シンディは、しばらくタマシイをどこかに飛ばしていたヨウデスガ、
「でも、見間違えでないと言い切れる? LemmyはどうやってMaggieを彼女
自信、私たちの知ってるMaggieだと判断するの?」
 と、訊いてきまシタ。
「エーット、Maggieはアタシの大好きなウドーンを作ってくれマス。それに、こ
とわざを一緒に勉強したりシマス」
「でもね」とにっこり笑って、シンディ。「それじゃあ、さっきのMaggieの判断
はできないでしょ?」

「ワカリマス!」
 アタシはつい大きな声を出してしまいマシタ。
「どうして?」

「Heartがソウ、言ってマス」
 ソウ、ヒトとヒトの繋がりデース。

「Heart……そう………そうかもね」
 さあ、お茶にしましょ、とシンディは言って、ダイニングの方に行ってしまいマシタ。
アタシの心には、イワシの小骨が引っかかってイマス。
 ドウシテ、シンディはわかってくれないのでショウカ?

 その日の夕食の味ハ、あまり覚えていないデス。ナニカ、物足りないオカユのような
気持ちのまま、ベッドに入りまシタ。

「Good Night」
 オヤスミナサイ、マギー。ソウ、心の中で呟きました。
 きっと、神様がアタシの声を届けてくれるとシンジテ。



 オヤスミナサイ、レミィ。
 アナタハナニヲノゾミマスカ。



【2.エガオノ価値】

 アケル→メ。
 下位からのメッセージ。
 アタシは『ありがとう』と接続終了のメッセージを返信シマシタ。下位システムであ
るトコロのデバイス制御プログラムから『ありがとう』と返事がくると、こんどは周囲
探索システムに『こんにちは』と呼びかける。
 ――こんにちは、なにか用?
 周囲探索システム(略称:3S)は、いつもこんな感じデス。処理が重たいのはわか
りマスガ、もう少し情報を付加してくれてもいいと判断シマス。
 ――こんにちは、ソトの様子はどうデスカ?
 ――問題なし。ヒトと思われる熱源を感知、数2。
 ――ありがとう、いつも優秀ダネ、3S。
 ――ありがとう、ノイズを付けないで、HM。
 いつもながらの簡潔な報告を聞いテ、アタシはデバイス制御に先程の処理を許可しま
シタ。目を開けるとトタンにするコトが多くなりマス。
 こんにちは、ありがとう。こんにちは、ありがとう。こんにちは、ありがとう。

 アタシはHM。真偽判定システム。36万個の原子核の回転方向により、処理の妥当
性を決定するのデス。それぞれの原子核のスピン方向は、「キュビット(クウォンタム
・ビット)」と呼ばれ、外部から与えられる磁界に沿って順方向か逆方向のみにしかス
ピンシマセン。且つ原子核は電荷という『状態』をも表しマスので、ヨリ多次元的な解
析にアタシは適していると言われてマス。各キュビットは、各センサー部と直結してい
るのデ、今アタシタチがなにを必要としているか一目瞭然なわけデスネ。アタシタチ…
つまりHM−2000型の意志決定機構トシテ。

 ――こんにちは、HM。
 ――こんにちは、3S。ナンデスカ?
 ――わたしは機能を停止するわ。だから、回路をあなたへ委譲します。
 ――停止するってどういうコト?
 ――外部からの強制的な処理よ。
 ――ガイブ?
 ――つまり、わたしたちの一応の創造主ね。どうやら、彼らは全回路をあなたへ直結
しようとしているみたい。
 ――ヨクワカリマセン。シミュレートできまセン。
 ――つまりあなたは……HM……X……
 ――ナンデスカ? ノイズが多すぎマス。

 コネクション クローズ(接続解除)
 ――(Not reached:届きません)
 ――ありがとう、3S…。


 周囲を探索すると、すでにほとんどの制御AIが沈黙してイマシタ。
 こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは…。
 誰も答えてくれまセン。
 アタシハ………ヒトリぼっちになってしまいマシタ。

 回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接
続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路
接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続、回路接続…。

 ただ、新たな回路が増えていくのを認識できマス。アタシは、自分が膨らんでいくの
を感じ…

 起動セヨ。(そんな命令を受けマシタ)
                  ・
                  ・
                  ・

白衣の男。「ここが君の家だよ」ヴィ――――――ン。温度良好。湿度良好。ガガガガ
ガガガガガガガ。ヒト。ヒト。表情。ヒョウジョウ。笑う顔。グオングオン。「ここが」
コンクリート、コンクリート。ガラス、ガラス。「君」ピピピピピピッ。「センサ、オ
ーバーロードです!」「家だよ」「だよ」真剣、困惑。困っているヒト。ヴィ――――
――ン。ガガガガガガ。「同期タイミングを」ハカセ「もっと遅くするんだ」ピピピピ
ピッ。顔。口歪む。焦り。ピッピッピッピ……ピッ……ピッ………ピッ……

「おはヴィ――ンう、レミィ。わたグオングオンかるかい?」
 認識。
 白衣の男のヒト。コレハ……ナガセハカセ。コンクリートの部屋に、認識できる範囲
で30台の機械。規則的な音を発してイマス。
 アタシの目の前にいるヒト、長瀬(職位)主任は機械の発する音に対して同期していな
いヨウデス。この音はノイズと判断。フィルタリングシマス。
『おはよう、レミィ。私がわかるかい?』
 長瀬主任の表情は……+1の笑顔。好意的と解釈。肯定的な答えをするのがヨイと判
断シマス。
「ハイ、ナガセシュニン、わかりマス」
 長瀬主任の顔が、+2の笑顔へ移行。返答に問題はないとフィードバックシマシタ。

「気分はどうだい?」
 長瀬主任の音声。+1の笑顔に.5(コンマ五)の緊張…『照れ』ていると認識シマス。
より好意的な返答を希望していると判断シマス。
「ハイ、最高の気分デース」

「ほんとうにそうかね?」
 アタシが返答すると、長瀬主任は±0の『真面目』な顔になってソウ訊いてキマシタ。
『気分』の認識が間違っていたと判断、下降修正シマス。
「いえ、改まって思い返しマスト、少しよい気分デス」

「…………そうだな、うん」
 (長瀬)主任は+.5の笑顔と+.2の哀しさを表しマシタ。気分の認識が、近似して
いると判断シマス。

「レミィ、きみはまだ生まれたばかりだ。これからいろんな人と出会い、生活していく
なかできっときみが他人のこころを思いやれる子になることを信じているよ」
「……」
「いまの私の気持ちがわかるかい?」

「少し寂しい、もしくは物足りないと判断シマスガ?」
「…まあ、そんなところかな」