変革 投稿者:無口の人
 自由に書きました(笑) できれば、見逃してほしいれす(爆)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 いったい静寂はどこへと逃れたのだろう。街のありとあらゆる場所は、いたずらに震
えるだけの澱んだ空気で満たされているというのに。
 …道路にも、公園にもいない。家の中ですら、静寂の居場所はない。追い出された彼
らは、その身を地底の住人へとやつしたのだろうか?
 静寂だけが、この世の変化を感じ取らせる隣人であるというのに…。

 そう、世界は誰も気付かぬうちに、其の身を変容させていく…。

「お〜い、由綺」
 街の人間たちを品定めするような、風が通り過ぎていく。冷たく、それでいて心地よ
い視線のような。
「あっ、冬弥く〜ん! こっち、こっち!」
 人目を憚らずに由綺が手を振る。…あ、そうか。これは弥生さんの風だ。
「…なんか思いっきり目立ってるぞ。大丈夫か?」
「へへっ…大丈夫、大丈夫。私って地味だから…」
 風は渦を巻き、由綺の髪を持ち上げる。やさしい顔になる、由綺と風。

「そうだな。由綺ってちっとも芸能人らしくならないよなぁ」
「え〜、そうかなあ? でも身長も180cmまで伸びるようになったんだよ」
 風が…止んだ!?
「180? …はぁ? そりゃいったい――」
「んん〜、くぅぅ、はあぁぁぁっ!」
 ビリビリと空気が振動する。由綺の声は、やがて耳鳴りと重なり、どこか遠くのほう
から聞こえてくるようだった。

 持ち上がってくる。――由綺の頭が。
 おでこが広くなっていく。…いや、正確には頭が伸びているのだった。
 そして、俺の前には、頭の妙に長い由綺が佇んでいた。
「すごいな、由綺。…見直したよ」
「えへへ、でも理奈ちゃんに比べたらまだまだだよ」
 恥ずかしそうに俯く由綺。その拍子に、俺の頭をゴンと打った。…おでこが。

 再び、風が舞う。鋭い切れ味の視線。来たんだ、彼女が。
「由綺さん、まだまだですわ」
 蒼い風が弥生さんを取り巻いていた。しかし、彼女そのものはあくまでも透明だった。
もしかしたら、目の前の人は静寂そのものかもしれない。
「フッ」
 目と耳が、弥生さんの闇と静寂を垣間見、そして聞いた瞬間。彼女の頭は、1m程伸
びていた。
「藤井さん、おはようございます」
 ドガーン!
 彼女がお辞儀をしたとき、俺は地面へとしたたかに打ち付けられていた。…まるで、
釘と金槌の関係のように。
 ドガーン!
 ドガーン!
 ドガーン!
 ドグォーン!
 やがて俺は、頭意外の部分はすべて地面に埋まっていた。

「冬弥君、大丈夫?」
 ゴンッ!
 心配そうに顔を近づける由綺に、俺は笑顔で答える。
「ああっ、大丈夫だ。心配するな」
 …今の一撃で、顎(あご)まで埋まってしまった。
「……それでは、私はそろそろ失礼します」
 微かに唄う風に寄り添うように、弥生さんは踵を返す。

「弥生さん!」
 思わず呼び止める。再び、振り向く彼女。
『俺たちは、こんな風にしか分かり合えないのか?』
 声無き声を、彼女にぶつける。
「…………」
 無言のまま、弥生さんはもう一度頭を下げる。
 ズグォーン!
 頭まで埋まってしまった。
 そして、思う。彼女の周りの風は、まるで泣いているかのように哀しげだったと。

 ――息が苦しい。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
おまけ『カフェ、オーレ!』

 昼休み。オレはいつものように、自販機の前に立っていた。

「わあ〜、浩之さん。カフェオレを買うんですか〜?」
「きっと、買うと思います。…カフェオレを」
 出たな。メイドロボペア…
「そしたらまた『プスッ』っと刺すんですね!」
「ええ、『プスッ』っと刺すでしょうね。『プスッ』っと」
 うっせえよ。

「今日はどんな『プスッ』が聞けるのか、楽しみですぅ!」
「はい、多分超能力少女を『プスッ』って感じだと思いますよ」
「ええっ!? 超能力少女をですか? それはどんな『プスッ』なんですか?」
「そうですね、『プスッ』って感じでしょうか?」
 …ぐっ。

「へえ、そんな『プスッ』なんですかぁ…」
「はい、そんな『プスッ』だと思われます」

「だああぁ! 飲めねえじゃねぇか! あっちいけぇぇぇ〜!!」
「「わぁぁぁぁ」」

 …ふう、やっと行ったか。
 プスッ。
「「プスッ!」」
「やめろぉぉぉぉ〜!!」