叫び袋  投稿者:日々野 英次


「やぁっ」
 気合いと、ばすばすという勢いの良い破裂音。
 神社の裏でエクストリーム同好会は今日も練習中である。
「んー、そろそろ休憩すっか」
「はい、先輩」
 スポーツドリンクを手渡す浩之に、嬉しそうな葵。
 ここまでは普段通りだった。
 そう、ここまでは。
「Hey!ヒロユキ!」
 神社の石段を弾けるようにして彼女が現れた。
 レミィ。
「ココで格闘技の練習をしてるって聞いて、見学に来たヨ」
「…弓道部の練習はどうなってるんだ?」
「今日は休みネ」
 葵にも挨拶しながら彼女はウインクしてみせる。
 レミィ曰く『日本文化』を学ぶために一生懸命らしいのだが。
「これは日本の文化とは関係ないぞ」

  がーん

 やけにわかりやすく驚いてみせる。
「Oh、ソーなのですかぁ?」
「ま、見てくなら見ていけば?面白いかもよ」
「OK。『百聞は一見にしかず』ネ」
 …若干間違っているような気がするのは気のせいか?

 練習を再開。
 レミィはそれを見つめている。
「うーん…アオイ?そんな動かない目標を殴って面白い?」
 葵はえ?という顔を見せる。
「面白い…面白くはないですけれど」
「Oh。ワタシも動いている獲物の方が楽しいデース」
 何の話だ。
 と、レミィはぽんと掌をたたいて立ち上がる。
「良い考えがありマス!」


 数分後。
 簀巻きにされた橋本先輩が、木の枝からぶら下げられている。
「こっ、こら、浩之!レミィ!何をするんだ!」
 かろうじて頭だけが革袋から出ていて、これぞまさしく。
「人間サンドバックネ」

  ごふ

「うげ」

  ごふごふ

「ふが」

  ばきどかぐしゃ

「げふ」
「ホラヒロユキ、この方が楽しいデス」
「おおお、確かに」

  ごふごふごふ

 浩之が殴る度に、橋本先輩は面白いように叫び声を挙げて反応する。
 二人が橋本を虐めるのを、葵は彼らの後ろでじっと見つめている。
「…あの、先輩?」
 サンドバックの上でしくしく涙を流している橋本。
 葵は頬を赤くして、どきどきしながら言う。
「私も、やっていいですか?」

  Nooooooooooooo!


 次の日、橋本は休みましたとさ。


 
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