まにひとりひと 第九章「眠る記憶」 1/2 投稿者:無口の人
「シンタロウはん。このお話はイっちゃってるさかい、読んだらあきまへんで〜!!
『友情パワー!!!!』」
 あぅ、ご存知ない方は読み飛ばしてくらはい(汗)
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【前章のあらすじ】
  隕石落下から40年。人類は復興を果たしたかに見えたが、同時に種としての危機を迎え
 ていた。
  来栖川グループのコロニー『クルス・シチ』内の貧民街に身を寄せていた、ドクトル・ヒ
 ロおよびマニヒはそこで浩之の妻あかりの姿を見る。ヒロは再会を心に誓いつつ、再び己の
 使命に向けて歩き出す。
  ヒロの元に届く芹香からのメッセージ。AMDSの謎に心を向ける彼は、離れ離れになっ
 た娘のひかりに何が起きているか…知る由もなかった。

【(時を遡り)西暦2026年 9月×日 政府直轄研究所】

 ピッ、ピッ、ピピッ…ヴィーン…
 コンソールが起動し、機器類に電力が供給され始める。もちろん、あたしの身体にも。
 また、朝が来たのかしら? イヤだな……んっ、どうしてイヤだって思うんだろ?

 そう言えば、どうしてあたしここにいるんだっけ? それから、そう…あたしって何て名前
だったかな?
<わたしはヒカリ。セリカの祝福を受けるもの>
 ああそう。それで、あたしは誰?
<わたしはあなた。あなたはわたし。同じものの二つの見方>
 何を言ってるの? 全然わからないわ…
<あなたはひかり。この世界のわたし>
 そうなんだ…『ひかり』か。なんか懐かしい感じがするな。

 プシュー…
 正面の扉が開く音がすると、ぞろぞろと人間たちが這い回る音がする。
『洗脳状況は?』
『はっ! 現在79.3%です』
『まだその程度かね。もっと急がせたまえ』
『はっ!』

「…人形がなけりゃ、オママゴトもできないからな。なぁ、リヒト」
 髪の毛が引っ張られ、あごが上に向く。ゆっくりと目を開けると、ニヤついた男があたしを
見ていた。男はあたしのあごに手を添え、唇をなぞっていく。
「調子はどうだ? リヒト」
「はい」 と、あたしじゃない『わたし』が答える。「特に問題ありません、吉川様」
 ヨシカワ……この男、どこかで!?
 そう思った瞬間、身体中が熱を持ち始める。左手を動かそうとするが、拘束具で固定されて
いてうまく動かせない。

 ――だったら、壊しちゃえばいいじゃない。そしてはやく、この男も壊さなきゃ――

 ……あたしどうしちゃったんだろ? 身体が押さえ切れない…
<ダメよ、ひかり! 力を使ってはダメ! お願い自分を抑えて!>

 バキッ、ベキベキベキィ…
 左腕を拘束金具ごとを椅子から引き離したあと、あたしの左手はヨシカワと呼ばれた男の喉
をとらえた。
「うぐぐぐ、がっ…」
 まわりの男たちが一斉に拳銃を構える。…だが、それらが発射されることはなかった。
 ドゴッ!
 右頬に強烈な衝撃を受ける。身体が左に傾くと、今度は左頬にさらに強い衝撃。
 ドガッ!
「くっ……うぅ」
 機能停止しそうな程のダメージに耐えながら正面を見ると、あたしを殴ったであろうと思わ
れる男がいままさにトドメを差そうとしているところだった。
「フッ…もういいだろう、タカユキ」
 ヨシカワがそう言うと、その男は大人しく下がった。
<ありがとう、タカ>
 どこかで、そんな声が聞こえたような気がする。

「まったく…早く安全装置を取り付けないといけませんなぁ」
 ヨシカワは、先程までとは打って変わった嗜虐(しぎゃく)的な表情であたしの前に立つと、
懐からムチのようなものを取り出した。キュイーンと奇妙な音が部屋にこだまする。
「親子そろって、私の邪魔ばかりしてくれますね。ふっ、悪い子にはお仕置きをしないとねぇ」
 ヒュン……ビシッ! バシバシバシバシッ!!
「くっ、きゃああああああぁぁぁぁ…」
 ヨシカワがムチを振るうと、身体中を強烈な電気が駈け巡った。
「おやすみ、リヒトちゃん…」
 ――あたしの意識は……そこで途絶えた。

【西暦2022年(遡ること四年) 5月×日 某環状線】

 ったく、浩之ちゃんったら一緒に買い物に行くって約束したくせに、わりぃ仕事が入ったっ
て、いったい娘の純情を何だと思っているのかしら? …まあ、純情とは関係ないけど。
『発車前に駆け込み乗車は、危険ですのでお止めください…』
 まったく、休みだってのにどうしてこんなに混んでるのかしらね? …って、休みなのはあ
たしだけだっけ。まっ、今日は通信学習の日ですもの、遊ばなきゃね。…文句ある?
 あっ、もう、どうして無理矢理乗ろうとするの? ドアが閉まってるじゃないのよ! 駆け
込み乗車はお止めくださいって言ってるのに。ところで、駆け込み乗車って電車の立場から言
わせてもらうと、『駆け込まれ発車』になるのかしらね。
「…………プッ」
 いけない、つい吹き出してしまったわ。誰も見てなかったでしょうね。この麗しの美少女が、
駆け込み乗車を駆け込まれ発車と言い換えただけのくだらないジョークで吹き出したなんて、
知られるわけにはいかないのよ。
 あっ…あの人こっちを見てるわ。まっ、結構好みかもね。でも今のを見られたからには、生
かしておけないわ……キッ! ……あらら、睨み付けたらうつむいて奥の方に入ってっちゃっ
たわ。少し赤くなっているのがカワイイわね……って逆じゃないのよ! こんなんだから、女
生徒にばっか言い寄られるのかな…はぁ。

 んっ、なんかお尻のあたりが…モゾモゾするわね。って、チカン!?
「…相手が悪かったわね、チカンさん!」
 ドゴゥッ!
 腰の回転を十二分に生かした肘打ちが、ターゲットを捉える。
「うごぉ!!」
 賞金首を捕まえた賞金稼ぎって、こんな気持ちだったのかしらん? と思いながら後ろを振
り返ると、さっきの男が泡を吹いて轟沈していた。

 後で分かったことだけど、この人は『阿部貴之』って人で、ミュージシャンのたまご。本人
の話によると、このときあたしを触っていたチカンに注意しようとして、あたしの一撃を食ら
ったらしいけど…どうだかね〜
 とりあえず、これがあたしとタカと馴れ初めってやつ。

                                   2/2へつづく