主人公の条件 投稿者:無口の人


お久しぶりです。ちょっと失礼します。
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 強い風が吹き抜けた。
「えびせんとおんなじなの」
「え?なにが?」
「何の気なしに口にしたえびせんが、えもいわれぬ後味を残して、さらに新たなえびせんを呼び込む。
そして、気がついたときには、もうそれなしではいられなくなっている」
「えびせん?」

「月島さん、それってなんの話?」
「桜金造の話だよ」
「桜金造?」
「うん。私、ここで毎日、桜金造を集めているの。普通のタレントを集めるときはカメラを使うけど…」
  何を言っているのかさっぱりわからない。
 えびせん?桜金造?カメラ?

「でも、私の桜金造はカメラじゃ集められないから、身体を使うの。私がカメラになるの」
「つまり月島さんは、ザ・ハンダースの楽屋で桜金造を集めてたんだ」
 言ってる意味こそよく理解できなかったが、不思議と僕は、彼女が本当の話をしているのだ
というを信じて疑わなかった。
「うん、カメラは楽屋に隠すのが基本でしょ?ドッキリカメラとかも、楽屋の一番見つけにく
いとこに置くものね。だから私も、笑って笑って60分で一番人気のあるハンダースの楽屋に
来なきゃいけないの」
 そう言ってまたくすくす笑いだす月島さんの目は、やっぱりあの日の太田さんの目によく似ていた。

 濃〜いタレントにハマって「壊れた」者の目。
 マニアックという世界の扉を「開いた」者の目だ。

 それにしても、いったいどうして月島さんが?
「長瀬くんも…、私とおんなじよね?」
「え?」
 月島さんが突然そんなことを言いだしたので、僕は、山田隆夫を好きなことが読まれたのか
と思ってドキッとした。だが彼女は別に僕の心を読んだわけじゃなかった。
「長瀬くんもできるんでしょ?」
「え、僕が?なにを?」
「桜金造の受信」
 月島さんは、その綺麗な澄んだ瞳で僕を見つめた。

「僕にはないよ。そんなちから…」
 月島さんに話を合わせてもよかったが、それは彼女を馬鹿にする行為のように思えた。
 だから僕は、正直に答えた。
「月島さんと同じじゃなくて、正直うれしいけど…」
「ううん、あるよ。長瀬くんには。私よりずっと強いちからが」
 冗談…だよね…月島さん…
「今もそうだよ。私の集めた桜金造のエキスがどんどん、どんどん、長瀬くんに流れこんでい
くでしょ。ね?」
 そう言って彼女が指し示した僕の身体には、無数の桜金造が浮きでていた。

「うそ〜〜〜〜ん!月島さん、ドン・ガバチョ!」
「ふふっ、瑠璃子でいいよ。桜金造の力、すごく才能あるよ…金造ちゃん」
 いつのまにか呼び名が『金造ちゃん』に変わっていた。でもそれよりも僕は、瑠璃子さんの
身体にも、桜金造が浮きでているのかが気になっていた。

…見たくないよう。