この物語は、柏木家に伝わる忌まわしき伝聞と、恨みの物語である… かららららら… 三和土に脚を入れながら、彼女はため息をついた。 「只今ー」 心なしか、元気のない声。 ――はぁ… 気持ちが声に乗ってしまったようだ。 「お帰りなさい。どうしたの初音、元気がないようだけど」 黒い髪が綺麗な、長女の千鶴。 優しい目で見つめられても、これだけは相談できない。 初音でもそう感じられるものだった。 「ううん、なんでもないよ、お姉ちゃん」 彼女はぶんぶんと首を振ってにっこり笑みを浮かべる。 「何でもないことはないでしょう?学校で何かあったの?」 母親代わりを努めている彼女にとって、この程度のごまかしが通用するはずがない。 初音は半ば観念しようとしていた。 ――でも、どうせ…ううん、お姉ちゃんを疑ってはだめ。役に立たないとかののしってもダメ。 気のせいか、千鶴の視線が痛い。 「…あのね、お姉ちゃん」 千鶴は少し腰を屈めて彼女に顔を近づける。 「どうやったら胸がおっきくなるのかなぁ」 がびん 千鶴はそのまま表情を凍り付かせて固まる。 ――な、何て事を言うのかしらこの子は 「クラスのみんなが言うんだよ」 もうほとんど千鶴の耳には言葉は届いていなかった。 ――梓ね、いいえ梓に決まってます、梓さえいなければ、梓がよけいな… ――くすくす… 二人の後ろに楓ちゃんがいた。 二人の会話を聞いていた。 『被告人、柏木梓』 何故か、梓が法廷に立っていた。 裁判官には楓、初音、裁判長は千鶴が座っている。 『被告人はその胸の大きさを自慢した罪として、死刑』 『異議あり!』 叫ぶ梓。 つり目をさらに釣り上げて叫ぶ。 どんどん 裁判長は木槌を打ち鳴らした。 『乳は認めません。乳を却下します』 ――くすくす… ともかく一大事である。 千鶴は初音を適当に誤魔化して部屋に押し込むところまでは成功した。 ここまでは7割の成功である。 ――まだまだ成長期の初音に追い越されでもしたら… それこそ、現家長としての立場が危うい。←何故? 『ごめん、千鶴さん。俺、胸のない人はいやなんだ』 ――あーっ、耕一さんを取られてしまう! …って、何故妹を目の敵にする。 大丈夫だ千鶴さん、俺の見立てでは彼はロリだ。既に勝ち目はない。 ともかく、彼女は必死になって頭を回した。 一応誤解のないよう、彼女は歌舞伎の如く振り回したわけではない。 ぽくぽくちーん 「そうだ!」 彼女の頭に何かが閃いた。 「梓の胸を小さくしてしまえばいいのよ!」 何故そうなる。 <続くかも>