『明日に向って』 投稿者:まさた
PART1「明日に向って挑戦」
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それは、ある晴れた日の夕方のこと。
松原葵はいつもの日課をこなそうと、放課後の神社に向かっている時だった。

「・・葵、待ってたわよ」

人通りの少ない路中で、何処かしらからか葵を呼ぶ声がする。不敵な高笑いを辺りに撒き散ら
しながら、電信柱の後ろから姿を現したのは、一学年先輩の坂下好恵だった。

「・・よ、好恵さん・・」

葵は気まずい顔付きで、苦笑いの挨拶を交す。無理もない、先日の試合で勝ったとはいえ、
葵にとっては、昔からの上下関係が変わるワケではない。むしろ、好恵の対面を潰した、
その気持ちの方が大きかった。
そんな風に、ひとり勝手に思い込む好恵は、葵を見て鼻先で笑う。

「ふん。相変わらずなのね、葵は。まあいいわ。それよりも、葵・・」

好恵はゆっくりと葵の前まで歩いてくる。そして、ビシッと人差し指を葵に突き立てた。

「もう一度、私と勝負しなさい!!」

ドンガラガッシャーーーンッッ!!と、好恵のベタ塗りのバックに雷が落ちた。二人の間を
通り雨が駆け抜けていく。
何も言えないでいる葵を見て、好恵はクスリと微笑んだ。

「・・ふふふ、声も出ないようね、無理もないけれど。前回の戦いは見事だったわ。葵にあれだけ
 の力が付いているなんて思わなかった。でも、あれが私の全てだなんて思わないで欲しいの
 よね。今度は手加減無しで私も行くわ。それだけ、あなたのことを認めているってことなのよ」

突然の馴れない事で、戸惑いの色を隠せない葵。やはり、相当のプレッシャーを感じているの
だろう。綾香に次いで好恵までライバル視をしているのだ。無理もない。
そう勝手に思い込んでいる好恵は、不敵の笑いを見せる。
すると、ようやく葵が、戸惑いながら口を開き始めた。

「・・・あ、あのぅ・・」

言葉を促すように「ん?」と好恵が聞き返す。

「・・好恵さん、何度やっても同じだと思うのですよね、もう・・」

ガコンッッ!!と特大金槌で殴られたような衝撃を好恵は受けた。一瞬、ブラックアウトしかかっ
たが、何とか気力で持ち堪えてみせた。空手で鍛えた精神力があったからこそだった。

「・・は・・・はは・・はははは。い、言ってくれるじゃない、葵。わ、私も、軽く見られたものねえ〜」

好恵は崩れた顔のバランスを修正を行いつつ、何とか笑いを取り繕いながら言う。
しかし、吊り目掛かった葵は、ニヤリと笑いながらボソリと呟いた。

「・・・わたし、弱い者苛めはキライなんです」

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「・・・もう、今日は燃えるゴミの日でしょう。誰よ、こんなモノを捨てたのは!!」

道角のゴミ捨て場に、生ゴミを捨てに来たオバチャンが、石像と化した好恵を叩きながら、文句
を言った。




PART2「明日に向って特訓」
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明け方のまだ肌寒さが残る朝。
松原葵がいつものように、早朝ランニングで学校まで走っている時だった。

「・・待ちなさい! 我がライバル、松原葵!!」

辺りに響き渡る大声が、走る葵の足を止めさせる。不敵な笑いと共に、家の石垣の上に姿を
現したのは、言わずと知れた坂下好恵だった。
好恵は「とうっ」との掛け声と共に、軽やかな身のこなしで葵の前に着地した。

「・・よ、好恵さん」

驚きを顕わに葵は狼狽した。好恵のその跳躍は華麗だった。それでいて、武術のセンスにも
精通する輝きがある。以前とは動きが違うことが明らかにわかるのだ。
そう、ひとりで思い込んでいる好恵は、細く微笑んで葵を見た。

「・・しばらくね。一週間ぶりだったかしら?」

好恵はゆっくりと葵に近付くと、右斜め45度の角度から、鷹のような鋭い眼光で睨んだ。

「ちょっと、山篭もりしてきて、武道の何たるかを見極めてきたわ。もう、相手にならないかも
 知れないけれど。・・葵、私と勝負しなさい!!」

ザッパァァァーーーンッッ!!と、好恵の岩場バックに荒波の飛沫が飛んだ。二人の間を、どこ
からか潮が満ちていき、また退いていく。
声も出せないでいる葵を見て、好恵はクスリと微笑んだ。

「・・ふふふ、言葉が出ないのも、無理ないわね。人知を超える荒行だったわ。大岩を砕き、絶壁
 をよじ登り、滝に打たれる。・・そう、絵で描くと、こんな感じね」

好恵は取り出したスケッチブックを葵に渡す。そこには、幼稚園児的表現力で、好恵おぼしき
人物が描かれていた。空手着を着込んだ好恵を中心に、山、滝、岩らしき物が周りに描かれて
いる。ご丁寧に「わたしって強いぜ!!」というセリフ入りだ。
こんな絵でも、画力に自信があった好恵は、慢心の笑みを浮かべて葵を見やる。
すると、ようやく葵が、放心していた口を開いた。

「・・絵、ヘタですね。目の毒です」

葵はそう冷ややかに言うと、スケッチブックを道路に捨てた。

「・・それじゃあ。わたし、好恵さんと遊んでいるヒマないですから」

葵は冷酷に言い放つと、スケッチブックをにじり踏んだ。そして、好恵の横を素通りして行く。
ピキキッ!!と好恵の心にヒビが入る。好恵の精神はガラスが砕けるよな崩壊をしかけたが、
何とか気力で持ち堪えてみせた。空手で鍛えた精神力があったからこそだった。

「ま、待ちなさい、葵! 私はこの日の為に、この一週間、死ぬ気で特訓してきたのよ!!」

好恵は引きつる顔を懸命に押さえながら、行こうとする葵に必死に食い付く。
しかし、吊り目掛かった葵は、ニヤリと笑いながらボソリと呟いた。

「・・・好恵さんって、ヒマ人なんですね」

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「・・・お嬢ちゃーん! そこ、退いてくんなきゃ通れないんだよ!!」

嵐のような自動車のクラクションが鳴り響く中、真っ白に灰と化した好恵に向って、運転手たち
が叫んでいた。



                                             < 終わり >
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かおり「こんにちは、みなさま。かおりです」
ゆかた「こんにちは、みなさま。ゆかただにゃ♪」
かおり「『明日に向って』をお送りしました、お楽しみ頂ければ、幸いです(^^)」
ゆかた「今日はまさたちゃん、お休みなんだにゃ〜。何でも忘れた心を拾ってくるそうだにゃ〜」
かおり「忘れたって、外道のとこでしょ? いらないわよ、まさたにそんなもの」
ゆかた「そうかにゃ〜? でもでも、必要だって言っていたんだにゃ」
かおり「だって、この葵も立派に外道で鬼畜よ。好恵さんが可哀相になるくらい(涙)」
ゆかた「でも、これはキツ過ぎるって言っているにゃ。もっと、ソフトな外道が必要だってえ」
かおり「外道にソフトもハードもあるのかしら?」
ゆかた「うーん、わかんないにゃあ?」
かおり「まあ、いいけどね・・」
ゆかた「ふみゅう」
かおり「それではみなさま!」
ゆかた「また、りーふ図書館で!」
ふたり『お会いしましょう!!』
ゆかた「にゃ〜〜♪」