騙される 投稿者:無口の人
 この作品を、勝手に無断で何の断りもなく…ちづら〜さんに捧げます。ああっ、それにして
も変な作品だ。ごめんなさい、許して。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「あの…耕一さん。お弁当作ったんですけど、もしよろしければ――」
「え゛!」
 耕一は一瞬カッ…と目を見開いた後、唇をわなわなと震わせた。
(やっぱ、千鶴さんも誘った方がよかったかな)
「えっ…いやぁ実は、昼飯はレストランに予約入れちゃったんですよ。千鶴さんの気持ちは、
とっても嬉しいんだけど…」
 耕一が焦点の定まらない目で答える。今日、耕一、梓、楓、初音の四人は遊園地へ遊びに行
く。事の発端は、耕一が当てた商店街の福引き。だが問題は、その招待人数が四名ということ
だった。

 …一昨日の夕食。
『どうしようか…千鶴さん』
 耕一は、話の最後で千鶴に意見を求めた。その返答が、十分予想できるものであったにもか
かわらず…
『えっ…あっ…私、明後日は仕事がありますので。残念ですけど…』
 予想どおりだった。
『千鶴姉…そっか、仕事じゃしょうがないか。あっそうだ! お土産何がいい?』
『そうね…じゃあ、グー○ィのイヤリング!』
『ダサダサ…』
『何か言った? ア・ズ・サ?』
 あはははは…笑い声が響く。だが、耕一は…いや、その場に居た全員が千鶴の嘘に気付いて
いた。仕事らしい仕事をさせてもらえない…といつも言っていたじゃないか。耕一は心の中で
呟いた。とぼけて見せたのは、梓のやさしさだろう。耕一は何も言わなかった…違う、言えな
かった。

『楽しみだよな、耕一』
『一緒に行ってもいいですか…耕一さん』
『みんなで行こうね、お兄ちゃん』
 ――彼女たちの気持ちを知っていたから。

「あっ、ごめんなさい。私ったら予定も聞かずに四人分も作っちゃって……そうね、じゃあ会
社に持っていきましょう。みんな喜んでくれるかしら…」
 耕一は心の中で、ごめん…と謝った。

 玄関にて靴を履き終えた耕一が、家の中に向って声をかける。
「それじゃあ行ってきます、千鶴さん」
「はい、妹たちをよろしくお願いします」
「あれ? 千鶴お姉ちゃん、手に持ってるもの何?」
「あっ、これ? お弁当よ」
「――べっ、弁当!? それ、千鶴姉が作ったのか!?」
「そうよ、何か文句あるぅ?」
「…台所の惨状はそのためか。まったく……言ってくれれば、あたしが作ったのに。まっ、そ
れはいいとしてさ、あたしたちは何食べようか、耕一」
 一瞬、千鶴は動揺する。
「えっ…」
「ばっ、ばか…梓」
「なにぃ! ばかとはなんだよ――」
「もう…、日が暮れちゃうわよ二人とも。電車の時間はいいの、梓?」
「あっ、そうだ。それじゃ、行ってくるよ千鶴姉」
「「「いってきま〜す」」」
「はい、行ってらっしゃい。お土産、忘れないでね」
 千鶴は精一杯の笑顔で見送った。そして……

 ゴトッ…。床に落ちる弁当箱。
 千鶴は悔しかった。そして、悲しかった。それは、耕一が自分を騙したことではなく、未練
がましく好意を押し付けようとした自分に対しての気持ちだった。
(私って、どうしてこうなのかな? どうして、自分の気持ちを素直に言えないのかな?)
 視界が歪む。千鶴は知らず知らずのうちに、涙を流していた。
 と、そのときガラガラガラッ…と玄関に人影が現れる。千鶴は目のまわりを擦りながら、
「あら、何か忘れもの?」
 と訊く。しかし、目の前に立っていたのは見覚えのある刑事であった。
「……どうも」
 刑事の名は柳川。眼鏡の奥から覗く、猛禽類を思わせる瞳が印象的だと千鶴は思う。
「あの…また何か?」
「いえ…二、三確認したいことがありましたので…」
(柏木千鶴…今一度、拳を交えてみたいものだな。まあ、今日は顔見せというところか…)
 柳川は、本当に簡単な質問をしただけですぐに帰ろうとする。これには千鶴も拍子抜けだっ
た。この刑事はいったい何をしにきたのだろうと、千鶴は思う。
「えっ、もう終わりですか?」
「まだ、何か?」
 今度は柳川が訊く番だった。千鶴は、暫し言葉に詰まっていたが、やがて床の弁当箱を拾い
上げると、
「もし、お昼まだでしたら、これ…どうぞ召し上がってください」
 と、目の前の男に向けて差し出した。柳川は、いや私は…と言いかけたが、何かを思い出し
たような素振りを見せ、
「では…いただきます」
 と、弁当を受け取り、そして帰っていった。

 柳川はその後、警察署には戻らずに自宅のあるマンションに向った。そして、自分の部屋の
隣、401号室のノブをひねる。カチャッ…いつもどおり鍵は掛かっていなかった。
「貴之…昼飯持ってきたぞ」
 虚ろな目をした青年は、返事をするでもなく床の一点をじっと見つめていた。
「いつもコンビニの弁当じゃ味気ないしな、たまには手料理も食べたいだろう」
 そう言って、その貴之と呼ぶ青年の前に弁当を置く。
 …やがて、一時間くらい経った頃、ゆっくりとした動作で貴之は弁当を食べ始めた。すると
貴之の身体は小刻みに震えはじめ、やがて痙攣しだした。
「……うぅ…ぅぅぅ……うぅぅぅ……まず……」
 両目から大粒の涙を流す、貴之。
「……い……うぅぅ…あぁぁ……ああああぁぁ……やっ、やなが…わ…さん……柳川さん!」
「貴之!? …貴之、貴之なのか?」
「柳川さん…俺……俺……柳川さん! 助けてくれたんだね、柳川さん」
「たかゆき〜〜!!! もとに…もとに、戻ったんだな!!!」
 そのとき、柳川は生まれて神に感謝した。

 …次の日。
 らん、らんらららんらんらん、らん、らんららら、らんらん、らんらららんらんらん、らら
らららんらんらん、らんらんらんらんららららら……
 鼻歌を歌いながら、弁当を作る千鶴の姿があった。耕一たちは、あまりの変貌ぶりに驚きを
隠せなかった。が、実は昨日の夕方、柳川が感謝の言葉と共に弁当箱を返しにきたのが原因で
ある。自分の作った食事が、人の役に立ったことは千鶴にとって至上の喜びをもたらしたのだ
った。

「ごめんください」
「あら…柳川さん、いらっしゃい」
 出迎える千鶴に対して、深々を頭を下げる柳川。
「昨日はどうも」
「いえいえ、とんでもない。私は当たり前のことをしただけですから…あっ、そうだ。はい、
お弁当」
「それでは、失礼します」
 最後まで慇懃(いんぎん)な態度を崩さず、立ち去る柳川。それを見ている楓。
「…………」

「おや、柳川君、今日は弁当ですか? めずらしいですねえ」
「ええ、これは特別なんです」
 上司にも笑顔で応対する柳川。それは、彼自身も驚く程の変化であった。柳川は弁当に一礼
した後、おもむろに箸をつけた…
「!!!!……うっ…うがががががぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 のた打ち回る柳川。急いで、洗面所まで行きすべてを吐き出した。
(毒!?)
 やがて、柳川の目付きが鋭くなっていき、正面の鏡を睨み付けた。
「くっくっく…そうか、そういうことか、柏木千鶴。敵とは馴れ合わない…ということだな。
そうだ……忘れていたよ、俺たちが狩猟者だってことをな!!」
 柳川の瞳が妖しく光る。

「いいだろう………柏木千鶴、お前を狩る!!」
                                       おわり
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

>久々野 彰さん
 千葉県のプロバイダでしたら、peanetなどはどうでしょう?
 料金は標準ですが接続性の高さをうたっているだけあって、電話をかけてもつながらないこ
とはほとんどないそうです。まあ、基準にはできると思います。下にリンクを張っておきます
ね。
 デンパマン…サオリーナよ永遠に…やられ役であれ!
 前にも言ったかも知れませんが、久々野さんのすばらしいところは自分の感情の奥底の部分
を直に表現できるところだと思います。故に、あのような実のあるキャラクターを生み出せる
のではないかと…。とりあえず、一つだけ確実に言えるのは『自虐の唄』を書けるのは久々野
さんしかいないってコトですよ。
 それでは、紅い久々野さんを、お待ちしております。

おまけ: ここは寂れた酒場、歌姫セリオがギターの弾き語り。実は電波伯爵の…

 ネタが欲しいと、言うの?  薔薇の? それとも百合?
 壊れ果てた者たちも デンパ(マン)が見たいと騒がしい
 誰でも マルチ話 一つや二つ
 大事そうに語るけれど  私の(作品は)少ないの…