分別ゴミ 投稿者:刃霧星椰 投稿日:1月25日(木)00時16分
「……耕一さん」
「は、はい、なんでしょうか……?」
俺の部屋を訪ねてきた楓ちゃんの声に、俺は内心冷や汗だらだらもので返事をする。
「私、言いましたよね? お部屋はちゃんと片づけた方がいいですよって……」
「は、はい、確かに言いました」
「じゃあ、どうしてこんなに散らかってるんですかるんですか?」
静かな、それでいて強い口調で、彼女は雑誌やらレポートの資料やらゴミやらが散乱する俺の部屋を
見渡した。
「いや、ほら、もう卒業論文の詰めで忙しいし、それに、な、ほら……」
「言い訳はいいです」
ぴしゃりと言われる。
「はい、すみません」
なんでこんな目に遭うんだ、と思う。
楓ちゃんが来る前に、片づける(=楓の目に付かないところにゴミを押し込む)つもりだったのに、
なんでこんなに早く来るかなぁ……。
ふと、昔の記憶がよみがえってきた。



『次郎衛門!!』
『なんだ、騒々しい……』
『騒々しいではない!! この惨状を見てなんとも思わないのか?』
『…………いつのまにやらえらく散らかっておるな』
『いつの間にやらではない! お主がおもしろ半分にいろんなものを引っぱり出してはそのままに
 しているからであろう?』
『はて、そうだったかな』
『出したものは元にあったところに戻せと、何度言ったらわかるのだ、この痴れ者が!! 大体、
 なんで私の着物まで出ているのだ!?』
『え、えでぃふぇるよ、なにもそう目くじらたてて怒らんでもよいではないか……その形相、まるで
 鬼のようだぞ……って、おまえは本物の鬼であったな』
『じ〜ろ〜う〜え〜も〜ん〜!! 今日という今日は許さぬぞ……そこへなおれぇ!!』
『あ、こら、えでぃふぇる、やめぬか、爪を引っ込めよ! 鬼の力を開放するな、ボロ家の床が抜ける
 ではないか……』



なんか、ものすごくヤなこと思い出した気がするぞ。
そりゃそうと、俺、昔から出しっぱなしのしっぱなしの「ぱなしちゃん」だったのか?
あげく、エディフェルにも楓ちゃんにも怒られっぱなし……はぁ。
「もういいです。耕一さん、ちょっとお買い物に行って来てください。その間に私がお掃除しておき
 ますから」
「え? でも……」
「私がいらないと思ったものは私の独断で処分させてもらいます。いいですね?」
「いや、ほら、でもレポートの資料とかあるしさぁ……」
「いいですね!?」
「…………はい、いいです」
「じゃあ行って来てください」
バタン、と俺の目の前で俺の部屋のドアをしめられてしまった。
俺の部屋なのに、なんとなく自分が恋人の部屋から追い出された哀れな男に思えるのは気のせいだろうか?
しかし、なんか楓ちゃん、妙にきれい好きだよな。
エディフェルの頃からそうだったみたいだけど。
…………まてよ、まずいんじゃないか?
楓ちゃんのことだから、絶対に徹底的に掃除するぞ。
ってことは、ベッドの下のあーんな本やこーんな本も……見つかるだろうなぁ。
耕一ちん、ぴんち。
絶対に捨てられるよな……ああ、俺の秘蔵本〜(;;)
諦めるしかないのかぁ……。
はぁ…………


「ただいま〜」
小一時間ほどして、アパートに戻った。
「おお!!」
俺の部屋の中は、きらきら〜ん、と擬音が聞こえてきそうなほどに綺麗になっていた。
「耕一さん、お帰りなさい……」
楓ちゃんが洗面所から出てくる。
「すごいや……ありがとう楓ちゃん(なでなで)」
「い、いえ……わたしこそ、さっきはすみませんでした……」
頭をなでると、わずかに頬を朱に染める楓ちゃん。
うーん、かわいい。
で、部屋を見渡すと……机の上にはレポートの資料やノートなどが種類ごとに整理されて置かれていた。
ぱらぱらとめくってみるが、必要なものは全部そろっているようだ。
本棚も、ジャンルごとに並べ替えられ、比較的よく使う辞書や資料などは俺の目線に合わせた位置に
並べられている。
洗濯物は布団と一緒にベランダに干してある。
「あ、ゴミはこっちに纏めてありますから……」
見ると、玄関脇に燃えるゴミ、燃えないゴミの袋がそれぞれおいてある。
そのそばに、週刊誌やその他雑誌がひもで縛って置かれてあった。
…………どうやら、アレな本は見つからなかったようだ。
燃えるゴミの中にそれらしきものが入っている形跡はない。
よっしゃ、と心の中でガッツポーズ。
「ホント、楓ちゃんご苦労様」
「い、いえ……」
「それじゃ、どこかにご飯でも食べに行こうか?」
「は、はい……」
うんうん、部屋は片づくし、アレは見つからなかったし、楓ちゃんはかわいいし、言うことなしだ。
そして、二人で街へと出かける。
その道すがら。
「あの、耕一さん…………」
「ん? なに?」
「あの……耕一さんのベッドの下……」
ギク。
「耕一さん、あんなものがお好きだったんですね……」
ギクギクギク。
「まさか、東○の○チ本とか……こ○パの詠○本があるなんて……」
ギクギクギクギク。
「いらないものでしたから、まとめて捨てておきました……」
がびーん。
耕一ちん、しょーっく。
やっぱり見つかってたかぁぁぁぁ!
そーだよなぁ……はぁ。
「あ、あはは……気にしないで……」
ちょっともったいなかった気がするけど……
無理に笑顔を取り繕う。
「それで、どこに捨てたの?」
「あ、えっと……そこに……」
恥ずかしげに楓ちゃんが指さしたのは、ウチの近所のゴミ置き場。
「げ……」
そこには『萌えるゴミ』と書かれた袋に入れられた、俺の秘蔵本の数々が…………(;;)

                                中途半端なところでFin.


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