まにひとりひと 第二章「不完全なものたち」 1/2 投稿者:無口の人


 「ガンバの冒険」は永遠の名作です。
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【前章のあらすじ】
  メイドロボであることをやめ、人間に復讐するために生きる『リヒト』。
  主人なき後も、メイドロボとして暮らしている『マニヒ』。
  とあるきっかけで知り合う二人を、突如爆音が襲う。リヒトはマニヒの中に存在するもう一つの
    人格『ドクトル・ヒロ』から、自分が狙われていることを聞かされる。
  コロニー『クルス・シチ』の地下にある、旧研究所の奥へ滑り落ちる二人…
  果たして彼らを待ち受けているのは、希望か…それとも絶望か…

 闇の中に木霊(こだま)する風切音。
 リヒトは縦穴を滑走していた。もっとも、始めは垂直に近かった傾斜も、先に進むにつれて
緩やかになってきていた。
(これならマニヒも大丈夫そうだな)
 マニヒの姿を思い浮かべてみる…白いトレーナーとオーバーオールを着た緑色の髪の少女…
(ちょっと服が大きめなのは、愛敬(あいきょう)といったところかな)
 リヒトは、彼女の屈託のない笑顔が好きだった。
(彼女の笑顔を見ていると、なぜか懐かしい気分になる。でもどうして、彼女は目が見えないんだろう?
 ドクトルのときは見えているようだから、機能的には問題ないはずなんだけど…)
 そんなことを考えるうちに、傾斜角はほとんど水平になっていた。どうやら出口が近いようだ。
 タンッ、出口から滑り出たリヒトは、着地と同時に右足を半歩後ろに引き、右膝を床につけ
陸上競技でいうクラウチングスタートの格好をする。
(……………)
 辺りの様子を伺う…30秒………1分………………2分………………3分。
(誰も…いないようだな…)
 リヒトはゆっくりと立ち上がった。
(着地音の反響の仕方から考えると、結構広い空間のようだな)
 ぼんやりと映るまわりの光景を見ながら、リヒトは次の行動について考えあぐねていた。
 リヒトは赤外線映像により暗闇でも物を見ることができるが、それはかなりの機能制限を受けており、
 はっきりと見えるのはせいぜい3メートルまでであった。
 聴覚も人間とほとんど変わらない程度にしか機能しない。
 この状況でもっとも頼りになるのは経験であろうことを、リヒトは感じていた。
 しかし、それが今の自分に一番足りないことも、自覚していた。
(とにかく、一刻も早くマニヒを探し出さないと…)

 ゆっくりと歩き出すリヒト…一歩一歩慎重に歩みを進める…
「ふにっ」
「!!」
 足の裏に弾力性の何かを感じ、リヒトは素早く跳び下がった。
「マニヒ…かい?」
 恐る恐る名前を呼んでみる。
「ふにゃあ」
(ふにゃあ?)
 瞳を凝らすリヒト、そこには小動物がいた。毛がフサフサしている。
「猫?いや…というよりイタチと言うべきか…」
 トコトコトコ…イタチのような猫は奥に向かって数歩進んだ後、顔だけをこちらに向け、
「ふにゃ!」
 と鳴いた。
(この場合、『ついてこい』ってことだよな…)
 リヒトは猫のほうに歩き出した。それを合図にするように、その猫はいきなり走り出した。
「おいおい、待ってくれ]
 暗闇を疾走する一匹と一人、リヒトにとって視界の悪い通路を走るのは、決して楽なことで
はなかった。にもかかわらず転ばずに済んだのは、イタチのような猫が、段差の前ではゆっくりと走り、
曲がり角の前では『ふにゃ!』と鳴いてくれたからだった。
もっとも、どちらに曲がるかまではわからなかったが…
「ふにゃ〜ん」
 と一鳴きした後、猫は立ち止まった。どうやら、目的地に着いたらしい。

 イタチのような猫は、タッタッタっと助走をつけた後、何かに飛び移った。
「あぁ、リヒトさ〜ん、ご無事でなによりですぅ」
 そこには、猫をかかえたマニヒがいた。リヒトは再会を喜ぶよりも前に、疑問をマニヒにぶつける。
「マニヒ…君はなぜ、目が見えないにもかかわらず僕だとわかったんだ?ドクトル・ヒロとは何者だ?
 そしてその…イタチのような猫は…君の知り合いなのか?」
 詰問口調のリヒトに対し、マニヒは穏やかに答える。
「イタチのような猫じゃないです。こちらは『セリオ』さんですぅ。
 それから、リヒトさんだとわかったのは…なんとなく…です」
「なんとなく…って、それじゃあわかんないよ!」
「あわわわわ…ごっごめんなさい。でも、ほかに言いようがないんですぅ」
 マニヒは目をつぶり、肩をすくめた。まるで、イタズラを叱られている子供みたいだな、と
 リヒトは思ったが、すぐに
(子供なのは、だだをこねてる僕の方じゃないか)
 と思い直した。
「すまない。脅かすつもりはなかったんだ。ただ、わからないことが多すぎる。
 マニヒ、君は ドクトル・ヒロとどういう関係なんだ」
「それを聞いてどうするんだ」
 リヒトの問いかけに、聞き覚えのある男の声が答えた。

「ドクトル・ヒロ…だな。今度こそ、聞かせてもらおうか、いったい僕に何をさせようっていうのか」
「いいだろう…」
 ドクトルは軽く頷くと、話し始めた。
「この子…マニヒの母親になってもらいたい。それがリヒト、お前への依頼だ」
「はっ母親だって!?なんでまた…そんなことを…」
 リヒトが疑問を口にした。
「頼みを引き受けるという約束だったはずだが」
「理由を聞かない、という約束はしていない」
 そんなリヒトに対しドクトルは、フッと息を漏らした後、イタチのような猫を床に降ろし、
「セリオ、頼む」
 と言った。ふにゃと、イタチのような猫が鳴いたと同時に、ブーンという音が辺り一帯から
聞こえ始め、空間に色が戻り始めた。照明が空間全体を浮かび上がらせると、巨大な半球状の
空間が目の前に現れる。中央には天井まで届く塔がそびえ立っていた。塔の床に近い部分は、
山裾(やますそ)を描くように広がっている。
「こっこれは…」
 リヒトはその大きさに素直に感動する。ふと気がつくと、イタチのような猫が中央の塔に向
かって走っている。塔のスカートのような傾斜を登りきったときに、ちょうど猫一匹通れそう
な穴が開き、そこにイタチのような猫は吸い込まれていった。
 ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ…
 いや、イタチのような猫は一匹ではなかった。どこから現れたのか、何十匹というイタチの
ような猫が、いまや一斉に塔に向かっていた。辺り一面が、きつね色に染まる…
(おそらく、あの猫達はこのコンピュータの端末になっているのだろう。いや、コンピュータ
そのものと言うべきか。こんな形で機能分散するとは…これを造った奴は、よほどの暇人か、
でなければ、相当猫好きな奴なんだろう)
「なぁ」
 とリヒト。
「ん、何だ?」
 とドクトル。
「あんた、猫好きだろう?」
「ああ、よくわかったな」
 リヒトは一人納得していた。
                                   2/2へつづく
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 のひと、ムクチのおまけコーナー!

 Kさんへ
 「悲しみを越えて −梓編−」とっても楽しみにしてます。
  何気ない日常の会話から感じられる、あの寂しさがいいれす。
  ところで、久々に拝見したらシリアスの方もたくさんいらっしゃるようなので、Kさんも
  安心なされていることでしょう。
  私のこれって、シリアスに徹しきれてないですから(^_^;)

 岩下 信さんへ
  あぁ、KOFが載っている〜。
 「幽遊」や「烈火」が好きな私めにはたまりませんね。
  はやく続きを…「交錯」もいいところで終わってるし…お願いします。

 シンバさんへ
  お疲れ様です。わたしも「さおりん」が欲しくなりました。<持ってないんかい!

 西山英志さんへ
 「炎宴の後」おもしろい。ただそれだけしか言葉が見つかりません。
  目からうろこが落ちました。なるほど、こういう表現方法もあったのかと。
  完全版も載せてくださることを、お願いします。分割すれば問題ないとは思うのですが…
  かくいう私も、一記事何行くらいが適当なのかよくわかってないんですけど。

 あぁ、もうこんな行数が…感想言えなかった方、ごめんなさい。
 みなさんのSS楽しみにしてます。それでは、またいつか…