「ねね」 もう、志保が休み時間に教室にいるのが珍しくもなくなった。 やけに溶け込んでいるのは不自然と言うべきか。 「…何だよ」 「今時こんな格好で寝てる奴いると思う?」 両掌を合わせて、右頬にくっつけて手を枕に重ねて寝るあの寝方だ。 よく考えなくとも、それがやけに不自然であることは間違いない。 「今時も何も、いないだろそんな奴」 側にいたあかりもうんうんと頷く。 「あたしも見たことない。あ、でも可愛いかも」 ぴん、と閃いた顔を見せて志保が早速その姿勢をとる。 両掌を合わせて、左頬に右手の甲を押し当て、机に左手の甲を当てて、目を閉じる。 … 「どお?」 「アホか、お前」 「何!」 跳ね起きて志保が怒鳴り始める。 結局いつも通りに口喧嘩を始めたのだが… 「大体っ…」 その時志保は絶句した。 「…!」 浩之も、彼女の見ている方向に顔を向けた。 そして、びくっと仰け反って一歩下がった。 そこには。 マルチが。 自分の両手を枕にして眠っていた。 <おしまい>http://www.interq.or.jp/mercury/wizard/