二つの世界の物語 投稿者:無口の人
 ありがちなお話なので、読み飛ばしたようが懸命でしょう。設定が違ってても、黙っている
ように(笑) タイトルは…ええ、そうですとも、私はマミファンです(爆)
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        『表』

「お〜い、梓。醤油とってくれ」
「はいよ」
 こういうとき、耕一は大抵あたしに頼む。一番気軽に声を掛けられるからだろうけど。
 …でも、もしかして、と思ってしまう。だから、ちょっと嬉しいんだ。

「…そう言えばさ、耕一。昨日寝言で叫んでたエディフェルって、タレントか何か?」
 ガタッ。一瞬にして、食卓が凍り付く。
「どっ、どうしたんだよ、みんな? そんなに驚くことないじゃない」
「…あ、梓」
 千鶴姉が口を開く。
「そのお話は、また今度にしましょう」
 その日はそれ以降、誰も口を開かなかった。

 次の日。あたしは…聞いてしまった。
「耕一さん、生まれたときから好きでした。エディフェルとしてではなく、楓として」
 エディフェル!? どういうこと?
「楓ちゃん…俺は自分が次郎衛門だったのは、わかる。でも今のこの気持ちが、本当に俺のも
のかどうか、まだ自信がないんだ。…だからもう少し時間をくれないか?」

 次郎衛門!? …耕一が次郎衛門? どういうこと? もう訳がわかんないよ!
 …あたしは走りだしていた。途中、ドアにぶつかり、廊下で転び、靴を履かないまま外へと
飛び出した。

「あっ、くぅ…こういち、こういち、こういちぃぃぃぃ〜」
 いつの間にか、子供の頃よく遊んだ河原にいて、泣いていた。
「梓…」
 不意に背中に声を掛けられた。
「やっぱりここだったか。凄い音をさせて、家を飛び出ていったから…きっと梓だろうと思っ
たけど、やっぱりそうだったんだな」

「耕一。耕一は次郎…」
 恥ずかしさとせつなさを感じながら、やっとのことで声をだす。
「ん、ああ、どうやら俺は前世で次郎衛門だったらしい。そんでもって、楓ちゃん…じゃなか
った、エディフェルという鬼の娘と恋仲だったんだ」

「そう…そうなんだ」
 背中を向けたまま、笑顔の練習をする。今は最高の笑顔を、耕一に送りたいから。

「耕一、あんたには楓がお似合いだよ…」

 振り向いて、そう言った。さよならのつもりで。でも、次の瞬間そこに居たのは、好きな男
に抱きしめられた一人の女だった。
「ばかだな…この意地っ張りめ」

 何も言えなかった。妹のところに行って…とも、あたしのところに居てほしい…とも。
 ただ、今この瞬間が、とてつもなく愛しかった。

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        『裏』

「なにをする気だ!」
 俺が叫ぶと、柳川はクククと喉の奥で笑い、
「こいつの処女、お前にくれてやるよ」
 そう言った。

「な、なに!?」
「や、やめて…」
 梓は懇願するように、怯えた目を柳川に向けた。
「…嫌なのか? ならば、この俺がもらってやってもいいんだぞ」
「…うっ」
「どっちがいい? お前に選ばせてやる」
「…う〜ん、そうね」
 梓は値踏みするような目で、俺をじっと見つめた。
「あ、梓…」
 俺が声を掛けると、梓はかすかな微笑みを浮かべた。

「あんたなんかとするぐらいなら、耕一としたほうが100万倍もいいに決まってるじゃない
の!」
 梓は気丈な態度を装って言った。
「…よかったな、色男」

「ところでマジックと茄子はあるかしら?」
「…ん? いや、ない。昨日貴之と田楽にして食ったからな」
「…じゃ、じゃあ他に野菜は?」
「なんでそんなことを聞く? いまは、長ねぎぐらいしかないぞ」
「長ねぎ…」
 ちらっと梓が振り返る。
「それでも、まだいいか…」

 …そして、何かを決意したように頷く。
「いいわ。その長ねぎに『耕一』って書いてよ」

 …へっ?

(数分後)

「あっ、くぅ…こういち、こういち、こういちぃぃぃぃ〜」
 俺の前で身悶える梓がいた。しきりに息を吸い、俺の名を呼び続ける。でも…

 相手は、長ねぎだった。……俺は、長ねぎに負けたのだろうか? いやそんなことはない!
…はずだ。梓はきっと俺の為を思って…そうだ、そうに違いない!

「はっ…ああぁ……っくうぅぅぅ…!!」
 …どうやら一仕事終わったらしい。
「あ、梓…お前、俺の身を気遣ってそんなことを?」
 梓は、普段の彼女からは想像もできないような穏やかな表情で、俺を見た。
「あたし…小さいのはイヤなんだ」
 はっ? それって…

「耕一、あんたには楓がお似合いだよ…」

「ウオオオオオオオオオオオォォォォォォ…」

「哀しい…獣の叫びだな」
 柳川は目を閉じ、そう呟いた。