「将軍、申し訳ございません。後一歩のところで賊を取り逃がしてしまいました」 頭を深く垂れ、いかにも悔しそうな声で浩之は報告した。しかし・・・ 「・・・・・・」 返事はない。 (ははぁ、マルチの奴やるな。黙っておく事で威圧感を見せてるんだな) 沈黙の意味をそう取った浩之は、脚をガタガタと震わせて見せた。 少々過剰演出な気もするが、まあ乗ってやろう。 「・・・・・・」 しかし、相変わらずマルチは沈黙を保ったままだ。 重苦しい雰囲気も、そう長くは続かない。焦った浩之は恐る恐る顔を上げる振りをした。 「将・・・軍・・・・・・?」 見れば、マルチは何やらむず痒いような顔をしていた。 「マルチ将軍・・・?」 「あ〜、う〜」 泣きそうな顔でうめくマルチ。 羞恥のためか、真っ赤に染まった頬の上に、涙を浮かべた瞳があった。 ・ ・ ・ 「だああああああーーーーっっ!!!」 浩之は叫ばずにはいられなかった。 それもそうだろう、もう9回も同じ事をやらされているのだから。 今度こそは、というマルチの言葉を信じたのだが、過剰な期待を持った事が余計に腹立 たせた。 「あわわわわ〜、すびばせ〜ん」 早くも半泣きなマルチ。 「あのなあっ!」 ビクッとマルチが身体を縮こませる。 「あっ、悪ぃ」 ちょっと声を荒げすぎた。 なるべく優しく、子供を諭すように語り掛ける。 「マルチ」 「うぅ〜、ヒック、ヒック」 「なあ、マルチ。仕方ないだろ、くじ引きの結果、将軍役になったんだから」 「うっ、うぅっ」 「確かにマルチには向いてないだろうけど、所詮お芝居じゃないか」 「でっ、でもぉ〜、っやっぱり出来ないんですぅうぅぅっ」 「・・・解った、じゃあ止めにするか」 「そっ、それは駄目です〜」 「じゃあ、もうちょっとだけ、頑張ってみろよ」 「うっ...」 「なっ?」 「・・・・はいっ、浩之さんもう一度お願いします!」 「よっしゃ!!」 今までの失敗で、大体の事は分かっている。 単に原因は、アガリ性な所にあるわけだ。 自分の台詞を忘れてしまうから、先に進まないのだ。ならばーーー 「マルチ。とりあえず台本見ながらで良いから、先ずそこから慣れていこう」 俺はそう言って台本を手渡す。 -------------------------------------------------------------------------------- 部下:「将軍、申し訳ございません。後一歩のところで賊を取り逃がしてしまいました」 将軍:「なんだと!」 部下:「申し訳ございません!!」 将軍:「何と言う事だ。折角の私の勝利が台無しではないか」 部下:「申し訳ございません・・・」 将軍:「まったく。貴様達は後片付けすら出来ぬのか、情けない。恥を知れ、恥じを」 部下:「・・・・・・」 将軍:「ふん。まあ良いわ。元より貴様等になど期待してはおらん。」 部下:「・・・・・・」 将軍:「もう良いといってるのだ。とっとと出て行くがいい」 部下:「ははっ!」 -------------------------------------------------------------------------------- 「じゃあ行くぞ。いいな?」 「はいっ」 浩之:「将軍、申し訳ございません。後一歩のところで賊を取り逃がしてしまいました」 マルチ:「なんだと!」 浩之:「申し訳ございません!!」 マルチ:「何と言う事だ。折角の私の勝利が台無しではないか!」 浩之:「申し訳ございません・・・」 マルチ:「まったく。貴様達は後片付けすら出来ぬのか、情けない。恥を知れ、恥じを」 (むかっ) 浩之:「・・・・・・(何かムカツク)」 マルチ:「ふん! まあ良いわ。元より貴様等になど期待してはおらん。」 (むかむかっ) 浩之:「・・・・・・(落ち着け、これは芝居だ・・・)」 マルチ:「もう良いといってるのだ。とっとと出て行くがいい」 (むかむかむかっ) 自然に目つきが険しくなる浩之。 マルチ:「なんだその目つきは!!!」 そんな台詞は台本に無い。 (野郎ぉ、アドリブまでかましやがった。調子に乗りやがって〜) 浩之:「・・・・・・」 ずかずかと、マルチの前に詰め寄る浩之。 ちょっと殺気立っている。 その気配を感じたのか、マルチの表情が変わる。 「え?え?え? 浩之さん?」 ずかずかずか。 そのままマルチの前に立ったかと思うと、口の端を掴んでから、にやぁっと笑って。 ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐに!! 「ふぉうぇうぇうぇうぇうぇうぇうぇうぇうぇ〜〜〜〜〜〜!!!」 結局、劇は中止となった。 (終) -------------------------------------------------------------------------------- ぐわ、まともっぽいの書くと文章力の無さを暴露してしまう・・・ ああ、今日レポート提出なのに・・・