海辺にて 投稿者:ふっくん
※この話にはネタバレは含まれています。ご注意下さいませ。



夕日が海面に乱反射し、エメラルドグリーンの海を紅く染めてゆく。
昼間の照りつけるような暑さも和らぎ、かすかに走る風が心地よい。
  
(サ〜ッ、ササ〜ッ・・・)
  
真っ白な砂浜に、静かに波が打ち寄せる。
人気のない浜辺に腰を下ろして、俺は地平線の彼方に沈みゆく夕日を眺めていた。
・・・俺の肩にもたれかかって、一緒に同じ光景を眺めている彼女と一緒に。
  
  
「綺麗な夕陽・・・。」
「ああ・・・。」
「静かね・・・。」
「そうだね。・・・いっそずっとこのままでもいいかな?」
「そうね・・・。・・・え・・・?も、もう、和樹さんったら!」
  
真っ赤になって慌てている。周りに人がいる訳じゃないんだし、別に恥ずかしがることもないと思う
んだけどなぁ・・・。
それ以前の問題として、この体勢自体既に十分恥ずかしいと思うんだけど・・・。
ま、汚れを知らないというか、純粋な証拠なんだろうな。
  
(サーッ、サーッ・・・)
  
その間にも波は静かに打ち寄せては戻り、を繰り返す。
忙しい毎日から解放された、ごく短い間の安らぎ。
・・・こうして彼女・・・郁美と2人だけでいられる時間は、何者にも代え難い幸福な時間である。
今にして思えば・・・と思い出に頭を巡らせているとき、以前から気になっていた事を思い出した。折
角一緒にいるんだし、聞いてみる・・・かな?
  
「なあ、郁美?」
「え?なあに?」
  
無邪気そのものの笑顔で、体をもたれたまま顔をこちらに向ける郁美。
その表情にどぎまぎしながらも、言葉を続ける。
  
「俺が同人始めた夏にさ、海への切符くれたこと、覚えている?」
「うん・・・。」
「何で1枚なんだろう、とあのとき思ったんだけど、今でも理由がわからないんだよ。・・・教えてく
  れないかな?」
「・・・ホントに・・・わからない?」
  
ちょっとすねた感じで答える郁美。
  
「・・・?わからないから聞いているんだけど?」
「もう、和樹さんの・・・鈍感!」
「え、どういうこと?頼むから教えてよ。」
「・・・じゃあ、あなたが海に行ってから起きたこと、覚えてる?」
「え?そ、そりゃまぁ・・・。ええと、とりあえず甲羅干しでもしようと浜辺に寝っころがっていたら、
  海の家のおね〜ちゃんが焼きそばとコーラを持ってきてくれたっけ。あれ、郁美が俺にくれたんだ
  な?」
「それもあったけど、もっと後のこと!」
「もっと後って・・・。確かそのままくつろいでいたら・・・ああっ、そうか!」
「・・・思い出してくれた?」
  
相変わらず膨れっ面のままだが、目が笑っている。
そうか・・・そういうことか。
  
「ごめんな、郁美。やっとわかったよ。俺に・・・会いたかったんだね?」
「うん・・・。本当なら直接会いに行きたかった。・・・でも、お医者様の許可が貰えるはずなかったし、
  もし貰えたとしても、あなたに会う勇気がなかったの。だから、お兄ちゃんに頼んで・・・。」
「そうだったのか・・・。」
  
そんな郁美が改めて愛おしくなり、肩に手を回して、そっと抱き寄せた。
  
「あっ・・・。和樹さん・・・。」
「でも、今は好きなだけ俺の顔を見られるだろ?」
「ふふふ、キザだね、和樹さん。・・・でも、その通りだよね・・・。」
  
夕陽もすっかり地平線の向こうに沈み、夕闇があたりを覆い尽くし始めた。
相変わらず、波の音だけが静かにあたりに響く。
  
「一生、あなたのファンでいるからね。何てったって、千堂和樹ファンクラブ第1号なんだから。」
「ああ、一生俺を応援してくれよ、立川さん。」
「も、もう!その言い方はやめてよ・・・。」
「ははは、ごめんごめん。」

  
そんな二人の姿は夕闇に溶けて行く。長かった夏の1日も、残り僅か・・・。


                                                                                −完− 

-----------------------------------------------------------------------------------------

どうも、お初にお目にかかります。
SSを書き始めたばかりのふっくんと申します。以後お見知り置きを。

投稿するのはこれが初めてです。何本か書いてはいるのですが、折角なので新作を投稿させていた
だくことにしました。


題材は「こみっくパーティー」の立川郁美ちゃんです。
隠れキャラなので存在そのものがまだ秘密にされていることもあり、存在が陰に隠れがちな彼女です
が、それでもヒロインの1人には違いないと思います。

ただ、それが災いしてあまりにも登場シーンが少なく、語られるエピソードがほとんどないです。
そんな彼女に関する数少ないエピソードからこの話を考えつきました。


まだまだ未熟な私ですが、ご感想やご指導いただければ幸いです。
では、また投稿しようと思いますので、今後ともよろしくお願いします。


P.S.

私の今までに書いたSS(こみパばかりですが)をHPにて公開していますので、よろしければお越し
下さいませ。


http://www.dab.hi-ho.ne.jp/groove/index.html