『愛の暴走』 注意:ここに登場する人物は実在の人物では御座いません。ご注意して下さい(笑) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 私が下駄箱の蓋を開けると、3通の手紙が入っていた。 ―――1通目。 『 愛しのハニー。君はもう僕のものだよ。日曜日8:00に駅前で待っている。 ゆっくりと愛について語り合おうじゃないか。 ―― Takuya Tukishima ―― 』 ―――2通目。 『 かおりさま。初めて見た時からあなたの事が忘れられません。日曜日10:00に 駅前のモニュメント前でお待ちしています。 ―― あなたに恋する 長瀬祐介 ―― 』 ―――3通目。 『 日曜日は外に出るな。お前に不幸が訪れる。 ―― K.K ―― 』 「うふふ、私って罪作りな女ねぇ。でも、お生憎さまだけど、日曜日はお姉さまと デートなの。ごめんね ☆」 私はそう言うと、重ねた3通の手紙を破り捨てた。 そして、その事を私はすっかりと忘れてしまった。 ・ ・ ・ ――― そんでもって、日曜日12:00駅前。 ――― 一人目。 「やあ、待っていたんだよ、愛しのスイート・マイ・ハニー」 街中で私を呼び止めた男は、軽いステップを踏みながらそう声を掛けてきた。 ラメ色のシャツはフリル付き。金ボタンのピンクスーツに黄緑の革靴。 そのくせ、理知さを滲ませた顔だちは、アンバランスな故か不気味さを醸し出している。 「約束の時間に大分遅れているけど、まあいいさ。僕は心が広いんだからねぇ」 そう言って男は、少しヨレヨレになった真っ赤な薔薇の花束を、私の前に突き出した。 「・・プレゼントだよ。君の美しさに、カ・ン・パ・イ ♪」 どげしっ!!! 電光石火の私のハイキックが男の顔面を見事に捕らえた。 一瞬のラグをおいて、男はその場でそのまま崩れ落ちる。 私はホコリを払うと、何事も無かったことにしてその場を去った。 ――― 二人目。 「あっ、本当に来てくれたんですね、かおりさん。嬉しいなあ、僕」 気安く私の名前を呼びながら、近寄って来たのは、ひ弱そうな少年だった。 根の暗そうな表情と、意志薄弱そうな瞳の陰りと、その奥の妖しい輝き。 ぼさぼさ頭にセンスの欠片もない服装は、まるでどこかの宗教団体のようだ。 「あの・・これ。プレゼントです。一生懸命、貯めて買ったんです」 恥じらうように、可愛らしいリボン掛けの小箱を、少年は取り出した。 胡散臭そうに私は受け取ると、耳元で小箱を軽く振ってみせる。 「・・ネックレスです。ちょっと高かったけれど、気に入ってくれたら嬉しいです」 「・・そう。それじゃあ、これだけ貰っておくわ。ありがと。じゃ・・」 私は無感情にお礼を言うと、すたすたと先を急いだ。 少年は何か言いたそうだったけど、一瞥するとついて来なかった。 「・・ちっ、3万円とは、シケてるわね」 取り敢えず、ホテル代は確保できたようだ。 ――― 三人目。 「・・忠告はしたはずだ・・。これ以上、お前を行かせるワケにはいかない」 道行く私の前に立ちはだかったのは、暇なビンボー大学生だった。 確か、お姉さまの家に居候になっている、何とかという甲斐性無しのスケベ男だ。 凝りもせず、また私の前に姿を現す所を見ると、まだ、自分のことをわかってないらしい。 「俺の梓を毒牙に掛けようと謀るお前を、これ以上、野放しにはできない!!」 大学生はそう言うと、体を震わせて、何かを開放しようとし始めた。 「・・ふっ」 私は冷笑すると、絹を裂くような乙女の悲鳴を張り上げた。 見る見るうちに野次馬が集まり、心強い警察官の人たちがやってきた。 「・・この人、変質者なんです。どっかに連れてって下さい」 大声で無実を主張する大学生が、手錠を掛けられて連行されていく。 これで、邪魔者は排除できたようだった。 ――― そして。 「お・ね・え・さ・ま ☆ 」 リズミカルに私が呼ぶと、少しビクッとしてお姉さまが振り向いた。 うふふ、ビクビクしちゃって、何だか新鮮って感じがするわ。 「・・お、おう。よお、他のみんなは一緒じゃないのかよ?」 「ええ、みんな、急用ができちゃって、来れないんですって、うふ ☆」 サーーーッと、お姉さまの顔から血の気が引いていくのがわかる。 ふふ、照れちゃうなんて、ホント、お姉さまって可愛いのね。 「・・わ、わたし、やっぱり・・」 「さあっ!!みんなの分まで、いっぱい楽しんでいきましょうね、お・ね・え・さ・ま☆」 お姉さまの腕を引っ張りながら、走り出していく私。 うふふ、今日は最後まで二人の愛を確かめ合えそう☆ < おわり > ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――