まにひとりひと 第八章「いつか果たされる約束」 1/2 作者:無口の人
「鉄郎、無口の人の名を目にしたら、『内容が目に入る前に読み飛ばせ!』。どんなに相手が
懇願しようが、かまわず読み飛ばせ…それがこのコーナーを生き抜いていく方法だ」
 ごめんなさい、皆様。どうか、読み飛ばして〜。下の題名が変です、ごめんなさい。
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【前章のあらすじ】
  ドクトル・ヒロの目の前で、ひかりを弄(もてあそ)ぶ吉川。飛び掛かろうとするヒロを押
 さえつけたのは、吉川によって従順な殺人マシンにされた『タカユキ』という男だった。
  乱闘の中、生体組織の隠された性質を告げる来栖川芹香。
  そして、長瀬源五郎の命と引き換えに、戦いの第一幕は終了する。
  今は猫の姿をしているセリオと共に、ヒロは研究所を後にする。いつか、ひかりを助けに
 行くことを心に誓いつつ……。

【西暦2063年 5月×日 コロニー『クルス・シチ』 貧民街】

 …あれから四○年。地球を襲った巨大な隕石は、地上に甚大な被害をもたらした。だが、人
類にとってそれが脅威であったのは、その破壊力よりも、むしろ隕石そのものの性質によると
ころが大きいだろう。
 あの年以降、人類の出生率は極端に低下した。それが、地球磁場の一部消失による宇宙放射
線の影響だと発表されたのは、隕石の落下から五年も後のことであった。既に弱体化し始めて
いた各国政府の対応の遅さに業を煮やした、有力企業・財団は独自に磁気シールドで覆われた
人工都市(コロニー)を建設していた。

 来栖川グループが建設した最初のコロニー『クルス・シチ』
 ここは、その一角に位置する貧民街(スラム)
 人口が激減したとはいえ、すべての人々が住むにはコロニーの数は明らかに不足している。
そのため、他のコロニーのように厳格な植民規制を行わなかった来栖川のコロニーには、行き
場を失った人々が殺到した。そんな招かれざる人々が、この貧民街を構成している。

「マニヒちゃ〜ん、包帯お願い」
「あっ、はい〜」
 俺たち(俺とマニヒ)は、貧民街の中の病院で働いていた。ひかりの情報を得るためには、社
会生活に馴染んでおいた方がいいという、俺の判断である。もっとも、働いてるのは主にマニ
ヒの方であったが…。俺の方はと言うと、マニヒに組み込まれた医者のプログラムということ
で納得されていた。
<えっとぉ、包帯は……>
<右斜め前……ちょい下!>
 こうして目の見えないマニヒをフォローするのも、今ではほとんどなくなっていた。かつて
先輩が言っていたように、生体組織は生き物の感情を具現化する力がある。『見たい』と思う
ことによって、目が見えなくとも身体で感じることができる…らしい。ただ、俺のように少々
疑い深い人間は、『見たい』と思うと同時に『見えるわけねーだろ』と思ってしまうらしく、
うまくいかないのだが。その点、マニヒのように純粋だとその効果も凄いわけだ。

「マニヒちゃん! 急患ですって! すぐに、ドクトルになってもらえる?」
「おおっ、いつでもオーケーだぜ!」
 俺が笑顔で答えると、看護婦さんは引きつった笑顔で答えてくれた。

 お世辞にも衛生的とは言えない手術室に入ると、既に患者が寝かされていた。
「容体は?」
「患者は車と接触した際、頭を強く打ったらしいわ」
 この病院にはCTはおろか、レントゲンすらない。
<マニヒ、わかるか?>
 こんなとき、マニヒに訊くのが通例になっていた。初めのころはその非凡な能力に感嘆して
いたが、人間とは都合のよい生き物らしく、いつのまにか馴れて今では日常の一部と化してい
る。
<はい、からだにはとくに異常はないようです。あっ! 頭に血がたまっているようです>
 マニヒを通して患部のイメージを見る。脳内出血…間に合うか…
「できるだけ人数を集めてくれ!すぐに手術を開始する」
「…ドクトル、これで全部です」
 たったの四人か!? …しかたがない、助手一名、麻酔医二名、バックアップ一名ってとこ
か。俺はメンバーに役割分担と手術の経緯を説明した。

「それでは始めようか……………はっ!?」
 ――あかり………なのか!? そのとき初めて患者の顔を見た俺は、目の前の老婆に愛する
妻の面影を見る。……見間違いじゃない、どんなに年月を経ようとも俺があかりを忘れるわけ
がない。
「ドクトル、どうかしましたか?」
「いやっ…麻酔の投与を開始してくれ」
 まさか、こんなかたちで再会しようとは…。運命とは皮肉なものだな……いや、あかりが生
きていてくれただけでも、感謝しなければいけないか。…あかり、生きてくれ。…あかり、死
ぬなよ。…あかり…あかり…あかり。

 もう一度………あかりと話したい。 ――俺は願った。
 もう一度………あかりの笑顔が見たい。 ――心の底から。

 ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…
 ふいに心拍音を感じる。あかりの方を見ると、実像にダブって、見えないはずの患部がはっ
きりと見てとれる。それどころか、血液や神経パルスの流れさえも感じることができた。

 俺はいま、はっきりと自覚する。これが、生体組織の力なんだ。――禁断の力? いや、今
はそれが何であろうとかまわない。…あかりを救えるのなら。

 俺は麻酔が効いたのを確認すると、あかりの髪を剃り始めた…むろん、必要最低限だけ。な
んたって髪は女の命だからな。そして、エアドリルで頭蓋骨に穴を開ける。
 あかり…今助けてやるからな。

 …三時間後。
 俺は、ベットに横たわるあかりを見ていた。その顔からは、彼女の歩んできた道が決して平
坦なものじゃないことが忍ばれる。
「すまない、あかり。俺はお前の傍にいてやることができなかった。約束したのにな、ずっと
傍にいるって。すまない、俺はお前を幸せにできなかった。いや、あかりだけじゃない。マル
チもひかりも……俺は…俺は………オレは…」
「…浩之ちゃん」
 はっ! 呼び声に俺は顔を上げる。まだ、麻酔が効いているはずだが…
「…ふふふぅ、だめだよ浩之ちゃん、ちゃんと朝食食べなきゃ」
 ……あかり。夢を見ているのか?
「ほら、ひかりからも言ってあげて。『ひろゆきちゃん、あさごはんたべて』って」
 浩之ちゃんじゃなくて、パパだろ……
「もう、マルチちゃんったら甘やかしちゃだめよ…ふふっ」
 ……あかりぃぃ!!
 俺はベットの端に顔を埋め、そして…泣いていた。

「浩之ちゃん、私幸せだよ。とっても、とっても幸せだよ」
「あかりぃ! あかり、あかり、あかりぃぃ!!」
<ヒロさん……>
 すまない、マニヒ。今は独りにしてくれ。
 俺は泣いた…もう涙は流すまいと思っていたのに。…どれくらいの時間が経ったのだろう?
五分か?、三○分か? そして……俺はもうあかりとは会うまいと決心した。そう、俺にはや
らなければならないことがあるから。

「あかり、すべてが…すべてが終わったら必ず迎えにいく。だから、それまで待っていろよ」
 俺はそう言って立ち上がり、病室のドアに手をかけた。
 カチャッ
「ふふふっ、約束だよ…浩之ちゃん。みんなで海外旅行行こうね」
 ああっ、約束だ…あかり。俺は心の中で呟きながら、ドアを閉めた。

 バタン…
「約束だよっ」
                                   2/2へつづく
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 とってもわかりづらいレス…Vol.1
【鈴木R静さん】貴方のアルルさんへの熱き想いに乾杯!【久々野彰さん】葵ちゃんのことだ
から、盗ったショーツにアイロンかけてたりして。瑠璃子って恐い。遅れ馳せながら、生誕記
念日おめでとう。耕一の優しさが結局、梓を傷つけてしまったのが印象に残りました。浩之…
命があるだけでもめっけもの?葵はきっとカフェオレにも勝てないと思ふ…。好恵…他人とは
思えない…。【鈴木夕美さん】どこにもいない=どこにでもいる、とフェザースターの人が言
ってましたね。【u.gさん】いまや伝説となった小説…続きはあるのでしょうか?【OLHさん】
千鶴さんはきっと、エミューとか食ったんでしょうね。あかりが見ているのは永遠の夢?吸血
姫…【風見ひなたさん】マルチと共に破滅を選んだ浩之は、それでもきっと幸せだったのです
ね。誰が一番の悪なのか?それは、雅史…なんですね。まともモード?のさおりんには、ほろ
っときてしまいました。超極悪雅史…やはり雅史ラブなんですね、風見さん?柳川いいやつ!
【カレルレンさん】あかりの忍ぶ愛、感動です。浩之にはもったいないです。【へーのき=つ
かささん】最後までテンションが高いままなのはすごいです。ツキシーマってキータクラーみ
たいですね。【ゆきさん】千鶴さんが孤独から解放されてよかったです。ハッピーエンドなの
かな?メタルタケダテルオ…壊れてるぅ!【SRSさん】エルクゥ・ボンバーの効かない人間
がいるなんて…某靜さんってすごい。【岩下信さん】瑠璃子の願いが、とても切なげですね。