AC/Leaf Mission1:ACバトル 輝く勝利をつかみ取れ! 投稿者:刃霧星椰 投稿日:5月21日(日)01時49分
『お待たせお待たせ〜!今日のこのときを、首を長くして待ってた人も多いでしょうね〜!
 今日一番の注目試合は現在Tokyoアリーナ第6位、ここまで破竹の快進撃を続け、デビュー
 から僅か一ヶ月でここまで登ってきた新人レイブン!『翔鬼』、そしてその愛機、『鬼道丸』!』

ワ〜、ワ〜!
パチパチパチパチ!

観衆の拍手と共に、客席正面の巨大モニターの左半分に、AC「鬼道丸」のデータが映し出される。

『そして、対するは、最近自ら挑戦することもなく、下からの挑戦もなかったが、とうとう本日、
 久々の試合と相成りました、腕は鈍っていないか!Tokyoアリーナ第5位、『Hiro』&A
 C『Grun Blatt』〜!』

ワ〜ワ〜!
パチパチパチパチ!

同じように、モニターの右半分にAC「グルン・ブラット」のデータが映し出された。
そして、その様子をACハンガーデッキ……正確にはACデッキのACの中で聞いている人物が一人
いた。
「……ったく、志保のヤツ、うるせぇってんだよ」
観衆の声援と実況アナウンサーの紹介を聞きながら、狭いコクピットの中で青年がうんざりしたよう
に呟いた。
そして飲んでいたドリンクをシート脇に無理矢理設置したホルダーに収めて蓋をすると、コクピット
の計器類をチェックしていく。
「ジェネレータ、内部圧力、出力共に正常。FCS、異常なし。左右後部ウェポンラックスタンバイ
 確認。左腕ブレード、右腕パルスライフル共にエネルギーライン確保、異常なし。メインコンピュ
 ータ、頭部カメラアイ、頭部レーダー、正常動作確認。システム、オールグリーン……」

『さぁ、そして注目の対戦ステージは…………』

ダラララララララララララララララ!
ジャン!

『おおっと!これは海底ドーム!これはお互いに小細工無しのぶつかり合いになりそうだ〜!』
選択ステージが表示され、アナウンサーの実況が流れると客席の間にどよめきが走った。
『さぁ、ここまで遮蔽物を利用してのヒット&アウェイを駆使して勝ち上がった翔鬼、今日はそれが
 使えない!さて、どうするどうする!』
そう、翔鬼はこれまで遮蔽物の影から近づいて砲撃をし、移動して再び砲撃、という戦法を取って勝
ち上がった。
今日の海底ドームでは、その戦法は使えない。ひとえにパイロットの真の腕が試される。
もっとも、遮蔽物が無いことは、翔鬼だけでなくもう一方のレイブン、Hiroにとっても隠れる場
所がない、ということでもあるのだが。
『このまま翔鬼が快進撃を続けるか!はたまたHiroがくい止めるか!さぁ、賭ける相手を変える
 なら今のうち、最終締め切りは試合開始五分前の十分後よ!それと、こっちはプラスアリーナ
 じゃないからね〜、プラスアリーナは三番ホールよ。お間違えのないよーに!』
ここで心変わりした者達が、賭ける相手を変えようと手近の端末に殺到する。
『それじゃ、試合開始まで二人のこれまでのバトルセレクションで楽しんでね〜。そうそう、実況は
 毎度おなじみ、みんなのアイドル、超絶美少女Shiho−chanよ!よろしくぅ!』

「誰がアイドルで美少女だ、誰が……」
計器チェックを終えて、レイブン『Hiro』――藤田浩之は通信用のスピーカーから聞こえてくる
Shiho−chanこと、長岡志保の声に、突っ込む。
「どっちかっつーと、バラドルだろーが」
苦笑気味に呟くと、通信モニターに着信シグナルが表示された。
スイッチを入れる。
『レイブン、バトルステージへハンガーを移動させます。準備はよろしいですか?』
「ああ、いつでもいいぜ、やってくれ」
オペレーションルームからの連絡に答える。
『了解しました……ではHiroさん、ご武運を』
モニターの向こうでオペレータの女の子が、はにかむようにこっそりとエールを送ってくれる。
ありがとう、とHiroも笑顔で返すと通信を切り、表情を引き締めた。
「戦闘システム起動!オールウェポン、レギュラーポジション!」
『了解、システム、戦闘モードへ移行します』
音声認識システムがHiroの声に答え、武装を標準位置に固定する。
「さて、あの翔鬼ってヤツ、油断ならねぇみたいだが……絶対に勝つ!」



『大破壊』と呼ばれる最後の国家間戦争によって、人類は地上から姿を消した。
災厄を生き延びた僅かな人々は、破壊されつくした地上を捨て、その住居を地下へと移していった。
膨張した人口を支えるべく、各地に建造されていた地下都市が、人類に残された大地となったのであ
る。
人はその始まりの時と同じく、自らの過ちによって楽園を失った。
半世紀後。人類は再び繁栄を迎えていた。
『国家』という概念はすでに無く、それに代わって人々を導き、あるいは支配したのは『企業』だっ
た。
自由競争の名のもとの苛烈な競争の原理は、世界を急速に回復させはしたものの、それに伴う歪みも
、また確実に増大していった。支配者となった『企業』はより強い権力と金を求め、そこに争いが絶
える事は無かった。
企業が全ての力を握る世界。
ただ1つだけの例外を除いて。
報酬によって依頼を遂行し、何にも組みしない傭兵、彼らは『レイヴン』と呼ばれていた。
                    (『アーマードコア』シリーズマニュアルより抜粋)


ARMORED CORE Featuring Leaf

Mission 1:ACバトル 〜輝く勝利をつかみ取れ!〜

「え?不審な点がある?」
浩之は来栖川芹香の言葉に鸚鵡返しに聞き返した。
「…………(ぽそぽそ)」
「ふむ……それで、今回の挑戦は絶対に受けて欲しい、ってことか……」
こくん。
「で、不審な点って、なんなんだよ?」
「それは私から説明しよう」
ぷしゅ、とドアが開いて、白衣を着た眼鏡の中年男性が入ってきた。
「あ、長瀬のおっさんか……久しぶりだな、元気だったか?」
親戚のおじさんに声をかけるような調子で、浩之がいう。
この長瀬源五郎、来栖川のAC開発部門と電工のなんとかいうところで開発主任を兼任している。
そして、浩之がレイブンになるきっかけを作った一人であり、両親の上司だ。
ちなみに両親はACの部品を開発している。
「浩之君、それはこちらの台詞だよ……全然顔を見せなかったけど、君こそ大丈夫なのかい?」
ちょっと呆れたように言う。
「わりぃ、いろいろ忙しくってさ。最近はちょっと遠征してたし」
「その話は聞いたよ……わざわざ九州の山奥まで行って、盗賊団を潰したんだってね?」
「ああ、まぁ、ちょっとあってな。AC歩かせたから時間がかかって……ん?どうした、先輩?」
気がつくと芹香がくい、くい、と袖を引っ張っていた。
「え?言ってくれればACの輸送を手配した……ゴメン、一言声をかけておけば良かったな」
こくこく、と頷く芹香に素直に謝る。
「あ〜、いいかな?問題の『翔鬼』なんだが……」
「っと、そうだった……で、なにが不審なんだ?」
「これを見てくれ」
そう言って源五郎は部屋にあったモニターのスイッチを入れ、端末でなにかを操作した。
すると、モニターにACバトルの様子が映し出された。
「これは……?」
「一昨日行われた翔鬼のアリーナバトルだ。相手は、レイブンの矢島……知ってるだろ?」
「ああ……ってことは、矢島、負けたのか?」
意外そうな顔をする浩之。
矢島のレイブンとしての腕はかなりいい。
ほぼ同時にレイブンとなった浩之にとって、矢島はいいライバルと言える存在だった。
「そう、負けたよ……ほとんど翔鬼にダメージを与えられずに、ね」
「どういうこった?そんなすげぇヤツなのか?」
「まぁ、単純に考えればそうだろうけどね。どうもおかしいんだ」
源五郎は頭をぼりぼりと掻いた。
「何か気がつかないかい?」
「う〜ん……うわ、もろ直撃喰らってやがる」
「いや、そうじゃなくて……」
「これだけじゃわからねぇよ」
浩之は源五郎と芹香の方を振り返って言った。
「そうか……それじゃ、他の翔鬼のバトルの映像も見てもらおうか」
そして、浩之は続けざまに数本の翔鬼の過去のバトルのビデオを見ることになった。
はっきり言って少しめんどくさかったが、芹香と源五郎の言うことである。
何かあると思って素直に画面を注意深く見続けた。
そして、あることに気づく。
翔鬼の鬼道丸が、マシンガンの数斉射の後、遮蔽物の陰に入ってカメラのアングルからはずれる。
カメラが切り替わり、今度は相手ACを映し出す。
直後、鬼道丸がはなったと思われるグレネード砲弾がACに直撃する。
今度はそのACが反撃にミサイルを打ち出す。
カメラが切り替わって鬼道丸が機動回避する様子が映し出される。
どの試合にもそういったシーンがいくつかあった。
数十分後……
「おっさん、これ、変だぜ……」
「わかったかい?」
「ああ……鬼道丸がグレネードを撃っているシーンが一つもない、そうだろ?」
浩之の目が、いつものそれとは変わっている。
レイブンとしての、鋭い目に。
「その通りだ。それに気づいてちょっと調べてみたらね、面白いことがわかったよ」
そこまで話したところで、芹香は源五郎と浩之をテーブルへと誘った。
二人ともそれに従う。
立ったままでは疲れるますから、紅茶でも飲みながら、と言うことらしい。
そして、源五郎は話し始めた。

ACバトルはいまや人気ある娯楽の一つ、そしてビジネスである。
公式な賭け試合、たんなる観戦、試合の斡旋や企業の宣伝活動など、様々な要素が絡んでいる。
当然、熱狂的なファンも居るわけで、そういうファンをターゲットにしたバトルビデオも発売されて
いる。
ビデオ自体は、バトルステージ各所に仕掛けられたいくつものカメラでとった映像を編集して作って
いるのだが、翔鬼の試合に限ってはいくつかおかしな点があることがわかった。
浩之の指摘したとおり、翔鬼がグレネードを撃つシーンが一つもないことも、その一つである。
それに気づいた源五郎が翔鬼のビデオの編集を担当した者数人に聞いたところ、翔鬼がグレネードを
撃った場所が映ったはずのカメラが、たまたま壊れていたのではないか、という答えが返ってきた。
カメラの場所はアリーナのバトルステージである。
流れ弾や爆風で吹き飛ぶこともあるだろう。
しかし、全部が全部の試合で、鬼道丸のグレネード発射シーンが一つも取れていない、というのはど
うもおかしくないか?
その指摘に編集スタッフは顔を見合わせた。
普通、一本のビデオの編集には2〜3人で分担して行う。
そして、いくつかのチームがローテーションを組んで、交代で編集するのだ。
つまり、翔鬼のビデオを編集した人間は全部とはいわないが、かなりの確率で違う。
同じ人間が編集しているわけではない、ということが見落としの原因だったのだろう。
長瀬はそこで、カメラが意図的に壊された、または作動不能状態にされた、と考えた。
そこで、今度はTokyoアリーナの主催者で、アリーナビデオの編集をやっている来栖川のアリー
ナ部門のデータベースへの不正アクセス――ハッキングを調べてみたところ……

「あったんだよ、僅かだけど、痕跡が、ね」
「つまり、見られたくないってことか……」
浩之は、いくらかぬるくなった紅茶を飲み干して言った。
「それで、映像から鬼道丸のグレネードの発射位置と発射時間を割り出したんだが……タイムラグが
 ないんだよ、移動から発射までの」
「つまり、構えずに撃ってる、ってことか……」
普通、グレネードなどの反動が大きい肩武器を撃つときには片膝を着いた状態で撃たねばならない。
これは、立ったままでは反動を殺しきれないこと、そして立ったまま撃つと絶妙なバランス配分とエ
ネルギー配分が必要となるからである。
ただ、それが可能な人間がいないわけではない。
「考えられる可能性はたいくつかありますが、一番可能性が高いのは……」
芹香が珍しく、聞き取れる声で発言した。
そして、三人の声が重なる。
「「「強化人間」」」
強化人間……それは、人間を越えた人間であり、ACを操ることに特化した戦闘兵器と言われている
ほどの存在である。
ほんの少し前までは強化手術は危険と隣り合わせであった。
失敗すれば発狂や死が待っており、成功しても人格の変貌など、リスクが多かった。
そのため、多大な負債を抱えたレイブンが実験体として改造されていた。
しかし、ここ最近は新技術の確立や発展により、危険が少なくなり、望んで強化を受けるレイブンも
増えてきたらしい。
だが、その圧倒的な戦闘力によって恐れられることは変わらず、ここTokyoアリーナでは強化人
間と一般のレイブンでアリーナを分け、強化人間専用アリーナは「プラスアリーナ」と呼ばれ、区別
されている。
当然、普通のレイブンはプラスアリーナには参加できないし、強化人間が普通のアリーナに参加でき
ることはない。
「…………問題だな……っていうか、どうやって潜り込んだ?登録前に検査はやったんだろ?」
「検査では白だったよ……だれかが結果をすり替えたか、プラスであることを隠す技術でも作ったの
 か……どっちにしろやっかいだ」
「………………」
「え?一番の問題は、そんな技術を持った人たちが居て、悪用された場合です、か……確かにその通
 りだな。で、俺はやつを倒せばいいのか?」
浩之の問いかけに、芹香はふるふると首を振った。
「え?違うの?」
「いや、試合に勝ってもらうのも重要なんだがね、一番の目的は翔鬼の正体を暴くこと、それから彼
 の背後にあると思われる組織の尻尾を掴むこと、だよ。君にはとにかく彼が強化能力を使わざるを
 得ないように追い込んで欲しいんだ……こっちでもそれなりの仕掛けはするがね」
にやり、と笑う長瀬。
「おい、仕掛けって……」
「対戦ステージを、ちょっとね……」
「おいおい……そういうの、俺が嫌いなの知ってるだろ?」
「………………」
「え?わかってるけど、これは正式な依頼です?ごめんなさい……って、ああ、先輩、そんな哀しそ
 うにするなよ……わかった、正式な「依頼」ってことなら、受けるよ。たしかにこんなのがぼろぼ
 ろ出てきたら俺達だって干上がっちまうからな」
ありがとうございます、と芹香は頭を下げた。
普通、大企業の次期会長と言われる人物がただのレイブンにすることではない。
だが、これか彼女、来栖川芹香のやりかたであった。
それが人望を集め、浩之たち同年代のレイブンをはじめと、多くの人から慕われる理由でもある。
「君が心配してるようなことはないよ。ただ、彼がグレネードを撃つシーンがイヤでも映るステージ
 になるようにちょっと細工しただけだしね」
「…………ホントにそれ以上のことはしないでくれよな」
「わかってるよ、我々は君の腕を信頼してるしね」
そして、この後ちょっとした打ち合わせや相手についての事前情報の確認をした後、浩之は家路へと
ついたのであったが…………。

「ねぇ、浩之ちゃん……今度、アリーナに出るんだって?」
「ん?ああ、芹香さんにちょっと頼まれてね……断れなかったんだよ。ここのところ、すっと出てな
 かったしな」
もぐもぐと晩飯を食べながら、浩之は答えた。
「そんなこと、誰から聞いたんだ?」
「うん、今日、街で綾香さんに会って……そのときに聞いたんだよ。今度は浩之も断れないでしょう
 ね〜、って言ってたよ?」
口元に指を当てて、思い出す仕草をしながら神岸あかりは昼間綾香に会ったことをつげる。
ちなみにこの食事を作ったのも彼女である。
「あ、そう……ったく、あかりには余計なこと言うなってゆーのに」
ブツブツとあかりに聞こえないように呟く。
「ねぇ……無茶はしないでね……浩之ちゃん、ホントはあんまり出たくないんでしょ?」
心配顔のあかり。
浩之がレイブンになると決めた(決められた)とき、一番反対したのも彼女だった。
小さい頃からずっと一緒にいた浩之が、危険な仕事に就くのは耐えられなかったのだ。
結局、浩之や周囲の説得に押し切られたような形で認めることとなったが、今でも心配している。
浩之も、そのときに泣いてまで反対したあかりには驚かされたし、なるべく危険なことはしないよう
に心がけてはいるのだが、如何せんレイブンという職業柄、絶対安全というものはなく、心配をかけ
っぱなしである。
「大丈夫だよ……俺は絶対に生き残る、絶対に生きて帰るからって約束しただろう?」
レイブンになることを反対していたあかりに、以前浩之はそう約束した。
今一度、そのことを確認するように、あかりの頭に手を載せて言ったのだ。
「浩之ちゃん…………」
「俺に何かあったら、お前、ずーっと泣き続けるだろ?それはイヤだから、俺は絶対に生きて帰る」
あかりの頭を自分の胸元に引き寄せ、あかりからは自分の顔が見えないようにした。
照れて赤くなったところを見て欲しくないからだ。
こんなのは俺のがらじゃない。
たとえそうわかっていても、あかりの泣き顔は見たくないから、そうするのだ。
あの、幼い日の夕暮れ時のように……。
二人は、しばらくの間、そうしてお互いのぬくもりを感じていた。





『さぁ、みんなどっちに賭けたのかなぁ!オッズは3:2で、翔鬼が有利!さすがと言えばさすがだ
 けど、Hiroだって負けてられないわよねぇ!どっちを応援するかはあなた達次第だけど、力一
 杯応援してあげてね!それじゃ、ドームの中はどうなってるかなぁ?』
Shiho−chanの声と共にモニターが切り替わり、海底ドームの映像が映し出される。
すると、ドーム内の一角のシャッターが開き、赤銅色の重装甲ACがせり出してきた。
翔鬼の駆る「鬼道丸」である。
ハンドウェポンにエネルギーマシンガン、左後部ウェポンラックにWC−GN230グレネードキャ
ノン、右後部ウェポンラックにWM−X201マルチ多弾頭ミサイル。
頭部はレーダー付きのHD−2002、頭頂部にちょこんと着いているレーダーアンテナが角に見え
ることで、その名の通り一つ眼の「鬼」を連想させる。
左腕には当然ブレードを有しているだろう。
重装甲コアと3001腕と3001脚部、絵に描いたような重量級ACである。
『まず登場したのは挑戦者鬼道丸!力強いフォルムと真っ赤に焼けた鉄のようなカラーリングは彼の
 闘志を表しているのか〜!?』
そして、今度は反対側のハッチが開き、緑色を基調とした中量二脚ACがドームに入ってくる。
単眼の「ONE」頭部、XXA−S0最軽量コア、軽量、高耐久力のAN−25腕部、積載量、防御
力、耐久力の充実したLN−D−8000R脚部パーツ。
ハンドウェポンにはWG−XFwPPKレーザーライフル、後部ウェポンラックに垂直ミサイルと軽
量、高威力のレーザーキャノンWC−01QL、ブースターはVR−33。
左腕ブレードには最高威力の”月光”を装備。
積載荷重ギリギリまで追求した理想的な中量二脚機体。
Hiroは、この機体を構成してからは、ミッションに合わせた後部ウェポンの変更以外で構成を変
えたことがない、と明言するほど、扱いなれた優秀な機体である。
『続いてはこの戦いにランク防衛がかかっている、レイブンHiro!どうでもいいけどその機体の
 ネーミングセンス、どうにかならないの?「緑葉」なんてなんの捻りもないじゃない!とにかく勝
 ちなさいよ、あたしのお小遣い全部あんたに賭けたんだから!』
志保のアナウンスに、会場から笑いが上がる。
本来、アナウンサーがどちらかに肩入れしたりしてはいけないのだが、彼女に関してはこのキャラク
ターが受けているため、今では誰もなにも言わない。
しかし、その笑いの中でもじっとモニターを見つめ続ける者達が居た。
一人はあかり、そしてもう一人は……
「あかりちゃん、大丈夫だよ。浩之は絶対に勝つよ」
心配そうにモニターを見るあかりの背にそう声をかけたのは、あかり、浩之のもう一人の幼なじみ、
佐藤雅史である。今はガードに勤めており、ACに乗ることもある。
「でも、志保が言ってたこと……」
「ああ……確かに気になるけど……大丈夫だってば」
そういってあかりを励ますように微笑みかける。
並の女の子なら一発で落ちるところだろうが、あかりには通じない。
幼い頃から見慣れているせいもあるのだろうが……。
「でも、志保があんなに深刻な顔してたの、初めてだし……」
そう、試合前、志保と廊下で会ったときのこと……
『あ、あかり……あんたも試合に見に来たの?え?深刻な顔してる?ん〜……ちょっとねぇ、ヒロの
 試合相手、いろいろいわくつきなのよ。矢島にもあっさり勝っちゃうようなヤツだし、変な噂もね
 ……。あ、あかりが心配することはないと思うわよ?ただ、あたしヒロにお小遣い全部賭けちゃっ
 たから、万が一でも負けられると困るのよね〜』
そんな事を聞いた。
「志保、笑ってごまかしたけど、きっとなにかあると思うの……」
そう言って再びモニターを見つめる。
「あかりちゃん……」
雅史の胸中は少々複雑だった。実を言うと、今回のことはガードにも応援要請が来ており、会場のま
わり、ハンガーデッキなどに、すでにガードのMTやACが数機待機しているのだ。
万が一の配慮、である。勿論、雅史もACをハンガーに置いてある。
他にも来栖川の専属MTや、固定契約レイブンらが待機している。
すべてを知っていながら何も話せず、あかりを慰めるしかできない自分に、雅史はいらだちを感じて
いた。



『レイブン、スタート三分前です。最終チェック、よろしいですか?』
「ああ、コンディション、オールグリーン。これでマシントラブルは理由に出来なくなった」
笑いながらオペレーターに答える。
『ふふ……でも、気を付けて下さいね。矢島さんが負けちゃったんですから……あの人の仇、とって
 くださいね。ついでに、私に少し儲けさせてくれると嬉しいですけど』
「はは……ま、出来るだけ努力はするよ」
君も志保と同じなのか……ちょっぴり寂しい浩之だった。
やがて…………

『それでは〜!鬼道丸 vs GrunBlatt!ゲットレディ…………GO!』

志保のアナウンスと共に、戦いの幕は切って落とされたのである。

Hiroはまずスラスターペダルをキックし、ブースターダッシュで一気に間合いを詰めながらライ
フルを数斉射する。
対する翔鬼は機動回避をしつつ、近づいてくるGrunBlattに対してエネルギーマシンガンを
乱射、牽制してきた。
「くっ!やっぱり簡単にはいくわけねぇかっ!」
前進方向へのダッシュから急速に横方向にベクトルを変更し、強烈なGに耐えながらHiroは回避
運動に入る。
そのまま左右のスティックを一旦中央へ戻し、即座に前と後ろの逆方向へそれぞれを倒すことで機体
を回転させ、再び正面にターゲットをとらえる。
中央部のレクティルがロックすると同時にレーザーを二斉射、一発がヒットする。
「よっしゃ!ウェポンチェンジ、垂直ミサイル!」
Hiroの声に答え、コンソールにウェポンがミサイルに変更されたことが表示される。
それを確認すらせずにロックサイトを鬼道丸に合わせるが、そうは問屋が降ろさない。
鬼道丸から発射された多弾頭ミサイルが分裂して襲いかかってきたのだ。
「っく!」
機体を後退させず、逆にブースターで前進させ、ミサイルの眼前で斜め前方へと軌道を変える。
そして、鬼道丸にロックされたままだった垂直ミサイルを四発同時発射する。
鬼道丸も回避運動に入るが、四発中2発を受けてしまう。
「けっ!その程度かぁ?それで矢島を倒すなんざ、信じられねぇよ!」
わざと通信回線をオープンにし、相手にそう呼びかけて挑発する。
『……うるせぇ……そんなにお望みなら、すぐに叩きつぶしてやる!』
すぐさま反応が返ってくる。しかも、相手のコクピットの映像まで一緒だ。
翔鬼は、とてもレイブンとは思えない貧弱そうな体だった。髪を染め、鼻や耳、まぶたにピアスをし
た、いかにも柄の悪いただのチンピラ、というような風体だった。
「てめぇ、ホントにレイブンなのかよ?本物の翔鬼に雇われたフェイクじゃねーだろーな?弱すぎる
 ぜ!」
『ほざけぇ!俺は……俺は最強なんだぁぁぁぁ!』
突然通信が切れる。それと同時に怒濤のようにマシンガンの弾が飛んできた。
Hiroも必死に回避するが、それでもダメージは受けてしまう。
「ぐぁっ!いきなり動きがよくなりやがった!おい、ダメージは?」
『脚部ダメージ10%、腕部、15%、コア、頭部、損傷軽微。システム、異常なし』
「狙いが甘い、か……強いけど、腕は未熟ってことだな」
機体を反転させると再びミサイルを撃っていく。
攻撃一辺倒の鬼道丸はそのほとんどの直撃を受けるが、さすが重量級、ダメージは決定的ではないよ
うだ。
「へ!まだまだぁ!」
ミサイルをパシュ、パシュ、パシュパシュパシュ、と単発、連発の不定期パターンで打ち出す。
垂直ミサイルでこれをやられると、よほどの腕がないと回避は難しい。
鬼道丸も例外ではなく、数度の単発は回避するが、その後の連発の一つに釘付けにされ、そこに連続
的にヒットし、爆炎で視界を奪われる。
Hiroがそれを見逃すはずもなく、即座にレーザーキャノンを構えて三斉射、立ち上がって場所を
変え、ライフルで狙撃する。

『おおっと、両者互角と見えたがここにきてHiro有利!このままあたしのお小遣いを増やしてく
 れるのか!』
いいぞ〜、いけいけ〜!と声を上げるのは浩之に賭けた連中だろう。
「ほら、大丈夫だって言ったでしょ?」
雅史の言葉にそうだね、と答えかけたあかりは、次の瞬間、モニターに映った映像に硬直した。
浩之のGrunBlattが爆炎に包まれたのである。
そして、それに対峙しているのは、グレネードキャノンをブースター移動しながら撃っている鬼道丸
の姿であった。


「やはりか……よし、すぐにガードとMT部隊に応援要請を。ヤツを取り押さえてもらえ」
長瀬主任の声がオペレーションルームに響く中、一つの声がそれを制止する。
『待て、おっさん!並のMTやレイブンじゃ、こいつは押さえられねぇ!下手にドームに大量のMT
 を投入すれば、同士討ちになる危険もある。ここは、俺に……』
「し、しかし浩之君、それでは君が……」
「…………」
しかし、それを制止するように長瀬の言葉を遮った者が居た。
芹香である。
「お嬢様……」
浩之さんに任せましょう、芹香の眼はそう語っていた。
『サンキュ、先輩……こいつは責任を持って俺が止める!』


『くくく……どうだ、俺様の力は……どうした?怖くて声も出ねぇか?』
あざけるような声がHiroの耳に届く。
コクピット内には、エネルギー弾が装甲を叩く音が反響している。
時折、近接信管で爆発したグレネードの音も混ざっている。
『損傷、50%を突破、なおも上昇中です』
コンディションランプがイエローを示す。
「け……思った通り強化人間かよ……」
少し苦しそうなHiroの声。
『どうする?降参するなら今のうちだぜぇ?』
「だれが降参するもんかよ!」
気合一閃、ブースター全開で弾幕を突破し、一気に間合いをつめる。
そのままジャンプ、放物線を描くように、鬼道丸の懐に飛び込む。
鬼道丸も照準をあわせるが、マシンガンの弾は空しくそれて虚空に吸い込まれる。
そして、無駄だと悟った鬼道丸が後退を始めるよりも早く、GrunBlattのブレードがその胴
体を薙いでいた。
「いっとくけどな、本当の強化人間は、お前みたいに強さにおぼれない!俺はそう言う人たちを知っ
 ているんだ!力におぼれたプラスは、いつか自滅するだけだぜ!」
薙いだ勢いを利用してそのまま鬼道丸を壁まで押していき、たたきつける。
『ばかな……俺は、最強になったんじゃないのか!?』
「けっ!誰に言われたか知らないが、お前程度で最強なんて反吐が出るぜ!てめぇはここで終わりな
 んだよ!」
『うるさい、うるさい、うるさい!俺は、俺が最強だ!』
「ちっ!」
重量級のパワーに押し戻されて、仕方なく一旦離れる。
『がぁぁぁぁ!』
血走った目で、よだれが流れるのもかまわずにただ攻撃する鬼道丸。
しかし、そんな攻撃などHiroには通じるはずもなく、ことごとくかわされる。
そして、ぶん、とブレード光波が飛び出すが、それすらもよけられてしまう。
「……これで、終わりにしてやる!」
Hiroが残っていたレーザーライフルをすべて鬼道丸にたたき込む。
そして、鬼道丸は、沈黙した。



『ちょっとぉ!どういうことよ!反則よ〜!』
会場は大混乱……というか、志保のアナウンスが拍車をかけていた。
ブーイングをとばす者、端末で試合が翔鬼の反則負けと知って悔しがる者、様々な人が居た。
そして、浩之の勝利に安堵を覚える者も、また……
「浩之ちゃん……」
「ほら、言ったとおりでしょ?」
安心して涙を浮かべるあかりと、当然、と言うような顔で頷く雅史の姿。

そして、鬼道丸の沈黙を確認して、席を立つと出口へ向かう男が一人。
「ふん……即席にしてはこんなものか……だが、役には立たん」
眼鏡を直しながら、男は混乱している会場を後にした。



「うう、浩之ちゃん……私、ホントに心配したんだからね!」
「悪かったって……でも、約束通り、ちゃんと帰ってきたから許してくれよ、な?」
涙目であかりに詰め寄られて、ちょっと気圧されている浩之。
でもでも、と未だにうるうると浩之を見つめるあかり。
笑ってそれを見ている、雅史や整備、ガードの隊員、レイブン達。
試合後、あかりは真っ先にハンガーデッキに駆けつけた。
普段は一般人のあかりが入れる場所ではないのだが、雅史が居ることもあって今日は特別であった。
それに、レイブンHiroとその恋人(?)のことはShiho−chan情報でだだ漏れであり、
今更誰もとがめはしないだろうが。
「やぁ、やってるね」
そう言ってやってきたのは長瀬と芹香だった。
「あ、おっさん、先輩……」
「…………」
「ご苦労様でしたって?あはは、あんなヤツ軽い軽い!」
「でも、結構酷くやられたよね?」
冗談っぽく言う浩之に、同じく冗談っぽく、にこにこしながら傷ついたHiroのACを見上げて雅
史が言った。
「…………いや、そりゃちょっと…………」
浩之の顔がちょっと顔が引きつる。
「まぁ、普段の浩之ならもっと楽に勝てただろうって思ってるよ、僕は」
「そりゃどーも……ところで、翔鬼のやつはどうなったんだ?」
長瀬と芹香の方に顔を向け、そう尋ねる。
やはり、あんんたヤツでも一度戦った相手ならば気になるものである。
「ああ……彼、もともと慣れていないところにあんな乗り方してたもんだから、体がもうぼろぼろで
 ね。ほっといても危なかっただろうねぇ……君に止めてもらってよかったよ」
「そっか……で、何か分かったか?」
「詳しいことは彼を検査して、回復してから話を聞いてみないとわからないよ」
ほぅっ、と息をつく長瀬。
「どっちにしろ、今回のこと、なにか裏があるのは間違いがないだろうけどね」
少ししんみりした空気が生まれる。
「で、試合の結果は?ヒロの勝ちなの?」
「ああ、それはもちろん浩之君の勝ちってことで、ファイトマネーと賞金、それと依頼料が……」
「じゃ、今夜の祝勝会はヒロのおごりね!」
「なんでそうなる!っていうかどこから湧いてでやがった、志保!」
「そんなの、今、そっちの入り口から入ってきたに決まってるじゃな〜い」
「どうやって入ったんだ!一般人は立入禁止……」
「ノ〜ンノ〜ンノ〜ン……あたしは、一般人じゃなくてアイドルなのよん、アーユーオーケイ?」
「誰がアイドルだ、このバラドル!人が試合に勝つたびにたかりやがって……って、先輩、なにして
 るんだ?」
「…………………………」
「え?祝勝会の会場の予約?ロイヤルホテルのパーティールーム?支払いは俺に……って、そんなこ
 としたら破産しちゃうだろうが」
思わず脱力しかける浩之。
「………………」
「冗談ですって……来栖川先輩……結構お茶目だったんだね」
「ああ、いまのが伝説の芹香ちゃんギャグかぁ」
「そこ!あかりも雅史も妙な感心するな!」
やいのやいのと言いながらハンガーから出ていく浩之達。
それを見ていた大人達は思う。
大破壊、そして、企業間抗争で混迷を極めているこの世界。
この世界を変える力があるとしたら、それは彼らのような希望や夢を失わない若者達なのかもしれな
い、と。


                    1st Mission is completed.


                         To be continued…………?


機体構成 Grun Blatt編

    頭部:HD−ONE
    コア:XXA−S0
    腕部:AN−25
    脚部:LN−D−8000R
ジェネレータ:GBG−1000
   FCS:FBMB−18X
 ブースター:B−VR−33
    右腕:WG−XFwPPk
    左腕:LS−99−MoonLight
   右後部:WM−SMSS24
   左後部:WC−01QL
 オプション:SP−ABS、SP−CND−K、SP−AXL、SP−S/SCR、
       SP−E/SCR、SP−EH、SP−E+、SP−DEtq

カラーリング
  頭部:Bas(20,40,20)、Opt(35,50,35)
     Det(35,35,35)、Joi(35,35,35)
  コア:Bas(20,40,20)、Opt(35,35,35)
     Det(35,35,35)、Joi(35,35,35)
  腕部:Bas(20,40,20)、Opt(35,35,35)
     Det(35,35,35)、Joi(10,10,10)
  脚部:Bas(20,40,20)、Opt(35,35,35)
     Det(35,35,35)、Joi(10,10,10)

解説:中量二脚で、比較的扱いやすく、そこそこ高性能。
   パイロットの腕次第ではかなりの応用が利く。
   もちろん、装備の換装は必要なときもある。
   コアにはいくつか来栖川の実験的なシステムも積まれており、その開発者が浩之の
   両親だったりする。
   面倒だから息子にテストパイロットをやらせたところ、センスがいいのでそのまま
   レイブンにしてしまった、というわけである。
   あわれなり、浩之。
   最近は浩之本人もやりがいを感じているようだ。
   機体名の意味は、ドイツ語で「緑葉」。