AC/Leaf MIssion6:暴走MT破壊 〜再会と暗躍と〜 投稿者:刃霧星椰 投稿日:3月2日(金)12時51分
『――ということで、彼をそちらに派遣する』
「…………本気か?」
拓也の問いに、通信機の声は忍び笑いを漏らした。
「何がおかしい? こんな話、普通ならば信じないと思うが?」
『いや、失礼。しかし、私が約束を違えたことがあったかね?』
「…………」
拓也は黙り込んだ。
確かに、この通信機の向こうにいる人物は自分との約束を違えたことは一度もない。
拓也たちの使うACやMTの補給なども、この人物によるものだ。
しかし、彼と顔を合わせたことは一度もなく、また素性がはっきりしないことも事実だ。
どこかの企業、あるいは組織の幹部のようであることはつかめたのだが、それ以上は無理だった。
「……まぁ、いいだろう。しかし、あなたが僕に何をさせたいのかがわからないんだがね?」
『君のやりたいことをやりたい通りにやってくれればいい』
「それがそちらの利益になる、と?」
『今のところは、そうだと言っておこう……これ以上は誰かに聞かれるかもしれない。通信を終わる』
一方的に通信を切られた。
「……拓也さん?」
「香奈子くんか……」
「あの人、信用できません。私たちを利用しているだけのような気がして……」
香奈子が不安げに、後から椅子に座る拓也の首に腕を回した。
「それは、初めから判っていたことだ。だから、こちらもヤツを利用しているだろう? 危なくなった
 らそのときは手を切るさ」
「…………」
香奈子の腕に優しく手を重ねて、拓也は言った。
香奈子は黙っている。
危ないと判ったときには遅いかもしれない。
そう思ったが、どうしても言えなかった。
「次の作戦に移る。これで失敗したら……瑠璃子たちのことは諦めよう」
虚空をにらみつけ、拓也は香奈子の腕を引き離した。


ARMORED CORE Featuring Leaf
Mission 6:暴走MT破壊 〜再会と暗躍と〜


ジィ、とレーザー光がACの装甲を灼く。
灼かれた場所が、ボン、と小規模な爆発を起こした。
『勝者、ムネモシュネ!!』
大型モニターに「KOTONE WIN」の文字が映り、点滅する。
ワ〜!!
アリーナにレフェリーの声が響き、会場が歓声と落胆のため息に包まれる。
勝利をおさめた、ピンクのイルカのエンブレムを持つ明灰色のAC「ムネモシュネ」がその騒音を背に
ガレージへと帰っていく。
「2分37秒……さすがね」
「琴音ちゃんも努力してるからな」
観客席で綾香は感嘆の声を漏らし、浩之はうんうん、と頷いている。
「努力と言っても、数回のアリーナ戦とシミュレーターだけでしょ? やっぱり強化能力を持ってると
 違うのかしら……?」
「あのな、琴音ちゃんは強化人間とは言っても、キャノンの構え撃ちはキャンセルできねぇし、光波も
 撃てないんだ。せいぜい体内レーダーくらいしか違わないんだぜ」
「冗談で言っただけよ。彼女の努力は認めるわ。それに今回はお祭りのイベントと言っても一応公式戦
 だからアレは外してるし」
それでここまでやれば大したもんだ、と綾香は言った。
実際、琴音はよくやっている。
来栖川重工のAC研の作った武器やパーツの試作品のドライブテスト、AC工学や生化学の勉強、そし
て父親の研究のサポート、そしてAC操縦の訓練。
シミュレータには浩之も付き合ったことがあるが、琴音はそのたびに強くなっていた。
プラスだということを抜きにしてもその上達ぶりは異常である。
それに、彼女の性格上、自信過剰になることもまずない。
理想的なコンディションだと言えた。
「さて、琴音ちゃんに挨拶しとくかね」
よっ、と浩之は立ち上がった。
「次の試合、見ないの?」
「ん〜、やめとくわ。琴音ちゃんに挨拶したら部屋に戻ってあかりたちと出かけるんだよ。かまってく
 れないって拗ねてるもんでね」
それを聞いて綾香は苦笑した。
「お姫様3人もいると大変ねぇ」
「……そう思うならこんなとこに引っ張ってくるなよな」
「なんか言った?」
「いや、別になんにも」
それじゃ、と手を振って浩之は歩いていく。
出入り口に消える浩之を見送り、綾香はモニターを見た。
『最終試合はAC「アレイ」、レイヴンはルミラ=ディ=デュラル!! 対するは、AC「飛炎ver
 2、レイヴンは烈風!! 開始は10分後、それまではしばし休憩といたしま〜す!!』
アナウンス通り、モニターにも同じ内容が表示されている。
「ルミラ……? どこかで聞いた名前ね……」
そんな名前のレイヴンの記憶はないけど……。
どこで聞いたのか記憶の奥底を探りながら、綾香は試合の開始を待っていた。


「琴音ちゃん、お疲れさま」
ガレージにACをおさめた琴音がコクピットハッチを開けると、キャットウォークを整備主任の大江留
一が歩いてきた。
「あ、大江さん……やりました」
小さくピースする琴音。
「ああ、見てたよ。すごい上達ぶりだね……アレは付けてないのに」
ACのコンソールから琴音の耐Gスーツに繋がっている各種コネクタを外すのを手伝いながら大江は言
った。
「大江さんがこの子をちゃんと整備してくれてるからですよ」
琴音の言葉に照れたように、大江は頭を掻いた。
「あはは……琴音ちゃんだって、コイツの調整、毎日やってただろ? だからだよ。機械は、ちゃんと
 整備してあげればその分だけ応えてくれる……」
大江はムネモシュネを見上げる。
「ホントにそうですね……」
琴音も、そう答えて装甲表面を優しく撫でた。
「ところでさ、琴音ちゃん?」
「なんですか?」
呼ばれて、大江の方を向く。
「あのさ……今夜のお祭り……一緒に行かない? なんか、花火とかもあるみたいだし……」
「え……?」
顔を赤くして祭に誘う大江に、琴音は少し驚いていた。
「ダメ……かい?」
「あ、あの……」
どう答えようかと、迷う。
「おっす、琴音ちゃん、お疲れさん」
「え? きゃ!?」
「わ〜!」
「おわっ!」
いきなり後から声をかけられ、大江と琴音は飛び上がった。
浩之もその声に驚く。
「あ、ふ、藤田さん……」
「藤田くん……」
「い、いきなり大声出して、どうかしたのか、二人とも?」
「い、いえ……」
「な、なんでもないよ」
「そうか?」
3人で一息つく。
「それで、どうしたんですか?」
「ん、いや、さっきの試合、勝ったからさ、おめでとうって言おうと思ってね」
「はい、ありがとうございます」
律儀に頭を下げる琴音。
「藤田さんたちが訓練に付き合ってくれたおかげです」
「琴音ちゃんの実力だよ、がんばってたからな」
浩之は、謙遜するなよ、と言った。
「そういえば、もう一試合残残ってるんだろ? 見なくていいのかい?」
「あ〜、いいんだよ、今日は琴音ちゃんの試合見に来ただけだしな。出場してんのはルーキーばっかり
 だしな」
ひらひらと手を振って、大江の問いに答える。
『おまたせしましたぁ!! 本日の最終試合、ルミラVS烈風、堂々の開幕です!』
アナウンスが場内に響いた。
「始まったみたいだな……ま、いいか。それよりどうよ、二人とも、昼飯一緒にどうだ? あかりたち
 も一緒だけど、よければおごるぜ? 琴音ちゃんが勝ったお祝いだ」
そういって浩之は二人にウィンクしてみせる。
「え、でも……」
「琴音ちゃん、浩之くんのお言葉に甘えないかい?」
悪いから、と断ろうとした琴音を制止して、大江が言った。
バトル開始の合図が鳴り響き、砲撃音が聞こえ始める。
「よっしゃ、決まりだな。んじゃ、あかりたちは下のロビーで待ってるからさ、行こうぜ?」
浩之は琴音の腕をつかむ。
「そうだね、僕もおなか減ってるし」
大江も反対側の腕をつかんだ。
「え? え? あの、二人とも……」
そのまま琴音はずるずると二人に引きずられていく。
そして、ガレージのエレベーターへとたどり着く。
「さて、何食おうか?」
「ウェスタン料理なんてどうかな?」
「スペアリブとか、ですか?」
「お、いいねぇ〜」
やがて、扉が閉まり、エレベーターは下降を始めた。
そして、その直後、アリーナでは。
『勝者、ルミラ=ディ=デュラル! AC「アレイ」!!』
「う、うそでしょ……軽量級相手に、重量級で……」
綾香は驚いていた。
ほぼ無傷の、まだ煙が立ち上るジャイアントバズーカを携えた重量級AC、そして、無惨にフレームを
さらけ出している軽量級ACがバトルフィールドにいた。
電光掲示板には、<Rumira Win 0:48>の文字が光っている。
「一分かからないなんて……あのルミラってヤツ、何者なのよ……」
悠然と去っていくACを、綾香は呆然と見送った。


アリーナ管制室。
アリーナでの試合時に、レイヴンへのオペレートや各カメラの作動状況などを一手にコントロールする
センターである。
と同時に、タカヤマシティの全情報をも全て掌握している場所でもある。
その管制室に、柏木千鶴はいた。
「ルミラ=ディ=デュラル……強いのね」
モニターには、最終試合が映し出されていた。
「一応、タカヤマ市内に住んでいるみたいだよ」
千鶴のそばに立つ初老の男性が、手元のバインダーをめくりながら報告した。
「そうですか……」
「ちーちゃん、どうするんだい?」
千鶴は座っていた椅子ごと、男性の方を向き直った。
「足立さん……お願いできますか?」
にっこりと笑う千鶴。
それをみた足立の方は、仕方ないな、といった様子だ。
「わかったよ……交渉してみよう」
「条件は、柳川さんと同じ程度までなら譲歩します」
足立は書類を受け取り、管制室を出ていった。
入り口そばの壁により掛かっていた柳川は、足立がでていくとぼそりと呟いた。
「…………ずいぶんと気前のいいことだな」
「それだけの価値がある、と判断しただけのことです」
千鶴の答えに、ふん、と鼻を鳴らす。
「まぁ、俺にはそんなことはどうでもいいがな」
そう言うと、柳川は再び目を閉じた。
「あの、会長……」
オペレーターの一人が千鶴を呼んだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、あの、海水の精製施設からの定時連絡が来ないんです」
「モニターにマップを出してみて」
千鶴の指示で、モニターにタカヤマのマップと各地区の施設のマーカーが示された。
中央に管制センター、そして、病院やガードの駐留地区、汚水処理施設などの主な施設のマーカーが見
受けられる。
海水精製施設――タカヤマの生活用水を供給している――のマーカーも、映っていた。
「マーカーに変化は?」
「さきほど、一度消えかけたのですが、すぐに元に戻ったので機器の故障かと。直後に連絡したときに
 は以上なしとのことでしたし……」
千鶴の表情が微妙に不安げなものになる。
もし、何者かが侵入し、偽装工作したのだとしたら……。
もし、それが人でごったがえす今のタカヤマで噂となって広まったら……。
「柳川さん、調べに……」
千鶴が振り向いたとき、そこにはすでに柳川の姿はなかった。


「…………こっち……か?」
長瀬祐介は、地下水道を一人歩いていた。
何かが起こる予感がしたのだ。
正確に言うと、Σのうちの誰かが近くにいる、そんな予感が――確信に近かったが――していた。
瑠璃子や拓也ほどではないが、祐介にも近くに同じΣがいれば、感覚的にわかるのだ。
逆に言えば、祐介がいることも相手には判ってしまう危険もある。
しかし、Σがここにいるということは、何かが起こると言うことに他ならない。
そう思ったからこそ、「ACの調子を見てくる」と叔父に言ってこうして出てきたのだ。
「ここからはACじゃ無理か」
ACの通れない、人間用の通路に行き当たってしまったのだ。
祐介の感覚は、その奥に誰かがいることを告げていた。
コクピットハッチを開放し、飛び降りる。
マントとゴーグルは、いつもの通りだ。
通路を奥へと進んでいくと、左右に分かれていた。
しばし立ち止まって感覚をとぎすます。
やがて、祐介は右へと進み始めた。
しばらく進むと、今度は左に道が折れている。
だんだんと感覚が強くなる。
「この奥か……」
道に沿って左に折れようとした瞬間。
「!!」
とっさにバックステップを踏んでいた。
祐介が一瞬前までいた空間を、ものすごい暴風が襲った。
「貴様、ここで何をしている?」
「……あなたですか」
祐介は、目の前に立つ柳川を見ながら全身の緊張を解いた。
「何をしている、と訊いたはずだが?」
柳川の方は、未だ祐介を警戒している。
「Σの誰かがいるような気がして……来てみたんです」
「ふん……当たってるかもしれんな。この先の施設からの応答がない。俺はそれを調べに来た」
柳川は構えをとくと、きびすを返して通路の奥へと歩き出した。
祐介もそれに続く。
「おまえの仲間だとしたら、何をやらかすと思う?」
柳川の問いに、祐介は答えた。
「目的は……僕の抹殺と、瑠璃子さんを連れていくこと……でしょうね……」
「なるほど……確か、連中の頭は瑠璃子とか言う女の兄だったな」
祐介は黙っている。
あまり考えたくないことだった。
今は袂を分かったとはいえ、元々は自分と同じようにさらわれ、実験台にされた仲間なのだ。
研究所に軟禁されていたときは、拓也は優しかった。
絶望する他のΣを励まし、そして脱出する計画を立てたのも拓也だった。
幾人かのΣが処分されたとき、きっと拓也は祐介よりも怒っていたのだろうと、祐介は考えている。
そして、瑠璃子が「壊れて」しまったことに何よりも激怒し、テロまがいのことを始めた。
祐介や瑠璃子は何度も拓也を止めようとした。
全てを壊すよりも、同じ境遇の人たちを救うべきだ、そう訴えてきた。
結果として、拓也は祐介を排斥することにした。
身の危険を感じた祐介と瑠璃子、そしてあと二人のΣは、拓也の元を去ったのだ。
だが、祐介も瑠璃子も拓也を止めることを諦めたわけではない。
いつかは、昔の拓也に戻ってほしい、そう思っている。
「ついたぞ、ここだ」
柳川の声に我に返ると、目の前に扉があった。
「ついでだ、おまえも手伝え」
「え?」
懐から出したカードをスロットに差し、ロック解除のパスコードを打ち込みながら柳川が言った。
「懐のものは飾りではないのだろう?」
祐介は黙って、マントの内側にあるものを握りしめた。
柳川は、最後のコードを入力する。
二人の目の前にある扉が、開かれた。


「会長……」
「どうしたの?」
「海水の取水口が……開いてます」
オペレーターが千鶴に告げた。
一日に2回、取水口から海水を引き入れてある程度のゴミを取り除き、各地区の浄水施設に送っている
のだ。
今、その取水口が開いていた。取水時間ではないのにだ。
「柳川さんが近くにいるはずよ、連絡して」
「はい…………つながりません、回線を切っているようです!」
「そんな……まずいわ」
誰か判らないが、精製施設を沈黙させた相手は、なにかをタカヤマに運び込もうとしているのだろう。
それが何かはわからないが……。
こうなったら、柳川がACを持っていっていないことが悔やまれる。
何かあった場合に、対処できない可能性が大きい。
逃げをうつだけならば、柳川ならば問題ないだろうが、可及的すみやかな対応が必要な場合にはACが
ないことは痛い。
「足立さんに連絡を……」
「え?」
意外な千鶴の指示に、オペレーターはとまどう。
足立になにができるというのか?
「早くしてください!」
「は、はい!」
わからないまでも、オペレーターは手早く社長室にいるであろう足立に連絡を取り始めた。


ぷしゅ、と音がして扉が開く。
祐介と柳川は室内に飛び込むと左右に分かれ、片膝を付いて辺りを警戒した。
「……無人?」
「そんなわけがあるか。職員はいるはずだ……もっとも、死体になってるかもしれんがな」
す、と立ち上がって柳川が言った。
室内には制御用のコンピュータ類や様々な機器が雑然と並んでおり、その間に二つほど作業用のシート
が埋まっている状態だった。
奥手にはさらに扉が見える。
「こっちはメンテナンス用の機械室のようですね」
「本命は奥だな。行くぞ」
柳川はさっさと奥に歩いていく。祐介もそれに続いた。
そして、先ほどと同様にパスコードを打ち込んだ。
しかし、一向に扉が開く気配がない。
「……ふん、味なまねをしてくれる。マスターコードまで書き換えやがったか」
そう言うと、右手を顔と同じ高さまで持ってくる。
「どいてろ、危ないぞ」
柳川は祐介にそう言うと、右手に力を込めた。
メキ……メキメキ……
その音と共に、かざした右手が変形していく。
一回りほど大きくなり、腕が硬質化する。
そして、指先が鋭い刃物のような鉤爪にかわったのだ。
さすがの祐介も、これには驚いた。
「な、なんなんですか、いったい?」
柳川は答えない。
ただ、振りかざした右手を、ブン、と振り下ろした。
ドゴォ!
振り下ろした先にあった扉が、真っ二つに引き裂かれていた。
そして、変形した扉をそのまま右手で持ち上げると、脇へどかした。
「…………信じられない」
「おまえたちの言う電波とやらよりはマシだと思うがな。ただの肉体強化だ」
もちろん、「ただの」ではない。鬼の血を引く者のみがなせることであった。
床に散乱した破片をまたぎ、柳川は中へと入っていく。
そのときだ。
首筋が灼けるような感覚を、祐介は感じた。
「柳川さん!」「とぉりゃぁ!」
祐介の叫びと同時に、柳川に拳が迫った。
「ふん、見え見えだ」
柳川は、すぃ、と上体を逸らして避ける。
ドォン、と音がして、その拳は床にめり込んでいた。
「ちぃ!」
拳の主は舌打ちして、拳を床から引き抜くと今度は振り向きざまに鋭い蹴りを放つ。
明らかに柳川の首筋を狙っていた。
「いい蹴りだが……」
バシン!
「狙う場所が正直すぎるな」
柳川は左手で、その足首をつかんで止めていた。
「くっ!」
二度、柳川に打ちかかったその少女は赤い髪を踊らせて地を蹴り、とんぼを切って柳川から離れる。
「大丈夫ですか、柳川さ……」
室内に入ってきた祐介が、その少女に気づいた。
「沙織ちゃん……?」
「祐クン……?」
祐介を見て、最初は驚いた少女は、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「祐クン……迎えに来たよ」
「こちらは出入り口を押さえている。逃げられはしないぞ」
柳川はあくまで侵入者である沙織を捕らえることを念頭に置いている。
祐介がどうなろうと知ったことではないし、祐介と沙織の関係にも興味がない。
「さっさと降伏した方が身のためだ」
「…………」
沙織は笑みを浮かべたまま黙っている。
祐介はじっとそれを見ていた。
どういう理由かはわからないが、沙織は月島の側に回ったようだ。
となると……。
「だんまりか。ならば、力づくで行かせてもらう!」
たん、と床を蹴って柳川が沙織へと向かう。
腕は再び硬質化し、獣のものになっている。
そこへ、柳川に向かって数本のナイフが飛来した。
「なに!!」
気づいてとっさに避けようと身をひねるが、広くない室内で、各種の機器がある状態では満足に回避で
きようはずもない。
仕方なく左腕で急所をかばい、あえてナイフを受ける選択をした。
その柳川の前に黒い影が飛び出した。
「うぉぉぉ!」
銀光が走る。
キィン、と甲高い音を立て、柳川に迫っていたナイフは全て床にたたき落とされていた。
それを成したのは、腹部を撃たれたはずの祐介であった。
その手には、日本刀が握られている。
「ふん……やるな」
「祐クン……どうして?」
沙織は悲しそうな顔をした。
「沙織ちゃん……瑞穂ちゃんも来ているんだろう?」
「…………」
「ナイフは……瑞穂ちゃんの得意技だ。それに、マスターコードまで書き換えられるのは、彼女だけだ
 し……」
「やっぱり、わかっちゃいましたか……」
機材の影から、眼鏡をかけた少女――瑞穂が現れた。
右手には、数本のナイフ。
左手には携帯端末を持っている。
「小さい気配があるから職員だろうと思っていたのだが……貴様だったのか」
少し悔しそうな柳川。
「瑞穂、作業は?」
「終わったよ……今、ここからセンターに流れている情報は全てダミーです。今までの異変に気づいた
 としても、これ以上の情報がセンターに流れることはありません。それに、この辺り一帯の全てのゲ
 ートをロックさせてもらいました。もしタカヤマのガードが動いたとしても、ここにたどり着くこと
 はありませんよ」
どちらかというと祐介と柳川に聞かせるように、瑞穂は言った。
「……ということは、まだ何かするつもりだな」
「ええ、それはもちろん……拓也さんに言われたことを……祐介さんと瑠璃子さん、できればΣ−13
 の回収もですけど」
「どうしてだ! なんで、月島さんに……」
「あの人の理想は、すばらしいものよ……だから、祐クンも、ね?」
バン、と爆音が響く。
祐介の腹部に鈍い衝撃。
「ぐ!?」
何が起きたのか判らないまま、祐介は左足を後に下げて衝撃に耐えた。
「さ、沙織ちゃん……」
沙織の手には、いつの間に抜いたのか、硝煙を上げる大型の拳銃が握られている。
顔には、笑みを浮かべたまま。
「知っている顔だからと油断するからそうなる」
右手で腹を押さえてうめく祐介を冷ややかに見下ろし、柳川が言った。
耐弾性能があるパイロットスーツのおかげで、弾丸を防げてはいるものの衝撃はすさまじかった。
痛みに耐えながら沙織の方を見る。
「月島さんがね、祐クンと瑠璃子さんを連れてこいって。祐クンは絶対に言うこと聞いてくれないから
 死なない程度なら怪我させてもいいって」
「クソ……」
操られてるのか……!
拓也の考えに付いていけずに自分と一緒に逃亡した彼女たちが、そうそう拓也の元に戻るわけはない。
ましてや、こうも簡単に自分に銃を向けるなどとは思えないし、考えたくなかった。
しかし、祐介の考えなどお構いなしに、柳川は戦闘態勢を取る。
「……この街を混乱に陥れるつもりなら容赦はしない」
「やれるもんならやってみなさいよ!」
両者、引く気はないようだ。
「沙織ちゃん、そろそろ時間だよ……私たちも逃げないと」
瑞穂が遠慮がちに声をかける。
「あ、そっか……オジサン、そこ、どいてくれる?」
「小娘にオジサン呼ばわりされるいわれはないな」
「あ、あの……時間……」
火花を散らす沙織と柳川を見て、おろおろする瑞穂。
(瑞穂ちゃんのあわてよう……ホントに時間がないのか? とすると、それが起きたときがチャンスか
 もしれない)
祐介は、冷静に考えていた。
沙織は目の前のことに熱くなる傾向が強い。瑞穂は物事を冷静に判断できるが、他人にまでその結果に
基づいた行動を強要できるほどの押しの強さがない。
その弊害がここに現れていた。
おそらく、柳川もそれに気づいて時間を稼いでいるのだろう。
幸い、銃弾による痛みもかなり引いてきた。
(チャンスは、一度だけ……しかも、何が起こるか判らない。賭だな)
日本刀の束を堅く握り、祐介はその機会を待っていた。
「オジサン、怪我しないウチに逃げた方がいいよ?」
「それはこっちの台詞だ」
沙織は、打ち込む隙を見つけるまで動けない。
柳川は、わざと動かないでいる。
この差は大きい。
そして――
「はぁぁ!」
時間がないことと一向に進展しない状況にしびれを切らせた沙織が、踏み込んだ。
柳川はそれを余裕で回避する。
「女にしてはうまく力を伝えてるようだが……速さがないな」
「うるさいわね!!」
すぐに方向を変えて、二撃目を放とうとする。
しかし、そこで施設全体が大きく揺れた。
「わわっ!」
「きゃあ!」
沙織は不意にバランスを崩し、瑞穂はとっさに壁にしがみついた。
祐介は、その中でもバランス一つ崩さずに床を蹴り、沙織の眼前に迫る。
集中して貯めておいた電波を一気に沙織にむけて解き放った。
一瞬の隙ができる。
手にした日本刀の束を沙織の腹部にたたき込み、続けて首筋に手刀をたたき込んだ。
「かはっ」
小さく息をもらして沙織は倒れ込む。
瑞穂の方を見ると、いつの間にか柳川の足下に彼女が倒れていた。
「瑞穂ちゃん!」
「心配するな、殺しちゃいない」
柳川はつかつかとコンソールへと歩み寄った。
とりあえず、瑞穂に書き換えられていないシステムを探し出し、当たりの様子をモニターに映し出す。
「……なるほど」
「これは……」
とりあえず、気を失った沙織と瑞穂を壁により掛からせていた祐介も、モニターを見て声を漏らした。
海水を一時的に貯めておく水槽から、半人型の機械がはい上がってきていたのだ。
頭部はなく、胴体の上部に直接カメラアイが付いており、両腕には大きな爪が付いている。
全体的に重装甲であるが、両足には水中推進用のジェットが装着されている。
「まるでカニだな……これを送り込むことが目的だったのか」
「たぶん、こいつを暴れさせて、その隙に沙織ちゃんと瑞穂ちゃんが僕たちを捕らえるつもりだったん
 でしょうね」
「俺はACを持って来ていない。貴様、相手をしてこい。持ってきているのだろう?」
「持ってきていますが……」
祐介は心配そうに沙織と瑞穂を見た。
「案ずるな。俺とてこいつらには聞きたいことが山ほどある。殺しはしない……信用しろ」
「今は信用しておきます。但し、二人に何かあったら、そのときは……」
「わかっている。早く行け」
祐介は来た道を戻り始めた。
それを見送った柳川は、はたとあることに気づいた。
「……パスコード知らないのに、どうやって扉を開けるつもりだ?」
そのつぶやきの直後、ガキーン!ドカァ!とすさまじい金属音が聞こえてきた。
「…………あの坊主、出来るじゃないか、斬鉄」
それはともかく、壊れた施設の修理費はやはり鶴来屋の負担になるのか?
そのとき、ふと脳裏に自分の雇い主であり、姪である偽善者の顔がよぎった。
悪寒が背筋を走り抜ける。
「俺は払わんぞ」
気が付くと、誰にともなしに柳川は呟いていた。


自機にたどり着いた祐介は、昇降用のワイヤを使わずに一足飛びにコクピットに滑り込んだ。
マントと日本刀をシートの下に押し込むと、耐Gスーツの各所に設けられたコネクタにケーブル類を接
続していく。
ACの起動コマンドを脳からコンピュータに送信し、起動させるとハッチを閉じた。
コンソールのサブモニターに「Condition All Green」と表示される。
頭部のメインコンピュータと体内レーダーをリンクさせ、バイオセンサーで柳川たちの居場所を確認す
ると同時に、通常センサーに認識している先ほどの半人型機械――おそらく、水陸両用のMT――に対
して敵としての認識コードを与えた。
ゴーグルを下ろし、戦闘準備完了だ。
「行くよ、ヒュペリオン……」
祐介は貯水槽を目指してブースターを噴かす。
突き当たりを右に曲がり、しばらく行くと大きなシャッターが現れた。
FCSはすでにその向こうにいる敵を捕らえている。
しかし、パスコードが変更されているために、祐介はそのシャッターを開けない。
もっとも、変更されていなくても祐介はパスコード自体知らないのだが。
「仕方ない!」
ブレードへのエネルギー供給を限界まで上昇、出力を最大にする。
普段の数倍以上の過電流により、床へとアースされていく途中の余剰電流がACの装甲表面で火花を散
らした。
「いっけぇぇぇ!」
ブン、と大きく振り切ったブレードから、その軌跡をなぞるように青白い光波が撃ち出された。
シャッターに到達すると同時に光波が爆発し、吹き飛ばす。
それと同時にダッシュし、レティクルがロックしているのに任せてマシンガンを連射し続けた。
貯水槽のあるホールに入ると同時にマシンガンを撃ち続けたまま左へと平行移動し、光波の爆発と着弾
の爆煙でなにも見えないエリアから抜け出す。
体内レーダーでは、MTは爆煙の中心付近にいるはずだ。
『あ〜あ、せっかくの装甲が穴だらけ〜』
『ちょっと長瀬くん、ひどいんじゃない?』
煙の中から、MTが現れた。
通常のACやMTよりも二回りほど大きい。
マシンガンの弾痕が刻まれ、多少のダメージは受けているようだが、行動に支障はない程度のようだ。
「桂木さん……吉田さん……」
MTからの声にパイロットが誰なのかを察した。
『ちょ〜っとびっくりしたかなぁ? おかえしだよ!』
『やっちゃえ〜!』
MTが右腕をこちらに向けると、その爪が三本とも外側に向かって大きく開く。
その中心にあった穴から弾頭がせり出し、ヒュペリオンに向かって次々と撃ち出された。
「大型ミサイル!?」
迎撃システムにコマンドを入力し、ミサイルに正面を向けたまま逃げ回る。
迎撃機関砲からつぎつぎと弾丸が吐き出され、ミサイルを撃ち落としていくが、ホーミング機能が強化
されているのかよく付いてくる。
「くそぉ!」
目測でマシンガンも用いて迎撃し、ようやく打ち落とせた。
『つーかまーえた!』
「え?」
ガコン、と衝撃が伝わったかと思うと、モニターにMTのカメラアイが大写しになった。
いつの間にか近づいていたMTの爪に、両腕を捕まれていた。
『おとなしくしなよ〜』
『そうそう、逃げてもどーせ見つかるんだし』
『助けも来ないしね〜』
どうにか関節部分を曲げてマシンガンを叩き込むが、分厚い装甲に阻まれてほとんど効果がない。
いくら祐介でも、Σタイプのプラスが二人で操る特殊型MTは荷が重かった。
MTの爪はギリギリとヒュペリオンの腕を締め上げる。
祐介の脳内に、「危険」を示す信号が流れ込んできている。
「動け! 動け! 動け! 動けぇ!」
スティックを動かすが、腕はわずかに反応するだけで、まったく振り解けない。
ここまでか――そう思った時。
ドォン、と音がして、MTの背部から爆炎が上がった。
衝撃で、ヒュペリオンは爪から開放される。
『あら、先客がいたみたいね、悪いコトしたかしら?』
MTの肩越しに、祐介は入り口に立つバズーカを構えた重量級ACを確認した。


時間は少し遡る。
足立に連絡を取らせた千鶴は、足立と共にいるであろうレイヴン――ルミラに依頼を行った。
すなわち、海水精製施設に入り込んだ敵の排除と、柳川及び施設職員の救出である。
足立との交渉で鶴来屋の契約レイヴンとなることを承諾していたルミラは、この依頼に快く応じた。
曰く、
「こんなものすごい契約金と、ミッション遂行時の報酬の上にちゃんとしたお給料までもらえるの?
 是非やらせてもらうわ。え? 早速依頼? いいわよ、なんだってやるわ」
とのことである。
足立によると、報酬や契約金の話をしたとき、彼女は満面の笑みを浮かべ、目は爛々と輝いていたそう
である。
そんなわけでルミラは重装甲AC「アレイ」で出撃したのである。
施設近くの進入口から地下水道に潜り込んですぐ、ルミラは閉ざされたシャッターに出くわした。
「え〜と、たしか教えてもらったパスコードは、と」
ACと扉の操作パネルをケーブルで接続し、コードを打ち込む。
<Pass Word Error>
合成された無機質な音声が響いた。
「妙ね。メイフェア?」
<なに?>
コンソールのサブモニターに金髪の女性の顔が映った。
「ちょっと調べてよ。コード、間違ってるとは思えないんだけど……」
<まったく、人使いが荒いわね>
「何言ってるのよ。あんた呼び出すこと、まずないでしょうが。それに、あんたを作ったのはこの私な
 んだからね、そこんとこちゃんとわかってるの?」
モニターの中の女性は、やれやれといった仕草をすると、
<わかったわよ、もぅ。 はぁ、めんどくさいけどなぁ……いってきま〜す>
画面から消えてしまった。
メイフェアは、ルミラが組んだ人工知能プログラムである。
もともと情報系技術者として名を売っていた彼女は、「電脳の魔術師」として有名であった。
その彼女が(いろいろな事情があって)レイヴンとなるときに、自らのACにサポートAIとしてイン
ストールしたのだ。
彼女曰く、「世界最高のAI」だそうである。
学習型にした結果、あっという間にルミラですら解析できないレベルに成長してしまったのだが。
姿を消して十秒もたたないうちに、再びモニターに彼女があらわれる。
「どうだった?」
<誰かさんがシステムの一部を書き換えたみたいね。シャッターのパスコードもらってくるついでに全
 部元に戻るようにしておいたけど、しばらくかかるわ>
「ふーん、敵さんもなかなかやるってわけだ。ご苦労さま」
<あ、この先のシャッター、全部さっきのコードで開くようにしといたからね>
そう言い残して、メイフェアは消えた。
「サンキュ、メイフェア」
ルミラは改めてコードを打ち込む。
数秒後、シャッターは想い音を立てて開いていった。
「さぁて、行きますか……終わったら、久しぶりにまともな食事ができそうだし……」
じゅる、と女性にしてははしたない音を立てて、ルミラは涎を飲み込んだ。


そして、その数分後、現在の状況になるわけである。
「さぁ、諦めてそのACを放しなさい」
ルミラは謎のカニMT(ルミラ、心の中で命名)に呼びかけた。
『あんたバカじゃないの?』
『人質とってるの。こっちだかんね〜、そっちこそ降伏しろ〜』
美和子と由紀も負けじと言い返す。
『人質がどうなってもいいの?』
機体を振り向かせ、アレイの方を向けて祐介のヒュペリオンを盾にする。
「……あ、よく考えたら、その人のことは依頼にないわねぇ」
『はい?』
「いやね、そのACは連れて帰れって言われてないし……とりあえず、あんたら片づければいいかな、
 と」
『なっ…………!!』
『………………』
絶句する由紀と美和子。
祐介は沈黙を守っている。
あるいは、ルミラの発言に絶句しているのかもしれないが。
「……冗談よ」
その言葉と共にダッシュし、ルミラは後部ウェポンラックのロケットを撃つ。
『ミサイルの一発や二発で!!』
祐介を盾にするつもりで、前に押し出す。
しかし、ロケットはヒュペリオンではなく、カニMTの脚部に当たった。
その直後。
『きゃあ! って、なによこれ!』
由紀が叫んだ。
「今よ、逃げて!」
『!!』
ルミラの言葉通り、祐介はほとんど本能的に機体を動かした。
不思議なことに、すんなりとカニMTの拘束から逃れられる。
逆に、由紀と美和子はパニック状態だった。
機体が全く動かなくなったのだ。
機体のモニタリングシステムには「Error」の表記で埋め尽くされていた。
『ちょ、なによ、これ!』
『動かない……特殊ロケット!?』
美和子が思い当たったようだ。
特殊ロケット――WR−RS7は、特殊な弾頭を持ち、直撃するとACやMTに機能障害を引き起こす
のだ。
弾数と与えるダメージは少ないが、アリーナや敵が少数のミッションでは頼りになる。
もっとも、その障害も数秒で回復するのだが、祐介が逃れるには十分な時間だった。
「さて、あんた、大丈夫? 故障個所とかはない?」
『ええ、おかげで助かりました……左腕のエネルギー系統にちょっとありますけど、通常出力での戦闘
 には問題はないです』
「それじゃ、このカニ、さっさと料理しちゃいましょ」
『ちょっと、カニとは何よ、カニとは〜!!』
由紀が抗議の声を上げる。
『拓也さんにもらった機体をバカにするなんて、許さないわよ、あなた』
美和子も怒っているようだ。
怒ったついでに突っ込んできたが、アレイとヒュペリオンは余裕で回避する。
『動きが直線的すぎるよ。せっかくのMTの能力を生かし切れていない』
祐介はそう言って、ブレードでカニMTの左腕の肘から先を斬りとばした。
中に残っていたらしいミサイルが誘爆して爆炎が広がり、MTを吹き飛ばす。
「やるわねぇ、坊や。こっちも負けられないわね、報酬のために!」
ルミラもバズーカを撃つ。
祐介に気を取られていた二人は、避ける間もなく受けてしまう。
『こんのぉ、調子に乗るんじゃないわよ〜!!』
由紀が吠え、右腕から大型ミサイルを連射する。
が、ミサイルに正面を向けたままバックダッシュするアレイとヒュペリオンは、迎撃機関砲で次々とミ
サイルを撃ち落としていった。
『うぇ、弾切れ……』
『おバカ! 考えなしに撃つから!』
由紀がぼやき、美和子が後部座席から殴りつけた。
『あきらめて帰るんだ。そして、二度と僕の前に立つな。それともここで……死ぬかい?』
底冷えのする声で言い、祐介は青白いプラズマを形成する月光を構えた。
『くっ!』
美和子は由紀から全コントロールを奪うとスティックを後へとキックし、機体を後退させる。
『ちょ、ちょっと、美和子!!』
『一旦下がるわよ! 時間を稼がないと……由紀はモニターチェックして!』
『あ……り、了解』
離れていくMTを追うアレイとヒュペリオン。
しかし、見かけの鈍重さとは裏腹に、脚部のスラスターまで動員しての移動は素早い。
アレイでは追いつけなかった。
ヒュペリオンでもどうにか、というレベルだ。
一つのホールを逃げ回っているだけとはいえ広いので、アレイのバズーカもヒュペリオンのマシンガン
もなかなか当たらない。マシンガン程度では当たっても微々たるダメージでしかないのだが。
「ちょこまかとすばしこいわね!! あ〜、もう、イライラする!」
散発的にバズーカを撃ちながらルミラは蒸し暑いコクピットの中で汗を拭った。
<……ルミラ、未確認ACが接近してるわ>
突如、メイフェアの顔がサブモニターに映る。
<音紋照合からして……重量……いえ、中量二脚だと思うわ>
「敵の増援? それともこっちの援軍?」
<マーカー参照……出撃前にインストールしてもらった鶴来屋関係のACのマーカーじゃないわ……敵
 よ! あと10秒でこのホールに来る!>
ルミラはスイッチの一つを切り替えるとマイクに怒鳴った。
「坊や! もう一機来るわ、気を付けて!」
『坊やっていうの、やめてもらえませんか?』
言いつつも祐介は意識を集中して近づいてくる敵の存在を見極めようとしていた。



今回の任務は、護衛任務のはずだった。
しかし、どうやら状況が変わったらしい。
<コード201カラ301ヘノ変更ノ必要アリ>
Access……OK,The Master Allows You To Change The Mission Code.
<承認ヲ確認。コレヨリコード301ニ移行スル>
<移行ニ当タッテ必要ナデータノ転送ヲ乞ウ>
Ok,We'll Send You The Data About Enemies…………Complete.
<敵データ、確認。AC「ヒュペリオン」。搭乗者ガ「長瀬祐介」デアル確率89%。AC「アレイ」
 、搭乗者ガ「ルミラ=ディ=デュラル」デアル確率95%>
<任務遂行ノタメ排除ヲ開始スル。対応レベル、6>
<各部チェック、オールグリーン。XP−2000、OK。後部ウェポンラック武装、OK。左腕LS
 −200Gエネルギー供給正常。システム、戦闘モードニ移行>
パルスライフルを構え、血と黒に塗りつぶされたACはホールへと侵入した。



「来た……!」
ルミラに警告を受けてから由紀と美和子のカニMTへの追撃を緩めていた祐介は、ホールの入口から死
角になる位置にいた。
赤と黒で染められたACの姿を確認すると、レティクルを合わせてトリガーを引く。
数十発の弾丸が吐き出されるが、それを予期していたかのようにそのACはホールの中へと滑り込み、
かわした。反撃とばかりにパルスライフルを撃ってくる。
「くそ!」
ヒュペリオンをダッシュさせ、祐介はその指向性電磁パルスから逃れる。
回避行動をとりつつマシンガンを撃つが、さすがに距離を取ると当たらない。
改めてモニターに映ったACを見る。
赤と黒の機体。肩にペイントされたビリヤードのボール、その中央に描かれた「9」の文字。
<敵AC、確率95%でナインボール、レイヴン「ハスラーワン」と認識>
「なんだって!?」
ヒュペリオンから送られた敵の正体に驚く。それはそうだろう。
かつて、最強の名を欲しいままにしたそのレイヴンが目の前にいるのだから。
『坊や、聞こえる? 相手はナインボール、やっかいだけど……』
ナインボールにバズーカを撃ち込みながら、ルミラは祐介に通信を入れた。
「やるしかないでしょう! ヤツの前に立って生き残ったレイヴンはいないんです!」
このままやられてたまるか。
『確かにね。気を付けて。アイツ、“核”を積んでるわ』
映像を確認すると、確かにナインボールの右肩にはでかいミサイルランチャーが装備されている。
WM−AT、通称「核ミサイル」。
最高の攻撃力と最大の重量を誇る特殊弾頭装備のミサイルである。
軽量級ACはおろか、ルミラの重量級ACでも直撃すれば危ないという代物である。
ナインボールは中量級であり、核を積めば明らかに重量オーバーだ。
機動性も下がる。
「要するに、確実に僕らを殲滅するつもりか」
ぎり、と歯をかみしめる。
『はろ〜、また形勢逆転〜』
『今度こそ降伏したら?』
そこへ、今まで逃げ回っていた美和子と由紀も、強力な援軍の到着に再びこちらへの攻撃を開始した。
「牽制用の機銃くらいしか残ってないくせに! おとなしく引いてくれよ!」
ガンガンと弾丸がヒュペリオンの装甲を叩く音を聞きながら、祐介は怒鳴った。
ナインボールというただでさえ厄介な相手が「核」装備で来ているというのに、もはや戦力外となって
いる美和子や由紀には構っていられなかった。
『なんだか知らないけど、ナインボールが味方なら負けないわよ』
ダッシュで間合いを詰め、残った右腕のクローでヒュペリオンにつかみかかる。
しかし。
「引けって言ってるだろぉ!!」
逆に祐介は、ヒュペリオンをMTの懐にダッシュで飛び込ませた。
電磁パルスを帯びていたMTのクローが空を斬る。
『しまった!』
美和子が叫ぶが、遅い。
「破ぁぁぁ!」
ヒュペリオンが、月光を振り抜いた。
MTの装甲にプラズマの刃が食い込み、斬り裂いていく。
そして内部機構に電磁波による機能障害を伴ったダメージが伝わる。
複座型のMTは、こうして沈黙した。


「……もう、装甲が削れてるじゃない!!」
頭の中で修理費用を計算しながら、ルミラは怒鳴った。
<私に言わないでよ!>
メイフェアがモニターにナインボールの攻撃の予測ルートを示しながら怒鳴り返す。
いくら予測できるとはいえ、パルスライフルの連射攻撃である。
弾速が速い電磁パルスを重装甲ACで避けられるはずもなく、半分程度は受けてしまう。
こちらもバズーカを叩き込むのだが、弾速が遅いために避けられてしまっていた。
しかも、向こうは核とは反対のウェポンラックに装備したグレネードを、ブースターで移動しつつ撃っ
てくる。
「噂通り、強化人間ってことね……まったく、卑怯よ!」
向かってきたグレネードの火球を避けるが、近接信管での爆発による爆風にあおられ、体勢を崩した。
「こなくそ!」
スティックで姿勢をコントロールし、メイフェアがバランサーコントロールを行ってどうにか転倒だけ
は免れた。
しかし、動きが止まったところにパルスライフルの連射を受け、装甲を削られる。
なんとか砲火から抜け出し、ダッシュしつつバズーカを数発ヒットさせた。
『なかなかやるな……』
不意に、聞き慣れない男の声が流れた。
ナインボールのパイロット、ハスラーワンからの通信である。
「そりゃどうも! でも、あなたに言われても嬉しくもなんともないわ」
ルミラはバズーカやミサイル、ロケットを撃ち続けながら応えた。
『どうだ、我々につかないか? おまえほどの腕ならば歓迎するぞ』
「あいにくだけどね、あんたみたいな怪しいヤツと組むのはお断りよ」
『残念だ……となると、この場で始末せねばなるまいな……』
バクン、とナインボールの右肩のミサイルランチャーのハッチが開いた。
<まずいわ!>
「言われなくてもわかってる!」
ルミラは回避行動を取り始めた。
今のうちから距離を取っていないと、追尾性がよく小回りの利くこのミサイルを買わすのは難しい。
常にミサイルに対して正面を向け、追いつかれずに迎撃するしか手段がないのだ。
しかし、コアの迎撃機関砲から幾筋もの弾丸が吐き出されるが、なかなか撃ち落とせない。
「アレイ」の重装甲コアでは、迎撃範囲が狭いのだ。うねうねと蛇行する小型弾頭を撃ち落とすのは、
正直言って難しい。
ミサイルとの距離がだんだん詰まってくる。
「避けきれない!」
<大丈夫、一発くらいなら耐えられるわ>
「そんなこと言っても修理費が洒落にならないわよ!」
そんな言い合いをするうちにもミサイルは迫ってくる。
<!!>
避けきれないと判断したメイフェアは、強制的にコクピットのアブソーバーを最大にした。
一瞬沈み込むコクピット。
ルミラは目をつぶって衝撃に備えた。
爆音。
「……………………?」
しかし、やってくるはずの衝撃が来ない。
『……なんとか間に合いましたね』
おそるおそる目を開けると、目の前には硝煙の立ち上るマシンガンを構えたヒュペリオンがいた。
『邪魔をするか……』
ハスラーワンが忌々しげに呟いた。



<救出任務、失敗。ミッションモードヲ殲滅ニ移行>
Ok, Destroy All.



「邪魔だって……? おまえこそ、僕の邪魔をするんじゃない!」
マシンガンを連射しながら、ヒュペリオンを突っ込ませる。
そして、本来のブレードの間合いの外から、3倍程度にのばした刃で斬りつけた。
さすがにこれにはひるんだのか、ナインボールは機体を下がらせる。
『…………この力、危険だ。長瀬祐介をイレギュラーと認定。消去する』
「訳の分からないことを!!」
逃がすまいとした祐介がミサイルを連射し、わざとナインボールの背後に着弾させる。
『……さすがイレギュラーだ……』
機体を横に滑らせ、ナインボールのライフルから電磁パルスが撃ち出される。
数発を受けたものの、祐介もヒュペリオンをナインボールと平行移動させ、マシンガンを連射する。
「逃がすか!」
さすがにAR1000の連射は避けきれるものではない。
しかし、一発のダメージ自体が低く、決め手にならない。
肩のレーザーキャノンを使うかと祐介は考えたそのとき、ナインボールに横合いからバズーカがヒット
した。
『あなた、一つのことに夢中になりすぎね』
ルミラである。
ハスラーワンが祐介に気を取られている間に体勢を立て直したのだ。
続けざまにバズーカを撃ち、ヒットさせる。
『調子に乗るな……』
今度はアレイに向けてパルスライフルを連射する。
祐介はその隙にマシンガンで牽制しつつ、軽くジャンプしたままナインボールの懐に飛び込んでムーン
ライトで斬りつけた。
それが、決め手となる。
ACが接地していない状態でブレードをヒットさせると通常の数倍のダメージを与えることが出来る。
最強ブレードたるムーンライトでこれをやられては、ナインボールといえどもひとたまりもなかった。
袈裟懸け、逆袈裟に斬られ、盛大な火花を吹き上げるナインボール。
「…………僕の邪魔を、するからだ」
冷たい祐介の声。
『……二人がかりとはいえ、いい腕だ……しかし、我々の決定は絶対だ。反逆者は……イレギュラーは
 消去する……』
機体の各所をスパークさせながら、ナインボールはミサイルランチャーのハッチを開いた。
ミサイルランチャーに、高エネルギー反応が発生する。
ACのサーモグラフィーはそれを捉えていた。
『ちょ、ちょっと、まさか……!?』
<逃げて! ミサイルごと自爆する気よ!>
「無茶苦茶だ! 死ぬ気か!?」
ヒュペリオンとアレイをそれぞれブースターダッシュで走らせる。
比較的、入口に近かったアレイと、機動力でアレイに勝るヒュペリオンが同時にホールの入口に辿り着
くと同時に、大爆発が怒った。
『くぅっ!!』
食いしばった歯の間から、ルミラのうめきが漏れる。
迫り来る爆炎の向こうに一瞬目をやった祐介は、あることに気づいた。
しかし、次の瞬間に訪れた膨大な熱量と衝撃が、その事実を確認することを妨げたのだった。




「……というわけなんですよ」
「なるほどねぇ……」
大江の話に、浩之が相づちをうった。
「浩之ちゃん、大江さんのお話、わかるの?」
「うんにゃ、半分もわからん」
「あはは……」
約束通りにスペアリブにかじりつきながら、大江のAC工学についての説明を、浩之とあかりが聞いて
いた。
「――というわけです。以上の理由から、ACというものが発展したのです」
「はぁ〜、セリオさん、物知りですね〜。すごいです〜」
「あ、そうすると、やっぱりMTとACっていうのは根本的には同じなんですか?」
「――はい、ですから、各企業軍の使用するMTにはAC並の性能を持ったものもいるわけです」
元々食事の必要がないHM二人と、小食ですでに食事を済ませた琴音の三人は大破壊以降の人類の歴史
および技術史を談義している。
もっとも、マルチは琴音とセリオの話に感心しているだけだったが。
<ドォン!!>
突如、爆音が響いて建物が揺れた。
「何だ!?」
「向こうの方でなにか爆発したぞ!」
周囲の客たちが一斉に窓のそばへと駆け寄る。
人の流れに押し流されそうになるあかりを浩之が、マルチをセリオが、琴音を大江がそれぞれ確保し、
流されないように引き寄せる。
その後、人混みから少し離れた位置に集まった。
「……なんだってんだ?」
浩之のいる位置からでは、黒煙が立ち上るのが見えるだけだ。
「――――緊急通信を傍受しました。郊外の海水精製施設が何者かに破壊されたようです」
セリオが浩之たちだけに聞こえるように呟いた。
「セリオ、盗聴はよくないぞ……」
「――いえ、ただの無線放送のニュース速報です」
「セリオさん、すごいです〜」
「それで、様子はどうなんだ? 犯人は?」
浩之がせかす。
「――詳しい事情は報道規制がかかっているらしく、わかりません」
「そっか……」
もし必要があるなら、芹香さんからなにか言ってくるだろう。
浩之はそう考えて、あかりたちに店を出るように促した。



<ルミラ、大丈夫?>
「……つつ……頭ぶつけた……」
<それくらいなら問題ないわね>
メイフェアはオートコントロールでACを立ち上がらせる。
ルミラは、機体の破損状況をチェックした。
「……なによ、これ……」
呆然と呟く。
「真っ赤じゃないのよ〜!! 装甲板剥がれてるし、フレームもゆがんでるし、ロケットは吹っ飛んで
 るし! これじゃ借金が増えるだけじゃない!!」
<お、落ち着きなさい、ルミラ! 今回は修理代も依頼主持ちよ!>
その言葉に、はっ、と我を取り戻す。
「そ、そうだったわね……ふふ、これで貧乏生活ともおさらばなのよね……」
ふふふ、とルミラは妖しい笑い声を漏らした。
<あ、一つ問題があるんだけど>
「なによ?」
<……もう動かないんだけど、どうやってガレージまで戻ろうかしら?>
「………………」
この後、救出隊が辿り着くまでの三時間、ルミラはひたすら借金返済法をシミュレートしたという。



たしかに、いなかった。
消えていた。
おそらく、ナインボールと戦っている間に逃げた、と考えるのが妥当だろう。
しかし、あの状態で水中行動がとれるのだろうか?
祐介は、確かにカニMTを行動不能状態に陥らせたのだ。
そのMTが、姿を消したのである。
通常ではあり得ないことだった。
「……月島さんが絡んでいるとなれば、なにかMTに仕掛けがしてあってもおかしくはないか」
結論はそれしかなかった。
どうやって逃げたのかは、まったく判らなかったが……。
しかし、あることに気づく。
「あの深さまで斬り込んだのに、爆発しなかった……おかしい。おかしいよ。なんでだ?」
考えられるのは、動力からのエネルギー伝達系にたまたまヒットしなかった場合である。
しかし、斬り裂いたのは胴体中央から腰の部分にかけてである。
いくらACよりも二回り大きいとはいえ、下半身へのエネルギーパイプを切断しなかったわけがない。
そうでなければ、あのときあそこでMTは行動不能にならなかったはずだ。
「くそ! 結局、逃がした事に代わりはない……ここにも長くはいられない……」
コンソールに拳を打ちつけ、ぼろぼろになったヒュペリオンの中で祐介は一人歯をかみしめていた。




「作戦は失敗、か……」
拓也は拳を堅く握りしめた。
「……仕方ない。瑠璃子のことは諦めよう」
「拓也さん……」
「香奈子君、残っている同志に連絡だ……一旦、全員をここに召集したうえで、今後の作戦を立てる」
「あの、長瀬君と瑠璃子さんは……」
心配げに太田佳奈子は月島拓也を見る。
「……瑠璃子と長瀬君……新城君と瑞穂君もだ……抹殺する。この世のバカどもと一緒に……」
「本当にいいんですか?」
「もう決めたことだ……」
苦しげに、拓也は応えた。
これ以上、私情に構ってはいられない。
腐った世の中を改革するという目的に賛同してくれるものも集まってきた。
ここから先は、その旗頭としての役割を演じ通さなければならない。
「まずは、来栖川の奴らだ…………」
浩之たちのことである。
あの一戦、そしてタカヤマでの件で確信した。
最大の障害はあの連中、そして長瀬祐介である、と。
第一の目標は、定められた。




ハスラーワンが出てきた。
そのことに疑問を持った人間がいた。
現場を見て、たしかにそこにナインボールの残骸を確認した。
しかし、ナーヴでは未だにハスラーワンが最上位にランクされている。
ありえないことだった。
通常、どのような依頼であってもネストを介して契約される。
したがって、任務中に死亡したレイヴンは即刻登録が抹消されるはずである。
仮にネストの介入なしで契約を結んでいたとしても、神だとなればさすがにわかるはずだ。
それなのにナインボールとハスラーワンの登録は抹消されていない。
もう一つ、奇妙なことがあった。
タカヤマの事件と同じ日に、ハスラーワンはアイザックシティでミッションを遂行しているのだ。
ありえない。
長岡志保は、そのありえない事実の真実を探るため、ナーヴの中を飛び回った。
やがて、いくつかの情報を手に入れ、愕然とする。
「どういうことよ、これ……ハスラーワンは……ナインボールは……一つだけじゃないの?」
その情報……ナーヴ上での噂……それを統合した結果導き出された答え。
それは、
『ハスラーワンは過去に何度もミッション中に死亡した形跡がある』
『ナインボールを撃破したレイヴンはその後、一様に行方不明である』
などというあまりにもばかばかしいものであった。
「なんなのよ、これ……」
触れてはならないものに触れてしまった、そう感じた志保は、来栖川芹香にアポを取り始めた。




「……綺麗だね」
「そうですね……綺麗です」
琴音たちはタカヤマ祭の最後のイベント、花火を見に来ていた。
琴音ちゃんがだよ、と言いかけて大江は言葉を飲み込んだ。
恥ずかしいからである。
撃ち上がる花火に目を戻した。
月島一派の暗躍のことを考えると、琴音が今悩んでいるということはわかっている。
それでも、琴音が自分に付き合ってくれたことは嬉しかった。
だから、大江は思う。
自分は、この娘を支えてみせる、と。




そこから少し離れた場所。
「中止にならないでよかったな……」
「うん、そうだね……」
「きれいです〜」
「――3Dホログラフ、とのことですが、綺麗ですね」
四人とも浴衣である。
3Dホログラフと立体サウンドによる演出は、本物といっても差し支えない出来映えである。
地下都市であるため、本物の花火を打ち上げられないからとのことであるが、なかなかどうして立派な
ものである。
だが、浩之の頭からは芹香と千鶴から聞かされた話が離れなかった。
ナインボールのこと、月島の一味が関わっていること。
志保がつかんできた情報。
この平和は、嵐の前の静けさなのだろうという予感をイヤというほど感じていた。
「浩之ちゃん? どうかしたの?」
「イヤ、なんでもない……」
心配そうに自分の顔をのぞき込んだあかりの頭をクシャリとひとなでして、浩之は花火に芽を戻した。
何があっても、自分の居場所は必ず守る。
それだけは譲れない浩之だった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
○ナインボール
 ACシリーズを通して最強とされるAC。
 実のところ、そんなに強くないと思うのは私だけか(笑)
 っていうか、それはアリか、と言いたくなるヒミツがある。
 重量違反機体。
 初心者にはつらい相手。
 ゲーム中にはこれよりも怖い相手はいくらでもいたりする。
 今回は右肩の2連装ミサイルの代わりにWM−AT「核」を装備している。
 よって、ますます重量違反(笑)

○ハスラーワン
 ナインボールを操る最強のレイヴン。
 強化人間、との触れ込みだけど、本当は……(謎)
 契約の全てをネスト上のやりとりだけで行い、決して姿を現さない。
 一緒にミッションを遂行したレイヴンも、彼の姿を見たことがないと証言している。
 ACに乗ったまま外部とのやりとりをする変わり者。
 「ハスラーワンというレイヴンは実は存在しない」という噂が一時期ナーヴにながれた。
 ともかく、強いことは強い。


http://www.asahi-net.or.jp/~gx3m-seng/