演劇部にようこそ! 投稿者:無口の人
 このお話は、読み飛ばすのが吉です。いや、まったく。
 シルバーリーフ向けです。 わからない方、ごめんなさい。
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「――ちょ、ちょっと」
 なにやらそんな、押し殺したような声が、奥の本棚の陰から聞こえてきた。
 吐息を交えた女のコの声だ。
 …なんだ?
「しーっ、静かに。いいじゃんか、ちょっと触るだけだって…」
 今度は小声で、男の声。
 お、おいおい、マジかよ…。

 オレは、本棚の陰から、そっと覗き見た…。
 …げげっ!
 志保じゃないか! …相手は、橋本先輩。

 驚くオレの耳に、ギターの音が聴こえてくる…
 ――なっ、なんだ!? 身体が勝手に動き出す! オレは何かを掴むような格好で、歌いな
がら二人の前に躍り出ていた。

 ♪だ〜れか志保を抱いてくぅれ 人気無さすぎ悲〜しすぎる〜から

 満面の笑みを浮かべ、振り向く橋本先輩……ハシモトさん、あんたもか。

 ♪エテの見〜てる夢のようさ〜 人気の要素がナンニモないね

『ナンニモ』のところで、目を閉じ首を横に振るハシモトさん…そして、オレたちの指は互い
に絡み合い、二人の声がハモりだす…

 ♪どうしてこんなヤツが〜ヒロイン!?
 ♪Show me the true heroine...

「志保ちゃん、でんぷしーろーるぅぅ!!」
 ――はっ! 危ねぇ!
「ハシモトさん、ガードだ! ガードが下がってる!」
「なにっ!? 長岡さんが消え…」
 ドゴォウ、ドゴォウ、ドガァウ…
 イヤな音を立てながら、人形のように左右から連打されるハシモトさん。
 オレは、かつて橋本先輩だったモノを、視界の隅に捉えながら逃げ出した。
「ちょっとヒロォォォォォ、待ちなさいよぉぉぉぉぉ!」
「いいもん見せてもらったぜ、ハシモトさん」
 先輩、あんたの尊い犠牲…忘れないぜ。

 …はぁはぁはぁ、ここまでくれば大丈夫だろう。まさか志保も、3年の教室に隠れていると
は気付くまい。
 そんなオレの聴覚に、メルヘンチックな音楽が侵入してくる…

 ♪ルルルンルンルン ルルルンルンルン ルルルンルンルンルンルン
 ♪絶望をもたらすと言われてる 何処かでひっそり朽ちてい〜る
 ♪ヒ・ロを探して ヒロを探していますぅぅぅ

 何か間違ってる気がするぞ…

 ♪コスモスは墓前に似合う タンポポは飛び立つ魂
 ♪アカシアのアーチの上に葬ってあげましょう

「見〜つけた、ヒロ」
「うあぁぁぁ、た、助けてくれぇぇぇ」
 何故だ? なんでこんなことになっちまったんだよう…オレが何をしたって言うんだよう。
そうだ…委員長なら、ヤツを止められるかも。屋上だ、屋上に向かうんだ!

 ♪もしも〜智子呼べるなら 叱ってほしいこのオレを〜
 ♪いつか乳吸うときもある 今日という日はもうないが〜

 オレは何を歌ってんだ!? …いや、なんで歌ってんだよう。

 ♪あかり会ったら〜 隠そう真実
 ♪うわきの暴露はいのち縮ませる うわきの暴露はいのち縮ませ…

「――藤田くん? 何言うた?」
「――浩之ちゃん? 何を隠すって?」
 なっ、なんで委員長とあかりがここに!? 藤田浩之ピンチ!
「いや、これはだなぁ、口が勝手に…ホントなんだ! 信じてくれ!」
「「ふ〜ん…」」
 …うっ、疑惑の眼差し。

「あっ、浩之さん」
「おっ、マルチじゃねえか! いいとこに来た。この先輩方に、オレがいかに誠実な人間かを
教えてやってくれねぇか?」
 流れはじめるちょっとチープな音楽……まさかマルチ、お前まで!?

 ♪ふきふき一つで呼ばれたからは それがわたしのご主人さまぁぁぁよぉぉぉ
 ♪ふっ、ふっ、ふきふ〜き大魔王

 勘弁してくれ…


「部活の方はどう? 瑠璃子さん」
「うん、上上だよ。長瀬ちゃん……あ」
「どうしたの?」
「…今日は終わりみたいだよ、くすくす」