楓の錯乱??  投稿者:日々野 英次


前回までのあらすじ
       千鶴は総帥だった(総統ともいう)。
       でも、楓に裏切られた。
       今度こそ千鶴は梓をいぢめる事にした。

       楓にとられたのはただの一本。
      ――予備を用意するのは基本中の基本
       千鶴は懐に隠した○TTP薬を確認する。
       そしてにんまり笑うと既に仕込みを終えて、卓に付いていた。

       楓がお茶を煎れて帰ってくる。
       彼女は昔からお茶係をしていて、さらに、この家のお茶を仕切る存在である。
       ブランドから買う店まで、時期からその保存方法、果てはお湯の沸かし方まで完璧である。
      「…どうぞ」
       慣れた手つきで耕一にお茶を渡す。
      「ありがと、楓ちゃん」
       新茶の香りがぷうんと立つ。
       勿論全員分煎れてあるのだが、こうやって一番最初に耕一にお茶を渡してくれるのだ。
       何となく、特別。
       だから、最初に口を付けるのも耕一だ。

        ごくん

       全員に湯飲みが行き渡り、梓が手をつけようとした途端。
      「あ、…」
       楓が何か呟いて、湯飲みを置いた。彼女の目は湯飲みに注がれている。

        ぎく

       千鶴一人が額に汗を浮かべている。
       梓は楓の様子に、とろうとした湯飲みから手を遠ざける。
       一人、耕一だけごくごく飲んでいる。

        ぴきぃん?

       そして、一瞬変な音がしたような気がした。
      「…千鶴姉さん、このお茶…」
      「どぅわあああああああああっ、なんじゃこりゃぁ!」
       悲鳴の元は、一番最初に口を付けた、唯一お茶を飲んだ耕一だった。 
       一斉に彼女達の視線が耕一に注がれる。 
      「お、お兄ちゃん」
       初音はほとんど悲鳴の様な声。
      「こ、耕一、あんた…」
       梓は怖いものを見るような目で。
      「そ、そんな、そんな耕一さん!」
       元はと言えばお前だろう、とつっこむ人間がいないのを良いことにうめく千鶴。
      「…耕一さん」
       唯一というか、お茶から目を離していつもの調子で声をかける楓。
       耕一の胸がFカップになっていた。

       にこやかに笑っている耕一。
      「隆山ってどんなところですか?」
       旅行者らしい女性。
      「男の人でも胸があるんですね」
       ナレーション。
       そして、耕一が最後に一言。
      「乳即解(あれば、分かる)」
       霧に包まれる雨月山をバックに文字が現れる。
      「ちちのくに、隆山」
       JRの宣伝らしい。

      ――くすくす
       今度は楓の方に視線が集中する。
      「くすくす、こういちさん」
       変な笑い声を上げて、ゆらりと立ち上がる。
      「かえでちゃん、ちょ、目がイっちゃってるよ!」
      「幸せそうに…」
       ふらふら〜と両手を上げて耕一に迫る。
      「わわわわっ」
      「逃げないで下さい」
       危険(?)な事態に気が付いた耕一はそのまま回れ右、そこから逃げ出していった。
      「…私を追い出さないで下さい」]

       紙吹雪が舞い、真っ白い王城を取り囲む群衆が大歓声を上げる。
       城の上で、王と王妃が大きく両腕を振っている。
       よく見れば、全員(男も女も)胸がある。
      「万歳!万歳!」
       だが、それら豊乳のキングダムの隅には、スラムがあった。
       通称閉鎖区画と呼ばれる貧乳街である。
      「…姉さん」
      「寒いわ、今年の冬は特に」
      「お姉ちゃん」
       まるでそこだけ切り取られたかのように、ぼろぼろの家に三姉妹が住んでいた。

       目の焦点がどっかに行ってしまったまま、彼女は耕一を追いかけ続けた。
      「うわぁー、一体俺が何をしたっていうんだー!」
       その頃居間では。
      ――おかしいわね、たしか胸がなければ効果がないって…
       説明書を読み直す千鶴。
      『○TTP薬は劇物が含まれています。胸のない女性でも、あまり呑まないで下さい。
       特に男性の場合、ホルモンの異状を誘発させて恐ろしい事になる恐れがあります』

        がびん

       薬の注意書きは、使用前にきちんと読みましょう。


               <続くかよ>