別れの日 投稿者:無口の人
 どうか、見逃してくらはい(汗)
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 その日は、他の学校よりも少し遅れた、うちの高校の卒業式だった。
 校歌の斉唱が終わり、卒業生も在校生も、ずらりと講堂に並べられたパイプ椅子に座らせら
れる。
 何度も何度も、起立、礼、着席を繰り返させられるうち、僕はまた、世界から色と音が失わ
れていくのを感じ始めていた。

 ドクン。ドクン。ドクン…
 式が進むうち、僕は不思議な感覚に襲われていた。それはまるで、電気の粒が僕の中に流れ
こんでくるかのようだった。
 そのとき僕の横に座っていた男子生徒が、訳のわからないことを喋りだした。
「保科さんはおじさん好き…保科さんはおじさん好き…ほしな…」
 ふと気が付けば、そんな意味不明のことを喋っているのは彼だけではなかった。
 横の奴も、その横の奴も…、いや、見回せば、講堂内の全員が、思い思いに喋っていた。
「レミィは百点…レミィは百点…」
「橋本先輩と付き合ってる…橋本先輩と付き合ってる…」
「人気No.1…人気No.1…」

 どこかで、誰かの声がした。
 それは直接、僕の頭の中に響くかのようだった。
 その声の主が誰なのか、それは全く解らないが、彼女は僕にひとこと「ガセネタ」と命令し
た。
「…しほちゃんにゅーす! しほちゃんにゅーす! しほちゃんにゅーす…」
 講堂内にいる全ての人間が、一斉に声を揃えて、その言葉を繰り返していた。
 まるで、宗教のお祈りのようだった。

 どこかで誰かの声がする。
「うふふ…。ガセネタ、ガセネタ。みんな、ガセネタを言い続けるのよ! 激しく! もっと
激しく! …人のシナリオでも堂々と乱入して、ガセネタを流し続けるのよ! あたしより人
気のあるヒロインはみんな、ガセネタに惑わされればいいわ!」

「…ん、後ろからあたしをつつくのは誰? …ってセリオじゃない。どうして? …えっ、メ
イドロボには電波は効かないって? …えっ、え〜と、ちょっとしたイタズラよぅ。そう、志
保ちゃんってばオチャメさん……って、だめ? …ちょっと! …あぁ、やめて〜〜〜」

 どこかで鈍い音がしたような気がする。
 僕はまた、世界から色と音が失われていくのを感じ始めていた。