想いを込めて  投稿者:日原武仁


「よう、あかり」
「おはよう、浩之ちゃん。今日は寝坊しなかったね」
「おうよ。昨日は早く寝たからな」
 心なし胸を張りながら俺は幼なじみに答えた。
「ふふふ……いつもそうすれば毎朝ゆっくり学校に行けるのに」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、そうはいかないのが人生ってやつで……あ
かり、何を手に持ってるんだ?」
 学校へ行きすがら、かばんとは別に抱えている赤い紙袋に目を止めた俺は率直に
尋ねた。
「はい、浩之ちゃん。クリスマスプレゼント」
 どこか恥かしそうにあかりは紙袋を俺に差し出した。
 そういえば今日は十二月二十四日。世間で言うところのクリスマスイヴだ。まあ、
俺にとっては冬休み前日という認識しかなかったが。ったく、カリキュラム編成の
余波だかなんだか知らねぇけど、冬休み短縮はたまらないぜ。
 けどま、こういうイベントがあるなら大目に見てやるか。
「サンキュ、あかり。開けてもいいか?」
「うん」
 うなずくあかりを視界の隅にとらえながら、俺は素早く袋を開けた。
 ……………………
 「どう、浩之ちゃん。気に入ってもらえたかな? ……一応、手作りなんだよ」
 恥かしそうな、照れたようなあかりの声が耳に届く。「あ……ああ、ありがとう
……あかり……」
 俺の声はぎこちなく、笑顔はひきつっていたかもしれない。
「よかったぁ……」
 あかりはほほを赤らめ、心底うれしそうな表情を見せた。 
 プレゼントは赤い手袋だった。家事の得意なあかりだけあって、さすがにしっか
り出来ている。ただ問題なのは……手の甲に丸まっちくディフォルメされたくまが
でかでかと刺繍してあることだろう。
 あかりならともかく、俺がはめるのはちょっと……な。

 
 プレゼントの手袋をしっかりはめた俺(かばんにしまおうと思ったのだが、そう
しようとするとあかりが捨てられた子犬のような目で俺を見上げるのだ。こんなと
ころで犬チックを発揮するのは卑怯だ)とあかりはほどなくして校門に着いた。
 そこでは、今日も今日とてちびっこい人影が掃除をしていた。
「よ、マルチ。今日もがんばってるな」
「あ……浩之さん。それにあかりさんも。おはようございます」
 愛用の竹ぼうきを小脇に抱えながら、マルチは頭を下げた。
「おはようさん」
「おはよう、マルチちゃん」
 俺とあかりもあいさつを返す。
「浩之さん。ここで少し待って頂けますか?」
「ん? ああ、始業までには時間があるからかまわねーけど。なんでまた……」
 聞き返した時にはマルチはこっちに背を向け、とてとてと校門から少し離れた桜
の木へと走っていた。
 かばんでも取りに行ったと思いきや、その隣に置いてあった箱に駆け寄り、マル
チはそれを大事そうに抱えると慎重な足取で戻ってきた。
「浩之さん、どうぞ」
「え? 俺にくれるのか?」
「はい。なんでも今日はクリスマスイヴというそうで、お世話になった方にプレゼ
ントを差し上げる日だと聞いたもので」
 にこにこと笑顔なマルチに俺は苦笑してしまった。
 マルチの言い方だとクリスマスプレゼントと言うよりはお歳暮になるのだが、大
筋で……間違ってるか。根本的に別物だしな。まあ、この辺のことは後で説明する
として、とりあえずプレゼントは受け取るべきだろう。
「ありがとう、マルチ。開けてもいいか?」
「はい」
 マルチの頭を軽くなでながら、俺は靴が入ってそうな白い箱を開けた。
 ……………………
「ど、どうですか? 気に入ってもらえたでしょうか?」
 緊張した面持ちで訊くマルチに、俺はとりあえず笑顔を返した。
「あ……ありがとう……マルチ」
 発する声は心持ち固かったかもしれない。しかしそれに気付いたふうもなく、マ
ルチはぱぁと顔を輝かせた。
「よ、喜んでもらえてうれしいです〜。ぜひ使って下さい」
「…………」
 喜ぶマルチには悪いが、こいつを使う機会はないだろう。
 一言で言うと綿の付いたヘッドフォン……ホットレシーバーとかイヤーマフラー
とか呼ばれるものだ。問題は……耳の部分が後ろへ伸びて尖っていること――マル
チのセンサーと同じ形だってことだろう。
「浩之さんもわたしとおそろいですね」
 そんなマルチの無邪気な声が耳にこだました。


「おはようございます、藤田さん。……ところでそれは……」
「言うな」
 不思議そうな琴音ちゃんの質問を無理矢理遮る。
 ……そりゃ、くまの手袋をして、耳に妙な形のイヤーマフラーをつけてりゃ(「
いますぐ着けているところが見たいですぅ〜」とマルチに哀願されちゃ、着けない
訳にはいかないだろう)、誰だって距離を取るぐらいのことはするはずだ。現に、
知り合いで校門から一階に来るまでに話しかけてくれたのは彼女だけだ。
「どうしたんだい、琴音ちゃん。こんなところで」
 何もないかのように声をかける。
「は、はあ……藤田さんにこれを渡したくて」
 俺の耳が気になるらしく、そこにちらちら目線をやりながらではあったが、琴音
ちゃんは手にしたピンクの袋を差し出した。
「……クリスマスプレゼントです」
「ありがとう、琴音ちゃん。……開けてもいいかな?」
「は、はい……どうぞ……」
 はにかむ琴音ちゃんを横目に見ながら、俺はくまの手袋のまま器用に紙包みを開
けていく。
 ……………………
「それ……見つけるの苦労したんです」
 うつむき、もじもじしながら語を紡ぐ琴音ちゃんは非常にかわいらしい……のだ
が、このプレゼントを見るとそんな気持ちも冷めていくような……
「あ、ああ……ありがとう、琴音ちゃん……」
 プレゼントから顔を上げ、強張った笑顔で礼を言う。
「あ、いえ、そんな……し、失礼します」
 照れた笑顔をその場に残し、琴音ちゃんは走り去っていく。
 青いニット帽――左右に目玉のワンポイント、先のほうが舌のように赤い……多
分イルカの頭をかたどったのだろうが……
 カワイイのならまだ救いがある。だが、このニット帽はよくぞ毛糸でここまで表
現したなと感心させられるぐらい、妙にリアルなのだ。生々しいというか、魚屋の
軒先に並べても違和感がないほどに。
 これを俺にかぶれというのか琴音ちゃん……
 駆けて行く後輩の背に、声なきつぶやきを投げる俺だった。


「……浩之ちゃん、かばん持とうか?」
 右手にかばん、左手にプレゼントの包みを抱えた俺を気遣ってか、あかりが心配
そうに声をかけてくれた。
「ん? 別にいいぜ。もう教室だし」
 教室の扉をくぐった刹那。何か柔らかいものにぶつかり、尻餅をついちまう俺。
それでもプレゼントを床に落とさなかったのは我ながらさすがだと思うぜ。
「ヒロユキ、Good Morningネ」
 やたらキレイな発音が頭上から降ってくる。見上げれば案の定、金髪・碧眼・ナ
イスバディと三拍子そろったアメリカ人ハーフが輝く笑顔で立っていた。
「ああ、レミィ。グッドモーニング」
 ベタベタな日本人英語の発音であいさつを返しつつ立ち上がる。
「ヒロユキ、これChristmas Presentヨ」
「お、ありがとうよ……」
 と、礼を言ってもらおうとしたが、両手がふさがっていることを思い出し、かば
んをあかりに預けてから受け取った。
「早く開けて見るネ。『善は急げ』ヨ」
「んじゃ、遠慮なく」
 きらきらと瞳を輝かすレミィに押されるように、俺は包みを開封した。
 ……………………
「ねぇねぇどうネ。きっとヒロユキに似合うと思うヨ」
 うれしそうなレミィの声を耳に、包みの中身を検分する。
 黒い長袖のTシャツ。みぞおちの辺りを中心に幾重もの円が描いてある。……この
模様はもしかして……
「これでヒロユキのHeartが狙いやすくなるヨ」
 右手で銃を作り、ウインクを引き金に俺の心臓を撃つレミィ。
 ……別のもので射られそうな気がするのは気のせいだろうか……


「あっはははははははははーっ。なーに、ヒロ、その格好は」
 教室に入るなり、こんな哄笑が俺を出迎えた。その声の主はもちろん長岡志保だ。
 隣の教室のくせに俺たちのクラスに入り浸る女。今日も今日とて俺の席でふんぞ
り返ってやがる。
「くまの手袋に変なイヤーマフラー。極め付けはその怖いニット帽ね。何? それ
があんた流のファッションなわけ?」
 そう言って志保はまた笑い出す。
「しょーがねぇだろ。これにゃ色々事情があるんだよ」
 かばんを机の上に置き、ニット帽を外す。
 なぜニット帽をかぶっていたかと言えばこれにはちょっとした理由がある。あの
後、もらったプレゼントを包みに戻した時、何もないところで転んだのだ。おかし
いなと思いつつ一歩歩いたらまた転んだ。ぴんときた俺はニット帽をかぶってから
歩くことにした。
 ……何も起きない。思った通り、琴音ちゃんの“力”のせいだったらしい。
 そんなことがあったわけで、廊下ですれ違う人に距離を取られ、背後で話すひそ
ひそ声を聞かない事にしてここまで来たのだ。
「おら、どけ志保。そこは俺の席だ」
 プレゼントを全て外し終わった俺は笑いが止まらないらしい志保に言い放つ。
「はいはい、分かったわよ。モテモテ男さん」
 どうやら事情を察したらしい志保はそんなことを言いながら席を立った。
「ふ〜ん……あかりにメイドロボに例の超能力少女、てところかしら?」
「へぇ、鋭いじゃねぇか……て、分かりそうなもんか」
「ま、ここまで自分の趣味や特徴を押し出したプレゼントも他にないでしょ」
「で、でも……プレゼントって自分がもらってうれしいものをあげるのが基本だよ」
 抗議めいた口調であかりが口を挟む。それに対し、志保は人差し指を顔の前で左
右に振るとにやりと笑った。
「チッチッチ。それだけじゃ不十分よ。ちゃんともらう方のことも考えるべきね。
そう、この志保ちゃんのプレゼントのように」
 珍しく志保がまともな事を言っている。こいつはそのプレゼントとやらに期待が
できるってもんだぜ。
「さあ、ヒロ。この究極のプレゼントを受け取るがいい」
 胸ポケットへ持っていった手首を閃かせ、そこから取り出したものを俺に突きつ
けた。
「どう? 喉から手が出るほど欲しいでしょ?」
「いや、いらね」
 誇らしげな志保に、俺は冷たく言い捨てる。
「な……なんでよ。なんでいらないのよ」
 信じられないという単語を体現する志保に俺はため息をついた。
 誰がそんなもん欲しがるっていうんだ? 『志保ちゃんニュース特別優待券(無
期限有効)』(手作り・ラミネート加工済)なんてものを……


 一時限目が終わり、なんとなく喉が乾いた俺はいつものようにカフェオレを自販
機で買い、ちゅうちゅう吸いながら教室へと向かっていた。
「藤田せんぱーい」
 たったったったと規則正しい足音とともにやってきたのは葵ちゃんだ。さすがに
鍛えてるだけあって駆け足ひとつとっても無駄がない。
「よお、葵ちゃん。今日も元気そうだね」
「はい。先輩もお元気そうで何よりです」
 快活な笑顔で葵ちゃんはぺこりと頭を下げた。そして顔を上げたとき、その面に
は緊張したものが浮かんでいた。
「あ、あの……藤田先輩。これを受け取って下さい」
 ビシッと擬音でもつけたくなるような鋭さで葵ちゃんは両腕を突き出した。
 そこに握られていたのは水色の包みだ。
「お、俺に……?」
 思わず身構えていた俺は慌ててガードを解くと、赤面し、目を閉じている後輩を
眺めやった。
「はい。クリスマスプレゼントです。あの、私、こういうのって何を差し上げたら
いいのか分からないので……私の宝物はどうかな……て」
「そんな、葵チャンの宝物なんてもらえないよ」
「いいえ。是非、藤田先輩にもらって欲しいんです」
 真剣で一生懸命な瞳が俺を見つめている。こうまで真摯な態度で言われちゃ、も
らわないわけにはいかないよな。
「わかった。葵ちゃんがそこまで言うならありがたくもらっとくよ」
 ひとつうなずきを入れると、俺は彼女から包みを受け取った。
「ありがとうございます。藤田先輩」
 葵ちゃんは感極まったように目を見開き、勢い良く頭を下げた。そんな葵ちゃん
に思わず苦笑してしまう。
「おいおい、礼を言うのはこっちだぜ? 葵ちゃん。どうもありがとな。……とこ
ろで、開けてもいいかな?」
「あ、はい……どうぞ……」
 赤面し、恐縮したように身体を縮こませる葵ちゃん。
 そんな後輩を横目に見ながら俺は薄い包みを開けた。
 ……………………
 キーンコーンカーンコーンと、鐘の音が虚ろな俺の耳に響いてきた。
「あ、予鈴だ。……それでは先輩、これで失礼します」
 礼儀正しく一礼すると、俺に背を向け走り出す。
 駆けて行く葵ちゃんを見送る俺は、どこか打ちひしがれた気分を味わっていた。
 包みの中身は色紙――一言メッセージや格言などが書かれてあるやつだ。これは
確かに葵ちゃんにとっては宝物だろう。尊敬し、憧れる人の色紙(しかも直筆)な
のだから。
 色紙の内容が普通のものなら、俺もこれほどの脱力を感じる事はなかったろう。
 そこにはこう記してある。
 『気楽に楽しく格闘しましょ(はーと)    あ・や・か』
 ……ま、せっかくだ。机の上にでも飾っておくか。


 昼休みの屋上は適度に人で混んでいた。さすが屋外食事スポットの人気を中庭と
一、ニを争うだけはある……まあ、この二ヶ所ぐらいしか外で食べる場所はねぇん
だけど。
「……雅史のやつ遅いな……」
 ベンチのひとつを陣取りながら、ついつい愚痴がついて出る。あいつから誘って
おいて遅刻するとは許せん。こいつは帰りにヤックセットをおごってもらわねぇと
な。
「藤田くん、ここにおったんか」
 あと五分待って来なかったらシェイク追加だな……と、カウントを初めていた俺
は不意に呼びかけられ、声のほうへ顔を向けた。
「よお、委員長。何か用か?」
「ん……別に用ってわけやないんやけどな。……隣、座ってええか?」
「ああ、かまわねぇよ」
 うなずく俺を見ると、委員長はベンチに腰を下ろした。
「藤田くんも大変やね。あっちゃこっちゃからプレゼントもろて。お返しがたいへ
んやで。今日び三倍四倍返しは当り……」
「……悪いんだけどな、委員長」
 俺は委員長の言葉を遮った。その声は少し語調が強くなっていたかもしれない。
「心配してくれるのはありがたいんだけど、プレゼントをそういう見方で見るのは
ちっと悲しいんじゃねぇかな」
「……そうやね。みんなお返し目当てでプレゼントしとるわけやないもんな……ご
めん、謝るわ」
「別に謝る必要はねぇよ。俺もちょっとカッコよすぎること言っちまったし。それ
にお返ししなきゃならねぇのは確かだしな」
「律儀なんやな」
「ん……そんなんじゃねぇけど、気持ちぐらいのことはしないとな」
「気持ち……ね。それじゃ……」
 委員長が何か言いかけた時、屋上の入口で俺を呼ぶ声がした。目をやれば肩で息
する雅史が手を振りながら近付いてくるところだった。
「……私はこれで失礼するわ」
 言って委員長は立ち上がった。
「さっき何か言いかけてたけど、なんだったんだ?」
「別にいいわ。また今度で」
「なら、いいけど……」
 すっきりしなかったが、本人が言いたくない事を無理に聞き出す事もない。
「それじゃ、またな」
 歩き出す委員長の背に向け手を振る。と、委員長はくるりと身体を反転させ、俺
に向き直ると手にした薄茶の紙包みを俺に手渡した。
 突然のことに面食らっている俺に、委員長は小さく微笑む。
「クリスマスプレゼント。受け取ってくれるだけでええからな」
 気恥ずかしそうにそう言って、きびすを返すと小走りに駆けて行ってしまった。
 数秒して事を理解した俺はとりあえず包みを開ける事にした。紙の下には白い箱。
この形と重さからすると皿だろうか。
 蓋を開けて覗いてみる。
 ……………………
「ごめんごめん、浩之。ちょっと遅れちゃって……あれ? どうしたの浩之? た
こやき焼き機なんか抱えて……」
 のんきな幼なじみの声が空虚な俺に染み込んでくる。
 半球型のへこみが幾つもついた丸い鉄板。関西のご家庭には必ずひとつはあると
いうものが俺の膝に鎮座している。ご丁寧にひっくり返す針付きで……


「ねぇ、先輩……何か言いたい事でもあるんじゃないの?」
 近道の公園を通りながら、俺は並んで歩く先輩に思いきって訊いてみた。
 いつもなら先輩と下校なんてできないのだが、今日はあの執事のジイさんは来ら
れないらしい。そんなわけでこうして一緒に帰っているわけなのだが……
 さっきから先輩はどこか落ち着きがなく、俺に何かを言いかけては口を閉じ、視
線を地面に落としてしまう。しばらくして顔を上げると話しだそうとし、また止め
るとうつむいてしまう。さっきからこれの繰り返しだ。
 先輩はほほを朱に染め、うつむいていたがやがて決心がついたのか、黒曜石のよ
うな瞳に強い光をたたえて俺を見つめると、かばんから丁寧に取り出した緑の包み
を俺へと差し出した。
「…………」
「え? 俺にクリスマスプレゼント?」
 なるほど、先輩がもじもじしていたのはこれを渡したかったからか。内気な先輩
が勇気を振り絞ってくれたんだ。これに応えなきゃ男がすたるぜ。
 俺は誠意な笑顔でプレゼントを受け取った。
「あろがとう、先輩。開けてもいい?」
 こく、とうなずく先輩。
 俺は素早く赤いリボンを解き、丁寧に包みを開けていく。中から現れた黒い木箱
の蓋を開くと、そこには銀の鎖につながれたふたつの三角形を逆に組み合わせたペ
ンダントが入っていた。
「…………」
「え? ヒランヤ? なにそれ?」
「…………」
「魔術的な力を補充・増幅するもの? よくわからなんだけど……ああ、お守りみ
たいなものなんだ」
 どこか得意げな先輩の説明を聞き流しながら、ペンダントをしげしげと眺めてみ
る。
 くすんだように鈍く光るそれは年代物ぽくって、いかにも、という代物だ。オカ
ルト云々は置いておくとしても、かなりのものであることは素人目にもよく分かる
ぜ。
 箱から取り出し、さっそくペンダントを首から下げる。学ランの下、トレーナー
越しに固い感触。冷たい金属のはずなのにほのかに温かい。不思議な力があるのは
確かなようだ。
「ありがとう、先輩。大切にするよ」
 もう一度礼を言う。先輩はうれしそうな、それでいて恥かしそうな表情をみせる
とうつむいてしまった。
 と、そのとき。ふわふわと白いものが空から舞い落ちてきた。
「先輩見て。雪が降ってきたい」
 数える程度だった雪は見る間にその数を増し、もう、空を覆いつくさんばかりの
降りようだ。
「……ホワイトクリスマスだな」
 俺のつぶやきに先輩は、そうですね、とうなずき、俺に身体を寄せてくる。俺は
ごく自然に先輩の肩を抱いた。
「メリークリスマス。先輩」
「…………」
 見つめあう俺たちは雪が舞う中、軽いキスをした。
 そして再び歩き出す。そんな俺たちを祝福してくれているかのように、雪は優し
く大地に降り積もっていった。


                                  END

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 はじめまして。日原武仁(ひのはらたけひと)です。若輩者ですが、よろしくお
願いします。ちょっと内容的にフライングしてると思いますが、ご容赦のほど。
 ご意見・ご感想はいつでも受けつけていますので、お暇がありましたらお願いし
ます。ちょくちょく書いていこうと思うので温かい目で見てやって下さい。
 それではまた。