楓先生 投稿者:無口の人
 実験的作品 No.2 注)正常な精神構造を有する方は、読むのをお控えください。
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「あかはちのいろ、くろはつみのいろ、お〜れ! たらら〜たら、お〜れぃ!」
 千鶴は、子供の頃N○Kの人形劇で覚えた歌を口ずさみながら、鏡と格闘していた。上品な
ワンピース姿の彼女は、おそらくどこかへ出掛けるのであろう。そう、それで念入りに化粧を
しているのか。

 ふと、千鶴は自分の背後に人の気配を感じる。彼女はその正体を確認すると、鏡越しに声を
かける。
「あら、かえで先生。何か御用でありんす?」
「…………」
 千鶴の茶目っ気にあふれた問いかけにも、楓は沈黙したままだった。
「もう…かえで先生ったら、ノリが悪いんだから〜」

「……ファンデーションの?」

 ちゅど〜ん! 千鶴、爆散。


「おわわわっ、ギブ、ギブアップだ。かおり〜、勘弁してくれ! あぁぁ、もうだめ〜♀」
 梓は、かおりと組み敷き合っていた。立ち上る乙女の芳香。
「ああ〜ん、まだまだですよ。セ・ン・パ・イ♂」
 梓は、突然冷ややかな風を感じた。彼女は開け放たれた部屋のドアの向こうに、楓の姿を認
める。一瞬後、体勢を入れ替え、かおりにコブラツイストをかける梓がそこにいた。

「かっ、かえで先生。いつからそこに?」
「…………」
 楓は冷ややかな目をしたまま、じっと梓を見つめていた。
「あはは、やだなぁ。ただのプロレスごっこだってば。あたしって結構強いんだぜ、プロデビ
ューしても通用するんじゃないかなぁ。そしたら、えっと…なんて名前がいいかな…ははっ」

「……リリー(百合)アズサ」

 ちゅど〜ん! 梓、撃沈。


「う〜ん、どうしようかな?」
 紙袋いっぱいに詰まったUFOキャッチャーのぬいぐるみを前に、初音は困っていた。もち
ろん彼女が、捕ったものではない。今日、学校の帰りにゲームセンターの前を歩いていると、
何故かそこの店員らしき人に手渡されたのだ。
『どうか、今日のところはこれで勘弁してください』
 店員らしき人はそう言っていたが、初音には全く心当たりがなかった。そう言えば、最近あ
のゲームセンターで乱闘騒ぎがあったらしいが。

「あっ、かえで先生。お人形さん、いっぱいもらったんだけどいらない?」
 楓は初音の声を受け、ぬいぐるみを床にばらまくと一体一体吟味し始める。
「かえで先生の好きなだけ持っていっていいよ。ほら、ゲッPーロボや拝一刀もあるよ」
 熱心にぬいぐるみを眺める楓であったが、一通り見終わったのか、ゆっくりと初音の方へ顔
を向ける。

「……ニョロニョロ」

 そういって楓は、白くて細長いタコのような不気味なぬいぐるみを掲げる。
「かわいいよね、にょろにょろ!」
 だが、初音は笑顔でそう言う。
「……うん」
 それに応え、楓も笑顔で頷いた。

 …夜。
 楓の枕元には、ニョロニョロのぬいぐるみが飾ってあった。
「……ニョロニョロ……げっと」
 こうして、楓の一日は過ぎていく。

 ……おやすみなさい、楓先生。

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 鈴木靜さん、もしよろしければ御作品送ってくらはい。
 Foolさん、さんくす。