勘弁してください 投稿者:無口の人
 ああ…恥ずかしい。こんなネタでごめんなさい(汗)
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 ふさふさした、そう…ふさふさした滑らかな曲線を描くもの。
 ――しっぽ。

『金絲猴(きんしこう)』

 金色のヘビのようなものが、オレの足首に絡みついている…

「――そこの階段、危ないですよ…」
 女のコは小さな声でそう言った。

 …って、なんだこれは?
「う、うあぁぁ〜〜!」
 刹那、ものすごい力で踊り場まで引きずられる。
 …だっ、だめだ、このままでは! オレは必死で、そのヘビのようなものを掴んだ。
「――あっ…」
 止まった!?
「…あぁんっ!」
 で、なぜ、よがり声がぁ!?
 オレはあらためて、状況を整理する。そのヘビのようなものは、さっきの女のコのス
カートの中から伸びていたのだった。

 …うそだろ、おいっ?

 シュルシュルシュルシュル…
 そんなオレの動揺をよそに、彼女はスカート中に長さ十数メートルはあるかと思われ
る『ソレ』を格納すると、

「えっち…」

 と一言、言い残して去っていった。

 ――!?
 …………。
「うわらばああああああああああああぁぁぁぁ!!」

(そして、紆余曲折の後 月日は流れ…)

 ヘックション!
「きゃっ!」
 オレが琴音ちゃんの肩を抱いたまま、豪快なクシャミをしたせいで、彼女は一瞬、前
のめりになった。
 その勢いで買い物袋から、馬鈴薯がポロッと宙に飛び出す。
「あっ!」
 その瞬間、馬鈴薯は空中でピタリと止まった。

 なぜなら、彼女が自分のしっぽで器用に受け止めたからだ。
 こんな琴音ちゃんと一緒に居られるオレって、幸せ者だよなあ……。

 ――カンベンシテクダサイ。
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 自己犠牲…それは、ときになによりも儚く、ときになによりも美しい。

『人間の尊厳』

「わあ、すごいです!」
 マルチが感心しているのは、菓子パンを頭にしたヒーローが活躍する子供向けのアニ
メ番組だ。…なんと、おなかの空いた子供に自分の顔を食べさせるという、ホントに居
たら『じゃあ、オメーがまず、食ってみ』と言いたくなるようなヒーローの話だ。

「…ったく、マルチはお子様だな。ホントにあんなのがいたら…」
「――こしあん…でしょうか?」
 もう一体のメイドロボが、いきなり話しかけてくる。
「は? 何言ってんだセリオ。…こしあん? ……あぁ、餡(あん)ね。オレはつぶあん
の方が好きだな。なんつーか、豆っぽい食感がいいんだよな」
 オレがそう言うと、ソファの上で正座していたセリオは顔だけこちらに向け…
「豆…?」
 と呟いた。

 次の日。

 目の前にマルチがいる。
「なー、マルチ。こんなところに呼び出して何の用だ?」
 頭の上には、青空が広がっている。今日は一段と空が高いようだ。…風が気持ちいい。
「浩之さん、おなか空いてませんか?」
「いや、べつに…」
 オレがそう言うと、マルチはシュンとする。
「そうですかー、これを食べてもらおうと思ったんですけど…」
 彼女は自分の耳カバーをはずすと、耳の穴からピーナッツを取り出した。

 ぐはっ。
「マルチさん、食べさせてください」
 ――くらくらしていた。
「えっ? でも…」
「食べさせてください!」
「あっ、はい!」
 オレはマルチからソレを受け取ると、すぐさま口に含んでみる。

 …ほのかに温かい。彼女の熱が、まだソコに残っていた。
 はああああぁぁぁぁ…。
 身悶えする。
 カリッ。
 かじってみた。
 ふはああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………これが、これがマルチの味!
「おいしい…おいしいよぅ、マルチ」
「よかったです〜」

 ざっ。
 ふいに人の気配を背中に感じた。振り返ると、セリオがいた。
「私のも、どうぞ…」
 いつもの無表情で言う。
「セリオ…お前まで!?」
 そんなオレの言葉に答えることもなく、セリオは機敏な動作で耳カバーをはずした。
そして、彼女が耳の穴から取り出したものは……
 糸? てらてらと光るその糸は、はじめ指と耳の間を結んでいたがやがて垂れ下がり、
彼女の制服に一本の細い染みをつける。あれは…

 ――あれは、納豆だぁ!!

「さあ、藤田浩之さん。…どうぞ、召し上がれ」
「ちょ、ちょっと待ってくれセリオ!」
 オレは激しく動揺した。これを…これを食っちまったら、オレは…オレは……

「どうかしましたか? マルチさんの『豆』は食べられても、私の『豆』は食べられな
いのでしょうか?」
 うわああああぁぁぁぁぁ…オレは…オレは、人として……

「さあ、私の肌で程よく醗酵して、とてもおいしいですよ」
 ぐあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!
 オレはコンクリートの床に両手、両膝をついた。泣いていた。

「勘弁してください、セリオさまぁ!」

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 わたしの恥ずかしい記憶は…ゼッタイに秘密です!

『逃亡者』

 オレがいつものようにクラブに行くと、普段は誰もいない神社のあたりに人だかりが
できていた。
 なんだ? …とりあえず、葵ちゃんを探してみる。
「おーい、葵ちゃん!」
「あっ、藤田先輩!」
 葵ちゃんは、オレが声をかけると走り寄ってきた。
「こりゃいったい、どーいうこった?」
「さ、さあ? なんかこの辺りで事件があったらしいんですが…」

 事件ねえ。とりあえず近くの連中に訊いてみる。
「なあ、何があったんだ?」
「ん、ああ、なんか誘拐事件があったらしいよ。そんでもって、その神社で乱暴された
らしくてさー、いま警察が犯人の指紋とか体液なんかを採取してるんだと」
 指紋? 体液? …うーん、なんか引っかかるような? …まっ、思い出せないって
ことは、たいしたことじゃないんだろうけどな。
「へー、そんな事件があったとはな……どうする葵ちゃん、今日のクラブは――」
 …って、さっきまで隣にいた葵ちゃんがいない。どこいったんだ?

 ふと見ると、葵ちゃんは警察官と何か話しているようだった。…さすがだな葵ちゃ
ん、サンドバッグを取りにいったのか。
 すると、葵ちゃんはオレの方を指差し、

「あの人です! あの人が犯人です!」

 と、言った。
 ……へっ!? 複数の警官がじりじりと詰め寄ってくる。
「ま、待ってくれ、オレは…」
 人ゴミを避けて、葵ちゃんに近づこうとする。
「逃げたぞ、追え!」
「…違うんだぁぁぁ〜」

 葵ちゃんが、口パクで何か喋っていた。
(藤田先輩…どうか勘弁してください)

『藤田浩之、学生、身に覚えの無いふじょぼうこうのつみをきせられ…』

 …って、勘弁できるか〜!!