AC/Leaf Mission5:市街地防衛 〜温泉・混戦・大激戦〜 投稿者:刃霧星椰 投稿日:9月1日(金)09時29分
風が吹きすさぶ荒野の中、ゆっくりと歩く一つの影があった。
一見、マントを羽織った旅人を思わせたが、この時代、徒歩で旅をする人間はいない。
それに、近づくにつれて人にしては大きすぎることに気づくだろう。
ACだったのである。
どういう訳か、機体に大きな布……マントを羽織らせている。
ゴゥ、と強風が吹き、マントがはためく。
その下から現れたライトグレー機体の表面は傷つき、ところどころ装甲がはげ落ちている。
かなりのダメージを負っているようだ。
コアのコクピットハッチ周辺もひしゃげ、どうにかコクピットを保護しているという有様であった。
そのACのコクピットには、二つの人影があった。
一人は、ACと同様に焦茶色のマントを体に巻き付け、それが顔の下半分まで覆っており、さらには大きな
ゴーグルを付けているため、その顔はわからなかった。
ただ、その人物がACを操作しているのは確かなことのようだ。
そして、その人物の膝の上に座り、体を操縦者の胸にもたれかけ、目を閉じたまま動かない少女。
水色の髪の、どこか神秘的な雰囲気を持つ、そんな少女だった。
胸が規則的に上下しているところを見ると、ただ眠っているだけのようにも見える。
「後少しでタカヤマ、か……」
目的地までの距離と、必要な時間を思い浮かべ、操縦者はぽつりと呟いた。
そして、コンソールを操作してオートナヴィゲーションの目的地をタカヤマにセットすると、膝の上の少女
をゴーグル越しに愛おしげに見つめた。
「……タカヤマについたら、叔父さんもいる。なんとかなる。助かるよ、瑠璃子さん……」
中性的なその声に、少女は答えない。
ただ、規則的に胸が上下しているだけ。
「……助けてみせるよ、絶対」
ここまでしたんだから。
マントに覆われたその奥で、ぎりっ、と歯を噛みしめた。
ピーッ
「……ん?レーダーに反応……」
警告音に気づいてレーダーを見ると、2機の反応があった。
『そこのレイヴンちゃ〜ん!命が惜しかったらさっさとAC置いてにげな〜』
『女なら、逃げなくてもいいよ〜、へへへ』
いかにも品のない男たちの声が、現れた2機のACから聞こえてくる。
食いはぐれたレイヴンが他のレイヴンを襲ってACを奪い、金に換える……よくあることだ。
おそらく、傷ついているACを見て襲ってきたのだろう。
「……時間がないっていうのに……」
さらに強く歯を噛み締める。
『……?男か女かわかんねぇ声だな……見たところ弾もないみてぇだが』
『ほらほら、さっさと逃げないと、間違って殺しちゃうかもよ、俺たち♪』
「…………けよ……」
『あん?』
ライトグレーのACのパイロットが何かをつぶやいた。
「どけって言ってるんだよ……僕たちには時間がないんだ、あんたたち邪魔なんだよ」
『てめぇ、自分の立場がわかって……』
「どけぇぇぇぇぇぇ!」
豪っ!
とばかりに、気合とともに嵐が吹いた。
『な!?』
『マジっすかぁ!?』
バシュウ!バシュウ!
2機のACのコアが袈裟懸け、逆袈裟にそれぞれ切り裂かれ、その場に崩れ落ちた。
おそらくパイロットは生きてはいまい。
十数メートル離れた場所にいるライトグレーのACは、青白色のブレードを構えていた。
「チンピラ風情のレイヴンなんか、相手にならないんだよ、もう……」
先ほどまでの激情はどこへいったのか、ゴーグルのパイロットはそうつぶやいて再びACを歩かせ始めた。



ARMORED CORE Featuring Leaf
Mission 5:市街地防衛 〜温泉・混戦・大激戦〜



「鶴来屋旅館、大破壊前から続く老舗の温泉旅館。会長はタカヤマにおける事実上の最高権力者と言われる
 が、温厚な人柄とその美貌から、反発するものは少ない……か」
「浩之、なにぶつぶつ言ってるの?」
「ん?ああ、なんでもねぇ」
浩之は頭に載せていたタオルで顔をぬぐった。
「でも、ほんとによかったのかな?僕たちまでついてきちゃって」
「ま、芹香先輩がいいって言うんだから、いいんじゃねぇの?」
「そーそー、たまには俺たちも息抜きしないとな?」
雅史の問いに浩之が答え、矢島が同調した。
「それはそうだけど……」
「ま、俺たちが気に病んでても、あっちは楽しんでるみたいだし……」
浩之が浴場の壁の一方を見ると、つられて雅史と矢島もそちらを見た。
壁、というよりは竹でできた仕切りであったが。
その仕切りの向こうから、楽しそうな声が聞こえてきた。

「あ、セリオちゃんって意外と胸が大きいんだね……」
「――そうでしょうか?」
「そりゃそうよ、セリオはなんと言っても理想のプロポーションを目指して作られたんだから」
「そういう綾香だっておっきいじゃない」
ばしゃ!
「こら、長岡さん!そんなとこ触らないで……あん」
「うう、いいな〜……」
「…………」
「――あかりさんも標準ではあると思いますから、気に病む必要はないかと思います、だそうです」
「うう、そうかな〜?」
「Hey!なんのお話してるデスカ?」
ぷるん
「…………なんでもないわよ、ね、あかり?」
「そ、そうだね……あははは……」
「???……アレ、マルチもアオイもコトネもリオもそんな隅っこでドウシタノ?」
「「「「……どうせ私たちなんて……(しくしく)」」」」

楽しそうな声……だと思う。
「……こっちも楽しまなきゃ損だろ、な?」
「うん、そうだね……」
雅史もどうやら納得したようである。
せっかく芹香に誘われてみんなでここに温泉旅行に来ているのである。
楽しまないと損だ。
ちなみに矢島は湯船の一部を真っ赤に染めて浮かんでいた。
「おい、やじまのにーちゃん、どーしたんだ?」
「良太、いいから放って置いてやれ」
「うん、わかったぞ」
素直な子である。




「耕一さん……」
「ごめん、千鶴さん。俺、やっぱり、こいつに乗るのは……」
「どうしてですか?叔父様が……あなたのお父様が形見に残した……」
「俺はレイヴンじゃない……それに、親父のようにはなりたくないんだ」
あなたたちを残して死に、悲しませている親父のようには。
のどまで出かかった言葉を、青年は飲み込んだ。
もし、それを口に出せば目の前の女性は傷ついてしまうから。
「……わかりました。無理を言ってごめんなさい」
青年と向かい合っていた女性……柏木千鶴は、頭を下げた。
「でも、できればもうしばらくこちらにいてくれませんか?あの子達のためにも……」
「それは構わないよ……」
「ありがとう、耕一さん……」
会長室から出て行く背中に、もういちど頭を下げる。
ぱたり、とドアがしまって青年が出て行く。
「それでも、あのとき、この街を救ったのはあなたなんですよ、耕一さん……」
ぽつりと呟いた彼女は、どこか寂しげだった。
鶴来屋会長、柏木千鶴。
そして、前会長柏木賢治の忘れ形見、柏木耕一。
二人の、決裂に終わった会談はこの直後に思わぬ形で逆の結末を迎えることになるのだが、それはまだ先の
話となる。
「とにかく、しばらくは大丈夫よね……」
彼女は、耕一があのACに乗り、温泉の利権とこの街の資産を狙って攻めてきたどこかのAC部隊を壊滅さ
せた事件を思い浮かべていた。
もっとも、耕一がいなければ街は壊滅していたかもしれず、ガード部隊の強化の必要性も浮き彫りにされた
事件でもあったが。
と、机の上の端末のコールランプが点滅した。
「はい、会長室……あ、長瀬隊長ですか」
相手はタカヤマシティガードの隊長、長瀬源二郎だった。
どうも、と軽く会釈し、長瀬隊長は話を切りだした。
『実はですね、私の甥っ子が訪ねてきたのですが……そいつの連れの女の子の具合が悪いようでしてね。こ
 ちらの医務室では対処しきれんのです。すみませんが……』
「……わかりました、ではこちらで手配しておきますからタカヤマ第一医院へ搬送してください」
『ありがとうございます。それとですね、甥っ子のACがかなりやられてまして。修理してやりたいんです
 が……』
「甥子さん、レイヴンなんですか?」
『いや、それが……実は、数年ほど前から行方不明になっておったんです。それまでは普通の生活をしてお
 ったんですがね……私のところにひょっこり現れたと思ったら女連れでぼろぼろのACに乗っていたので
 びっくりしたんですわ』
そう言っている長瀬隊長自身は全然驚いた風でもないが。
千鶴は迷った。
行方不明者が突然ACに乗って帰ってきた。しかも、ACはボロボロ。
なにやらトラブルの予感がするが、長瀬隊長はガードとタカヤマにとってなくてはならない存在である。
「……わかりました、しっかり整備してあげてください。それと、その甥子さんにお話を聞きたいので、申
 し訳ありませんがこちらに連れてきていただけませんか?」
『はぁ、そりゃ当然ですな。すぐに連れていきましょう』
「お願いします」
通信を切ると、千鶴は会長用の椅子に深く体を埋めた。
叔父のこと、耕一のこと、そして、長瀬隊長の甥だという人物のこと、そして……
「あ……来栖川のお嬢様達がいらっしゃってるんだったわ」
あとでご挨拶に行かないと……
なぜか、どうでもいいような事を思い出してしまうのであった。



「あ、お兄ちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、初音ちゃん……梓と楓ちゃんは?」
「梓お姉ちゃんは旅館のお手伝いに行ってるよ。楓お姉ちゃんはお部屋だと思う」
「そっか……」
悲しいことがあっても、彼女たちはすでに前を向いて歩いている。
それなのに、未だに親父のことにこだわっている俺と、彼女たちと、どっちが正しいのだろうか?
自分と母親を捨てた……いや、別居せざるを得ず、自分の妻の死に目にも現れなかった親父。
そして、彼女たちを、この街を守るために戦い、命を落とした親父。
どちらが本当の親父なのだろうか?
わからない。
なぜ、彼女たちを守るように母を守ってくれなかったのか?
なぜ、何も言わずに死んでしまったのか?
そして、自分たちの中に流れる、「血」の宿命。
「……耕一お兄ちゃん?」
「あ、ああ、どうしたの?」
「なんだか、怖い顔してたよ?」
「ん……ちょっと考え事してたからね。下らないことで意地を張って、親父のことを今も許せなくて……そ
 れに、初音ちゃん達はもう前を見ているのに、ダメだな、って思ったりしてね」
「お兄ちゃん……」
たはは、と笑う耕一を、初音は心配そうに見つめた。
「……ごめん、俺、部屋にいるからなにかあったら呼んでね」
「うん……」
見送る初音。
「お兄ちゃんがいるから、私達は……」
前を見ていられるようになったのだと、初音は心の中で呟いた。
それが、今は耕一に届くことはないのだと知りながら。
そして、夕飯の支度をするために、台所へと戻るのだった。
一方、この家で与えられた部屋――珍しく大破壊前の日本の伝統的な建築様式を持つこの家には、「和室」
がいくつも存在し、その一室――に寝ころんでいた。
頭をよぎるのは、二ヶ月以上前の事件のことであった。


ここ、タカヤマは大破壊前に地上に存在していた頃から、温泉リゾートとして有名であった。
地下都市となって以降も、温泉が湧くのは変わらず、今でも温泉地としてやっていけている。
そこから生み出される莫大な利益や利権を巡り、強盗団による略奪や他企業の妨害工作も頻発しているのが
現状である。

耕一は、強盗団から街を守るために戦って死んだ父親の葬儀のためにたまたま訪れていた。
そして、葬儀の数日後に他企業の雇ったレイヴンが破壊工作を行うために無差別に攻撃を始めたのである。
ガードが出動するが、熟練のレイヴン数人相手にMTでは何機あっても歯が立たず、止められなかった。
「私が出ます」
柏木千鶴――耕一の父の跡を継いで会長になった従姉――が出撃し、手際よく最初の一機は倒したものの、
残りのACに囲まれて集中砲火を浴び、瞬く間に装甲を削り取られていった。
「お兄ちゃん、千鶴お姉ちゃんを助けて!」
千鶴以外で唯一ACを乗りこなせる梓がいない状況で、耕一は、初音の懇願に対しても、ACの操縦経験が
ないからと断ろうとした。
しかし、楓は耕一が幼い頃にACで出撃したことがあると指摘、その事を思い出した耕一は、恐怖と緊張を
抱きつつも渋々父親の残した「エルクカイザー」で出撃する。
外部からエルクカイザーで包囲網の一角を崩して千鶴を脱出させようとするが、脱出を試みた千鶴は、逆に
敵ACのブレードの一撃によって自らのAC「スノードロップ」のコアを貫かれてしまった。
そのとき、耕一の脳裏に遠い記憶が走り、視界が赤く染まった。

誰かに名を呼ばれた気がした。
気が付くと、耕一の乗るエルクカイザーはACの残骸の中に立っていた。
今立っているのは、ブレードを振り下ろしているエルクカイザー、その軸線上にある「スノードロップ」、
そして二機の間に割り込んでエルクカイザーのブレードを受け止めている黒いACのみだった。
ふと目に入った通信モニターの中、涙を流して耕一の名を呼び続ける楓。
『血に踊らされるとは……それでも貴様は『柏木』の男か!?』
直接通信でそれだけを言い残し、黒いACは去っていった。
そして、辺りに散らばる、もはや原型をとどめぬ敵ACの残骸を見て、耕一は呟いた。
「俺が……やったのか……」
この後、耕一は自らの血に流れる「ちから」の秘密を知ることになる。


「遙か遠い、「鬼の血」か……」
眼前に掲げた右手を開いたり閉じたりしながら、耕一はあのときの破壊衝動、そして、つかの間の夢を思っ
ていた。
すべてを破壊し、殺しつくそうとした自分。
危うく、守るべき千鶴まで手に掛けてしまうところであった。
千鶴によると、それが柏木の一族の秘密であるらしい。
それを止めてくれたあの黒いACには、疑問もあるが感謝していた。
そして、あの白昼夢のような、一瞬頭に浮かんだ光景。
炎の中で、傷ついた自分を見つめる美しい異国の少女。
自分の腕の中で息を引き取る、少女の姿。
「……なんだってんだよ、もぅ」
父親の死、そして、得体の知れない「ちから」の覚醒、どこか記憶に引っかかる、つかの間の夢。
一度にいろんなことが起こりすぎて、混乱している。
もう、トウキョウに帰るべきかもしれない。
いやな予感がするのである。ここにいては、いけないと。
しかし、従姉妹たちを残して去るのは、あまりにも忍びなかった。
「…………もうすこし、様子を見てからでもいいか」
そのつぶやきを。部屋の外で聞いていた人影に、耕一は気づかなかった。


「あなたが長瀬……ええっと」
「祐介です。長瀬祐介」
「そう、祐介君ね……」
再び鶴来屋の会長室。
今、千鶴の前に中年の男性と、一人の少年……声から判断するに、そうなのだろう……がいた。
タカヤマガード部隊の隊長、長瀬源二郎と、その甥であるという長瀬祐介である。
未だにマントとゴーグルをはずしていないのだが。
「あの、瑠璃子さん……僕の連れの女の子は……?」
「心配ないわ。いま、治療をしているから……あなたの方は体は大丈夫なの?」
「ええ、僕は問題ありません……」
瑠璃子の無事を聞いて、祐介は安心したようにソファに身を沈めた。
「それじゃ祐介、なにがあったのか話してもらおうか?この三年間、なにをしていた?」
「……なにから話したらいいのか……」
そういうと祐介は、失礼、とだけ言ってマントとゴーグルを外した。
「お、おまえ……」
長瀬隊長は、甥の姿に驚いた。
行方不明になった当時と、寸分も違わぬ姿だったからである。
行方不明になった当時が16という年齢だったことを考えると、それはあまりにもおかしな事実だった。
「これが、理由です……というか、その結果こうなったのかな?どっちでもいいや」
そして、祐介は語り始めた。
友人たちと出かけた先で、誘拐されたこと。
ある研究所でプラスへの改造手術をされたこと。
そこで出会った同じ境遇の人々のこと。
そして、瑠璃子との出会いと、計画中止による自分たち実験体の抹殺事件。
生き延びた数人の仲間との逃走。
その仲間たちとの意見の違いによる離反と、自分たちを狙う組織との攻防戦。
「瑠璃子さんのACは、途中で破壊されました」
「それじゃあ、彼女はそのときのショックが元で?」
千鶴の問いに祐介は首を振った。
「いえ……彼女は……僕を守ろうとして、彼女のお兄さんに……」
「どういうことだ?」
「僕たちは……Σシリーズは、同じΣ同士でだけ使える意識の回線を持っているんです。本来は連係攻撃用
 に付加された能力だったはずなのに、それを通して相手に精神的にダメージを与える方法を、瑠璃子さん
 のお兄さん、月島拓也が考案したんです」
千鶴と長瀬隊長は驚いた。
もっとも、千鶴と隊長のそれでは、驚いた意味は違うだろうが。
「僕と瑠璃子さんは、復讐のために世界を滅ぼそうとする拓也さんのやりかたについていけず、止めようと
 して離反したんです。でも、瑠璃子さんを取り戻そうとした拓也さんは僕らを追ってきました」
祐介は唇をかみしめて続けた。
「そして、瑠璃子さんを連れだした僕に、その精神攻撃……オゾム電気パルスとか呼んでましたけど、それ
 をぶつけてきたんです。瑠璃子さんはその意識回線を流れるパルスを自分にバイパスさせたせいで……」
一時的に意識を失ったらしいのだ。
もっとも、時間がたった今、瑠璃子はすぐにでも目覚めるだろう。
しかし、意識を失っている間の体の衰弱の方が問題だったのである。
叔父と千鶴のおかげで、どうにかなりそうだったが……。
一方、千鶴は祐介の話に若干驚いていた。
ただ、長瀬隊長の驚きと違う点は、祐介がプラスであることに驚いているのではないことである。
祐介達「Σシリーズ」の持つ、「独自の意識回線」の方が気になったのである。
それは、自分たちに流れる「血」の力に、一部似通ったところがある。
(そりゃ、以前からうちの家系の「力」について嗅ぎ回っていた組織は多いけれど……「実用化」できる組
 織はないはず。それに、秘密を掴んだ組織は残らず「潰した」はずだし)
それでもまだ情報漏れが起きたのか、と千鶴は考えた。
「それで……あなたを拉致した組織は……?」
「さぁ……わかりません。それに、研究機関自体はもう月島さん達に潰されてるでしょうし、今となっては
 どうでもいいことです」
思い出したくないとでも言いたげな表情で、吐き捨てるようにそう言った祐介の瞳に、千鶴は暗い炎を見て
取ったような気がした。
「祐介、お前、これからどうする気だ?」
「さぁ……はぐれた仲間を捜しますよ。そして月島さんを止めます」
そう言って、祐介はマントとゴーグルを手にすると、話は終わったとばかりに席を立った。
「瑠璃子さんの意識が戻り次第、ここを出ます……それまでには僕の『ヒュペリオン』の修理も終わるでし
 ょうから」
「あ、おい、祐介!」
会長室を出ようとする祐介を源二郎が呼び止めるが、かまう様子もない。
しかし、静かに千鶴の放った次の一言に足を止めた。
「あの子なら、明日の朝までは目覚めませんよ」
「……どういう意味ですか?瑠璃子さんに何を……?」
振り返った祐介の表情は、先ほどとは変わらない。
しかし、その目から放たれる強烈な殺気は、瞬時に会長室を満たした。
「体力回復のために使った薬の副作用です。心配しなくてもいいですよ」
内心、あまりに強烈な殺気に気圧されながらも千鶴は何とか平静を装って答えた。
嘘ではないし、嘘を付いてもなんのメリットもない。
Σシリーズの秘密を解明する、という手もあるにはあるが、元々その力のオリジナルとも言える能力を持つ
「柏木」には、必要のないことである。
ちなみにさすがの長瀬源二郎も、あまりに緊迫した雰囲気に冷や汗を流し、必死に意識を保とうとしていた
のだが、あまり関係がない話ではある。
「……そうですか。それじゃ、それまで待つことにしますよ。ガレージの隅ででも眠らせてもらいます」
「その必要はないわ。部屋を用意さるから、そちらでお休みになって下さい」
しばし見つめ合う……というより、視線をぶつけ合う祐介と千鶴。
(そりゃ、目の届かないところに僕みたいな得体の知れない部外者を自由にさせるつもりはないんだろうけ
 どね……)
当然か、と祐介は考える。
(ま、この鶴来屋の敷地……いや、タカヤマにいる限り、どこにいても同じなのかもしれないけど)
どうせどこにいても監視される可能性が高いならば、まともなベッドで眠れる方がいいか、と考えた。
千鶴にしても、余計な人手を割きたくはないだろう。
「わかりました……お言葉に甘えます」
小さく頭を下げると、祐介は今度こそ会長室を出ていく。
「えっと、長瀬隊長、祐介くんをフロントまで案内してあげて下さい。話は通しておきますから」
「わかりました……しかし、いいんですか?」
「ええ、かまいません」
「そうですか、それじゃ私からも礼を申し上げておきます」
長瀬源二郎は深々と頭を下げると、祐介を追って会長室を出た。
「ふぅ……」
祐介達を見送ると、千鶴は大きく息を吐いた。
自分専用の端末に向かうと、ある人物を呼びだした。
『……何の用だ』
モニターに映った線の細い眼鏡の男は、無愛想に呼び出しに応じた。
「Tokyoアリーナでの件の報告、まだでしたよね?お願いできますか?」
『ああ、そうだったな……』
思い出したように男は呟いた。
もっとも、この男がタカヤマに戻ったのはつい昨日のことであったが。
『大した技術は持っていないようだった。どこか大手の組織からかすめ取った情報を元にしていたらしかっ
 たぞ』
「そうですか……」
『試しに一匹だけ泳がせておいたが、来栖川のレイヴン……プリンセスガードの一人にやられた』
男の言葉に千鶴の顔に僅かに同様が走った。
「わざと見逃したのですか!?そんな、下手をすれば一般の人にも迷惑が……」
『使えるようならこっちに引き込むつもりだったんだなぁ……。
 あれは、実用というレベルにはほど遠い。俺達の情報は使われてないに等しかった。
 結果的にそいつは再起不能だし、施設は潰した。文句はなかろう?』
「そう言う問題では……」
『始めに言ったはずだ、俺は俺のやり方でやらせてもらう。詳しいことは報告書で送る。通信終わり』
「ちょ……柳川さん!?」
一方的に通信を切った男――柳川裕也に呼びかけてみるが、やはり応答はない。
「まったくもう……」
千鶴は、今の通信中に柳川が送ってきた二人のレイヴンのデータに目を落とした。
そのうち、一人は「翔鬼」。
そして、もう一人は「Hiro」。
「来栖川の『PG(プリンセスガード)』……」
なんだか気持ちがすっきりしない。
「Σシリーズ」の生き残り長瀬祐介。
そして、その祐介と敵対する「Σシリーズ」月島拓也。
Σシリーズの制作者である姫川博士とその娘で自信もΣ−13である姫川琴音が来栖川に保護されたことは
すでに知っている。
そして、彼らを含む来栖川御一行が現在この鶴来屋に宿泊中。
その中には件のレイヴン、プラス・スレイヤー「Hiro」がいることも確認済みだ。
「何も起こらなければいいのだけど……」
当面の問題は姫川博士親子と長瀬祐介が廊下でばったりなんてことにならないようにすることね。
千鶴は一応来栖川の方に話を通すべきかと考え、来栖川芹香に連絡を取るべく再び端末に手を伸ばした。


「ふぃ〜、いい湯だった……」
「ひ、浩之……長く入りすぎだったんじゃない?」
ふらふらと前を歩く浩之を心配して、雅史が声をかけた。
「ん〜?だいじょーぶだいじょーぶ、矢島ほどじゃねぇよ」
「あはは……」
ちなみに矢島は未だに湯船に浮いているはずだ。
「助けなくていいのかなぁ……?」
「お〜い雅史ぃ、行くぞ〜!」
疑問符を頭の上に浮かべる雅史にを先に行ってしまった浩之が呼んだ。
「あ、うん、すぐ行くよ」
放っておく浩之も酷いが、疑問に思って助けない雅史も酷いぞ、多分。
雅史が浩之に追いついた直後、浩之が立ち止まった。
「どうしたの、浩之?」
「あ、ああ……あれ……」
雅史が浩之の視線の先をたどると、そこには異様な風体の人物が歩いてきていた。
茶色のぼろぼろのマントを躰に巻き付けて目のすぐ下までを隠し、ゴーグルをかけ、さらには前髪でゴーグ
ルのほとんどが隠れている。
「……なんだなんだ、あれ?」
「さ、さぁ……」
その人物は何事もないように近づき、そして浩之達の側を通り過ぎていった。
向かった方向は、大浴場。
「……なんなんだ、あれ?」
「さ、さぁ……」
その背中を見送りながら、二人は同じ台詞を繰り返した。
「……ま、いいか」
「そうだね……」
「よ、よし、宴会場で宴会だ!」
「う、うん、そうだね」
そして、二人は5つほど上の階にある宴会場へとエレベーターで向かった。
近づくにつれて、中からの喧噪が聞こえてくる。
「始まってるな」
「うん、少し遅れたね……」
入口の襖に手をかけ、一気に開く。
「よぉ!遅れて悪かった……な……」
「ごめん、ちょっと長湯しすぎ……た……」
二人が見たそこに広がっていたのは……
「あははは!セリオ、あんたも飲みなさいよ〜!」
「――あの、綾香様……私はお酒は……ひゃぅ!綾香様!?」
むにゅむにゅ
「あによ〜、あたしの酒が飲めないってーの?」
「レミィぃぃ、なに食べたらこんなに大きくなるのよぉ」
もみもみ
「Ahaha!シホ、くすぐったいヨ!」
「これ、美味しいです……(こくこく)」
「こ、琴音……お前、飲み過ぎでは……」
「何か言いましたか、お父さん?(ぎろっ)」
「い、いえ、なんでもありません……」
「…………」
「そうですかぁ〜、芹香さんも大変ですね〜。え?私ですかぁ?浩之さんと一緒ですから、幸せです〜」
「良太、こんなご馳走、めったに食べられないからね!」
「わかってるぞ、理緒ねーちゃん」
がつがつ
「あはは、浩之ちゃ〜ん!雅史ちゃ〜ん!こっちおいでよぉ!」
「神岸センパイ!さ、どうぞどうぞ!」
まさにある意味地獄絵図だった。
「……あかりや葵ちゃんまで……浴衣はだけてるし」
「……ねぇ、僕たちも参加しなきゃいけないのかな?」
後頭部に大粒の汗を垂らして襖を開けたまま固まる二人。
「ふ、藤田くん、佐藤くん、助けて……」
ずるずると長瀬主任が足元に這ってきた。
「お、おっさん……」
「長瀬主任……」
「逃がさないわよ、ほら、飲みなさいよ!」
「むぐぅ!?」
志保に捕まったかと思うと、一升瓶を口に突っ込まれ、そのままずるずると足を引っ張られていく。
「むぐぅ、むぐぅぅぅぅぅ!」
浩之達の方を見てルルルーと滝涙を流しながら助けを乞うが、浩之達は黙ってみているだけである。
この状態の志保の邪魔をして長瀬主任を助けようものなら次は自分たちの番であることがわかっているから
だ。
「ま、雅史……ここは戦略的撤退だ」
「そ、そうだね……僕たちはなにも見なかった……見えるもんか……」
二人は汗を垂らしたまま後ろを向くと、そのまま去っていった。
「むぐぅ!むぐぅぅぅぅ!」
二人の退場の音楽は、長瀬主任のうめき声であった。

――ほぼ同時刻、大浴場露天風呂
「なんだ、これ……汚いなぁ……」
マントの男――祐介――は大浴場の露天風呂に浮いている矢島を発見し、これを湯船から引き上げると同時
に警備部に連絡した。
矢島、哀れなり。



「それでは、姫川博士が直接実験体とされていた方たちとお会いになったことはほとんどない、ということ
 ですね?」
「はい。まぁ、名前くらいは聞いてましたが、すぐに試験体ナンバーに呼称が統一されましたから……。
 しかしまさか月島君達以外に生き残っている「Σ」がいたとは……」
鶴来屋会長室。
あの地獄絵図の中から、千鶴に呼ばれた数名がここにやってきていた。
柏木千鶴、姫川博士、そして、酔いつぶれて眠っている姫川琴音と、酔いつぶれてはいないがいつも以上に
ぼーっ、としている来栖川芹香が相対していた。
千鶴の背後には長瀬源二郎隊長も控えている。
千鶴に告げられた、「Σシリーズ」の長瀬祐介と月島瑠璃子の滞在に、姫川博士は動揺した。
「やはり、彼らには謝るべきなのでしょうな……いくら脅され、利用されていたとはいえ、傷つけてしまっ
 たのですから」
「…………」
「話し合えばわかってくれます、ですか……しかし、彼らは私を許してはくれないでしょう」
芹香が慰めるように言うが、博士は首を振って否定した。
それはそうだろう、と千鶴も思う。
「知らなかった」ですまされることではないのだ。
しかし……
「今は、祐介に会うのはやめたほうがいいでしょうな……気が立っているようだ」
祐介の叔父として、源二郎は苦々しげにそう言った。
「…………」
「は、源五郎には……話した方がよい、と?」
こくり、と芹香は源二郎に頷いて見せた。
「まぁ、アレも私の弟で、祐介の叔父ですからな……」
「博士が祐介君達にお会いになるかどうかは、ご自分で決めるべきです。ご決心がつきましたら、こちらで
 そのための場を設けさせていただきますから」
博士に言った後、千鶴は芹香に視線を移す。
こくり、と頷く芹香。
源二郎も千鶴の背後で小さく頭を下げた。
「私のことは、かまわないんです……ただ、この子は……」
博士は、自分の肩に頭を預けて眠る琴音を愛おしそうに見やった。



「はぁ……ったく、ろくな事しねぇな……」
部屋で休むという雅史と別れ、浩之はぶらぶらと歩いていた。
これからは志保と綾香を一緒の席で飲ませない方がいいな、などと考えながら、適当に階段やエレベーター
を乗り継いでいく。
ああなった原因は、志保と綾香が周りに飲ませて回った結果らしい。
あの後すぐにあかりを抱えてでてきたセリオとマルチに聞いた。
あかりをそのままセリオ達に任せ、少々痛くなってきた頭を冷やすために散歩することに決めたのだ。
外へ行こうかとも考えたのだが、どうせビーハイブ(地下都市)の中、星空が見えるわけでもない。
ならば夜景でも、と展望ラウンジを目指し、ひたすら上へと登っている。
「この上か……」
英語で書かれた案内板を見て、すぐ上の階が展望ラウンジであることに気づいた。
「なになに……おお、バーもあるか……っても、一人じゃむなしいよなぁ」
別に女性と一緒でなくてもよさそうなものだが、なんとなくカッコつけたい。
妙なところで子供である。
とにかく上へ登ってからだ、と階段(本来は非常用)を登り、展望ラウンジへと続くドアを開けた。
「ほぉ〜、なかなかいい景色だな……」
一面のガラス窓から見えるタカヤマの夜景に、浩之は感嘆の声を漏らした。

トウキョウでは灯りが多すぎて、来栖川本社ビルのラウンジから見てもまぶしいだけで、美しいという感覚
からはほど遠い。
ここの夜景は、適度な街の灯りと闇に包まれ、それなりに「美しさ」を感じさせていた。
そして、ラウンジで夜景を見て佇む美女が一人。

「よ」
浩之は、その美女に声をかけた。
年の頃なら浩之と同じくらい。
長い髪に、強い輝きをともした瞳。
そして、Tシャツにジーンズ、革のジャケットという浩之とは対照的に、きっちりとしたスーツを纏ってい
る。
浩之の声に反応したのか、ゆっくりとこちらを向くと、浩之の姿を認めて若干微笑んでみせる。
「藤田クン……」
「なにやってんだよ、こんなところで……みんなは下で騒いでるぞ?」
「いいのよ、今日は私は仕事もあって疲れたし、騒ぎたい気分じゃないわ」
再び夜景に目を戻した美女は、そう言った。
「あ、そう……」
浩之も手すりにもたれて夜景を眺める。
「それに、長岡さんと綾香さんに無理矢理飲まされそうだしね」
「確かに……ご推察の通り、下は修羅場だったよ」
「やっぱり」
クスリ、と二人で笑う。
しばらくの沈黙。
「……あのさ、今は俺しかいないんだから、かたっくるしい言葉遣いはやめたらどうだ?」
ちらり、と美女に視線を送りながら、言ってみる。
「…………せやな……ま、たまには昔に戻るのもええかな」
「そうそう、たまには羽を伸ばせよ、委員長?」
「その呼び方、いい加減にやめてや。私、もう委員長と違うんねんで」
横目で睨まれ、浩之は肩をすくめて見せた。
「んじゃ、なんて呼べば良いんだ?」
「呼び捨てでええで……保科でも智子でも」
「んじゃ、智子」
「なれなれしいやっちゃな……昔からやけど」
即答した浩之に、智子はおかしそうに笑う。
「未だにスーツって事は、さっきまで仕事?」
「ん?ああ、芹香さんに頼まれてなぁ……あの人も忙しいから、出来ることは秘書の私がせんと」
「ご苦労さん……んじゃ、お疲れさん、ってことで、飲むか?」
浩之は背後にある展望バーの入口を親指で指さした。


「んで、今日は?」
何の仕事だ、と聞くつもりの浩之を予想して、
「トウキョウ〜タカヤマ間の直通ライナーのことでな」
「ああ、あれね……聞いたことある」
浩之はバーボンのロックを、智子はブラッディメアリーを飲んでいる。
トウキョウを始め、タカヤマなどの各主要都市やリゾート地を高速地下リニア鉄道で結ぶ計画のことは、浩
之も芹香に少し聞いたことがあった。
最終的には香港あたりまで繋げたいらしいが、他企業――ムラクモやクロームなど――の邪魔が予想される
のも確かである。
いかに弱体化したとはいえ、まだまだ強い力を持っているのがこの二つである。
「ま、危のうなったら、あんたらPGのレイヴンに任せるわ」
「気楽に言ってくれるね……こっちは死にものぐるいだってのに」
苦笑してみせる浩之。
視線はバーボンのグラスの氷を見たままだ。
「なに言うてるのん。アリーナはともかく、実戦やったらPGでも一番強いくせに」
それこそ、手練れのプラスとも互角以上に戦えるほどに。
それも言おうとして、それは飲み込んだ。
「プラススレイヤー」の通り名を浩之が快く思っていないことを知っているからだ。
言葉と一緒に、ブラッディメアリーも飲む。
「……誰が強いって、決まってるわけじゃない」
ちょっと不機嫌そうに浩之は言った。
「だいたい、PG(プリンセスガード)なんて名前も、俺達は誰も喜んでねぇよ。みんな、自分の信念をも
 って戦ってる。別に芹香さんのために戦ってるわけじゃない」
「そりゃ、わかってる。でもな、あんた達みたいに強い連中がひとかたまりでいることは、普通の人からみ
 ればものごっつい脅威なんや……特別に見られても、仕方ないで」
智子は真剣な顔で言った。
「ましてやあんたら、この世では泣く子も黙るレイヴンなんやで。そのレイヴンさえも黙る実力を持ってる
 あんたらを見ると、不安にもなるわ。いつ、その力が自分に向かって来るともかぎらんのやしな」
「そんなこと……!俺達は……少なくとも、俺はそうならないよ」
「ま、私はそれほど心配してへんけどなぁ」
「……からかったな?」
にいやにや笑う智子を見て、浩之はにらみつけた。
「冗談やんか、そんな怒らんといてや……」
「ったく、しょーがねーなー」
浩之も、それ以上何か言うことはしない。
「……かわらんな、その口癖」
「あん?」
「『しょーがねーなー』ってやつ……高校時代と、ちっとも変わっとらん」
「あかりにも言われたことがある」
「やっぱ、あの子もあんたのこと、よう見てるな」
「…………」
「あ、照れとる」
「うっさい!」
智子は、かわいいとこあるやん、と浩之の肩にもたれかかる。
「お、おい……」
「たまには……甘えたいんよ……」
「い、委員長……?」
「今は、智子……やで?」
「…………よ、酔ってるんだろ?」
瞳を潤ませる智子に、気圧される。
「さぁなぁ……なぁ、部屋、行こう?」



――同時刻、地下都市「タカヤマ」郊外、地上30km地点
数十機から成るAC、MTの混成部隊はタカヤマを目指して進撃を開始した。
ほとんどが柏木家に逆恨みしている付近の野党ばかりである。
そして、その隊列の最後部よりさらに離れた場所。
「さて、これで第一段階は終了……っと」
コンバットリグのなかで、コンソールをいじっていた女性が呟いた。
「由紀〜、こっちは終わったよん」
「りょ〜か〜い。んじゃ、あたしたちは高見の見物ねん」
コンバットリグには、オペレーターシートに一人、パイロットシートに一人の合計二人が座っている。
「でも、あいつらもバカよね〜。タカヤマの警備の手薄な時間帯とポイントを教えただけであんなに頭数を
 集めて襲撃するなんて」
「それだけ柏木家に煮え湯を飲まされてるってことでしょ?いーかげんに諦めたらいいのに、懲りもせず何
 度も襲撃するから自分たちの被害が増えてるんだってわかんないのかしたねぇ?」
パイロットシートにいる女性がう〜ん、とのびをしてそう言った。
「あはは、由紀ぃ、わかんないからやってるんじゃないの?」
「あ、そりゃそうかぁ……でもさぁ、美和子ぉ、これでホントにデータ取れるかな?」
「さぁね……」
まぁ、柏木の連中には勝てないだろうけど、と美和子は付け加えた。
「ま、月島さんの作戦に間違いはないって……あたしたちはここでデータだけ取ればいーんだから」
「そーね、さっさとあの柏木耕一とか言うヤツのデータだけ取って、帰りましょ」
「そして、そのあとはぁ……もちろん月島さんにぃ……」
二人して、にへら〜、と笑う。
リグの中で自分の想像にイヤンイヤンと悶える姿は、少し……いや、かなりヘンだった。


「……きて……お……て……」
「ううん……」
「……起きんかい、このダボがぁぁ!」
スパコーン!!
「ってぇぇぇぇぇ!なにすんだよ!」
頭部を襲った衝撃に浩之は目を覚ます。
「って、智子……あれ、ここは」
「私の部屋や……覚えてへんの?」
「あ、そーか、俺、酔った委員長をここに連れてきて……」
委員長がそのままベッドに倒れこんじまって、俺も眠くなってソファーに……
「……なんか損した気分だ」
「あんた、どつかれたいか?それより、さっきからあんたの腕時計、アラームがうるさくて眠れんのやけど
 止めてくれへんか?」
言われてみると、リストウォッチのエマージェンシーアラームが鳴っていることに気付く。
「あ〜、こんな時間に……はいはーい」
ワイヤーアンテナを伸ばし、イヤホンを耳につけてリストウォッチに話しかける。
「あ〜、綾香か、どした?寂しくて眠れな……っ!」
『バカ言ってる暇があったら、さっさと地下ガレージに来なさい!』
「大声出すな!ったく、冗談だよ……何があった?」
そして、浩之は綾香から事情を説明され、顔色を変えた。
「……マジかよ……すぐ行く!」
「なにがあったん?」
「なんか、付近のテロリストやら野党どもが徒党を組んで大群でお出ましだそうだ……俺達も出る!智子は
 シェルターへ避難しておけ!あと、あかり達もいるはずだ、頼んだぞ!」
ジャケットをひっつかむと、凄い勢いで飛び出していく。
「あ、藤田クン!?」
智子が言うのと、避難の案内のアナウンスが流れたのはほぼ同時だった。


『センターより、α−1〜5へ。α−6〜10の配置、完了しました。』
司令室からの報告が届く。
「α−1、了解」
『α−2、了解』
『α−3、了解』
『α−4、了解』
『α−5、了解』
ちなみにα−1「Hiro:グルンブラット」、α−2「来栖川綾香:ジークルーネ」、α−3「葵:ヴァ
ルトラウテ」、α−4「佐藤雅史:ホワイトローズ」、α−5「柏木千鶴:スノードロップ」である。
α−6「柏木耕一:エルクカイザー」、α−7「宮内レミィ:イェーガー」、α−8「リオ=ヒナヤマ:ア
ルバイター」、α−9「YAJIMA:クラッシュスパイダー」、α−10「姫川琴音:ムネモシュネ」は
後衛やシティ入口の防衛に当たっている。
タカヤマシティ郊外で敵を待ち受けるのはHiro、雅史、千鶴、綾香、葵の五人。
シティ入口で最終防衛ラインを受け持つのは矢島、琴音、理緒の三人。
二つのポイントの中間で援護を受け持つのは右腕を実弾スナイパーライフルに換装したレミィと耕一だ。
ちなみに耕一の方は、グレネードランチャーも装備している。
「……はぁ……」
コクピットでため息をつく耕一。
なにしろ、実戦はまだ二度目である。
その上、「暴走」の不安もある。
それを理由に一度は出撃を拒否した。
彼は、まだレイヴンではない、と思っているからである(実際は、レイヴンでない者がACに乗ることは許
されないため、千鶴が手続きをとって登録はしてある)。
しかし、千鶴に頭を下げられ、その上、楓に「大丈夫です」などと、確信を持って言われ、断り切れずにこ
こにいるのである。
「俺は……何をしてるんだ?」
確かに彼女たちを守りたいとは思った。
しかし、そのために必要な知識――「力」の使い方や、自分の一族の秘密――をほとんど知らないでいる。
「いい機会だと割り切るべきなんだろうけど、な……」
どこかまだ吹っ切れない。
戦うこと、人を殺すことに、慣れていない。
さらに、周りにいるレイヴン――浩之達――が、自分と同じくらいか、それよりも年下であることにさらに
追い打ちをかけられている。
彼らの腕は確かだという。
そんな中に自分がいることが、信じられないと言うか、不安というか。
役に立たないかもしれないという思いもある。
「大丈夫、耕一さんなら、きっと……」
そう楓に言われて出て来はしたが、それが正しいという保証はない。
最悪、この前のように暴走の果てに千鶴達にも牙を剥くかもしれないのだ。
もっとも、その場合に自分が生き残るなどということは、万が一にもないだろうが。
『Hey、コーイチ、なんだか不安そーダネ?』
「あ、ああ、すまない……ちょっと考え事してたんだ」
隣に立つレミィの通信に、あわてたように答える。
『キンチョーしてもしょうがないネ。コーイチも初めてじゃないんデショ?大丈夫、私達に任せて』
明るく、耕一を気遣うようなレミィの言葉に、少し落ち着く。
「わかったよ……ありがとう」
『Don’t mind!ナカマなんだから、気にしなくていいネ!それより、レーダーをよく見ておいて
 ね。数が多いから、きっといくつかはこっちに来るカラ……』
「あ、ああ……」
耕一が緊張を幾分和らげ、そして気を引き締めたそのときに、前方では戦端が開かれていた。


「MTなんぞ、相手にならねぇって!よっと!」
一挙に押し寄せてきたMTの群に、レーザーライフルの火線を連続してたたき込む。
スカーリバーやファットボールドなど、なかなかに手強そうなMTもいくらかはいたが、ほとんどがビショ
ップや作業用MTを改造したものであるために、大した脅威とはならない。
見ると、綾香や葵などは弾薬の節約のつもりかブレードのみで切り込んでいる。
雅史は改良型ライフル(WG−RFM118)と、両肩に装備した六連装ミサイル(WM−S60/6)で
弾幕を張っていた。
千鶴はといえば、ジャンプして着地間際にブレードで一閃(無反動スライド斬り)で耐久力の高いスカーリ
バーやファットボールドをムーンライト(月光剣)の一撃で仕留めている。
「会長さん、やるねぇ……ホントに自らご出陣とは」
スノードロップの動きを横目で見ながら、自分の横を抜けようとしたビショップを一刀のもとに斬り捨て、
ついでに付近のMTを月光剣で切り倒した。
それでも十機あまりの群が後へと抜けていく。
「やっぱり俺達五機じゃ無理か……ま、レミィ達に任せとけば問題はないし」
Hiroはそう呟くと、押し寄せるMTの群に向かってミサイルのレティクルをあわせる。
「それに、あの耕一って人……強いらしいし」
トリガー。
パシュパシュ、と音がして、四発のミサイルがそれぞれ異なるビショップに向かっていく。
「でもな……これ以上は通さねぇぞ!」


「来た……」
レーダーに映った光の固まりを確認する。
『コレだと、13機くらいカナ?楽勝ネ!』
イェーガーはスナイパーライフルを構えると、MTたちが射程圏内に入るのを待つ。
『コーイチ、早く!来ちゃうヨ!』
「………………やるしか、ないのか?」
『Shit!』
射程圏内に入ったMTに攻撃を始めるレミィとイェーガー。
『コーイチ!』
「くそぉ!」
叫ぶと同時に、耕一はライフルを下げる。
ウェポンをチェンジ、後部ウェポンラックのグレネードランチャーをセレクト。
その場に片膝をつくと迫ってくるMTに向けて発砲した。
ゴォゥン!
爆炎は、先頭にいたMTに接触すると同時に爆発と衝撃波をまき散らした。
巻き込まれた6機のビショップがその場で爆発、四散する。
始めにレミィが倒していた一機をあわせると、半分以下になったことになる。
『Wooh!凄いネ……』
「うぉぉぉ!」
耕一は雄叫びをあげるとスナイパーライフルを乱射しながら突っ込んでいった。
次々と撃ち抜かれて倒れ伏すMT。
<コロセ……コワセ……スベテヲハカイシロ……>
心の中でする声に導かれるように、耕一はすでに動かなくなったMTにまで容赦なく攻撃を加える。
『コーイチ!STOP!やりすぎだヨ!』
「うるさい!邪魔するならばあんたも殺す!」
レミィの制止にも耳を貸さない。
それどころか、逆にレミィに襲いかかろうとエルクカイザーの銃口を向けた。
『コーイチ!?』
イェーガーの足を止め、反射的にライフルを耕一に向ける。
そのとき、エルクカイザーとイェーガーの間に光弾が着弾した。
爆発のにより、辺りに土煙が立ちこめる。
「何だ!?」
『耕一さん、落ち着いて……力に呑まれないで……』
「楓ちゃん!?」
通信機から聞こえる声は、楓のものだった。
見ると、大型のリグ……地上戦艦「ヨーク」が近くにいるのが確認できた。
「俺は……また……」
『耕一さん……大丈夫です、あなたなら……ずっと昔も、子供のころも、この前も……あなたはその力に完
 全に飲み込まれずにいられたんです。だから、大丈夫……自分を信じて下さい』
静かな、優しい楓の声が耕一の耳に響く。
「でも、俺は……また……」
『何のために戦うのか……それを、忘れないで。それを忘れずにいれば、大丈夫。力は、あたなを守るため
 の強い剣となり、鎧となってくれます。だから、力を恐れないで……受け入れてください』
「楓ちゃん……」
そうだ、俺は、楓ちゃんを……梓を、初音を、千鶴を守るために戦おうって決めたんじゃないか。
それを忘れて、今更うだうだ悩んでも始まらない。
何があっても守る。
そう、そのために戦えばいい……家族を守るために……大切な人を守るために。
耕一が落ち着き、そう決意したとき、頭の中に響いていた破壊を誘う呼び声は消えていた。
そして、自らの持つ「力」を自覚し、その使い方を「思い出して」いた。
そう言えば、昔もこうして誰かを守るために戦った気がする。
幼い頃のこともそうだ。
それに、ずっと昔の、自分でない自分のときも……。
「わかったよ……俺は、守るために戦う」
エルクカイザーのカメラアイが、緑から赤に変わる。
すると、ずっと前方――Hiroたちのいるところよりもずっと先――に、なにか嫌な感じのするものがあ
ることに気付いた。
「……これは?」
『コーイチ?どうしたの?』
『行って下さい、耕一さん……おそらく、姉さんや他の人たちだけでは苦戦します』
「わかった……じゃ、行ってくる」
人が変わったように落ち着いている耕一は、ブースターを噴かして戦場へと駆けていった。
『ドーナッテルノ?』
訳が分からないレミィは、ただその場を守ることだけを考えていた。
そして、ヨークの中ではそれを動かしている初音と、オペレーターシートにいる楓がほっとした表情を浮か
べていた。


「MTは片づいた、か……」
『浩之〜、どーすんの?』
綾香から通信が入る。
「ま、これで終わるとは思えないな……報告にあったACが見あたらないし」
『これから出てくるのかなぁ?』
「だろうな……弾薬は?」
『僕は、ライフルが100、ミサイルは片方が丸々残ってる』
『私はブレードばっかり使ったから減ってないわよ』
『私も同じです』
「会長さんは?」
『ハンドガンはほとんど減っていません。ミサイルは使っていませんし……それと、私のことは会長じゃな
 くて、「千鶴ちゃん」って呼んで下さいね』
『『『「……………………」』』』
ひゅるりら〜〜〜〜〜〜〜〜
『あ、あの……?』
「さ、さて、敵はどこかな〜?」
怪訝そうな千鶴に対してごまかすように浩之は索敵を開始した。
『浩之、後方に反応!』
「なに?」
雅史の報告に後ろを向くと、背後から近づく一機のACが見える。
『耕一さん!?』
エルクカイザーのマーカーを確認して、千鶴が声を上げる。
『みんな、気を付けろ!嫌な感じがする……強いのが来るぞ!』
その言葉と同時に、QLキャノンを外して換装したグルンブラットのRZ−BBPの有効範囲ギリギリの地
点に、いくつもの光点が出現した。
「なんだよ、いきなり現れやがった!?」
『データ確認……ハリヤーとハンターだ!』
「クロームの無人戦闘ACがどうして!?」
『とにかく、全機散開して各個に確認できたハンターを撃破して!コントロールしてるハンターを破壊すれ
 ばハリヤーは木偶人形になるわ!』
綾香の指示の元、六機のACが散開する。
そして、無人の殺戮マシーンはジャンプを繰り返して迫ってきていた。

「あはは、あわててる、あわててる……」
「でも、コレであいつらのデータも取れるね」
後方のコンバットリグの中で美和子と由紀はハンターから送られてくる情報をリグのデータバンクに記録し
ていた。
「でもさぁ……こんなもの、どっから調達したんだろうね?」
「さぁ……知らない」
由紀の問いに、美和子はあっさりと返した。
「う〜ん、ま、どーでもいいか」
「さっさと終わらないかなぁ?」
勝つことを要求されていないだけに、気楽な二人だった。


「ちくしょう!きりがない!」
ハンター一機、ハリヤー十機で一部隊を構成する敵に対し、Hiro達は一人で二部隊を相手にしていた。
その上、ハリヤーにはハードポイントにミサイルやチェーンガンといった武装が追加され、両腕のパルスラ
イフルだけではなくなっていた。
すでに6機のハリヤーを落としていたが、肝心要のハンターには全く近づけない。
ピンチ。
今ほどそれを感じたことはない。
10機以上のハリヤーと、二機のハンターに囲まれている。
間断なくたたきつけられるパルスライフルやミサイル、その他諸々の弾。
その半分以上を驚異的な反応速度でかわしているが、すでに精神が疲労を始めている。
「この!このぉ!」
レーザーライフルを乱射してさらに2機を沈めるが、残弾が残り少ない。
しかも、戦術プログラムが昔一度戦ったときよりも格段に進歩しているように感じられた。
「まずいぞ……くそ!」
前方から突撃してくる三機。
それに対してライフルとブレードで応戦するが、背後への気配りが一瞬おろそかになる。
そこをついて二機のハリヤーが攻撃を仕掛けてきた。
回避しようとするが、前方の三機に動きを制限されていてそれが出来ない。
やられる!
そう思った瞬間。
『手こずってるね……』
聞き慣れない声が聞こえたと同時に。
ドガァ!ドガァ!
背後のハリヤーが二機とも立て続けに爆発した。
さらに、前方にいた三機も爆発。
「な、なんだぁ!?」
グルンブラットの周囲を覆っていた爆炎がゆっくり晴れる。
その向こうに、マントを纏ったライトグレーのACを認めた。
『さて……だれが送り込んだか知らないけど、邪魔だから消えてもらうよ……』
先ほどと同じ声――おそらくはライトグレーのACのパイロット――がした。
それと同時にライトグレーのACが跳躍する。
そして、そのまま前方宙返りを決めてハリヤーの群の中心に着地。
豪!とマントが翻り、蒼い閃光が走ったかと思うと、周りにいた4機のハリヤー、一機のハンターが次々に
爆発した。
「……どうなってんだ」
訳が分からない。
『さて、きみもぼーっとしてないで、ハンターを片づけたらどう?』
「あ、ああ……すまねぇな、助かったよ……」
Hiroの礼を聞くと、そのACは苦戦している別のところ……今度は雅史のところへと向かった。
「……ま、やりやすくはなった!」
猛然とダッシュをかけ、守りを失って孤立している残りのハンターに向かう。
あわてて生き残っているハリヤーに命令を出したようだが、Hiroの反応の方が速い。
あっという間にレーザーライフルで穴を開けられ、ハンターは沈黙した。
残りのハリヤーも、指揮機を失っててんでバラバラの動きしかできなくなったところを仕留める。
「ふぅ……」
一息ついて辺りを見回すが、ライトグレーのACの加勢であらかた片づいたようだった。

少し時間を戻そう。
一番すさまじいのは耕一のエルクカイザーが交戦していた場所で、そこかしこに巨大な穴が開いていた。
グレネードをぶっ放しまくったのだ。
しかも、立ったままで。
「……そこ!」
さらにグレネードを打ち込んで、三機をまとめて爆炎の中に収める。
「なんだよ……見えるじゃないか……」
並のレイブンならば追いつくのがやっとのハリヤーの動きを、ごく自然に捉えて撃破している。
「これが、「力」……」
柏木の力――それは、生まれながらの強化体質にあった。
キャノンを立ったまま撃てる。
レーダーに頼らずとも、自らの感覚で敵の位置を捉えることが出来る。
これが、柏木の秘密であった。
性格には、それはただのおまけにすぎないのだが、それはまた別の話である。
とにかく、耕一とエルクカイザーはなんの苦労もなく20機のハリヤーと2機のハンターを倒したのだ。
そして、耕一の相手がすべて倒れ伏した少し後、すべての戦闘は終了した。

Hiroは、ほとんど無傷で佇む、マントを纏ったACのそばに近寄った。
「よぉ、あんた、何者だ?」
ライトグレーのACは、カメラをグルンブラットに向ける。
『長瀬祐介――こいつは、ヒュペリオン……』
それだけを答えて、再び沈黙する。
「あ、あの……おい……」
なんと声をかけるか悩んでいたとき、ヒュペリオンに千鶴のスノードロップが近づく。
『祐介さん……ありがとうございました』
『……こいつの修理と瑠璃子さんの治療、それと、泊めてもらってる礼です。気にしないで下さい』
そう言い残して、ヒュペリオンはタカヤマへと戻っていく。
「千鶴さんのお知り合い?」
『ウチのガードの隊長の甥っ子さんなんです』
「なるほど……」
Hiroはそれ以上の詮索はしなかった。
しかし、あのレイヴンはどこか「危ない」感じがした。
そして、何かを背負っている感じも。
「縁があったらまた会えるかな……」
そのときは、ゆっくり話してみよう。
振り向いた先では、耕一と千鶴が互いの無事を喜び、仲間達がそれぞれに通信で話していた。
いつのまにかレミィも来ている。
「っと、お前ら、俺も混ぜろ!」
Hiroも、その中へと飛び込んでいった。


「データ、取れた?」
「バッチリ!ついでに、長瀬君見つけちゃったよん」
にんまりと笑う美和子。
「すっご〜い!それじゃ、月島さんに報告したら、当然……」
「ご褒美が倍になるのは確実……」
二人は顔を見合わせた。
「「でへへへへへへ」」
……それしかないのか、あんたら。



「……暇だ」
『暇です』
『暇だね』
タカヤマシティの入口で、矢島と琴音と理緒は戦闘の終了も知らずに突っ立っていた。
しかし、それはまた、別のお話。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
○ハリヤー
 クローム製の無人戦闘AC。
 両腕にはパルスライフルを装備している。
 開発コードは「CHAOS(Chrome Hyper Automatic Operation S
 ystem)」。
 非公式ののニックネームとして「メンシェンイェーガー(人間狩猟機)」と呼ばれていた。
 無人機故の高G機動を実現するために両肩に大推力のジェットエンジンユニットを内蔵している。
 今回登場の機体は、肩部ハードポイントに様々な武装を施して強化されていた。
 「ハンター」の指揮で動くが、それがないときの単体での戦闘力はよわっちい。

○ハンター
 ハリヤーの指揮機として開発された。
 大まかな外観に違いはないが、ブレードアンテナの追加と右肩部ハードポイントに大型の複合アンテナと
 電子戦ポッドを接続、左肩部に大型マイクロミサイルランチャーを装備している。
 また、両腕はプラズマライフルに換装されている。
 今回登場の機体は、戦術プログラムをより高度なものにリプログラム(月島作)されている。

○桂木美和子・吉田由紀
 Σ−07,08。
 性格、かなり壊しちゃいました。
 強化手術の影響、ということで、勘弁して(笑)

○長瀬祐介
 Σ−03。
 能力は、知覚力強化とエネルギー制御強化。
 これにより、ブレードを数倍の長さに伸ばすことが可能である。
 また、ACの超人的な操縦技術を「刷り込まれて」いるために、常人には不可能な動きが可能。
 マントとゴーグルは人との接点を少なくするためのもの。

○月島瑠璃子
 Σ−01。
 能力は知覚力強化、エネルギー消費の効率化。
 強化手術により、人格が変わってしまっている。
 兄の暴挙を止めようと祐介と共にΣから離反した。

○柏木の血
 先天性強化体質のこと。
 実際、これはおまけであり、本来は「怪力」「筋力の強化」「闘争本能の増大」などのことである。
 男性の場合、闘争本能の増大を制御しきれず、暴走することがある。
 また、男性は「鬼」に変化するともいわれているが、真偽のほどは定かではない。

○柳川裕也
 柏木の血を引く。
 耕一よりも一足先に覚醒し、まだ存命であった賢治の手助けもあって力を制御するも、性格がかなり
 好戦的になっている。
 今はタカヤマガードの一員として、黒いAC「黒龍牙」を駆る。