『 4月15日の夜。 ガラガラ…。 空気を入れ換えようと、窓を開けると、 ゴォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…。 そんな音が聞こえた。 見ると、夜空にぽつんと赤い光があった。 ゆっくりと動いてる。 あの高さからして、戦闘機だな。 夜間演習でもやってんのか。 じつはUFOだった、とかだと面白いが。 バカくさ、志保じゃあるまいし。 オレは光が見えなくなるまで、ぼんやりと 目で追いかけた。 月明かりのなか、グレーがかったラインが かすかに見える。 夜の飛行機雲ってのもおつなもんだ。 』 ----- 行ってきます、浩之ちゃん ------ 「ん、なんだ、いまあかりの声が……、気のせいか?」 ヒュウ〜〜〜〜〜〜。 「ウワ、さぶ。もう寝よ寝よ」 ……でもなんであかりの声が聞こえた気がしたんだろう。 寝ぼけてるのかな、ってオレはまだ寝て…いな…い…… グゥ。 『 4月16日、水曜日。 シャーーー、チュン、チュチュチュン……。 「うわっ…」 カーテンを開けた途端、まぶしい朝の光が 飛び込んできた。 寝ぼけまなこには、かなりきつい。 おかげで、バッチリ目が覚めたけど。 「今日、少し寝坊しちゃって、遅刻するかと 思っちゃった」 「そんときゃ、オレだけセーフだな」 「ひどいなあ…」 ちょっと前までは肌寒かったけど、近頃は ずいぶん暖かい…ってより、暑い。 『春たけなわ』ってやつか。 』 ------“向こう”はまだ寒かったな ------ 「なんか言ったか、あかり?」 オレが振り返ってみると、あかりは…… 「ふわぁ〜〜……、あっっ、なに、浩之ちゃん?」 あかりは慌ててあくびをかみ殺しつつ聞き返す。 「ったく、昨日の夜は何してたんだよ」 「あ、ゴメン。昨日は急にさくせ……、う、ううん、なんでもないよ」 あかりは何かを言いかけて、慌ててそれを誤魔化そうとした。 「さくせ?……“作戦”か?」 「あ、ええと…“サクセス”。そう、この前志保からかりたパワプロに妙にはまっ ちゃって、へへへ」 「……寝不足はお肌の大敵だぞ、あかり」 「う、うん。気をつけるよ、浩之ちゃん」 まったく、嘘をつくのも不器用なやつだな。 このオレに対して隠し事をするなんて、生意気だ。あかりのくせに。 まあ、お互い秘密の一つや二つ無いほうが変だし、ここは聞き流して…… 昨日の夜?そうだ、あの“声“。 「なあ、あか……ふわあぁあぁあぁぁぁ〜〜〜〜〜」 「ああ、浩之ちゃん、おっきなあくび」 あかりはオレを指差してフフッと笑った。 「浩之ちゃん、寝不足はお肌の大敵だよ」 「てめっっ、これはお前のがうつったんだ!」 「大きな口だったね。写真とって志保に見せたかったな」 「こら、あかり、待て」 駆け出すあかり、それを追うオレ。 うららかな春の日。 いつもの町、いつもの朝、いつもの二人。 退屈なことが多いが、ちょっとは面白いこともムカつくこともある、飽きもせず 繰り返される一日の、ありふれたホンのひと時。 いつでも、いつまでもやってくるオレとあかりの、二人の時。 変わらない町、変わらない朝、変わらない二人。 今はそれでいい。 それを大切にしたい。 「捕まえたぁ〜、てい」 ビシィッ。 「あうぅ」 『 4月16日の夜。 その日、オレがちょうどベッドに入ろうと したときだった。 グラグラグラグラグラ……。 「おっ…」 ぐらぐらっと来た。 おお。 けっこうダイナミックな地震だった。 地震情報でも見ておくか。 テレビをつける。 待つこと数十秒。 ピピッ。 テロップが流れた。 『各地の震度は次のとおり――』 このあたりのは、震度は4か。 まあまあだな。 思い切って震度7ぐらいの地震が来れば、 学校も休みになるかな。 ってこっちも無事じゃすまねーか。 時計を見る。 げげっ、もう2時だ。 よい子も悪い子も寝る時間だぜ。 』 静かな、夜の森。 獣の息遣いも聞こえない、みな眠っているかのようだ。 雲ひとつないが、月は山に隠れ、満天の星のみが森を照らす。 森……、そこはもう“森”ではなかった。 かつて“森”を象徴した樹木は根元より折れ倒れ、“森”を闊歩し徘徊する時を 迎えても、獣たちはそれを夜具に永久の眠りを貪る。 この“森”にはもはや命の“あかり”は灯っていないのか、否ーー。 樹木は同心円状に倒れ、その中心------周囲の地面より数十m深く穿たれた“クレ ーター”------に、“彼女”はいた。 穴深くで何かが燃えている匂いがし、立ち昇る黒煙は満天の星を闇に染める。 “彼女”は漆黒の天を仰ぎ、嗤う。 ----- ふふふぅ、ちょっとやりすぎちゃった ------ 『 4月17日、木曜日。 もう朝か。 昨日の地震騒ぎで、オレの貴重な睡眠時間 が10分は損したからな。 「なあ、昨日地震あったの、知ってるか?」 「うん。朝起きたら、お母さんが言ってた」 「なんだよ。お前は知らなかったのか」 「うん。ぐっすり寝てた」 「オレはちょうど寝る前にグラッと来てさ。 地震情報見てたら、10分も睡眠時間を無駄 にしちまった」 「浩之ちゃんにとっては、貴重な10分よね」 「まったくだぜ」 』 -----“地震”なのか…… ------ 「そうだぞ、あんなに揺れたのによく寝られたな、うらやましいぜ、フワァ〜〜」 オレはあくびしいしい愚痴をたれた。 しかしよく見ると、あかりの目が赤い、ほんとによく寝たのか?あ、いつも赤いか。 あれ、あかりのやつ……。 「なに、浩之ちゃん?」 じっと見つめていたオレをあかりは訝しがる。 「い、いや、なんでもねぇ」 慌ててそっぽを向く。咳払いはわざとらしすぎるからしない。 あかりは『変なの?』って顔をしたが、それ以上は突っ込まない。 その時。 ぶわ〜〜〜〜、ザザザ……。 「あっ」 いたずらな春の風が木々をざわめかせ、あかりのスカートを押し上げる。 あかりは慌ててスカートを押さえて、服の乱れを直そうとする。 スカートに気を取られて、頭のリボンが捲れ上がってることに気が付かない。 最近、ようやく見慣れてきた黄色のリボン。 オレはあかりの前に立ち、手をぐっと伸ばし頭のリボンを直してやった。 「ひ、浩之ちゃん、…ありがとう」 ふわ〜〜。 さっきより優しい風が、春のぬくもりと、あかりの髪の香りをまとってオレを包み込む。 リボンはゆらゆらと風に靡く。 ふと、あかりが髪型を始めて変えてきた日を思い出す。 あの日、オレは別人のように可愛くなったあかりに不覚にも動揺してしまい、しどろも どろになったが、『やっぱり、あかりはあかり』ということに気づいてやっと、どうにか素直 な気持ちを伝えることができたんだ。 そう、“素直”な気持ち。 「あ、あの、浩之ちゃん……」 「あ、悪い……、なあ、あかり」 オレはあかりの髪から手を離し、高々と上げていた手を下ろすと、2,3歩後退しつつ あかりを見上げる。 「おまえ、またでっかくなったな」 「うん、浩之ちゃん、わたし……“成長してるの”」 -------------------------------------------------------- まず、90万ヒットおめでとうございます。 そして始めまして、“暫定スーニィド”ハチロクと申します。 去る4月11日に『888888』人目のカウンターを刻みまして、ゆえにハチロクです。 いつも楽しく皆様の作品を拝見させてもらい、自分も何か書けないかと思いつつも きっかけがつかめず、今に至っていましたが、『888888』人目ということで、これは天啓 と勝手に思い、書き上げてみました。 で、元ねたはPS版ToHeartと、“あの漫画”です。 これで解ってくれる方は、“いいひと”です。 拙いものですが、次につながる何かをつかめたと思いますので、温かい目で見て やってください。 それでは。