ぜにぜにぜに 投稿者:無口の人
 もし慈悲があるのなら、何も言わずに…何も言わずに読み飛ばしてください。
 変な言葉があっても、根性で変換してね。
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「あっ、ながれ星!」
(浩之ちゃんのイン※が治り…)
「あっ、あ〜あ」
「どないしたん?」
 気の抜けたような声を出すあかりに、小判柄の浴衣を着た智子が答える。
「消えちゃった…」
「願い事、長すぎるんとちゃうの?」
 舌を出して笑うそのしぐさも、淡い朝顔の描かれたその浴衣もかわいらしいもんやなあ、な
どと思っているとは微塵も感じさせない智子の横顔。
「う〜ん、そうかな…。保科さんはなにかお願いしたの?」
「したよ」
 肯く、智子。
「えっなになに、どんなお願いしたの?」
「まあええやん、そないなこと…」
「そうだよね…大切な想いだものね。胸の奥にしまっておくんだよね」
「そうやな」
 祭の喧騒が遠くにきこえる。

『ぜにぜにぜに』(題字:保科智子)

(オレは黙々とシャープペンシルの先を走らせ、青いさくらちゃんが刻まれた恥ずかしい応募
者全員プレゼントのノートに、ひとつの円を描きだした。いつも描く馴染みのあるあの円だ)
(そしてオレは、むっちりとした夢の中へ落ちていく)
(円は地球)
(オレが創った、オレだけの地球)
(その惑星は、現実にオレたちが住んでいる地球という惑星の完全なミニチュアだった)
(やくたたず、不能、チャタレイ夫人の夫…そんな言葉で18禁ゲームの主人公を蔑むような、
主体性のないつまらない奴らによって形成された社会構成も、何もかもがこの世界と同じだっ
た)
(理性の崩壊は、いつも唐突にやって来る)
(オレはノートの上に小さな丸印を書き込む。その丸印は…世界をきれいにするための水、マ
ルチの聖水の染みだった)
『…た、ただの…水…ですから…きれいな…』
(人々は歓喜にうち震える。皆一様に、恍惚の表情をしている)
(オレの妄想は続く)
(つぎは葵ちゃんの番だ)
『せ、せんぱい、お願いです。…わ、私のこと、嫌いにならないでください…』
(オレは機械的な動きで、ひとつひとつノートに印をつけていく)
『…わ、…私、…こんなこと、…いや、…せんぱい、…お願いです、…私のこと、…私のこと』
(人々はもう、果てそうな様子だ)
『お願いだ、最後はさおりんで』
『こんないい目にあう理由がわからない』
(そんな悦楽の感想を聴きながら、オレは最後の水を描くのだった)

『志保ちゃんジュース!』

(…世界の人々は、萎えた)

「ちょっと、ヒロ! …聞いてる?」
 浩之が、顔を上げると志保の顔が目の前に迫っていた。
「うわっ、志保!」
「…って、なにわざとらしく驚いるのよ。……それにしても元気ないわね。まっ、あんまり気
にしないことよ。あの病気は精神的なものだって言うしぃ」
 ポンポン、っと肩を叩く志保。
 ぐさっ、浩之は30の心的ダメージを受けた。
「だめだよ志保。浩之ちゃんだって好きで役立たずになったわけじゃないんだし…」
 困ったような表情であかりが言う。
 ごぼっごぼっ、浩之は3ガロンのダメージを受けた。

「……それで……オレに…なにか…用か?」
「やだヒロ〜、ホントに聞いてなかったの? まったく、このアタシの『志保ちゃんニュース』
を聞き逃すなんて人生最後の汚点よぅ」
「――誰の人生が最後だ!」
「そうだよ志保。浩之ちゃんは男としての人生は終わったかもしれないけど、まだまだ若いん
だから…」
 警告、浩之の生命維持に問題発生。
「……はやく言え、言って消えてくれ」
「そーねー、じゃあ言うわ。マルチの姉妹機のセリオってメイドロボ知ってる? なんと彼女
が宝くじに当たったんですってぇ、それもかなり高額らしいわよ」
「――ちょっと、それほんまの話か!?」
 突然、浩之の隣に座っていた智子が声を張り上げる。
「えっ、ええ、マルチがセリオから直接聞いたって言ってたから…」

 ガタッ、智子は立ち上がり、浩之の肩をぐっと掴む。
「藤田くん、待っとき。藤田くんのイン※は、うちがきっと直すから。せや、イン※くらいで
落ち込んどったらあかん。イン※がなんや、イン※なんか吹き飛ばすんや!」
 智子が教室を飛び出していったときには、浩之は恍惚の人となりかけていた。
(イン※、イン※って言う…な)

「待っとったで、セリオ」
 セリオは突然声を掛けられたにもかかわらず、無表情に声のした方へ振り返る。
「はじめまして…でしょうか?」
「そうやな。うちは保科智子」
「保科智子さんですか…よいお名前ですね」
 智子がさっと右手を挙げる。
「ベタな挨拶は抜きや。セリオ、自分宝くじに当たったちゅうのはホンマか?」
「…マルチさんに聞いたのですね」
(笑いよった!?)
 智子は一瞬そう思ったが、セリオはやはり無表情のままだった。

「んっ、ああ、そんなところや。会っていきなりこんなこと言うのもなんやけど、頼む! う
ちに金貸してくれへんか? …どうしても必要なんや!」
 セリオは、智子の足元から頭のてっぺんまでゆっくりと視線を動かした後、
「わかりました。…そのかわり、私の友達になってくれませんか?」
 と言った。
「そないなことでええんか? ありがとう、セリオ」
「契約成立ですね…」
「契約って…そない大袈裟な言い方せんでも…」
「それでは、これを」
 そう言ってセリオは、智子に握りこぶし大の石を持たせた。彼女はさらに、もう一個石を拾
い上げると、振りかぶりそれを投げた。
「…って、何するの! …あっ、危ない!」
 ドゴッ、その石は見事に近くを歩いていた高校生の後頭部にヒットした。
 バタリ、その高校生は糸の切れた人形のように地面に倒れる。
「なっ、なにしてんの、セリオ。…って、すぐに救急車呼ばんと!」
 そんな智子の心配をよそに、その高校生はムックリと起き上がる。

「いけない、いけない、脳がでちゃったよ」
 その高校生は、頭から血を流しながら智子の前まで歩いてきて、くすくすと笑った。
「保科ちゃんも私と同じよね」
 智子は焦った。この状況を考えると…
(うちが犯人みたいやん!)
「なっ、何が? …って、なんでうちの名前を知っとるん?」
「ふふふ、滅殺」
「ちょ、ちょっと待ち。セリオ、何とか言ってえな」
 そのセリオはファイティングポーズをとり、シュッシュッ…と口で言いながら虚空にパンチ
を繰り出している。
「…ファイトみたいだよ、保科ちゃん」
「なんでやねん…」
(うち、はめられてるぅ)

 ROUND1 智子 vs.瑠璃子

 Fight!

(もうこうなりゃ、ヤケや! …ここは、先手必勝!)
 智子の攻撃:泣ける話(相手の戦意喪失)
智子 :「これがルーベンスの2枚の絵。パトラッシュ、僕もう…」
瑠璃子:「ファイト〜」
智子 :「いっっっぱ〜つ!」

 智子は300ポイントのダメージを受けた
(なっ、なんで?)

 瑠璃子の攻撃:電波に知らぬ事は無し
瑠璃子:「保科ちゃんって胸が大きいよね」
智子 :「まっ、まあね」
瑠璃子:「牛乳いっぱい飲んだんだよね」
智子 :「まあ、結構好きやけど…それがなに?」
瑠璃子:「だから、藤田ちゃんに吸わせるんだよね」
智子 :「ぬぐあぁぁぁ! なんで知っとるねん!」

 智子に痛恨の一撃! 智子は戦闘不能に陥った

 瑠璃子 WON!
「いけない、いけない、またバラしちゃったよ」
 謎の高校生は去っていった。

「うぅ…ここは?」
 気が付くと、智子はセリオに膝枕されていた。
「おはようございます、保科さん。酷い目に遭いましたね」
「この…この…よくもまあ…」
「ご心配には及びません。帰宅時間を遅らせてもらいました。友達を看病するのは持ち主の役
目ですから」
「あんなあセリオ、友達っていう意味わかっとるん?」
 智子はキレそうだ。
「ええ、もちろんです。……あっ、流れ星!」
 天球を、星のかけらが駆け抜ける。

「銭(ぜに)、銭、銭」
「木偶(でく)、木偶、木偶」
 夜空に二人の願いが吸い込まれていく…

「おっ、おどれは…」
「…はい、なんでしょう?」

 浩之のイン※が治る日は遠い…